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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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第四話 ずるいぞ




□■□ 首都西 山岳地帯 □■□




「――――さ、流石にこれは多勢に無勢だっ! ひとまず首都へと退くぞっ!」


「俺も持ち場を離れるのか?」


「そうだっ! ここに居たとて危険ばかりで、有益な情報は無いだろう!」


「確かに無駄死には御免だが…………首都へ戻って、どうするんだ?」




「とにもかくにも…………クランメンバー総出で、首都にて人手をかき集めるぞっ!!」




 見渡す限りの、敵、敵、敵。

 まるで津波のように押し寄せるあれらに対し、この場の我らだけで向かった所で、木の葉のようにさらわれ沈むだけだろう。


 ……集めなくては。我らが首都を、守る勢力を。

 明日もRe:behind(リ・ビハインド)を、続けるために……出来る限りの事をするのだ。




     ◇◇◇




「はぁっ!」


「ジヒィィンッ!!」




 正義のジャスティス・馬・ホースの腹を蹴り、広い荒野をひたむきに駆ける。

 奴らはあれほどの大軍勢だ。その分歩みは遅かったし、少しばかりは猶予があるはず。

 この与えられた僅かな時間で、出来る限りに対抗勢力をかき集めなくては。




「――――むっ!? あれは!?」


「ジヒィン?」




 そうして馬を駆る私の上を、四つの影が飛んで行く。

 あれに見えるは我が隊員か。丁度いい所で会う事が出来た。よかった。




「お~いっ! 魔法師(スペルキャスター)隊員~!」




 懸命に手を振り、気づかせて、私の目の前に降り立つ四名。

 少しばかり顔色が悪いのは、『レビテーション』の複数詠唱による魔力の枯渇から来るものだろうか。




「た、隊長……どうしてこんな所に?」


「忘れ物ですぅ?」


「違う! 大変なのだ! 観測位置ポイントから見えたのは、新たな外来種 "ラットマン" の大軍勢だった! およそ300からなるその行進は、真っ直ぐ首都へと向かっているのだ!!」


「……マジっすか?」


「え~!? 数え間違いじゃないんですぅ!? 隊長ってうっかりしてるから、ほんとは10匹くらいじゃないんですぅ?」




 吟遊詩人(バード)隊員がいつも通りの変な事を言って来るが、今はそんな場合ではない。

 とにかく、一刻も早く指示を出し、奴らに対抗しうる力を備えなくては。




「私は今から、竜殺しを中心に声かけをしてくる! 隊員たちは首都へと戻り、出来る限り多くのプレイヤーを西門へと集めるのだ!」


「……了解です! …………協力、してくれますかね?」


「有無を言わさぬRe:behind(リビハ)の危機だ! 正義の心で声をかければ、きっと多くの人が集まってくれるに違いないのだ!」


「……わかりました」


「頼んだぞっ! ハイヨーッ!」


「ジヒィィンッ!!」




 そして再び、私は駆ける。

 そうだ、これは正義の行いなのだ。


 みんなで自分の明日を守る、全ての人がヒーローとなるべき……大事な日!




