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本気でプレイするダイブ式MMO ~ Dive Game『Re:behind』~  作者: 神立雷
第五章 応えよ、響け、目を覚ませ
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第一話 闘いの序曲

□■□ Re:behind首都 『正義の旗』クランハウス内 □■□




「――――では、報告させて貰います」


「うむ、聞こう」


「隠密で固めた我が "斥候隊" パーティによって行われた調査の結果、『外来種・リザードマン』の活動域が首都より北部に集中している事がわかりました。また、北へとずっと行った場所に同種族だけの集落を構え、独自の生活形態を作り上げている事も確認が取れております」


「……奴らは北ばかりから侵攻して来るが、他の方角には生息していないのか?」


「現段階での報告たりうる情報は、先日の侵攻の際に確認出来た進行方向からのルート推測、帰路につくリザードマンの追跡等による調査結果のみですね。様々な方角に設定した観測位置ポイントの張り込み班からは、未だこれと言った報告は上がってきておりません」


「なるほど、理解した」




 我らが正義のクラン『正義の旗』。そのクランハウス内の作戦会議室において開かれる『円卓会議』は、今回でめでたく50回目を迎えた。


 最近話題のノーマナーなプレイヤーや、各地に出没するPK情報。または誰かの困りごとなどの情報を共有し、それらに対し義を持ってあたるため、"毎週日曜日、現実時間で15時" に必ず開かれるこの『円卓会議』。

 その時間にダイブしている者は可能な限り参加する、というそこそこ緩い条件の下で開催されるため、時には2,3人しか居なかったり、最悪私1人だったりする事もあるが――――それでも我らが正義たるため、無くてはならぬ大切なものだ。



 そんな我らの定例会議で近頃語られる内容と言えば、一貫して一つの事柄だ。

 それは――――――『外来種・リザードマン』についての話。

 強かな知性と残忍な心を持ち、プレイヤーに仇なす悪しきもの。それにまつわる報告ばかりである。




     ◇◇◇




 一匹一匹が特別な個性を持ち、一つとして同じものが存在しない、多様性が過ぎる一つの亜人型モンスター。

 奴らは往々にして徒党を組み、武器や道具を扱う狡猾さでもって、多くのプレイヤーに涙を流させる。

 食べるでもなく、縄張りを主張する訳でもなく…………ただひたすらに、いたぶり・辱め・殺傷をする実害在りしもの。


 そんなリザードマンの初出現があったその日から、プレイヤーの被害報告は後を絶たない。

 まるでプレイヤーを滅ぼすために生まれたような、"プレイヤーと言う種" に対してのはっきりとした敵意を感じる生き物だ。

 ……『外来種』とはよく言うものだと、感心すらしてしまう。




 そういう訳で最近の私は、とってもとっても忙しい。

 休む間もなくリザードマンへの対応やプレイヤーの救援要請に追われ、空いた時間にねじ込むように個人の用事を消化する毎日だ。

 それはすご~く正義であるし、私の活躍の場が多くあると言う意味では……喜ばしい事ではあるが、いかんせん数が多すぎ、きりがない。


 このままやられるばかりでは疲弊が募るだけであるし、奴らの生態や出現エリアなどを抑え、状況を変えて行くのが急がれる状況だ。

 …………それに、とある別の事情からも、それを求めなくてはいけないし。



 そのため、忙しく駆け回る合間の暇を見つけては、こうしてクランメンバーと情報のすり合わせを行っている。

 …………毎日毎日あれやこれやに追われながら、一つ一つを必死に解決する様は、まるで何かの()()のよう。


 と言ってもそれは楽しい事だし、何より凄く正義っぽいから、全然良いんだけどね。

 気分はバリバリ働くデキるOL、ジャスティス・キャリア・ウーマンだ。




     ◇◇◇




「ふむ…………やはりリザードマンたちの集落は、首都より北部地域がメインで間違いないようだな」


「ええ。それは責任をもって断言出来ます」


「となると……そちら側の守りを厚くし、プレイヤーたちには北の危険性を周知するべきか?」


「それよりも、首都より北方向にある『花畑に近い街』を前哨基地にすると言うのはどうでしょう?」


「おお、それが良さそうなのだ。よし……資金は私が持っているが、建材アイテムは足りないな。クラン倉庫に在庫はあるか? 『花畑に近い街』に別拠点を建てる方針で動きたい」


