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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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第六話 後1分


     ◇◇◇




「……まぁ確かに、【正義】さんに文句言ってもしょうがないよなぁ」

「っていうか、必死にどうにかしようとしてくれてるんじゃん? むしろありがたい存在だよな」

「誰だよ文句言ってたやつ。信じられねークソ野郎だな」

「あれ? さっきお前の『ふざけんな!』って声が聞こえたような……?」



「……どうしよ。やるだけ、やる?」

「っていうか、もうどうにか頑張るしか無くない?」



「やらなきゃ終わるんだろ? だったら俺は やるぞ!」

「【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】も四人いるし、どうにかなるでしょ。私も頑張ってみようかな」

「いいじゃんいいじゃん、こういうヒリヒリした感じ。たまにはこんなのも面白いじゃん」



「何だか逆に燃えてきたわ。生活のかかったガチバトルとか、他じゃ出来ないぞそんなもん」

「どうせ死んでもリスポーンはすぐそこだしな! やってやろうじゃん!」

「何がラットマンだっつーの! リビハプレイヤーを舐めんじゃねえぞっ!!」

「活躍すれば二つ名貰えるかもしれねーしな! ついでにドロップアイテムとかで、ウハウハの予感!」



「おっしゃ! 俺、フレンド呼ぶわ!」

「誰か2525ちゃんねる書き込んでる? ダイブしてない人にも声かけようよ!」

「やべえ、俺マイナーコクーンなんだけど…………メジャーでダイブし直して来ても良いかな」




 ……群衆と言うのは、単純だ。

 支持・懐疑・糾弾…………群をなして何かに対峙した時に、一人がそれに対する声を挙げるとそれに釣られて、そのまま熱伝導のように意識が浸透してしまう。

 それはきっと、とても根深い物であり……集団生活を送る生き物としての、本能的な物なのかもしれない。

 だからこそ、それを上手く使う能力こそが、支配者や統治者に求められる物であろう――――というのが、私の持論だ。



 そういう見方をすれば、クリムゾンのさっきの行いは……悪手に尽きるという物だろう。


 ただ今起こっている状況を、良いも悪いも考えず、ありのままだけを口にする。

『ラットマンが来ている』『ゲートを狙っている』『ゲートが壊れたらダイブ出来ない』。

 そんな自分が知り得た情報を、愚直とも言える真っ直ぐな言葉で伝え、無闇に不安を煽るような真似をするのだ。

 全てが寝耳に水であり、それをこんな切羽詰まった状況で知らされた側からすれば、混乱するのも当然の事だ。現に私も戸惑ったしな。




 ………… "ダイブが出来なくなるかもしれない" なんて、言う必要は無かったとも思う。

 その言葉こそが、ラットマンの軍勢で浮ついた心を、不安と不満とでことさらに揺れ動かしたのではないか、と。


 何せそんな不条理なルールなど、クリムゾンのせいでは無いんだから。

 もしこのまま最悪の状況になったとしても、『私は知りませんでした』の一言で済ませばいいだけ。

 いちプレイヤーである彼女にとって、そこには何の責任もないだろうに。





 …………だが、そういう所こそが、あの【正義】のクリムゾンなのだ。

 いつでもきちんと目の前の物事に向き合い、堂々とそれに立ち向かって。

 嘘やごまかしなどをせず、良いも悪いも全て晒して、真っ向勝負で切り開く。


 わざわざ扇動したりはしない。心を揺り動かそうという狙いをもって、聞こえのいい言葉を言ったりしない。

 自分の心を曝け出し、自身の正しさをひたむきに願い、人々の善性を信じ切る。

 正義の心で向き合えば、きっと誰もがわかってくれると。そう思い込みきっている。


 それが『正義の旗』筆頭、紅き【正義】のクリムゾン。

 このRe:behind(リ・ビハインド)で最も古参で、この首都を作り上げた張本人。




「みんな…………ありがとう! ありがとう!!」


「俺は協力するぞ!【正義】さん!」

「クリムゾンさんと一緒に戦えるとか、一生モノの思い出かも!」

「これで首都を守りきれたら、俺たちもヒーローの仲間入りかぁ~?」




「そうだっ! この場の誰もが、正義の心で悪を討つ……正真正銘の正義の味方だっ! 共にこの地で生きる者同士、皆で手を取り力を合わせ、Re:behind(リビハ)を我らで守ろうではないかっ!!」