     ◇◇◇




□■□ 首都 大通り沿いの料理店『ペールナチュール』店内 □■□




「――――たのもうっ!【脳筋】は居るかっ!?」


「……すみません、クリムゾンさん。今彼はお肉に夢中なんです」


「おお、タテコ殿! ヒレステーキ! 良かった、やっぱりここに居てくれたのだな!」


「どうしたんです? 貴女ほどのお方が、そうまで血相を変えた様子で」


「詳しい事は後で話す! 今は助力を賜りたい! 可能であれば、西門へと出張って欲しいっ!! Re:behind(リ・ビハインド)の危機なのだ!」


「えっ……あっ…………」


「では、頼んだぞっ! 君たちの正義の心を、信じているからな!」




「……何ですか、もう。勝手に信じるとか言われても……」


「……タテコォ。今のって、あいつか? 【正義】の」


「そうですよ。【正義】のクリムゾンさんです。何でもヒレステーキに、力を貸して欲しいのだとか」


「…………」


「どうします?」


「……行くかぁ」




「……珍しいですね? 貴方の嫌いな "女性" の頼みだと言うのに」


「あいつだけは、別だからなぁ」


「へぇ、それはどういった意味合いでですか?」


「何てったって、あいつはな…………」


「あいつは?」


「インナーマッスルが、凄いのよ」


「…………結局、筋肉ですか」




     ◇◇◇




□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 □■□

□■□ クラン『ゴールド・ヘタイロイ』のクランハウス『余がピラミッド』 □■□




「たのもうっ! 【金王】は居るかっ!?」


「わっ!? …………な、何よ、正義女っ! 今取り込み中なんだけどぉ!?」


「なんて無礼な奴なのだ。まるで品が無いのだ」


「ベルも鳴らさずドアをぶち破るとかぁ~、怪力女ってこわぁ~い」




「……何用だ、【正義】」


「緊急事態だ! 首都の『ゲート』が壊される! 詳しい事は後で言うから、今はとにかく西門へと来て欲しいっ!!」


「……なんだと?」


「今は時間が無いのだ! とりあえず来てくれたら、その場で話す!!」


「あ、ちょっと――――正義女ぁっ!」


「信じているぞ! アレクサンドロス! お前が持つ正義のスペルが、今こそ必要なのだっ!!」




「…………行ってしまいましたね。どうなさいますか? 旦那様」


「……『ゲート』、だと? 腑に落ちんな」


「どうせまたドラゴンじゃないのぉ? 放っておいてもいいんじゃなぁ~い?」


「……いや、それは無い。ドラゴンと言う存在は、『ゲート』と『職業認定試験場』を破壊する事は無いと、奴に聞いた覚えがある」


「へぇ~、そうなのだ? じゃあ今日は、一体どんなイベントなのだ?」




「……行くぞ」


「……かしこまりましたわ、旦那様」


「えぇ!? 行くんですかぁ!?」


「……気になる事がある。確かめなくてはなるまい」


「リエレラはお留守番してるぅ」




「…………それに、このような状況であれば……好敵手ヤツも姿を現すだろうしな」


「旦那様、何かおっしゃいましたか?」


「……何も無い」





     ◇◇◇



□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都 『鍛冶屋 髭印鉄工所』□■□




「たのもうっ! 髭ジイは居るかっ!!」


「おお? 何だ正義の。ずいぶん慌てて、どうしやがった?」


「あぁん? どうしたどうしたクリムゾンよ」


「【新人教官】ウルヴも居たか! 君に会うのも久しぶり――――じゃなくって! 預けていた武具を持って行きたいのだ!」


「何だよ、突然来やがって。まぁきっちりメンテはしてあるけどよ」


「助かるっ! 良ければ二人も、西門へと来てくれないか!? Re:behind(リビハ)の非常事態なのだ!」


「何だそりゃ? 穏やかじゃねぇ事言いやがるな?」


「どうにか食い止める事が出来ないと、『ゲート』が破壊されてしまうのだ!」


「おいおい、またリザードマンか?」


「……いや、今度はラットマンだっ! 300からなる大攻勢! そういう訳で、西門へ正義の武具の配達を……頼んだぞっ!!」




「…………なんでぇ、引取に来たと言いつつ……行っちまいやがって」


「なぁ髭ジイよ、『ゲート』が危ないってのは、一体どう言った事だ?」


「首都にある『ゲート』ってのぁ、俺ら()()()には……色々思い出深いものでなぁ」


「ああ。クリムゾンも髭ジイも、同じく初日からダイブしてるんだっけか」


「おうよ。そんでもってその初日に、マザーAIとやらから……簡単なチュートリアルを受けたんだ」


「ふぅん? どんなモンだ?」


「 "『ゲート』を中心として、街を作れ。『ゲート』が破壊された瞬間、その地のダイブインは不可能となる" ってな」




「…………マジか、オイ」


「あいつ、外来種が300っつったか? こりゃあ大変な事になっていやがるな」







     ◇◇◇




 良し。今の所いい調子だ。

【脳筋】ヒレステーキの行きつけのお店、【金王】のクランハウス、そして【鍛冶屋の髭ジイ】の店でも目当ての人物と会う事が出来た。


 ……【脳筋】は、何故だか私には妙に付き合いが良いので、きっと大丈夫。彼の圧倒的なパワースタイルは非常に頼りになる。


 ……【金王】に関しては少し不安だったが……あの興味を示したような顔つきならば、恐らくは参戦してくれるだろう。あの超広範囲攻撃スペルは、この多人数戦において最も心強い。


