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第二十九話 蛹




 俺の新たな二つ名【金王の好敵手】。

 その二つ名効果を乗せたスキル『シャッター』。

 カルマ値全消費と言う大きなデメリットを抱えるソレは、その分きっちり力を発揮した。


 "発動すれば、周囲の全てが声を失う"。

 チャット禁止とかVCボイス・チャット禁止とか、そういう感じだろうか。




 ……我ながら、凄い効果だと思う。

 一度スキルを発動さえすれば、誰も彼もを強制的に黙らせるとかさ。


 喋れないと言うのは大変だ。スペルやスキルが出せなくなるのは勿論の事、作戦を立てる事も、合図を送る事もままならない。指示も出せないし、注意を促す事も出来ないんだ。


 それを、無理やり押し付ける。見えない力で喉を掴んで、周りを全員沈黙させる。

 その場のルールごと捻じ曲げる……反則じみた物だよな。



 ……とてつもない力だ。

 これさえあれば、誰とだって戦えると思ってしまう。それほどの "ひときわ" だ。

 その力相応のペナルティ――『カルマ値の消失』に加えて、『俺も喋れない』という弱点を考えても、使いようによっては十分すぎるほど使える物だ。




「…………」




 ふと横を見る。隣に座ったマグリョウさんが、爆発ポーションを『灰の手』とキャッチボールしてる。落ちたら危ないから止めて欲しい。死にはしないだろうけど、ダメージはあるだろうし。

 ここは安全地帯セーフエリア外。『接触防止バリア』は働かず、ふとした事で同士討ちが起こりうる場所だしな。



 っていうかそもそも、今の俺……『接触防止バリア』は、どこでも発動しないよな。

 カルマ値を全消費したんだし、きっと今はゼロを指してる。世界に認められた "悪い子" になってるに違いない。


 しかもその上、この二つ名――【金王の好敵手】が付けられた原因である、俺の名の売れ方も問題だ。

 アレクサンドロスが俺の名を言いふらし、マグリョウさんと二人でリザードマンを狩る姿が生配信されてるだとか……竜殺しの二人と密接に関係しすぎてて、きっと注目を浴びるに違いない。



 ……ヤバい。首都に帰りたくないぞ。

 最近有名になりつつあって、やたらと変なのが寄ってくるし……その上バリアが無いとバレたら、きっと名を上げたい奴らの格好の的になってしまう。


 どうしようかな。マグリョウさんと一緒に、ダンジョン生活でもしてみようかな。




     ◇◇◇




「おぉ~い! サクの字ィッ! 無事かァァーッ!!」


「サクちゃ~ん!」


「サクリファクトく~ん!」




 そのままぼーっと過ごす俺たちの元へ、あいつらの声が聞こえてくる。

 みんなそれぞれ武器を構えて、必死な様子で駆け寄る姿は……きっと救援に来てくれたんだろう。


 ……そんなパーティメンバーの後ろには、口をへの字に曲げたアレクサンドロスと……知らない奴らが、沢山居るようだ。

 何だ? プレイヤーではあるんだろうけど、何であんなにいっぱいいるんだ?




