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閑話 とある少女の恋日記

※ 刺激的でクレイジーなストーカー魂の内容が含まれています。


物語の本筋には関係の無い物になりますので、飛ばしてくれても大丈夫です。



――――――――――――




 3月24日 晴れ!


 明日は待ちに待ったRe:behind(リ・ビハインド)が出来る日だ!

 あんまり楽しみだったものだから、昨夜はあんまり眠れなかった。今日もあんまり眠れないかも。だけど夜空はすっかり晴れていて、とっても綺麗な灰色だ。まるで私の心を表しているよう。


 ゲームをする時には、コクーンハウス? って所で、洋服を全部脱ぐ必要があるらしいけれど……折角だから、とびきりにお気に入りの服を着て行こう。

 唯一持っている『星の輝き』という高級ブランドのワンピース。シルエットがすっきりしながら、女の子らしさも存分に引き出す、乙女心をくすぐる物だ。


 ちょっと女の子っぽすぎる気がするけれど……ううん、大丈夫。

 とことん地味で鈍くさい、根暗な私は今日で終わり。誰にも注目なんてされない人生はおしまいにして、これからは明るく生きるのだ。


 うん! そうだ!

 新しい世界で新しい自分になるんだから、ばっちり気合を入れてかなくっちゃね!




――――――――――――




 3月25日 晴れ


 凄かった! 凄くすごかった!!

 お家に届いた招待状で、始めて遊んだ(ダイブインと言うらしい)フルダイブゲーム。それは本当に、違う世界に行ったみたいだった!

 何かに触れたらそう感じるし、飲んだジュースも甘い味がして……それに、友達になれたティレットちゃん! とっても可愛い女の子で、一緒にいると凄く楽しい。ああ、今でも信じられないよ。


 所詮ゲームでしょって馬鹿にしていた小さな気持ちも、青い空とファンタジーな風に吹き飛ばされちゃった。とっても良かった。すでにもう、あのゲームが大好きになっちゃった。


 初めてだから現実時間で2時間だけしか居られなかったけれど、それでも沢山楽しめた。初めて同士の人たちと、あっちを見たりこっちを見たり……あ~、楽しかったなぁ。

 初めての友達も出来た今日は、一生忘れられない日になりそう。



 みんなで2時間(ゲーム内では20時間だけどね)たっぷり遊んで、明日も会おうねって言って別れた。素敵な出会いと、招待チケットに感謝感謝の一日だったよ。


 あ~、早く明日にならないかなぁ。ティレットちゃんに早く会いたいな。




――――――――――――




 3月26日 晴れ


 今日はみんなでパーティをしてみた。パーティと言っても、わいわい騒ぐやつじゃなくって、仲間と一緒に冒険すると言うものだ。

 木になる果実を取ってみたり、便利な草(?)を摘んでみたり、色々とゲーム内でお金になる事をしてみたんだ。


 そうしてのんびりしていたまでは良かったけれど……いきなり現れた白いウサギを、パーティメンバーの剣士がぐさりと刺した時は、その流れる血を見て声を挙げそうになっちゃった。

 きゅうきゅう鳴いてる可愛いウサギに、あんな乱暴をするなんて……って詰め寄る友達のティレットちゃんだったけど、それはあの世界では普通の事らしい。


「ここはそういう世界なんだぜ? 殺せるもんなら殺すってのは、当たり前だろ」って言う彼に、私は何も言い返せなかった。それって凄く、正論だって思ったから。


 だけど私は……やっぱり、嫌だな。あんなに可愛いウサギをそんなにすぐ殺しちゃうなんて、そんな事したくないよ。

 最初の職業に裁縫師を選んだんだし、なるべく怖い事や自分が危ない事はしないで過ごしたいなぁ。


 ティレットちゃんも、そう思うよね?