「おおっ!」

「やってやるぜぇ!!」

「みなぎってきた!」




 ……むしろ、クリムゾンがこういう人物だからこそ、人気と人望があるのかもしれないな。

 聞こえのいい言葉を並べたり、今までの歴史にあるような、集団を率いる際の常套手段などを用いたりもせず。

 只々等身大の人間であるがままに、一生懸命の頑張りを見せる彼女だ。


 従いたいと言うよりは、それを支えたいと言った気持ちにさせてくれる。

 絶対君主などではない、どこまで行っても親愛なる隣人。



 王と言うよりは、旗印。

 戦場で先陣をきる…………ああ、だからこそ。


 クリムゾンの立場を表す言葉―――― "『正義の旗』()()" という表現は、しっくり来ると言う物か。




     ◇◇◇




「まずは "役割ロール)" ごとに分かれてくれ! 大雑把でも良い!」


「はいは~い! みなさんご注目ですぅ! 魔法師(スペルキャスター)やヒーラーは【金王】アレクサンドロスさんの周辺へ! "補助役サポート)" 系をする縁の下の力持ちさん方は、【天球】スピカさんの元へ! "前衛役" の方は【脳筋】ヒレステーキさんの周囲に……それぞれ集まってくださ~い!」


「ワシは【鍛冶屋の髭ジイ】、"髭切らず" だ! 武具に不安があるやつは、ワシの所に持ってこい! 本格的な打ち直しなんぞは出来ねぇが、軽い研ぎと拭き上げくらいはスキルでやってやる!」


「『ドラゴン・バスタード・ポーション屋』の店主、 "リィリ・ラィリ" で~す! 臨時で露店を出すぞ~! プレイヤー作の治癒ポーション、この場に限って3万ミツだっ! 原価割れだから、転売はやめろよな~!」