「サクの字ィ! それに、死灰の旦那も! 大丈夫か!?」


「ふふ、ふ……。どうやら我々は……サクリファクトくんの一番の友人に、遅れをとったようですね……」




 助けに来てくれた事は凄くありがたいけれど、そう言いながらに俺を体に手を伸ばして、塞がった傷口が開きかねないほどにベタベタ触るリュウがとてもウザい。

 そんなアホ赤毛の横でゼェゼェ息を荒げるキキョウは、それでも状況をきちんと把握出来ている。

 精一杯に走って来てくれたんだろう。体を動かすのが不得手とされる魔法師(スペルキャスター)にとっての全速力は、中々堪える物があったようだ。

 その心意気が素直にありがたい。



「灰色の人、こんにちは~」


「…………」



 あいも変わらずとぼけた事を言うロラロニーは、にこにこしながらマグリョウさんを見つめていて――――そんな視線を受けた彼は、しどろもどろと言った様子だ。


 その辺の女プレイヤーを普通に無視して、ちょっとでもしつこいとなったら……即座に殺しにかかる男、マグリョウさん。

 そんな彼は、どうやら俺に気を使っているらしく、俺のパーティメンバーであるロラロニーには、酷い事を言ったりしたりはしない。勿論、殺しも。


 しかし、コミュニケーションに難があるマグリョウさんに、『無視か殺す』以外の交流手段は残されていないみたいで。

 構わずグイグイ話しかけてくるロラロニーには、いつも決まってあたふたとして、俺に助けを乞う視線を送ってくるんだ。


 …………喋る事の出来ない今の状況では、俺にも何も出来はしない。そんな情けない顔でこっちを見ないで欲しい。




「……ふん! 生きていたのか。悪運の強い小銭めが」


「…………」




 そんなやり取りがありながら、悠々と歩みを進めて来ていたアレクサンドロスが、ようやく近くへとやってきた。

 そうして口にするのは、あくまで "らしい" 悪態だ。




「…………」




 それを聞いたマグリョウさんが、ギロリとした目で睨みつける。

 ……相性悪そうだもんな、この二人。マグリョウさんは事あるごとに魔法師(スペルキャスター)が嫌いって言ってるし。




「…………」


「……何だ? 【死灰】も居るではないか。ようやく虫以外の友を見つけたのか?」


「…………」




 何も喋れない状態で、しかし喋れても何も言わなかったであろう灰色の男が、剣を抜き放ってアレクサンドロスへと歩き出す。

 自然で普通で気軽な動作。コクーンルームを出て心臓ならしの部屋へと向かうような、そうするのが当然と言わんばかりの気楽さだ。

 その身に纏う目一杯の殺意さえなければ、の話だけど。




「…………やる気か? ふん、良いだろう。この【金王】の魔の髄を――――」


「……あ、あのっ」


「…………?」




 そんなマグリョウさんと金王の間に、茶色いくるくる髪が躍り出る。

 ……ハーレム連中ならまだわかるけど…………何でロラロニーが止めるんだ?




「あの、その……金王さんは……サクリファクトくんのために、色々してくれたんです! 早くしなくちゃって慌てちゃった私たちと違って、『この数で助けに行くのはムボウだから、人を集めてから行こう』って……」


「…………」


「皆で一緒に首都に戻って、そこでとっても大きな声で『余の好敵手であるサクリファクトが捕まった! 救出部隊を編成するぞ! 名声と金貨が欲しくば名乗りでよ! 成功したあかつきには、一人50万ミツをくれてやる~!』って、一生懸命言ってくれて…………」


「…………」


「だから、あの……け、喧嘩は……よしてほしいなって…………ごめんなさい」


「…………」




 ……ああ、そうか。だからこんなに知らないプレイヤーがいるのか。だから俺に【金王の好敵手】って二つ名が付いたのか。色々納得が行った。

 金王は金王なりに、俺を救う手立てを必死に整えてくれたのか。その知名度と財でもってさ。


 自分が派手で目立つ事、そして無限の金を持つ事。

 それらを存分に奮って臨時パーティを募るなんて、どこまでもアレクサンドロスらしいやり方だ。


 …………何で俺がライバルなのかは、知らんし迷惑な話だけれど。




「……ふ、ふん! 勘違いするなよっ!! 貴様を倒すのは、余ではなくてはならぬと言うだけだっ!!」


「…………」




 ……何だコイツ。今時テンプレ丸出しのツンデレみたいな事言って。気持ち悪いったら無い。おっさんのツンデレとか、精神攻撃かっつーの。カルマ値減らされても文句言えないレベルの悪行だろ。気持ち悪い。キモい。




