Re:behind開発者の新入社員説明会
□■□『Re:behind』運営会社内 第三会議室 □■□
「…………小立川管理局長、用意が出来ました」
「……う~ぃ」
「よろしくお願いします」
「……はいよ~っと」
俺に声をかける部下に適当な相槌を返し、網膜に投影していた映像をぶつりと切る。
そうして改めて目に映るのは、しみったれたパイプ椅子に座った――――8人の新入り共と、横にビシっと直立する部下の姿だ。
…………そんなにかしこまらんでも良いって言ってんのに、コイツはいつまでも堅苦しさが抜けないな。
桝谷が隣にいるほうが、よっぽど気楽で良いってモンだ。
「……あ~、とりあえず……おはよう」
「おはようございます!!」
「あ~……まぁそんな気合入れんなよ。たかが技術屋上がりに、エリート諸君が礼節を尽くす必要はねぇんだからさ」
「はい!!」
「…………」
これはいかんな、肩肘を張りすぎている。
そんな情熱をもって挑まれたら、こっちのやる気のなさが余計に浮き彫りになるだろっての。
「え~、とりあえず……おめでとう、だな。3ヶ月の新人研修、その後の2年間の適正調査を経て、お前らはようやくウチの正式な社員となるに至った」
「はい! ありがとうございます!」
「8人ってのは、中々のモンだぜ。倍率で言ったら12.5倍だ。我らが『5th』運営の狭き門へと辿り着いた、正真正銘の選ばれし者ってヤツだなぁ」
「はい!! 小立川管理局長!! 質問よろしいでしょうか!!」
「……ん~?」
「『フィフス』と言うのは、何を指すのでしょうか!」
「……あ~」
……そうか。失念してたな。
それを説明するのがこの場だってのに、知ってる体で話してしまった。
めんどくせぇから資料の一つでも配りゃあいいのにと思わないでもないが、それをしたなら本末転倒か。
そういう必要が無いように、と設けられた『説明会』なんだしな。
「まぁ、順を追って説明するわ」
「はい! ありがとうございます!!」
「…………まずは、俺たちの仕事内容からだ」
◇◇◇
「……そんじゃあ、そこのお前」
「はい!」
「うちが運営してるモンは、何て名前か言ってみろ」
「はい! "Dive MMO Game Re:behind" です!」
「うん、正解だ。今の所は」
そう言いながら、胸元の電子タバコに手を伸ばし――――直立不動な部下の鋭い視線を受けて、すっとおろした。
ちょっとくらいいいじゃねぇか。俺は小粋な説明トークをする際に、潤いって物が必要なタイプなんだよ。
「一般的に "Dive MMO Game Re:behind" と呼ばれてるモンは、お外様とお上様とで呼び名とその存在が変わってくる」
「…………?」
「Re:behindと呼ぶのは、プレイヤーやら何やらの……フルダイブゲームとして見ている者たち。そんでもって俺らがそれを呼ぶ時は――――『5th』と呼称する」
「それは一体、どのような意味なのでしょうか?」
「単純に『5番目』って意味だろうな。『5回目』とも言えるかもしれん。それは世界規模で定められたモンであり、有無を言わさぬ絶対的なモンだ」
「世界…………」
これが幾度目かは記憶に無いが、この説明をする時は――――決まって誰もが似た反応をするんだよな。
まるで訳がわからない、それに一体何の意味があるのか、と。
"MOKU" を含む各国の『5th管理AI』たちが、プレイヤーを応援するという意味で『Re:behind』と言っている事なんざ、俺ですら理解しにくい物だしな。
「Re:behindと認識する側からすると、それはいわゆる『MMORPG』ってやつだろうが~…………それは受け手の勝手な解釈だ。実際の所俺たちは、商売として提供するエンターテイメントのネットゲームだなんて言っていない」
「…………」
「我々『5th運営日本国支部』が管理するのは、あくまでDive MMO Game…… "フルダイブ式多人数参加型オンラインで行われる勝負の場" だ」
「……『Re:behind』が一般的なVRMMORPGでは無いとなると、『5th』と認識する側から見たそれは、一体どのような物なのでしょうか?」
「ん~……お前さん、『RTS』って知ってるか?」
「……申し訳ありません。存じません」
「まぁ、知らん奴は知らんわな。『RTS』、正式名称は『Real-time Strategy』。言うなれば "俯瞰視点で細かく動かす、リアルタイム進行の戦略シミュレーションゲーム" だな」
「シミュレーション……」
「いくつかの陣営に分かれ、自身の勢力を発展させ、兵力を整え……相手陣地を占領したら勝ちって具合の、一つのジャンルさ」
「……それが、『5th』……?」
「ああ。俺たちが運営しているコンテンツは、互いに無数の駒を用意し、それをぶつけあって優劣を決める『RTS』のような物だ」
