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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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第八話 ここが全ての最前線


□■□ 首都 西側入り口付近 プレイヤー側最前列 □■□



「――――魔法師(スペルキャスター)隊の総攻撃、弾かれましたっ!」


「これって……『光壁』かよ!? 何て範囲だ!」


「まずいですぜ、隊長。このまま進むと、やっこさんの火力部隊からモロに狙い撃ちされるかもわからんぜ」




 この私、【正義】のクリムゾンの目に映る……いの一番の想定外。

 相手方の後衛に対するこちらの攻撃。それはとても大きな『光壁』によって弾かれた。


 あれは恐らく合体魔法(スペル)だ。

 敵前衛の後方に見える特大の魔宝石とその周囲にいるラットマンたちによって発現された物。


 出来て当然。プレイヤーに出来るのならば、限りなくプレイヤーに近い生態のラットマンにも可能なはずだ。


 ……"合体魔法アレ" をするには詠唱の言葉とタイミングをきっちり合わせる必要があり、そのための綿密な打ち合わせとそれなりのコミュニケーションが求められる。

 いくらプレイヤーに似ているとは言え、そこまでの物ではないだろうと楽観的に見た、我々の落ち度かもしれない。




「……クリムゾン隊長っ、どうしますか! 一旦下がって陣を構えますか?」


「…………いいや、だめだ! 勢いのままに押し切られ、首都を囲まれる事だけは避けねばならない!」


「了解ですっ」




 この場にあるのは、圧倒的な数の不利。

 それを奴らに有効活用されてはならない。

 守りの姿勢では駄目なのだ。300もの数があるラットマンが、その数に任せて首都を包囲したならば、あちこちで多勢に無勢をさせられる。


 少なくとも今は。押さなくてはならない。

 勢いのままに。僅かでも大きく進まねば。

 最悪1と1の交換になったとしても、リスポーンからの戦線復帰はこちらのほうが早い。

 まずはとにかく、ラットマンを1匹でも多く減らすこと。そんな当初の作戦を、愚直に守りきるべきだ。


 対応は参謀に任せ、今はひたすら真っ直ぐに。

 信ずる正義で背なを押し、対峙する悪を打ち倒すのみ。




「プレイヤー諸君! このまま行くぞっ!! 正義の全心で貫き通せっ!!」


「――――来たっ! ラットマンの射撃やらなんやらが来たぞぉっ! 盾上げろっ!!」


「前進! 前進しろっ! 怯まず突っ込めっ!! 奴らの最前列に向けて走るんだっ!!」


「オルルァーッ! 背筋を唸らせろッ! ぶちかませェーッ!!」


「突撃ぃーッ!!」




 衝突。威勢よく声を挙げるプレイヤー集団と、盾を構えたラットマンの最前列がぶつかり合う。

 敵火力が生きているなら、逆に一番に安全なのが()()のはず。


 合体スペルまでをも扱う人間性があるならば、同士討ちを避ける情もあるのだろうから。




「戦闘開始っ! 互いに背を守れっ!! 技能(スキル)『鳴らせ義勇の戦鼓』っ!!『鳳天舞の戦旗』っ!!」


「くたばれぇっ!」「ダラァッ!!」




 それぞれが突撃の勢いそのままに、ラットマンへと襲いかかる。

 タンク同士で盾で押し合い、剣と槍とが交差する。


 騎士ナイトのスキルはこういう場での具合が良い。

 周囲のプレイヤーの心臓の音を聞こえやすくし、見えない位置からでも把握出来るようにする『鳴らせ義勇の戦鼓』を発動させ、乱戦のサポートを。

 そして『鳳天舞の戦旗』の範囲バフで、力の底上げを手伝うのだ。


 そしてもちろんこの私も、ぼーっと見ている訳ではない。




「はぁっ!」




 正義のジャスティス・馬・ホースの突進力を借り、勢いをつけて剣を振るう。2匹のラットマンを盾ごと吹き飛ばしながら、そのまま左に駆け抜けて…………反転。




「翔べっ!」


「ジヒィィンッ!!」




 手綱を強く打って跳躍させ、敵タンクの頭上を飛び越える。

 そのままタンク職の後方に陣取る槍持ちやクロスボウ部隊を蹴散らしにかかった。


 いくつかの槍を打ち砕き、何匹かのラットマンに深手を負わせた所で、こちらに敵視が集まる気配がする。

 再び反転し、ラットマンの列が薄い所から離脱を試みる。




「オルァァッ! パワーーッ!!」


「……ヂュ!?」




 敵陣に浅く切り込んだ我が身を安全圏へと急がせる最中に、背後でとてつもない大声と衝撃音。ちら、と振り返る。


 タンクのラットマンの3匹が、地面と水平に吹っ飛んで行くのが見えた。

 ……あんな事が出来て、あんなに声が大きい者は、私は一人しか知らない。




「フンンンッ!!」


「――――ヂジッ!?」



「ブルァァッ!!」


「ギギィッ!」




 獰猛な野獣のような声を発しながら、乳白色の大骨を振り回す大男。

 単純な力ではRe:behind(リ・ビハインド)で右に出る物は居ない、【脳筋】ヒレステーキ。


 そんな彼がその重機のような腕で荒れ狂うたび、ラットマンが大きく舞い上がる。まるで小さな竜巻だ。




「……もう。考えなしに突っ込みすぎですよ」


「ウオオッ! オレ、マッチョ! アアァッ!!」


「…………考えなしどころか、まるきり知性が失くなっていませんか?」




 そうして大暴れするヒレステーキを、多くの矢やスペルが狙い撃ちする。