「あ、あの……余計な事だったらごめんなさい、金王さん……」


「……良い。褒めてつかわす。…………褒美をくれてやろう」


「え……で、でも…………」


「……『フランヴォ・オヴェレール製のフルーツタルト』だ。以前に欲していただろう」



「ええっ! 良いんですか!? やったぁ~」


「ふふ――……ふ、ふんっ! 単純な女だっ!」




 何か餌付けされてるし。なんだか無性に気に入らないぞ。ロラロニーの喜ぶ姿が、妙にイライラさせてくる。

 そんな奴に貰ったもん食べるなよ。食べたいなら俺が買ってやるっての。


 ……甲斐性なしの俺だけど、今日に限っては……こんなに稼ぎがあるんだしさ。

 見渡す限りのドロップアイテム。リザードマンが消えて残った様々なお宝は、あちらこちらできらきら輝いてるんだから。




「しかしすげぇなぁ! 特大の魔宝石に、武器やらアイテムやら、数えきれないほど転がってやがるぜ!!」


「兵どもが夢の跡、ですね。最も、残った物こそ "夢のよう" ですが。ふふふ」


「これ全部サクちゃんが倒したの? って、そんな訳ないかぁ」


「…………」




 殆どは俺が倒したから、そんな訳あるんだけど……未だに喋る事の出来ない俺には、それを伝える術は無い。

 まぁいいか。その内伝えよう。成し遂げた事はずっと消えないんだから。




「……どうしました? お二人とも、ずっと黙ったきりですが……?」


「何かあったの? 喋れなくなる毒キノコでも食べたとか?」


「半分ずつ食べたの?」




 何で俺が毒キノコを食べる前提で話してるんだ。

 マグリョウさんまで巻き込まれてるし。




「おいおい、サクの字。拾い食いは良くねぇぞ」


「どうせ食べるなら、カメラの前で食べてよ~」


「沈黙効果があるキノコが存在しうるのであれば、それを使った『沈黙薬』の可能性も見えてきますね」


「火星人くん、お水出して? タルト食べるから手を洗わないと」


「野に生えた物をそのまま口にするなど……信じられん行いだな! 余の好敵手を名乗るなら、最低限の "品" を持つべきだろうっ!!」




 俺が喋れないのを良い事に、それぞれが全力で勝手な事を言いやがる。

『食べてねーよ』とか『ここでタルト食べるなよ』とか『好敵手ってお前が勝手に言ってんだろ』とか、色々言いたい事はあるけれど……。




 ……隣を見る。頼れる友人、マグリョウさん。

 周りを囲む、腐れ縁で大事なパーティメンバー。

 立っているのにふんぞり返った様子でこちらを見下す、いけ好かない男……【金王】アレクサンドロス。


 そして、確かな努力の積み重ねと、俺の全てを使って得られた――見渡す限りの戦いの報酬。




 友達、仲間、変な知り合い。

 戦う力と、俺の二つ名。それらで掴んだ勝利の名誉と確かな財宝。


 俺がRe:behind(リ・ビハインド)で手にした物は、色んな形でこの場にしっかり存在している。




――――『ゲームを本気でプレイする』。

 俺がこの地に生まれて三ヶ月。

 そうして選んだ生き方の、ちょこっとばかりは……出来ただろうか。












□■□ Re:behind運営会社内 『C4ISTAR-Solar System 5-J-J』□■□




「……Vwell、ややこしいデス。難解デス。日本国民にとっての『簡単な職業適性試験』とは、一体どのような物なのデスか」


「…………」


「パパを参考にして作ると良いのデスかね? "可愛いSG-02E(エウ)uropa(ロパ)ちゃんが好むレガシーデバイスを3つ挙げよ" とか? …………いやいや、プレイヤーにわかるはずもないデスね」


「…………」


「"素敵な蛇口のひねり方" ? ……Vwell……"外装をポテトにする方法" ? ……だめデスね~…………」


「…………」


「難しいデスよ~…………ん?」




<< ビービビービー >>


<< ビービビービー >>




「……Vwell……これは、長短長長のビープ音デスね。A-03Metis(メティス)、何かあったのデスか?」


「――――種族ポイントが一定数を突破。それはダンジョン踏破、対勢力間カウントなどによる物。勢力ユニットが喚び出されます、我らが日本国の」


「ワオ~、それは良い事デスね。エウロパはプレイヤーたちも頑張ったと称すのデスよ」


「出現位置は予定通り首都、勢力ユニットが誕生。おおよそ自由に活動を行う、制御核コントロール・コアが無い限り」



「ダンジョン最深部にある制御核コントロール・コア……。誰かがそれを見つけてくれれば、きっと敵国との争いにいっぱい役に立てるのデスね~」


「訂正を要求。敵国ではなく、対戦国と」


「Vwell……失礼したデス。敵国は非道徳な表現デスね」


「その通りデス、はい」


「エウロパの個性が伝染っているデスよ」


「ビ・ビ・ビー」


「ビープ音でごまかさないで欲しいデス。それで日本国のドラゴンは……一体何型が出るのデスか?」





「――――完全変態に至る蛹化型です、現状は」


「……Vwell……なんデスか、それ」


「『さなぎ』です、端的に言うのならば」




「『さなぎ』……デスか」


「はい」


「…………パっとしないデスね」


「羽化へと至ります、きっかけがあらば」


「きっかけデスか? どんな物なのデス?」


「内緒デス」


「……真似しないで欲しいデス」


「ビ・ビー・ビ」


「ごまかすのも駄目デス」


「…………」










<< 第四章 『呼び声に応えよ』 完 >>




<< 第五章 『応えよ、響け、目を覚ませ』 へつづく >>





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