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閑話 何処かで誰かが何かを思う


□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都北 花畑エリアの向こう側 □■□




「おいッ! ピョートルッ!! ピョートルゥッ!!」



 『街』と呼ばれるプレイヤーの集落、そこに鎮座する我らがクランの居城。

 そこに、なんとも下品な大声が響き渡る。


 ……その勢いたるや、まるで地鳴りである。

【大地の息吹】という二つ名に違わぬ声、と言った所であろうか。




「ククク……喧しいゼ、ヴェンデル。一体なんだって言うんだァ……?」


「次の "異種族狩り" は、いつ行くんだ!? 俺ぁリベンジマッチが待ちきれないんだっての!」


「私はっ! もうイヤですっ! あんな汚物を目に映すのはもうこりごりっ! その上危うくこの水晶玉も、失ってしまう所だったのですからっ!」




 自身の宝物を我が子のように抱くシャルロッテが、黄色い髪を揺らしながらイヤイヤと体を揺らす。

 …………我も、今すぐと言うのは御免である。武器も鎧も失って、準備不足の度が過ぎる。




「オイオイ、だらしねぇぞシャルッ! そんなんだから運命の相手も見つからねぇんだっての!!」


「……う~っ…………それはぁ……運命の導きがぁ…………」


「ククク……運命も良いが、自分を鑑みたらどうだァ……?」


「どっ、どういう意味ですっ!? ピョートルっ!!」


「シャルがモンスターを嬲り殺してる動画、Metubeで話題になってたぜェ……? ククク」


「ひぁっ!? ど、どうしてっ!? いつ撮られたものですかっ!?」


「……ぶっ飛んだ目でモンスターのハラワタかき回してる姿なんか見たら、そこいらの男は縮み上がって逃げちまうっての!」


「…………う~っ! だってぇ……醜いものを見ると、自分が止まらないんですものぉ…………」




 我も先日、行儀悪くも夕飯を食べながらに、件の動画を視聴した。

 何の気なしに巡回作業をしていた所、パーティメンバーの名前に釣られてのこのこ動画を再生した我は、その思わぬ衝撃映像に……危うく食事を吐き出しそうになってしまった。


『20本足のワニ』を前にし、幽鬼のように乱れながらに散々非道な行いをする一人の女性。一見してみれば、まるで妖精のような美貌のシャルロッテであるからこそ、より一層におぞましさが強調されていた。


 総評すれば、中々どうして "グロ注意" だったのである。




「シャルに足りねぇのは、真っ向からのぶつかり合い! それだけだっての! 戦いの美学って奴だ!」


「……う~っ」


「きちっと強敵とやりあって、正々堂々互いを讃えながらにぶん殴りゃあ、そんなヨコシマな考えも消えちまうっての! そうなったらもう、シャルに欠点はねぇってのよ!」


「ククク……そうかねェ……?」


「そうすりゃきっと、運命の相手は向こうからやってくるってのよ! 【素敵な結婚】もすぐそこだっての!!」




「う、うるさいですよっ! ヴェンデルっ! 元はと言えば、誰かといい雰囲気になる度に、貴方が "てめぇはシャルに相応しくねぇ!" とか言って突撃して来るのがいけないんじゃないですかぁっ!!」