――――――――――――




 3月27日 曇り


 戦う事を嫌がる私に、パーティの剣士が提案してきた。

「敵を探し出したり、鍵を開けたりする "盗賊(シーフ)" なら、レイナでも出来るんじゃないか?」って。

 確かに盗賊(シーフ)っていう職業は、感覚をするどくして何かを探したり、いざと言う時に逃げ出す速さが凄いって聞いていたから、臆病な私に向いているのかもしれないけれど……。


 それでもうんうん唸る私に、剣士の彼が追いかけるように言ってきたんだ。

「それも無理なら、悪いんだけどこのパーティは解散だ。俺は戦いとかもしたい」って。

 それに加えて私の大親友のティレットちゃんも「もっとお金を稼ぎたい、そうじゃないなら別の人と遊びたい」って。


 ……そんなのやだって思ったから、盗賊(シーフ)の職業を取る事にした。それぞれやりたい事は違うけど、話してて楽しい同士なんだし、折角こうして仲良くなれたんだもん…………出来ればずっと、一緒が良い。

 戦う事は怖いけど、すぐ逃げられるならそれでも良いかな。それに、誰かに必要とされるなんて初めてで……嬉しい気持ちも、ちょこっとあるし。


 みんなと一緒にいるため、そして折角私を求めてくれているのだから、頑張ってシーフって言うのをやってみよう。ティレットちゃんともずうっと一緒にいたいしね。

 そうして狩りを頑張って、お金がいっぱい貯まったら、また改めて裁縫師をやればいいんだし。うん、それがいい。そうしよう。



 裁縫師はレベル2だけど、一生懸命手袋を編んだ。ティレットちゃんとお揃いの物だ。親友の証だよ、大切にしてね。私の大好きな、ティレットちゃん。




――――――――――――




 3月30日 曇り


 私たちの戦うスタイルが定まってきた。シーフのスキルでモンスターを探して、みんなで一斉に殴りかかるのだ。


 この前までののんびりした時間は一秒も無い。

 魔法使いのティレットちゃんが戦いやお金稼ぎの効率を沢山勉強したみたいで、彼女の指示でとっても忙しい時間を過ごすようになった。

 小さなウサギも、変なカエルも、歩くヒマワリみたいなのも、色々倒してお金に変えた。最初は怖いなって思ってたけど、段々そんな気持ちもなくなってきて。

 それどころか、みんなで一匹のモンスターを囲んでいるのを見ると、何だか胸がすくような思いになった。


 そんな毎日を過ごすようになって、今日で三日目。

 一生懸命頑張る私たちは、ゲームを初めて一週間くらいなのに、お金が6万ミツも貯まっちゃった。

 それはとっても凄い事みたいで、みんなが自分を褒め称えてる。そして、ギラギラした眼で「もっともっと」って言い続けてる。


 ……ちょっと、怖いな。そんなに焦らなくたって良いのになって思っちゃう。

 私の鈍臭さにため息をついたりもするし…………ウサギの死体をずっといじっていたら、ティレットちゃんが酷い剣幕で怒鳴ったりもしてきたんだもん。怖いよね。親友なのに。


 何だか少し、変な感じがする今日このごろだ。それでもRe:behind(リビハ)は、とってもリアルで楽しいんだけどね。死んだウサギの内臓なんて、本物みたいに暖かいんだもん。




――――――――――――




 4月1日 どんより曇り


 今日も今日とてモンスターを殺す時間を過ごしていると、ティレットちゃんが言ってきた。

「もっとお金稼ぎの効率がいい場所がある。あたしたちなら、十分行けるはず」って。


 それは、ダンジョン。

 生半可な気持ちでは、足を踏み入れてはいけないところ。


 その中は恐ろしい虫モンスターで埋め尽くされている上に、足の踏み場もないほどの罠が仕掛けてあるらしい。

 ちょっとでも油断をすれば、虫に刺されて噛みつかれ、罠におっこちて食べられちゃう……そんなとっても危険な場所だと聞いたのに。

 そこへ行こうって言うティレットちゃんの提案に、反対の声は挙がらなかった。

 危ないからこそ、お金も稼げるだろうって。シーフもいるし、罠も大丈夫だろうって。みんなで手をあげて盛り上がってた。


 ……大丈夫なのかなぁ? 不安がよぎっちゃう。ダンジョンに行って、酷い体験をして、そのままRe:behind(リビハ)から居なくなっちゃった人もいるって聞いたけど……。


 だけど、言えないや。いっつも叱られてばっかりだもん。鈍くさくってゲームが下手な私には、プレイヤースキル? とか金銭効率? とか、そんな色んな言葉がよくわからないし。

 効率よく狩りをするティレットちゃんや、モンスターを斬ったりするのが上手なみんなの判断だもんね。きっと大丈夫。


 明日ダンジョンに行く約束を取り付けて、ダイブアウトした。がんばろ~。




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 4月2日 雨





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 4月3日 雨


 どうして

 



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 4月4日 雨




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 4月5日 雨




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 4月6日 雨





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 4月7日 雨


 


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 5月1日 雨


 殺した。ティレットちゃんも、あいつも、アイツも。




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 5月2日 雨


 今日も殺した。




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 5月 雨


 今日も殺した。




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 5月 雨


 今日は殺せなかった。




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 5月 雨


 今日も殺せなかった。




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 5月 雨


 ティレットちゃん、どうしてダイブしてくれないの?