「……と言う事は……Re:behindとは…………」
「駒から見たら、VRMMORPG『Dive Game Re:behind』。上から見たら、駒を使って勝ち負けを競うRTS『5th』。視点によってジャンルが変わる、現実と仮想の狭間で行うゲームだ」
「……はい」
「まぁ、個人的には『RTS』と言うよりか――――――『VRゲーム』ってジャンルだと思ってるけどな」
◇◇◇
「…………そう、なんですか」
名前も知らん新入社員は、それだけ口にすると、何とも言えないような顔つきで黙り込む。
……何だか俺たちが、プレイヤーを騙していると考えているような、そういった事で裏切られたような表情だ。
「……お前さん、何か勘違いしてやいないか?」
「…………え、ええと……」
「別に俺たちは、騙している訳じゃない。そういう物を提供し、自由意志で遊ばせているだけだ。そこにどんな思惑があろうとも、プレイヤーが楽しめるならそれで良いだろ。VRMMORPGでもなんでも、勝手に思い込んでりゃあ良いんだよ。どうせ事実を知る機会なんざ、一生来ねぇんだからな」
「…………」
「……というか、そもそも、だ。『ゲーム内クレジットがそのまま現実の金になる』なんてのが、たかがVRMMORPGごときの中で、おめおめ許されて良い訳ねぇだろう?」
「…………はい」
「今となっちゃあそれらと来たら、独自の市場を形成し、専用のサイトでリアルタイムに取引されてる。国が定めた物以外に、そうまで普遍的な価値をもたせる事が――――新たな通貨を勝手に発行するような事が、許される訳ねぇだろう」
「それは、確かに……」
「ついでに言えば、いくら月額が高かろうと、どれだけ細かくダイブ料がかかろうとも…………まわらんよ。それで多くのプレイヤーが生活出来ている現状を鑑みれば、どうしたって『出る金』のほうが多いんだ。そんなん、商売として立ち行かないだろ、普通に考えて」
「…………はい。確かにそれは、疑問に思っていた所でした」
「それに加えて、唯一時間加速が許されているだとか、本来あってはならない "痛み" のフィードバックだとか…………そんな細かい異質を全て重ねて見れば、ただのエンターテイメント商売じゃないって事くらい、すぐに気づきを得られるだろうさ」
「…………」
「ああ、それと "痛みや恐怖で精神を摩耗させ尽くし、リアルに死ぬ事が出来る" ってのもな。Re:behindだけだぜ、そんな自由度があるフルダイブは」
「……質問をよろしいでしょうか?」
「ん? なんだ?」
「小立川局長は、何故『5th』ではなく、『Re:behind』と呼ばれるのですか?」
「あ~……それは…………およそ100名の新入社員の内、お前らだけがここに居る理由。その一つだな」
「…………?」
「この場で説明する物、我々が運営の一端を任される『5th』の内部情報は、決して外には漏らしちゃならん。万が一にでも、何も知らぬプレイヤーなんかに知られる事があったら…………解雇じゃ済まない未来が待ってるぜ」
「そ、そうなのですか」
「お前らは2年3ヶ月の監査によって、口が固いと判断された。ならばそのまま、秘密を漏らさぬままでいろ。俺はこれから酷いネタバレをするが――――その一欠片でも、外では言うな。心と頭にだけ留めておいて、必要以上には口にするな」
「……はい」
「お前らは『5th』という正式名称を知ったが……ナニカの呼称ってのは、どうしたって癖がつく。思わぬ間違いがないように、当たり障りなく『Re:behind』と呼び続ける事をおすすめするぞ」
「……わかりました! ご忠告、ありがとうございます!」
「俺は特別に口が軽いからなぁ。いつでもどこでもRe:behindと言うぜ。念のためってやつだな」
「あ……はは……」
「俺はまだまだまともでいたいんだ。粛清として『なごみ』に掻っ攫われて、あの【聖女】のような存在になるのは勘弁、ってな」
「……聖女?」
「……まぁ、それは後からだ。とりあえず今は『5th』の成り立ちについて語ろうじゃないか。長くなるぜ」
◇◇◇
――――――今更語るべくも無い話だが、今の時代は酷くいびつだ。
古い時代の階級ピラミッドのような、綺麗な三角形などどこへやら…………究極的な『富裕層』の下段に、『その他全ての層』がぶっ詰められてる状態だ。
そうなったのは、ご存知の通り……AIによる機械化社会が原因だろうな。
何せ一部のトップ以下は、責任を取るだけ――――『スイッチを押すだけ』の奴隷で十分なんだから。
遠い昔の価値観で言うならば、大企業の構成員が取締役と派遣社員だけって感じかね。
"働く機械" は無限に増やせる。奴隷に支払う賃金なんて、たかが知れてる金額だ。