「な、なんだとぉ……? お、俺ぁ……シャルのためを思ってだなぁ…………」


「う~っ、せっかく水晶が導き出した、私の王子様たちだったのにぃ~……」


「シャ、シャルにはもっと相応しい相手がいるんだっての。それはきっと、思っているより近くにいるんだぜ。た、例えばほら、抜群につええ緑髪の格闘家とか…………」




「……緑髪の格闘家? 誰のことです? 私はそんな人、ヴェンデル以外に知りませんよ?」


「あ、う…………だから、その…………」


「何ですか? はっきり言ってくださいよっ」


「ククク……」




 いつも通りのやり取りである。

 想い人に迂遠なアプローチをするヴェンデルと、それに気づかぬ……気づいた上で言葉を待っているのかもしれない、シャルロッテ。

 その隣で含み笑いを零すピョートルに、黙して只々傍観するばかりの、この我――――ベン・バルマー。


 日々戦いに明け暮れる我らが、この場でのみ過ごす平和なRe:behind(リ・ビハインド)の時間。心休まる日常の一幕。




 …………しかし、今ここにあって、それは仮初めの物だろう。

 おおむね何時も通りに見えながら、この場の誰もが()()()を残す。



 先日開かれたプレイヤーイベント、"異種族狩りフェスティバル" 。その場で我らが舐めさせられた、忘れがたき辛酸の舌触り。

 それはこの地でしかとトップに位置する、我らの心に残るささくれ。

『敗走』と言う、自尊心に根深く刺さったトゲである。




「だがまァ……ヴェンデルの言う通り、負けっぱなしじゃ終われねェ…………。奴らには、リベンジしてやらないとなァ…………」


「あ、ああ! そうだぜ! そうだろうとも! このまんまじゃあ、終われねぇだろってのよ!!」


「う~っ……私は行きたくないです~……」



「何だよシャルぅ~。あんなにはしゃいで、散々にいたぶってた癖してよぅ」


「あ、あれはっ! 頭がカーっとなってしまってっ!! 本当は、見るのだって嫌なんですからっ!!」




【素敵な結婚】シャルロッテ。【大地の息吹】ヴェンデル。

 そして【漆黒】のピョートルでさえ。


 奴らが起こした極大魔法の前に、敗北を喫したと言う。



 そして、我も――――この【蒼き稲妻】ベン・バルマーも、奴らに命を奪われた。

 あの()()()()と、()()()()()に。



     ◇◇◇



 あの日我らが行うのは、ただ一方的な "狩り" であるはずだった。

 いや、途中までは確かにそうだったのであろう。何せ、奴らの集落近くにたむろしていたハグレモノ共を急襲し、何の憂いもなく殺戮せしめていたのだから。



 そこに現れた、特別な奴ら。

 ローブを羽織った『王』のような水色に、それを守るようにしていた色とりどりの奴ら。

 やたらと大規模なスペルを操り、我の空を散々に荒らしてくれた不届き者共だ。


 それに加えて、後から現れた……灰色の奴。

 今までの奴らとはまるで違った、確かな力を感じる奴だった。




 あの戦いを思い返せば、浮かんでくるのは多くの疑問だ。

 …………奴らは一体、何なのだろうか、と。


 その見た目からは想像もつかぬ、小細工を弄する知恵者ぶり。

 手足にナイフ、剣にアイテム――――そして『灰を操る謎の力』で我を圧倒したあの灰色は、はたしてどういう存在であるのか。


 それに、戦う術だけではない。

 あの灰色と黒いのは、互いに顎をキチキチ鳴らすコミュニケーションで、的確な指示を出し合っていたようにも見えた。それはまるで、我々『プレイヤー』のようですらあったのだ。


 ああ、そうだ。プレイヤーのようだと言ったら、あの黒いのこそが……そうだった。


 我が『蛇のように絡みつく投げ縄』で奴らの内の一匹を捉えようとした、その瞬間。

 まるでそれを庇うかのように飛び出して、自分を無理矢理に攫わせた、黒っぽい奴。


 そこにあるのは、仲間意識か……同族の情か。

 まるでモンスターらしからぬ、人間味のある行いだった。


 それら全てを見せつけられて、あの場は "狩り" ではなくなった。

 蹂躙するばかりの狩猟ではなく、知恵あるモノとの戦になった。



 …………何なのだろう。あやつらは。

 モンスターでもなく、ドラゴンでもなく、プレイヤーでもない存在。

 ただ狩る対象だと思っていたが、知れば知るほどそうではなくなった……不思議な生き物。


 街の南、花畑地帯。そのずっと奥の大地に広く生息する、新たな類の種族共。







「――――私はもう…………あんな醜い『()()()()』なんか、見たくもないんですっ!!」






 極めて残忍で凶暴な、プレイヤーに仇なす存在。

 二足歩行で歩く虫。色とりどりの外皮を持った、亜人種……『蟻人間(アントマン)』。


 奴らは一体……何なのだろう。





「俺ぁあの『赤っぽいアリ野郎』が気に入ったってのよ。()()()()()()()みてぇだが、それにしたって中々ヤる奴だったぜ」



「ククク……俺様はあの『やたらと豪華なローブを羽織った水色のアリ』が気になるな。あれはきっと、アリ共の王だろう…………」



「私はとにかく、あの『黒っぽいアリ人間』が嫌ですねっ! 何でもかんでも投げつけて来て、躾のなってない子供みたいでしたっ!!」




 "奴らは一体、何なのか" 。そんな疑問は、ともかくとして。


 我の頭に残るのは、やはり……あの『灰色のアリ』だな。

 灰を動かす謎の力に、類まれなる戦闘センス。

 あれは数多くいるアントマンの中であっても、決して只者ではあるまいよ。



 …………ヴェンデルではないが、再戦が待たれる。

 この雪辱を晴らさなくては、ペットであるケツァルコアトルスの "ミカンちゃん" に、示しが付かぬ。


 まずは失った鎧と槍を揃えよう。

 そして間もなく、必ずや。奴に再び挑もうではないか。



 待っていろ。『灰色のアリ』。

 この【蒼き稲妻】ベン・バルマーが、天翔ける飛竜を駆りて、貴様の元へと馳せ参ずる日を。








□■□ Re:behind(リ・ビハインド) 首都 『よろず屋 カニャニャック・クリニック』 □■□




「――――!? おおっ!?」


「……ど、どうしたんすかマグリョウさん」


「な、何だか知らんが…………背中に ぞくり と来た気がするぞ」




「……ま、まさかそれって…………アイツの呪い……とか……?」


「お、おい。変な事言うなよサクリファクト。それはねぇって。俺の部屋には10箇所も盛り塩をしたんだぜ……? 塩が無くなっちゃったから、3箇所は砂糖だけどさ……」


「いや……きっとそれじゃあ足りなかったんすよ……! レイナの背後霊がマグリョウさんに()()()きてるんすよぉ……!! ああ……なんて事だ! もうお終いだぁ!!」


「う、うそだろ! おいっ! どうしよう!? どうすればいいんだ!? もう塩ないぞ!?」


「あの、アレ、何だっけ……ナンマイダーとか、そういうのをやるしかないんじゃないっすか!?」


「そ、そうかっ! よし! ナ、ナンマイダー! ナンマイダー!!」


「マグリョウさん、手! 手をこすり合わせたほうが、効きそうな感じが出そうっすよ!」


「お、おう! この死灰も、今まさにそう考えていた所だぜ!」







「…………スピカ。彼らは何をしているのだと思う?」


「……不明」


「……これは流石のワタシでも、さっぱり理解が出来ないよ」





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