 あちらこちらで己が出来る事をしようと、プレイヤーたちが声を挙げる。

 まるでかつてのドラゴン祭。

 だが、今日に限っては――――『復興のため』ではなく、()()()()()()ための催しだ。


 …………ならば、この【金王】も。

『この場に勝つ事』それだけを考え、その他の事は全て度外視した上で…………。

 持ちうる力を惜しみなく使い、可能な限りの最善を取るべき、か。




「……シメミユ、使いを頼めるか」


「…………はい、旦那様。クラン倉庫の魔力ポーションを、ありったけ……でしょうか?」




 ……はた、と息を止めてしまう。

 確かにそうだ。そう言おうとした所だった。

 しかし、何故それがわかる? 私らしくもない、【金王】にあらざるべき奉仕精神の行いだと言うのに。


 思わずじっと、シメミユを見つめれば。

 ふわりと上品な笑顔で微笑み、私の頬に軽く手を当てる。




「……わかるに決まっておりますわ。これだけ隣に居るのですから」


「……そうか。頼む」


「はい…………ふふ。最近の()()()()旦那様も、わたくしはかけがえなく思っているのですわ」


「…………」




 ……何とも言えぬ格好のまま、走り去るシメミユの背を見つめる。

 カネ目当てだ財産ハーレムだと、どこかで距離を取るようにしていたが…………思っていたより、私は見られているのだな。


 何だか少し、恥ずかしくもある。

 だが、まぁ……悪くはない。




     ◇◇◇




     ◇◇◇




     ◇◇◇




「――――隊長、先触れによれば、あと10分ほどでラットマンの群れが目視出来るかと」


「……そうか。いよいよだな」




 先頭に立つのは、紅き【正義】のクリムゾン・コンスタンティン。

 真紅の鎧を身にまとい、黒いマントを背に羽織って…………左手に旗を、右手にブロードソードを構える。

 その隣には、銀色のホースアーマーで身を固めた赤毛の馬が堂々と立ち、荒野の向こうをじっと見つめて鼻息を吐き出す。


 プレイヤー筆頭、先陣をきる正義の代表。

 身を包むオーラは、炎のように天に向かって、轟々と強く燃え盛る。






「……奮闘」




 不意に浮かんだ、無数の『光球』。

 それらは遊び踊るようにくるくるふわふわと浮かび回って、一人の少女を彩っている。

 紫のローブに、同色のとんがり帽子。その先っぽをゆらゆら揺らして、大きな『天球』の上にぺたりと座る……絵に描いたような魔法少女。


 他の誰であるはずもない、『光球』のプロフェッショナル――――【天球】のスピカ。

 全てを守る "絶対防御" の力を見せつけ、我こそ此処にと名乗りをあげた。




「……スピカ。頼むぞ」


「ふんす」






「よっしゃ! いよいよ俺の、フリーポーズの時間だなぁ!!」




 ずどん、と地を鳴らす音。

 粗末なボロ布だけを身にまとって、肩に『何かの大きな骨』を乗せる、ひたすらな大男。

 そうしてその身を守る術がなかろうと、全身に在るはちきれんばかりの筋肉は、並の剣ならば刃も通らないのではと思わされてしまう。


 それほどの膂力。それほどの強力。重機のように迸るパワー感。

 全身余すこと無く――――それこそ、その脳みそまでが筋肉の男。

【脳筋】、ヒレステーキが……これみよがしにポージングをする。




「今日ばっかりは全力で、限界を越えてヤるってのよ! こうまで首都が追い込まれてたら、俺の筋肉の追い込みにも丁度いいだろう!?」


「……意味わかんないですよ、ステーキ」


「頼もしいぞ、ヒレステーキよ」




 むきっと言う擬音すら聞こえてきそうな、露骨なマッスルポーズを取る男。

 それを合わせて白い歯を見せつけるようにすれば、何よりわかりやすい返事の言葉となるだろう。




「……筋肉で会話するのは、僕とだけにしてくださいよ」


「おいおいなんだよタテコ、嫉妬してんのかよ? 俺の筋肉への、独占欲なのか?」


「違いますよ! 他人様に、要らぬ迷惑をかけないで欲しいって意味ですよ!!」




 そんな会話をしながら、自身の装備……小・中・大の三つの盾をメンテナンスするのは、ヒレステーキの相棒 "タテコ" とやらだ。

 奴が守って、ヒレステーキが打ち砕く。そのシンプルを極めた戦闘スタイルは、それゆえの盤石を誇る。




「……タテコ殿も、ありがとう」


「気にしないで下さい。僕も、消えたくはありませんからね」






「……魔力のポーションの心配は無用だ。今ここにある物の他、余のハーレムが続々と届けてくれるだろう。さすれば何も憂いは無い。我らが魔法師(スペルキャスター)の真なる力を振るうのだ。群れをなす矮小なネズミ共など……金塊珠礫の輝きに目をくらませ、そのまま木っ端微塵となるだろう」


「【金王】、アレクサンドロスよ。そのスペルと金、両方の力を振るってくれる事…………本当に、感謝に尽きるのだ」


「…………ふん! 余が掌握するこの首都に、薄汚いネズミの足が入るのが、我慢ならぬと言うだけだっ!!」


「……それでも、ありがとう」


「…………ふん!」






「隊長! およそ後5分です!!」


「わかった」




 …………現実にとことん嫌気がさして、逃げるようにこの地に舞い降りた時。

 いの一番に好ましく思った、このRe:behind(リ・ビハインド)における絶対の()()()()


――――『自己責任』。自分の身は自分で守り、自分でした事だけの責任を、自分だけで取る。

 そういったこの世界における絶対の理屈に、酷く胸を震わせた覚えがある。



 ならば、これこそ……『自己責任』だ。

 自らの道は自らで切り拓き、苦難が待ち受けていようとも……誰かに頼る訳でもあらず、自分の力で掴み取る。


 その先に待つのが勝利だろうと敗北だろうと、その結果の責任は、自分に返って来るばかり。


『スイッチを押すだけの仕事』とはまるで違う、己の意思で何かを行い、己がした事()()にその身を捧げる世界。

 だから、この世界が気に入ったのだ。




 …………右手がぷるぷる震えだす。

 やらねばならぬ。やるべきである。やってもいい。やったほうがいい。


 自身の死力、その全てを出し尽くし、未来を勝ち取るのだ。


 そうしなければいけない世界だから。

 それが許される世界だから。


 だからこうまで、心底本気になれるのだ。







「……来るか、ラットマン! 正義の心に負けはないぞ!」


「……不屈。制勝」


「ウオオオッ! パンプアーップッ!!」



「こっちは生活がかかってんだ! 死ぬ気以上で張り切るぞ!!」「や~ってやるぜぇ!」「よ~し! 頑張ろうっ!」「えい、えい、オー!」「それがし、獅子奮迅!」






「…………来い。ネズミ共。我が黄金の一端を、その身を伏して浴び、跪拝して賜るが良い」




――――――Re:behind(リ・ビハインド)の存続を賭けた開戦は、間もなく。





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