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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第零章 さぁゲームを始めよう
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閑話 あるプレイヤーが助けられた日 B

□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 『正義の旗』クランハウス内 □■□




「プレイヤーネーム クリムゾン・コンスタンティン。 正義の時間が来たようです」



 また声がする。いつもの声。

 ずっと昔のあの時から聞こえる、聞き慣れた機械音声。



「悪いプレイヤーが善良なプレイヤーをその毒牙にかけようとしています。正義を示す必要があります」



 なんというか、上位者、みたいなモノなのだろうな、これは。

 普通じゃ知りえない事を知り、見えない物が見えている。

 初めてこの世界に来た日に聞こえた声のそのままに、頭の中に直接流れ込んでくるのだ。



「クリムゾン? あなたの "人間性" は、正義を求めるのでしょう? それには私というサポートが必要なんですよ」



 私が望む正しい事と、彼女?が望むして欲しい事が、合致したのだ。

 でも、それにしたって。



「私は『Dive Massively Multiplayer Online Game Re:behind管理専用AI群統括マザーシステム モ・019840号 MOKU』。つまる所、この世界の最上位存在であり、全てを知るもの」



 ほら、やっぱりそう言っている。

 一番に偉い、この世界ゲームの神様みたいな存在なのだ。

 それが、私に。私だけに。



「【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】、【正義】のクリムゾン・コンスタンティン。あなたの正義を成す為に、格別な "人間性" を持つ私が、特別なサポートをいたしましょう。あなただけが特別ですよ」



 私だけに色々教えてくれるのって、なんか……ずるっこくないか?




     ◇◇◇




□■□ 首都南 森林地帯 □■□




"この先です。薄暗闇の森の、深いところ"



 そこまで言って『MOKU』とやらの声は途絶えた。

 我がクラン、正義を成すために作られた『正義の旗』のメンバー二人を連れて、私は駆けるのだ。

 聞こえた声の、示すがままに。



「隊長……本当にこっちであってるんですか?」


「こっちは沼地で、汚れるから嫌ですぅ~」


「つべこべ言うなっ!! 私には声が聞こえたのだっ!!」



 そう言いながら、私だって不安だ。

 いたずらっ子なAIが遊んでいるだけなのかもといつも思う。

 今度こそ、からかわれたんじゃないかと心配になる。

 いつもそう思って、いつも裏切られた。

 そう。今まで一度も『いたずら』だった事はないのだ。



「声の通りなら、もう少し奥に――――」


「きゃぁっ!」




「隊長っ! 悲鳴ですっ!!」


「わわわ~大変ですぅ~」


「ゆくぞッ!!」




     ◇◇◇



□■□ 首都南 森林地帯 東奥湿地 □■□





「――――まっさか、こんな簡単に行くとはねぇ」


「チョロすぎっしょ~」


「や、やめて……ください……」



「セーフエリアを出たら、もう自己責任よ? これ常識ね」


「"接触防止バリア"も働かないここじゃぁ、何されちゃっても仕方ないってのが、この世界っしょ~」


「ふっ……うぅぅ……っ」



「泣くなよ~後腐れの無い、しがらみのない快感をさ、楽しんじゃおうよ」


「仮想だから何してもオッケー! 身体の乱れは、現実には影響ないっしょ!」




 私はそいつらを空から見つめる。

 何故空からなのかって? 今にわかるさ。

 私が、私である為に必要な事なのだ。




「さぁ~て、それじゃあ……まずは脱ぎ脱ぎ――――」



ギュピィィィンッ!



「――――な、なんだっ!?」



 "安全地帯セーフエリア"外での、女性アバターへの暴行。

 とてもまともではない行いだが、演者としては優秀なようだ。

 まるでコミックに出てくる悪役のようなリアクション、満点をあげたい。




「お、おいっ!! 上を見ろ!!」


「はぁ!? 赤と白の幾何学模様……まさかっ、嘘っしょ!?」




 "吟遊詩人バード" の出した効果音と、"魔法使い(スペルキャスター)"による紅白の魔法陣。

 それと同時に自身の魔法『レビテーション』を切り、魔法陣の中心から降り立つ。

 勿論、体躯のブレを軽減させる技能(スキル)『不退』も忘れない。

 これがいつもの【正義】登場シーンの、安定フルコースなのだ。



――――ズシンッ




「な、何者だ……ッ!!」




 なんか凄く "わかってる" な、この男。

 女子に性的暴行をしようとする犯罪者にしておくにはもったいないくらい、やりやすい。


 だが、今はそんな場合ではないのだ。

 こうまでお膳立てされてしまったら、興も乗ると言うもの。

 いざ高らかに……名乗らせていただこうっ。



「――――正義っ! 参上っ!!」




 決まった。

 正義、のタイミングで縦にした剣の腹を90度傾け顔を見せ、

 参上、のタイミングで右手の剣を振り払い、左手を前に出す。

 勿論、二つ名効果の赤いオーラもモワモワ出てる。


 ヒーロー見参の決めポーズは、完璧だっ! かっこいいぞ、私っ!!