「行動が早いですね。流石は我らの隊長だ」


「見えたものが正義であるのなら、迷いは要らぬし惜しむ物もないのだ」




 金はある。救出したプレイヤーからの謝礼金や、企業からの広告バナー出演料、果ては私についたスポンサーからの支援金などで、銀行には一生かかっても使い切れないような額が預けてあるのだから。

 本当は旅行とかも行きたいけれど、私が居ぬまに誰かが悲しい顔をしてしまう事を想像すれば、それは無理な話というもの。


 救えるものは救いたい。それが私に出来るなら。

 理想で居られる素敵な世界は、私が綺麗なままにしてあげたい。

 それがこの夢想家な私に出来る、Re:behind(リ・ビハインド)への精一杯の恩返しなのだ。



 と、そう言えば……スポンサーで思い出した。多数の支援をしてくれている企業から、昨日大量のデータ送信があった気がする。

 今朝は寝坊しちゃって急いでいたから見ていなかった。後で確認しなくっちゃ。


 …………っていうか、今更ではあるけれど。

『スポンサー』って、何だろう? どうしてお金をくれるのだろう?

 広告バナーや動画でのコマーシャルに出演した訳でもない企業から、定期的にお金が振り込まれる『Re:behind(リ・ビハインド)プレイヤーのスポンサーシステム』は、冷静に考えると意味がわからない。なんだろう? ボランティア? やさしさ?


 ……それともまさか、もしかして。

 "正義のヒーローのバックアップ" という立場に、強い憧れを持っているのかな? そうして実際にリアルマネーをふんだんに使って、そういう "なりきり遊び" をしているのかな?


 それならわかる。私もそういう感じのアレは、凄く良いと思うしね。それなら納得なのだ。




     ◇◇◇




「その他、何かあるか?」


「"斥候隊" からはありません」


「"検証部隊" も新情報は無いですね~」


「"歌うたい部隊" も、無いですぅ」




「では、隊長である私から一つ報告をしよう。……これは我々の、いや、全てのリビハプレイヤーの今後に関する重要な情報だ」


「何ですぅ?」




「まず初めに……私は先日、レベルが32になった」


「……えっ!?」


「それは素晴らしい。隊長、いつの間にそこまで」


「凄いですぅ。破竹の勢いですぅ」


「ここの所、およそ1日で1ずつ上げていたからな」




 ……隊員たちが驚くのも無理はない。

 何せ、彼らの記憶では――――恐らくリスドラゴン戦時のレベル、おおよそ21くらいだと認識していたのだろうから。



 このRe:behind(リ・ビハインド)におけるレベルアップは、大変な労力を要する物だ。

 それこそ、一番初めのレベルアップ――――レベル1から2に上げるのに、ゲーム内時間で30時間は必要だと言われるほどには。


 しかし、そうして定型文のように言われるそれは、単純な『30時間』とは少しだけニュアンスが違う。


 レベルアップの機会である『職業認定試験』に必要なのは、知識と金と判断力。

 それらを総合的に考えた結果が30時間と言うだけであり、その3つの中で最も時間が必要な『試験の費用』さえ工面出来るのならば、あとは工夫や弛まぬ努力で、数時間ほどあれば上げられなくも無い物なのだ。


 つまり、その『金』と言う問題さえ乗り越えられれば、『試験を受ける事』に障害はない。

 ……そう。()()()()は、出来るのだ。


 しかし、()()()()には、また別の問題が存在する。




「で、でも隊長。レベルアップ試験って、20以降はとっても難しいって聞きましたよ? よくそんなにポンポン行けましたね?」


「……まぁ、そうなのだが…………いや、()()()()()のだがな」


「……だった?」


「例によって内容を語る事は出来ないが、何だか最近……すっごく簡単だったのだ。それこそ、馬鹿にされてるのかと勘ぐってしまうほどに」




 そう。レベルアップの大変さを語る上で欠かせないのが、そこなのだ。

『単純に試験が難しい』。全くシンプルで、なおかつ抗いようのない問題点。




     ◇◇◇




 一言で『職業の認定試験』と表現したならば、誰もが酷くソレらしい物を連想する。

 剣士(ソードマン)であれば、剣の技を見せる……とか。

 狩人(ハンター)であれば、弓で的を射抜く……とか。

 普通はそう考えるし、普通ならそうである物だ。


 しかしここは、Re:behind(リ・ビハインド)