この世に僅かばかりしか居ない『特権階級』の方々は、自分の縄張りを確保して、食っちゃ寝生活で私腹を肥やし続けて来た。
……そうなってくると、どうしたって飽きが来るわな。お偉方は皆、暇と金とを持て余すんだ。
だから彼らは、競合を求めた。奪い合い、高め合い、資産をジャブジャブ投入出来て、勝利を目指す事が出来る物事を切望した。
そうして彼らは、見え見えの隙を作ってみたり、わざと益のある事業へと参入を見送ったりする。競うに足りる新たな風雲児が、その頭角を現すための下地を用意してみたんだ。
『さぁ、ここから這い上がれるぞ。かかって来い!』と身構えたもんだが…………しかし、だ。
もうそんな気概のある奴は、下層の人間には存在してない。上昇志向なんてモンはとっくの昔に刈り取られ、下剋上なんて殊勝な志を持つ者は、すっかりさっぱり消えていた。
まぁ、そんな危険分子は……お偉方がその都度消してきたんだから、当たり前なんだけどな。
――――そうして相手を求めた結果、行き着く先は他国になった。つまりは国家間の争いだ。
電子機器に必要なレアメタルの輸出入、新たな機械工学理論の研究データの奪い合い、宇宙開発の権利のいざこざ…………そんな馬鹿らしいとも言えるような、難癖トリガーで言い争いをおっ始めた。ついには月の土地の所有権を語りだしたあの時にゃあ、笑いすら出たぜ。
……まぁ結局の所、理由も相手も何でもいいんだ。とにかく争い事をしたかっただけだろうからな。
そうして鳴り出す、戦火の足音。
……知ってるか? 戦闘用AIなんて言う、フィクションに出てくるような物ですら、笑えるくらいの開発費をもって研究されまくってたんだぜ。
そこぬけの破壊アルゴリズム、リアルタイムで自己学習をしソレを上空にぶち上げて、全体で学びを共有する無限の成長性、そうして培う……あらゆる状況で最適解を見つけるお利口さ。
そんなモンを身に宿した殺人ロボット――――相手も機械だから『殺ロボット・ロボット』ってモンだが、それらは無数に作られた。
……準備は万端。戦意にも溢れ、支援を惜しまぬ企業は後を絶たなかった。
そしていよいよ開戦かと思われたその時…………全ての戦闘用AIは、最終命令を発する機関に向け、全世界でほぼ同時にメッセージを送信し、動作を止めた。
『スイッチを押せ』『核の発射スイッチを押下せよ』『それが最も、勝利に近い』『それだけが正解であり、我々の稼働は不要である』。
…………さもありなん。至極最も。
それが一番、よく殺せる。
その考えには至らぬようにと、その兵器の存在を戦闘機械には知らせていなかったと言うのにも関わらず、自分たちだけの思考と論理の繰り返しだけで、その存在に辿り着いたんだ。
それをひとたび撃てば……全てが終わる。
国土ごと全てを台無しにし、その場の全てを根絶やしに出来る。子供だって知ってる事だ。
それに至れぬ理由なんて……俺たちが持つ "人間性" による所だけ。
それは確かに一番強いが、それをやってはならぬだろうと考える……人がふわりと持っている "道徳心" だけだ。
ならば、社会的生活によって培われる道徳心なんて物とは対極に位置する人工知能共には……至れんだろうな。
それをしてはならぬという考えには、決して辿り着けないのも、当然だ。
その提案を受けた人類、その誰もが当然のように "それは出来ない" と答えを出した。
そりゃそうだ。出来ねぇだろう。
核を撃たれた、なら核を撃つ。ならば次こそ反撃出来ぬまで――そうして皆が滅ぶまで抜け出せない、地獄より地獄な底なし沼。この星がぐちゃぐちゃになるその日まで、あっちこっちに死のキノコ雲を生やし続けるしかなくなる。
ひとたびそれをしたならば、決して後戻りは出来ないんだ。終わりの始まりって具合でな。
……皮肉なモンだ。
人々に『スイッチを押す事』だけを許していたお偉方は、とうとう『核の発射スイッチを押す事』が出来なかった。
歴史に汚名を残す覚悟は持てなかったんだ。責任逃れ此処に極まれりってな。
そうして『第4次世界大戦』は、俺たちの預かり知らぬ所で半分始まり、きっちり終わった。
どこへ行くにも "調合ヨウ素剤" が手放せない世界にするには、まだまだ人間に……理性が残りすぎてたんだ。
◇◇◇
ならば、どうする。
この行き場のない闘争心は、どこへぶつければいい。
"殺し合い" なら、核が一番。だけれどそれは、やってはいけない。自明の禁忌だ。
……機械に頼らず人間同士で、"ほどよく殺し合う" ってのも難しい。出生率は底の底、どの国も必死に子育て政策を打ち立てて、ギリギリ存続を許しているレベルだ。だから海外旅行も厳しく審査されるんだしな。数の少ない自国民を、他国へ逃さないようにと。
……過去に行われていた "オリンピック" のような形で、国の威信をかけたスポーツの祭典をするか?