 それを一つ一つ丁寧に弾くのは、全身を盾で固めた彼の相棒 "タテコ" くん。


 乱暴に振るわれる大骨を以心伝心で避けながら、時に小盾、時に中盾と器用に扱って弾く事で、ヒレステーキは更に加速をし続ける。

 互いに尖りきった能力を庇い合うそのスタイルと、長い付き合いに裏打ちされた完璧なコンビネーションだ。素晴らしい。




「ふふ、良いぞ。私も負けていられな――――むむっ!」


「うわぁっ!!」




 そんな私の視界に映る、敵陣の中で孤立したプレイヤーたち5名。

 ラットマン一部集団の思わぬ攻勢で取り囲まれてしまったようだ。


 救わなくては。




「あっちだっ! 馬ホース!」


「ジヒィッ!」


「たぁっ!!」




 馬を操りながら、左手に持った戦旗を投擲。

 それを追うようにしながら、右手のブロードソードに視線を移し――――それをストレージにしまい込む。


 この状況において、プレイヤーの背丈ほどもある大剣では取り回しが悪すぎる。

 囲まれている者たちの中心に戦旗が突き刺さるのとほぼ同時に、そこへと肉薄した馬上から飛び降りた。



技能(スキル)『忠義の斧槍』ッ!」



 背中のマントの端を掴みながらそのスキルを発動する。

 マントの一部が渦を巻くように形を変え、黒鉄に白い輝きを放つハルバードに変わった。



「――――たぁっ!」


「ヂッ……!」




「さぁ、今の内に後退するのだっ!」


「あ、ありがとうございます! 正義さん!」




 "ティタン合金" で出来たハルバードでラットマンを突き、そのまま横のラットマンを斧のような部分で引っ掛けるように引き寄せ、蹴りつける。

 頭上でぐるぐると回転させ、牽制しながら僅かに付着する血糊を吹き飛ばし、次なる相手を――――。




「――――『ヂャンヂャ』ァッ!」


「わぁ!?」




 取り囲むラットマンの一団、その中に一匹だけ魔法師(スペルキャスター)が居たらしい。

 迸る電撃が、逃げようとするプレイヤーを狙って撃たれた。




「 "スキル解除" ッ!! 技能(スキル)『忠義の盾』ッ!『銀盾栄誉紋章』」




 ハルバードを背中のマントにぴたりと合わせてスキルを解除する。

 毛糸のマフラーが解けるように元のマントへと戻るのを確認しながら、立て続けに別のスキルを二つ発動させる。


『忠義の盾』で黒鉄のカイト・シールドが形成され、背後に浮かんだ『銀盾栄誉紋章』を張り付けた。

 それらを身構えて電撃の前に踊りだせば、ばちっと一瞬強く光ってスペルの力は霧散する。




「早く行くのだっ!」


「は、はいっ!!」




 ようやく離脱をし、窮地を脱したプレイヤーたちを背後に感じながら、スキルを解除しマントに戻す。



 …………私のメイン職業、騎士ナイト

 スキルで範囲強化効果を撒くトークンの召喚をする、補助役であり壁役だった。


 しかしそれは、およそレベル20までの話。

 短期間でレベルを32にまで上げた私に授けられたのは、あらゆる戦況に対応するための物だった。


 技能(スキル)『忠義』シリーズ。

 それらの効果は "触れている物から武具を作り出す" という物だ。


 大地に触れながら発動すれば、土と岩で出来た物が生み出され。

 樹木に手を当てて発動すれば、木の。鉄のインゴットを手にしていれば鉄製の。

 それぞれその時触れている物から、スキルに応じた槍や盾を形成する事が出来る。



 …………ただの剣では守りきれぬし、かと言って重装備では助けを呼ぶ声に駆けつけられない。

 しかし、これが。これさえあれば。

 守りたい者の前に盾を構えて立ちはだかれるし、不要な時には身軽であれる。


 そこに騎士ナイトの特徴『器用貧乏』と私の『正義の心』が合わされば、地の果てまでもヒーローをしに行けるのだ。




     ◇◇◇




 そんなスキル効果を確認した私が【鍛冶屋の髭ジイ】に頼んだのが、この黒マントだ。

 様々な鉱石を混ぜ合わせた髭ジイのオリジナル合金、ティタン合金。その粘り気がありながら硬度の高い金属を、非常に細かい鎖状にして編むようにして作られていて、普段はきちんとマントとして扱える。

 いざその端を掴んでスキルを発動させれば、硬く鋭い望むがままの武器に変わるのだ。ちょっと重いけれど。


 いくらゲームの中とは言えども、物理の基礎は現実と同じような処理がされるこの世界。

 私が出した『風にたなびくほどしなやかでありながら、決して折れず曲がらず堅固にしてほしい』という滅茶苦茶な要求に、これほどきっちり応えてくれた髭ジイには……感謝の念が尽きない。



 …………流石に代金として4000万ミツも請求された時には苦笑しちゃったけど。でもそれも仕方がないこと。

 何しろこれを作るには、鍛冶師である髭ジイの手に加えて……裁縫師や細工師など、様々な職人の技術と作業が必要だったのだろうから。

 その頭数と技術料を考えれば、4000万ミツも妥当なのだ。



 そう。つまる所、このマントこそが。

 リビハプレイヤーの技術の粋であり、今の我々種族の集大成。


 そこに私の技能(スキル)と正義の心が加われば、私の戦闘力こそがリビハプレイヤーの最前線なのだ。




「……さぁ、対峙せよラットマン! 我こそがプレイヤー筆頭だっ!!」


「ヂァァッ!!」


Re:behind(リビハ)が【正義】のクリムゾン、此処に在りッ! 私が信じる正義のために、全身全霊――――いざ参るッ!」




 

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