     ◇◇◇




□■□ 首都南 草原地帯 □■□





「あ、ありがとうございました……」


「気にする事はない。悪がある所に正義はある、私は私が成すべき事をしただけだ」



 "おぼえてろぉ~" "覚えとけっしょ~" と逃げていった悪党共は最後までやり遂げた。

 お手本のような雑魚キャラ。サービスで運ばれてきたプリンをぺろりと平らげたような、思わぬ据え膳に頬が緩むのを必死で抑える。


 それにこの娘もどうだ?

 ヒーローに救われる少女、という立場をきちんとこなすじゃないか。

 今日はいい日だ。私がヒーローで、かっこいい日。




「むっ、誰かが私を呼ぶ声が聞こえるっ」


「えっ、あの」




 ヒーローは去り際も肝心。

 別に誰かの声なんてさっぱり聞こえてないけど、そのほうがいい感じなのだ。

 それっぽい事は、言っておくに越したことはない。




「私はもう行かなくては。街ももうすぐそこだ――――今後は気をつけるのだぞ、お嬢さんっ」


「ま、まってくださいっ!」




 と、思ったら、救った少女がほんのり頬を染めて引き止めてくる。

 ああ――――これは……まさか。まさかっ!!

 そんな事まで言ってくれるのかと期待に背筋がゾクゾクする。


 ヒーローになったら言われてみたいセリフの代表格……。

 救われた少女が口にするそのセリフは、私にとってどんな男にかけられる愛の言葉より沁みるもの。


――――ああ、ドキドキしてしまう。

 言うのか? 言ってしまうのかっ!?

 お約束のセリフ――――『あなたのお名前をおしえて』的な事をっ!! 言ってしまうのか!?

 すっごく言いそうな感じになってるっ。




「せ、せめて……お名前だけでも……」




 言った~っ!! 言われたぁ~っ!! やったぁぁ~っ!!

 ヒーローしててよかった! 【正義】の二つ名持ちでよかったぁ!!

 この流れ、超良いっ! 涙が出そうなくらいうれしいっ!!


 っと、だめだだめだ。まだはしゃいじゃいけない。落ち着くのだ。

 まだ終わってない、泣くのは全てが済んでから。

 正義のヒーローは、去り際も肝心。



「ふふっ、私は名乗るほどのものでは――――」


「クリムゾンさ~ん、『正義の旗』隊長、クリムゾンさぁ~ん! 置いて行かないでくださいよぉ~!」






 …………も~っ!! 台無しだよっ!!

 顔が真っ赤になってるのがわかる。

 最高の決め台詞を最悪に嫌な声で邪魔された。

 折角いいところだったのに!!


 赤い瞳に赤い鎧と赤い顔。全部が全部真っ赤っ赤。。

 まさしくトップクラン『正義の旗』隊長、赤い【正義】のクリムゾン・コンスタンティンだ。全部が全部、その名の通り。


 ――――それはともかく、吟遊詩人は許さんっ!!

 今日は正義の反省会だからねっ!!




魔法スペル


Re:behind(リ・ビハインド)』における魔法とは、魔力を利用して事象を引き起こす手段、またはその結果を指す言葉である。

 必要なのは「魔力」と「何をするか」という具体的な想像。 

 

 事象を引き起こすまでの大まかなルートは二通り。

 各スペルキャスターのジョブレベル上昇時に新たな魔法の「ヒント」が貰え、それを使って魔法にするというシンプルな物。

「ヒント」は「炎・赤 燃えるとは何なのか」や「風・裂 空気を断ち切り吹き荒れる」などの曖昧な物で、そこからどのような形にするかは自由。

「赤い炎よ、命を焼き尽くせ」等、自分なりにヒントを解釈し、それが正しくあればシステムが答えて代償と引き換えに現象が起こる。正しさがないと無視される。

 そのキーワードを口に出す手順を「詠唱」と呼び、熟練すると詠唱は念じるだけで通るようになる。

 シンプルかつ魔力消費も効率が良いため「基礎魔法」等とも呼ばれる。


 もう一つのルートが、自身で自由に模索する物。

 イメージを繰り返し、それが起こる事を想像し、自分で起こす事へひたすら向かう。「こうであれ、それぞあれ、この魔力によって、それが今ここに起こる」と言う事を信じきった際に、システム側の判断によってイメージが現象となって引き起こされる。

 それは基礎魔法の強化であったり、どこかの世界で見たものであったり、完全なオリジナルであったりするが、総じて必要なのは「それが起こる事を強く強く念じる事」であり、それが「詠唱」である。

「水よ、ヘビとなって巻き付いて締め上げろ」や「炎よ、俺が寝ている間暖かくし続けろ」「氷よ、私好みの執事を形作り、この場に出てこい」など、バリエーションは様々。

 口に出せば自身に思い込ませる事が容易であるだけで、コツを掴めばこちらも念じるだけで済む。

 ちなみにスペルキャスター達はそのコツの事を「真理を見た」「ヘリオポーズを超えた」と言う。それはジョブレベル試験通過時に毎回聞こえる「ヘリオポーズを超え、真理を観測しろ」という声に基づくもの。


 総じて自身から放出するものが多いが、指定位置に何かを出現させる事も可能。

 しかしその際は『Re:behind(リ・ビハインド)』の世界の座標を算出して指定する必要があり、そこに至ったプレイヤーは極少数。

 大体は基点となるアイテム等を設置し、そこから発動する旨も込めて念じ、『詠唱』する。

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