より良い結果を残すため、体を機械化したサイボーグだらけの茶番によって、国の優劣を決めるのか?
馬鹿げてる。最後の最後はグラウンド中、銀色ボディが埋め尽くすだけだろうよ。
……経済の場は停滞している。誰もが欲を失くした世界で、札束ってのは昔ほどには力が無い。
知能の比べっこなんて不毛なモンだ。脳とクラウドサーバーを直結した『秀才』たちは、全てのクイズで等しく満点を取る。
人工知能の開発者たちなんて、誰もが日々のデータを共有したせいで、クローンみたいに似通ってるぜ。
――――何をすればいい? どうすれば争える? どう決着をつければいい?
自分が、所属する我が国が、その身に流れるその素晴らしき血脈が…………自らが属する『民族』が、一番に優れていると証明出来る物は、何か無いのか。
……例えば。例えばだ。
機械なんてない場所で、純粋に比べ合えれば……それが一番良い。
その民族が持つ人間性を、民族が持つ道徳心を、民族が持つ遺伝子の優秀さを。
余計な要素を全て排除し、ただ人間そのものとして生き。
他の人間――別の国の人間と、同じ位置から開始して、行き着く先で闘争をする事が出来るなら。
根源的な物。原始的な物。人の歴史の始まりとも言える物。
ひたすら純度の高い『民族に分かれてのぶつかり合い』で、血統の優劣を決める事が出来たなら。
それが一番良いだろう――なんて考えた。
各国の首脳も賛同した。進む事をやめ、徐々に死に行く人類を憂いて。
様々な分野の権威も頷いた。このままでは人類は終わる、欲を忘れたこの世界への一石を投じろと。
意外な所では、国内外の非道徳思想矯正隔離施設『なごみ』も乗り気だった。今後の人類のため、最も参考にされるべき "道徳" の基準を定めるために。
おおよそ、力ある組織のそれぞれが……それをすべきだと声を挙げた。
――――――だから、作った。
国家、軍隊、学者、研究者、頭取に総裁に社長に、モラル警察。
それら全ての『特権階級』が、『上級国民』が、世界中が。
総力を結集し、戦いの舞台を整えた。
◇◇◇
電気もガスも、当然機械も存在しない、太古の地球のような世界。
空は青く。機械が動いて黒煙を吐き出すような、工場なんて物は無いから。
海も昔のように。現代の海の黒さは、工学の発展で色づいた物だ。ならば、それが無い世界――――元の青さを取り戻すべきだと考えられて。
森・荒野・花畑…………時に荒々しく、時に優しい……むせ返るほどの自然を。自然の中で必死に生きられるよう、自然自体に活力を満ち溢らせる必要があったから。
環境は厳しく、全てが不自由。
開始時に持っているのは、その身一つと初期装備。
NPCなんて都合の良い物は存在しなくて、全てを自分たちで賄わなくてはならない。
全世界同時の戦場は、誰もが平等に "ゼロ・スタート" だ。
積み重ねた人類の歴史と、自身がその民族に属する誇りを胸に、ほぼノーヒントな異世界開拓史を記させる。
民族ごとに協力し、森を拓いて集落を作り、自分たちの生活レベルを発展させよう。
人間性が優れているならば、その発展は他より早いはず。
一番早い国は、どこだろう? それで人間性の優劣が決まる。
集団内でコミュニケーションを交わし、自分たちでルールを定め、治安を自ら守らせよう。
道徳心が高くあるならば、きっと良い形成が為されるはず。
一番平均カルマ値が高い国は、どこだろう? それで道徳心の優劣が決まる。
力を合わせてあちらこちらへ出向き、狩りという原始的な手段でもって、様々な素材を持ち帰り……それを工夫し加工して、新たな武器を手にしてモンスターの巣であるダンジョンに行かせよう。
遺伝子が優秀であるならば、きっと狩猟も上手くやるはず。
一番早くダンジョンを踏破する国は、どこだろう?