 ……そこに【鍛冶屋の髭ジイ】のサポートがあれば、この私も十全に力を奮える。彼が持って来てくれるであろう『真・ジャスティスソード』に並ぶ新たなメインウェポンは、個人戦よりもチーム戦でこそ輝くのだから。




――――あとは、何より……この場所だ。ここが要で、何より盤石。

 最近の彼らは、大体ここに居ると聞いたのだから。




     ◇◇◇




□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 『よろず屋 カニャニャック・クリニック』 □■□




「たのもうっ!【死灰】は居るかっ!」


「……やぁ、【正義】のクリムゾン」


「…………」


「む? カニャニャック女史と……【天球】スピカではないか。君もここを拠点にしているのか?」


「……否定」


「拠点と言う訳ではないのだろうけれど、最近スピカはよく来るね」


「……快適」


「うちは喫茶店ではないからね。その言葉に喜んでいいやら、複雑な気分だよ」




「…………して、カニャニャック女史。【死灰】はまたダンジョンか?」


「いいや? 彼はダイブしてないよ」


「何だとっ!? では、サクリファクトくんは!?」


「彼も居ないね」




「ど、どうして? 今は現実で、お昼すぎくらいでしょう!? Re:behind(リビハ)プレイヤーの、ゴールデンタイムではないかっ!」


「それは確かにそうだけど――――彼らは今頃、二人仲良く焼き肉を食べているんじゃないかな? 何しろ今日は、待ちに待った "オフ会" の日だ」


「ば、馬鹿な…………ッ!」




 何故、何故今日なんだ。

 灰を撒いて戦う対・多数のプロフェッショナルの【死灰】マグリョウに、その相棒とも言えるサクリファクトくん。

 そんな彼らが居てくれたなら、よほど勇猛な活躍を見せてくれると思っていたのに。


 …………今にも奴らが迫るこの時。昨日までずっと平和だったこの地に、唐突に訪れた今日という災厄の日。

 よりにもよって、何故こんな日に……オフ会などと言うのんびりした事を!




「生の宮城牛だったかな? それの食べ放題招待券の指定日が、今日だったらしいからね。29日でニクの日だし」


「……羨望」


「良いな…………じゃなくて、なんて事だ!」




 ずるいぞ死灰。私もそういう贅沢したいよ。

 正義のキャリアウーマンにも、たまの休日は必要なのだ。




・あとがき


いつもご愛読ありがとうございます。


本日出てきた「髭ジイ」さんは、以前リュウジロウたちがちらりと口にしていたキャラクターです。

元々は序盤の「教官ウルヴ」の案内で出てきていましたが、テンポの都合上消された部分で出会っていたので、とても唐突な登場に見えてしまうかと思います。


後で髭ジイさんという存在がどのような人物なのか、どういう関係性なのかがわかる回を作るつもりです。


ですが、流石に唐突感もあるので(もう少しで完結出来るよう駆け足をしているという理由もあり、あまり余計な所を入れられない)、とりあえず現時点での暫定的な処理として、古いバージョンで残されていた「髭ジイとの出会い」を短編で投稿する事にしました。




こちら→ << https://ncode.syosetu.com/n3018fa/ >> のURL、または僕の作者ページから「旧版Re:behind 鍛冶屋の髭ジイとの出会い編」で読む事が出来ます。


ストーリー上必須の内容ではありませんので、特にどうでもいいよという方はスルーして下さって結構です。


※当作品「Re:behind」は、10万字程度投稿してから一度全てを取り下げ、全部をまるごと改稿したという過去があります。

この短編はその時の旧版の文章をほぼそのままコピペしただけなので、三人称視点(+ロラロニーが主人公)になっています。

あくまでおまけ的な物としてお楽しみ下さい。



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