 剣士も、アイツも、アイツも。どうしてリビハに来てくれないの?



 私は殺した。何度も殺した。一生懸命レベルを上げて、ようやくようやくいっぱい殺せた。ずっとずっと街の外で待ち続けて、いっぱいいっぱい殺してやった。

 だけど足りない。まだまだなんだ。これからもいっぱい殺さなきゃ。


 いいでしょ。私よりいいでしょ。私のほうが辛いんだ。私はとっても大変だったんだ。動けないままで、小さい虫に纏わりつかれて。全身うじゃうじゃ蠢きながら、じっくりじっくり殺されたんだ。

 ちょこっとずつ食べられて、ひたひたじわじわ死んで行ったんだ。怖いよ。怖いよ。殺さなくっちゃ。私が噛まれた回数分だけ、同じ数だけ殺さなくっちゃいけないんだ。針に毛糸を通した分だけ、ティレットちゃんを編まなくちゃ。


 じゃなきゃ忘れられないんだ。私はずっと浮かばれない。未練を断ち切る事が出来ないと、ずっとおばけのままなんだ。手袋はずっと直らないんだよ。




 だって言うのに、最近どうしてダイブしてくれないの? パーティでしょ? ちゃんと一緒に遊ぼうよ。

 そんなの無責任だよ。連れて行ったくせに。スキルで捉えた罠と敵の数を見て、いやだいやだって拒否する私を、無理やり先に進ませたくせに。

 なのに、逃げた。置いてった。罠に捕まって動けない私を、あいつらは置いてった。


 どうして? ティレットちゃん。私は「たすけて!」って言ったのに。

 虫に噛まれた手袋を脱いで、投げ捨てるようにして行っちゃったよね。

 ひどいよ、一生懸命編んだのに。親友の証だって、そう言ったでしょ。

 あなたは私を裏切った。レイナの気持ちを裏切った。許さない。絶対絶対許さない。毛糸の数だけ許さない。レイナが死んでも、ティレットちゃんが死んでも、手袋はずっと直らない。



 うらめしや、なんだ。ティレットちゃん。私はあなたに、うらめしやだよ。早くダイブインしてね。じゃないとあなたを、殺せない。早くしろ。ころすぞ。ティレット。




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 5月 雨


 どこにいるの。ティレットちゃん。あなたに会いたい。会いたいよ。

 じゃないとレイナは、おかしくなっちゃう。虫がレイナを食べるんだ。むしゃむしゃばりばり、手袋した手をまるごと食べるの。助けてよ。会いたいよ。




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 5月 雨


 ティレットちゃんを探していたら、あいつを見つけた。灰色のやつ。

 レイナが怖くて泣いてた時に、近くを通った灰色のあいつ。

「たすけて!」って言ったのに、片眉を上げただけで無視をした、レイナを見殺しにしたあいつを見つけた。


 あいつも、レイナを殺した。うらめしやなんだ。




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 あいつを見つけて3日目 雨


 殺せなかった。殺された。ひどい。何でそんなことするの?

 レイナは殺したいだけなのに、剣でぶすっと刺されて死んだ。信じられない。どうしてレイナを殺すの? とっても悪いプレイヤーキラーだ。



 殺そう。あいつを。灰色のやつを。

 じゃないとレイナは浮かばれない。虫がレイナを食べ続けてる。


 あいつを殺す。レイナを二度も殺した、悪いあいつを。

 そうだ、あいつだ。あいつが悪い。全部全部あいつのせいだ。悪いあいつを殺すんだ。

 ティレットちゃんは悪くない。レイナも、みんなも、悪くない。

 悪いのは全部あの男。灰色の目をした、酷いやつなんだ。



 そうして悪いあいつが居なくなれば、また元通りになれるかな?

