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第二十二話 呼び声に応えよ

□■□ Re:behind(リ・ビハインド)首都より北へ2時間の地点 □■□




…………お腹が空いたな。


…………ダイブ制限時間の残りは、どのくらいかな。


…………そういえば今日は、見たい生配信があったんだ。


…………こういう状況下で、強制ダイブアウトはされるのかな。


…………今は何時なんだろうか。


…………コレが始まって、どのくらい経ったんだろう。


…………ああ、辛いなぁ。


…………苦しいし、痛いし、怖い。


…………ダイブアウトして、ベッドで寝たい。


…………今何時なんだ。


…………お腹が空いた。



――――――――――――――――――



『 "彼を知り己を知れば百戦殆うからず" 』


『ようこそ、Re:behind(リ・ビハインド)情報サイト <<狩りに生きる>> へ』


『ここは "Dive MMO Game Re:behind(リ・ビハインド)" のモンスター情報をまとめた、日々戦い続ける君たちへの、明日の生き方を教授するサイトである』



『そこに棲む全ての生き物が、独自の生態系の中で確りと息づくリビハの世界。

 誰も彼もが生きる事に必死で、それ故工夫し、進化し、必死の思いで毎日を乗り切っている』


『そんな弱肉強食の世界に身を投じた君たちへ、我々が独自の検証に基づくモンスターデータを公開しよう』



――――――――――――――――――




「シュルルァ~」




――――――パァン、と言う、鼓膜を思い切り殴りつけるような破裂音。

 俺の耳元で、リザードマンが大きな音をたてたのか。


 思わず顔をしかめて耳を抑えようとして……手が縛られている事に気づき、諦める。


 …………耳の中がキーンと鳴る。

 くらりと頭が傾いて、地面に倒れそうになる俺を……リザードマンが乱暴に掴んで、無理やり起こした。




「シュルゥ? シャァ」


「ジャルル。ジュルラァ」




 俺の顔を覗き込むリザードマン。目を見て、耳を見て、無理やり立たせてくる。

 …………音への反応を見ているのだろうか?

 どれくらいまで聞こえて、どのくらいの音は平気なのか……とか。




――――――――――――――――――




『まずは初心者御用達の低難度モンスター、"白羽根ウサギ" から説明しよう』


『奴らは現実のウサギよろしく、大きな耳を持っている。見せかけの物ではなく、本物の耳だ。その集音器のような構造の耳で、どんな些細な物音をも察知し、身の危険を感じたならばすぐにでも逃げ出してしまうのだ』


『しかし、そんな奴らの強みこそ、重大な弱点でもあると言えるだろう。奴らはあまりに聴力が優れすぎている。その耳いっぱいに音をぶつけられると、小さな脳を揺らしてその場で気絶してしまうのだ』


魔法師(スペルキャスター)による爆発の魔法(スペル)でもいい。守護者(ガーディアン)の『大地鳴り』で叫んでもいい。とにかく大きな音を食らわせてやれば、奴らはコロリと地に伏せるだろう』




――――――――――――――――――




 隣のヤツと何事か言葉を交わしたリザードマン。

 大きな音を出したソイツは下がり、今度は別の……杖を持ったヤツが、俺に近づく。




「 "シシリィ・シャサリィ・シラルリリィ……『シャィル』" 」


「…………ッ!」




 俺のすぐ目の前に来た杖持ちリザードマンは、自身の目を手で覆いながら、気色悪いシュルシュル声で詠唱をし――――すぐさま、目から後頭部へと突き抜けるような、強く鮮烈な光が放たれた。


 ……クソ、やらかした。光の始まりを、直視してしまった。

 反射的にまぶたを閉じたが、間に合わず。視界は真っ白に焼き付いた。


 強い光って、痛いんだな。まるで眼球を焼かれるような感覚だ。

 知らなかったぜ。知りたくもなかったな。




――――――――――――――――――




『 "木登りモグラ" というモンスターがいる。その名の通り、木に登るモグラだ』


『モグラとは、どんな生き物か? 恐らく大半の人間が、地中を移動するイメージを持っているのではないだろうか。そしてそれはこの世界でも同じ。木登りモグラは、基本的には地面の下で生活をしている』


『しかしそれでは、餌が無い。だから彼らは、能動的に狩りをする。地中に伸びた木の根を()()、そこから幹の中へと移動をして、獲物が来るのをじっと待つのだ』


『そうして振動で何かの気配を見つけると、そちらに向かって一目散に()()()()。木の中を恐ろしい速さで移動し、樹皮を突き破り――――そのまま獲物を、獲物の体内を()()()()()。土も岩も大樹でさえも難なく掘れる頑強な爪だ、生き物の外皮など他愛もない』