 世界で唯一時間加速が許された特別なゲームであり、独自のシステムだらけの世界。

 そんな変わった世界であるからこそ、職業試験の内容もまた…………限りなく変で、そこぬけにややこしいのだ。



 

 例えば過去に受けた――――『騎士ナイト』の19の試験。

『職業認定試験場』の銀色のドアをくぐり、その先で行われていたのは……NPC同士のいざこざであった。


 "この争いを治めよ" という案内の下、喧々とやりあう両者の間に入った私は、双方の言い分を聞いて頭を悩ませる。



 片方の陣営に話を聞けば、

『この場で自分たちが "モンスター呼びの香油" を撒いて狩りをしていた所、後からやって来たコイツらが "モンスターを呼ぶ音楽" を演奏し、集まった獲物を根こそぎ奪った。だから許せない』

 と言う。


 それは確かに問題だ、と思い、もう一方に意見を聞けば、

『そもそも、自分たちはここではない場所で先に狩りをしていた。しかしその途中から、近隣のモンスターが香油の香りに釣られ、こちらにはまるで姿を表さなくなった。あとから来て横取りしたのはアイツらだ』

 との事であった。



 ややこしい。しかし、ありがちなトラブルでもある。そしてきっと、そこに正解などは無いのだろう。

 しかしこれは、正道を往く騎士の試験。正しき道を示す事こそ、きっと認められるにたる物だと考えた。


 ……だけど、どうすればいいのやら。とりあえず仲良しすればいいと思うけど、お互いごめんなさいをする気は皆無で、握手なんて絶対無理な様子だった。

 そんな彼らの間に挟まり、散々うんうん唸って頭を悩ませた私は

『とりあえずよくわかんないし、 "決闘デュエル" で白黒つけてはどうか?』と提案した。

 そして試験に失敗した。そんなの酷いって思った。





 また、その他の試験も、それはそれで大変だった。


 レベル20の試験は

『太った人を橋から突き落とせば、下にいる5人のプレイヤーを、突進してくるサイから救う事が出来る。しかし、そうすると太った人は死ぬ。貴女はどうするか?』という、"5人を救うか1人を救うか" の判断を迫るものだし。


 21の試験では

Re:behind(リ・ビハインド)の世界は5分前に始まった物であり、長い年月を過ごした記憶は脳に無理やり詰め込まれた偽の情報である。それを否定せよ』なんていう、凄く難しい物だった。


 どっちも答えなんてわからない。

 私が見てきたヒーローは、そんな状況に遭遇していなかったのだから。




     ◇◇◇




 とまぁ、とにかくそういう訳で、リビハの試験はとっても難しいのだ。

 ……()()()()()のだ。以前までは。


 しかし最近は、妙に簡単――――いや、簡単過ぎると言えるほどだった。

 まるで何か、試験の基準が変わったかのように。




 …………そうして思い返せば、まぁ酷い。

 先日行ったレベル25の試験は、本当に酷いとしか言いようがない。


 なんなのだ? 『ここからあっちの壁をタッチして、戻って来い』って。しかも、何の障害もなかったし。

 私はてっきり、罠やモンスターの襲撃があるのかと思い、そろりそろりと歩いて行ったと言うのに。まるで何もなく、本当に行って帰って来るだけで終わってしまったのだ。


 何だか消化不良な気持ちになった私は、連続で26の試験も受けた。

 そうして案内されたのは、真っ白い部屋に……木箱と棒、そして中空から吊り下がったバナナがある場所だった。


 …………説明を聞かなくとも、理解した。

 "バナナを取ってみろ" と言うのだろう、と。


 ………………取った。箱に乗り、棒でつついて、落ちたのを拾った。




 ……………………レベル27になった。




 なんなのだ? 落差が酷すぎるだろう? 馬鹿にしているのか!