 ティレットちゃんもダイブして、また仲良くしてくれるかな?


 レイナはがんばるよ、ティレットちゃん。うらめしや、って頑張るからね。




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 あいつを見つけて5日目 雨


 殺せない。とってもつよい。全然殺せる瞬間がない。

 毎日毎日ダンジョンに行って、遊ぶみたいに虫を殺して。それでもレイナを、ずっと見ている。いつでもレイナを待ち構えてる。


 飛び出したら殺される。待ち伏せしたら殺される。石を投げたらナイフが来るし、虫を連れて行ったら虫ごと殺されちゃう。


 足りない。もっと、もっと頑張らなくっちゃ。




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【死灰】を見つけて10日目


 今日も殺せなかった。出ていった瞬間、殺された。

 もっと隠れなくっちゃ。




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【死灰】のマグリョウを見つけて13日目


 今日もだめだった。まだ足りない。マグリョウはこっちを、ずうっと見てる。

 もっと頑張らなくっちゃ。




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【死灰】のマグリョウを見つけて17日目


 今日も出来なかった。まだ足りない。マグリョウはレイナから目を離さない。

 もっともっと頑張って、もっともっと隠れよう。




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 マグリョウを見つけて18日目


 マグリョウが死んだ! 体が痺れる矢の罠を踏んで、虫に噛まれて死んじゃった!!

 レイナが見ている眼の前で。レイナ初めて死んだあの日と、おんなじような死に方で。

 とっても嬉しい。マグリョウの死ぬ姿には、胸がきゅうっと締め付けられた。思い出すだけでドキドキしちゃう。


 カマキリにむしゃむしゃ食べられるのを、じーっとじーっと見つめてた。ああ、マグリョウ。死んじゃった。レイナは凄く幸せだよ。ずっとそれが見たかった。あなたの死ぬとこが、一番見たかったの。


 死に際にマグリョウの側に行ったら、死ぬ寸前とは思えない目で見つめてきた。その名の通り虫の息なのに、じーっと熱い殺意の視線で見てきた。

 マグリョウはいっつもそんな目で、レイナを見つめているんだね。死ぬその瞬間までそうなのね。




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 マグリョウがレイナを見つけて34日目


 レイナはわかった。ようやく気づいた。

 ごめんね、マグリョウ。レイナは鈍くさいから、マグリョウの気持ちに気づけなかったよ。

 でも、もうわかったよ。マグリョウの想い、気づいたからね。


 マグリョウは、ずっとずーっと、レイナを見ていてくれたんだね。レイナの視線にずっとずっと気づいていたんだね。

 どんな危ない戦いの中でも、いつもレイナを気にしてた。虫を殺して、罠を飛び避けながらだって、レイナを意識してたんだね。


 わかったよ。マグリョウのしたい事。

 誰も居ないダンジョンに行くのは、レイナと二人で居たかったからなんだ。

 全身灰色に染めたのは、地味なレイナに合わせてくれたんだ。

 罠に足を取られるのは、レイナをその場で待っているため。

 虫の死体を引きずってたのは、レイナが着いてこれるように地面に目印をつけるため。


 あなたが一番大事に使う軽戦士(フェンサー)の『五月雨さみだれ』ってスキルは……レイナと出会った『五月の雨』を、大事に想っていたからなんだね。



 全部が全部、レイナへの想い。

 嬉しいな。恥ずかしくなっちゃう。照れちゃうよ。

 レイナとおんなじ死に方で、レイナと一緒になりたいの?

 同じ所で、同じに死んで。二人で一緒に混ざり合うの?

 そうして「レイナは一人じゃないよ」って、死にながらに言ってくれるの?


 凄いな、マグリョウ。嬉しいな。

 そんな風に死ぬ気で想われた事なんて、レイナは生まれて初めて。どうしたら良いのかなって困っちゃう。



 マグリョウ、次はいつ死んでくれるのかな? レイナは見てるよ。ずうっと見てる。だから死んでね。死んでいいよ。早く死ね。死ね死ね死ね死ね。でないと、殺す。レイナがころすぞ。




 マグリョウ、レイナのことが好きなのね。そんなに想ってくれるなんて、レイナも大好きになっちゃうよ。

 えへへ、両思いだね。恥ずかしいな。恥ずかしくって死んじゃいそう。死ね。





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