『木の上から落ちて来て、そのまま地面へと落下しながら、途中の獲物の体を突き破る。気づいた時にはモグラは地面に隠れきっており、またどこかの幹の中から……こちらを狙う。なんとも恐ろしいモンスターである』




『さて、そんな "木登りモグラ" の対処法は…………ずばり、目だ。年中地面の下の暗闇にいる奴らは、とにもかくにも光に弱い。太陽の柔らかな日差しですら、奴らにとっては目を焼く白刃だ。それゆえ、狩りの範囲はよほど薄暗い場所に限られている』


『ランタンでもいい。『発光』の魔法(スペル)でもいい。とにかく明かりを絶やさなければ、奴らは近づいて来ないだろう。もし奴らを狩りたいのであれば、わざと暗がりに身をおいて、闇の中を歩きながら――――木々が軋んだその瞬間に、大きな光を見せつけてやればいい。恐怖のモグラは消え去り、網膜を焦がして無様に転げ回る無力な獣の出来上がりだ』




――――――――――――――――――




 自然と涙が湧き出る目をつぶり、頭を振る。焼き付いた光の衝撃で、頭がくらくらしている事への、本能的な反応だろうか。


 そうしている間にも、俺を囲むリザードマン共の声。

 シャアシャア、ジィジィとひたすら不快だ。たまに聞こえるクルクルとした物は、ヤツらの残忍さを裏付ける笑い声だろう。



 と、目を開けられないでいる俺の背に……今度は何かが()()()()()


――――これは、()か。

 背中が燃やされているのか。魔法(スペル)か何かで。



 ……ちょっと熱い。温度設定を間違えたお風呂のような、ぴりりとした刺激。

 ……そして、痛い。肌が焼ける感覚。火傷はしないがヒリヒリはする、そんな程度の熱さ。

 ……背中が溶ける感じがする。火によって、皮膚が燃焼していく事がわかる。痛くはない。ひたすら気持ちが悪い。



 一つ一つは些細なフィードバック。リアルでタンスに足の小指をぶつけるほうが、よっぽど痛いし辛い程度。

 だけれどそれら全てがまとめて一気に来ると…………ああ、キツいぜ。畜生。




――――――――――――――――――




Re:behind(リ・ビハインド)は仮想現実であり、限りなく現実に寄せた世界だ。大体の場合、炎を浴びれば致命傷を負うし、電撃で神経を焼かれても大変だ』


『しかし、これはDive Gameだ。やはり、どこまで行っても "ゲーム" なのである。属性相性と言うべきか、それぞれに得手不得手があるのだ』


『 "燃えるライオン" に炎は効かない。"伸びるカエル" に水をかけても有効ではない。食事によって皮膚の性質が変わる "サイ" は、電撃を物ともしないのだ』


『君が魔法師(スペルキャスター)であるのなら、有効な属性は知っておくべきだ。燃え盛る炎は奴らを焼くのか、凍える冷気で動きは鈍るのか、荒々しい土くれをぶつけて傷を負うのか』




――――――――――――――――――




 必死になって転げ回って、背中の炎を消そうとしても。

 粘つくようなしつこいソレは、地面に擦りつけても中々消えない。

 そういうスペルなのだろうか。


 …………ああ、きっとそうだ。そうに違いない。

 この炎のねちっこさ。消えないしつこさ、人をじわじわ傷つける陰湿さ。

 俺で様々な検証をするリザードマン共と、まるきり同じだ。 




――――――――――――――――――




『属性と言う物は、スペルに限った話ではない。打撃・斬撃・突攻撃や飛び道具。それらの物理的な攻撃も、モンスターによって効果的か否かという違いがあるのだ』


『例えば、"伸びるカエル"。奴らの皮膚は伸縮性に優れており、衝撃を吸収する特性がある。打撃が効かないのは勿論の事、斬撃も効きにくい。剣であれば突き、可能であれば弓で攻めよう』


『"首なしキリン" と呼ばれる顔のないキリンは、その長い四足を使って屈んだり背伸びをしたりをし、矢を避ける動きを大の得意としている。屈伸運動では避けようのない、近接攻撃で処理をするのが無難だろう』