 達成感も何もない……むしろレベルアップした事が、ちょびっと恥ずかしくなっちゃったほどだよ。

 私はお猿さんじゃ無いんだからね!




     ◇◇◇




 …………そんなこんなで、レベルアップは滞りなく為されたのだ。

『知識』も『対応力』も不必要な上に、『金』も足りると言うならば、私でなくとも簡単に上げられた事だろう。

 その震えるほどの極端な難易度低下によって、試験合格時の達成感から来る嬉しさ……は半減したが、レベルアップはレベルアップだ。

 リスドラゴン戦で己の非力を痛感した私にとっては、どのような形であっても嬉しいパワーアップなのだ。




「……まぁ、何やかんやでとても簡単だったのだ。異常なまでに。隊員たちも、たまには試験を受けてみると良い。きっと驚くほどに簡単になっているのだぞ」


「へぇ……確かに俺は、最近受けていませんでしたが……そんな事になっているとは」


「そうなんですぅ? でも、何で今それを言うんですかぁ? 自慢ですかぁ?」


「自慢などではない。これは今日の主題と密接に関わりのある物なのだ」


「ほほう?」




 レベルが32になり、最早日課と言えるまでになった、ダイブイン後の『職業認定試験場』訪問。

 そこで試験を受けようと金色のドアをくぐった私は、案内NPCの口から今までにない言葉をかけられた。


 そしてそれは、この場で話すべき内容――――『外来種』にまつわる物であったのだ。




「案内NPC曰く――――『レベル32が、現時点でのレベルキャップ』らしいのだ」


「そうなんですか? 何だか中途半端ですね」


「そして同時に、レベルキャップ開放の方法も教えて貰えたのだ」


「へぇ。ソレは一体、どんな――――あ、いや。試験の内容は口外禁止でしたね」


「いや、これは喋っても良いものであると、案内NPCに言われたのだ。個人でする事ではなく、全体で目指すべき物であるから、とな」


「そんなの初めてですぅ。どんな内容なんですかぁ?」






「『亜人種が棲む集落にある、各種族の象徴。"ワンダー" を破壊せよ』。それを達成出来さえすれば、プレイヤー全員のレベルキャップが開放されるらしい」


「"ワンダー" ……? それって、一体?」




「…………これは私の推測になるが……リザードマン共も、目指す所は同じであったのではないか、と。そう思うのだ」


「……どういう事です?」


魔法師(スペルキャスター)隊員よ。奴らが狙っていたのは、何だった?」


「……ええと、プレイヤーの装備品とか命とか……あと、首都にある――――――あっ! まさか、"ワンダー" って…………」




「……恐らく、そうだ。種族の象徴 "ワンダー" とは…………我々がダイブ時に必ず通過している、あの建造物。プレイヤーの手によって作られた物ではない、元から世界にあったセーブポイント。通称『ゲート』と呼ばれる…………アレの事だと思うのだ」




 つまる所、我々は。

 プレイヤーと『外来種』は。


 お互い何らかの理由によって、『セーブポイント』を破壊し合う……そんな敵対勢力同士なのではないだろうか、と。そのように考えるのだ。




「……なるほど。そういう事であれば、リザードマンが『ゲート』を執拗に狙っていた事も理解が――――」


「――――――隊長ッ! 緊急ですッ!!」


「どうしたのだ、狩人(ハンター)隊員」




「首都西方向、山岳地帯の観測位置(ポイント)張り込み班からの報告ですッ!!『無数の外来種が、首都の位置する東方向へ向かって行軍中』との事ッ!!」


「何だと!」




 西()だと? リザードマンは北からのはず。

 ……それに、()()とは…………どういう事だ?




「『スキルを用いた観察の結果、リザードマンではない種と判明。確認出来た特徴――――体毛と伸びた前歯、そして耳やヒゲなどの存在から…………当方では暫定的に "ラットマン" と呼称する』だそうですッ!!」




 …………頭が混乱してきた。もう、色々な事がいっぺんに起こりすぎて。


 わかりやすい悪の組織があって、明確に世界の危機があって。そうして来る日も来る日もひたすら『正義執行』だけをする。

 そうしたような "物語(フィクション)に生きるヒーロー" のほうが、いくらか楽そうだと思ってしまうよ。





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