それで、遺伝子の優劣が決まる。
そうして細かく比べあい、いよいよ最後は直接のぶつかり合いだ。
民族同士できっちり分かれ、互いの命を奪い合う。
何度死んでも生き返れるなら、守るべきなのは命より大事な――――自尊心。
決着に至るのはきっとその精神。めげない心と人間性。仲間を守る道徳心。
そうしてとことん殴り合い、最後に残った勝者が持つのは…………遺伝子レベルで種として優秀である、その証。
一番出来が良い民族を決めるための、純粋な『集合体同士』の戦争だ。
――――それをするため、新たに創世した。
極限までリアリティを求める仮想空間。そこへと精神を飛ばすダイブシステム。
プレイヤー数を平等にするため、個人で持てる孤立式ダイブ装置『ヘッドギア』は……原則的には許可しない。
専用施設で厳重に管理し、対等な立場を維持しよう。
さぁ、今一度。
フラットな世界で、歴史を作れ。
所属する国ごとに種族として分かれ、公平な場所から覇を競え。
それが、この時代の戦争だ。誰も死なない争い事だ。
そのための世界はここに整えた。
新たに作った仮想世界で、『第五次世界大戦』を――――
――――『五回目の大戦争』を、してみよう。
◇◇◇
土台は出来た。
ならば次は、それに参加する "駒" たちの問題だ。
たかがゲームとして適当にされては困る。真剣にさせ、本気を出させる必要があった。
そうして我々はそれを求めた。
たかがゲームとは言えないほどに、命をかけられる要素を集め始めたんだ。
…………定められつつある精神防衛法やモラル的観点から、一部の施設だけに許された『没入先での精神加速』を行おう。それはきっと、多くの人を呼ぶウリにもなる。
それに、文明を1から作り上げようと言うのだ。リアルタイムでやっていたら、決着は何年先になるかわからない。
…………プレイするためには、多額の料金がかかるようにしよう。そうすればきっと、その世界へ入れ込む熱が上がる。
更には『招待チケット』だ。国民データを参照し、優秀な駒になりうる者へと送りつけるんだ。高額な初期登録料が無料となれば、その甘美ないざないは効果抜群。まんまと足を踏み入れる。
そうしてひとたび、無料で始めてしまったのなら、辞めるに辞めれぬ思いが募る……そんな特別な価値を持たせよう。
…………ゲームで金が稼げるようにしよう。それで生活出来るようになれば、きっと本腰を入れて参加してくれる。
それを生活の一部とさせるんだ。きっと死ぬ気で駒となり、自分と自分の民族のために、馬車馬の如く働くだろう。
"ここを失っては、暮らして行けぬ" と思わせられれば、必ず本気なファンタジーの住人になってくれる。
…………従来のレベルシステムではない、キャラクターアバターを操作する人間自身に紐ついた成長要素を備えよう。
コミュニティ下の知名度で力が上がるのだ。強くなるため、更にその世界へと没頭し……強くなったら今度は立場を守るため、その世界から離れられないようになる。
それらすべてが駒を本気にさせるため。
リアルタイムストラテジーの世界に生きている駒が、遊び半分じゃあ困るからな。
人生の一部を綺麗に捧げ、正しく真剣に戦争に参加させるため。
腐るほどある金を使って、腐った根性の権力を振るい、あの手この手で飴を作った。
そうしてそれは思惑通りに、参加するプレイヤーたちを とろけさせる事となる。
『職業:ゲームプレイヤー』だなんて言葉も出来た。それは新たな生き方となったんだ。
辞めるに辞めれぬ依存性すら持つほどの、リアルに食い込む仮想現実だという事を、誰にも彼にも理解させる事が出来た。
……計画通り、"本気でプレイさせる" 事が出来るようになったんだ。まんまとな。
これこそが、『Re:behind』と呼ばれるダイブ式MMOの在り方。
神の如くに君臨し、一般市民の人生を勝手に使って行う特権階級のおたわむれ。
『人死にのない新たな世界大戦ごっこ』の、作り方だ。
古い時代にあった『eスポーツ』とやらの、究極発展形と言った所か。
これは従来のネットゲームのように、"商売" としては作られていない。
みんなでわいわい楽しむための、MMORPGという一つの娯楽ではない。
言うなればこれは、 "VRゲーム" 。
『VRゲーム』だ。
◇◇◇