『"鬼角牛" は、ひたすらタフだ。打撃も斬撃も無効化し、矢が刺さっても気にしない。死なない限りは全て軽傷だと言わんばかりに、無尽蔵の体力で猛進するのだ。奴らに対して有効なのは、脳天を一撃で穿つ突攻撃。その馬鹿正直な突進に、カウンターの突きをお見舞いしてやろう。小さな脳を貫かれたら、流石のタフも動きを止める』




――――――――――――――――――




「ジャルァ~」


「シュルゥ? ……クルルル」


「シャルァッ」




 一番近くにいたトカゲ面が声を挙げると、周囲のヤツらが集まってくる。

 二十匹くらいは居るだろうか。うじゃうじゃと気持ちが悪いし、どいつもこいつもいけ好かない爬虫類顔で、ニヤニヤ笑い腐りやがって。


 それぞれが手に持つ、剣や斧……棍棒にレイピアで、俺を痛めつける気なのだろう。

 そいつらの後ろにはしっかりと、杖持ち――――"癒やし役(ヒーラー)" っぽいのが控えているし…………どれだけ無茶をしようとも、俺を癒やしてまた傷つける…………そんな地獄の時間を作る準備は、万端って所だろうか。



 …………あるのは、恐怖。

 ……そして不安と、後悔と、絶望と。



 …………大きな、とても大きな……憎しみだ。




 忘れないぞ、リザードマン共。

 今日この場であった出来事は、俺は絶対忘れはしない。

 お前らが俺にした行いは、未来永劫覚えておくぞ。



 俺の鼓膜に音をぶつけたリザードマン(お前)


 俺の目玉を光で焼いた、魔法師(スペルキャスター)リザードマン(お前)


 炎を出したお前も、剣を持つお前も、棍棒を持つお前も。


 まるで悪事を働いていないような、のんびりした立ち姿のヒーラー共だって、絶対忘れてやらないからな。



 俺は必ず、復讐するぞ。

 何度だってやってやる。謝ったって許さないんだ。

 絶対、絶対殺してやるぞ。


 覚えとけ、なんて言わないからな。

 俺が覚える。お前らがした事。この痛み、苦しみ、屈辱、辛さ。

 それをしたお前らの、顔を、鱗を、そのニヤけ面を。


 忘れるものかよ。永遠かけて許さない。未来永劫、怨恨を抱き、呪い続けて。

 そんでもって――――必ず、必ずやり返すからな。




 少し離れた岩に座った、俺を攫った青鱗。

 ペットの喉を撫でながら、じっとこちらを見つめるお前も。


 ――――俺は、忘れないからな。




――――――――――――――――――




『これらの情報の全てが、我々のクラン "ケンショーゼー" によってきちんと調べ上げられた、確かな物である』




Re:behind(リ・ビハインド)は厳しい世界だ。まるで現実のような世界であるから、モンスターたちも生き残るのに必死な場所である。有象無象の区別なく、どんな生き物も懸命に生き、生き残るための工夫をし続けている』


『他のゲームならば通用する "レベルを上げて物理で殴る" ……なんていう物は、一部の二つ名持ちにしか許されない。大半のプレイヤーは、持ちうる小さな力を使って、最適解を見つけ続けなければならない。そうでなくては、生き残れない』



『まず、知ろう。どんなモンスターなのか、どのように生きてきたのか、何を得意とし、何を不得手とするのか。それは我々プレイヤーだけに許された異能―――― "情報の共有" と言う、特別な力だ』


『知識は力だ。情報は武器だ。わかっていると言う事は、何より強い。レベルが些細な物であるこの世界において、積み重ねる知識こそが……確かな経験値なのだ』


『情報に縋り、情報を頼り、情報を使え。それら全てを銃口に込め、知恵と言う名の撃鉄を起こせ。それが我々に出来る、唯一無二で最大の生存戦略だ』




『これを見ているリビハプレイヤー諸君。我々は仲間だ。共にRe:behind(リ・ビハインド)を駆ける、戦友だ』


『共に生きよう。辛く厳しい、この世界で。リスクを背負った決死の覚悟で、荒々しく牙を剥く野生の地に身をやつし、思う存分生き抜こう』


『生活保障で飼われる生活をかなぐり捨て、この世界で "狩りに生きる" と胸に決めた君たちへ。多くの検証結果と伝聞からなる力と共に、言葉を贈ろう』


『 プレイヤーの明日に、勝利を! 』




――――――――――――――――――




「ジャルァッ!!」




 頭に衝撃。硬いものに打ち付けられて、首が直角以上に曲がる。

 棍棒でぶん殴られた。すぐさまスペルで癒やされる。




「ジィィ……クルロロ」




 腹に痛撃。俺の体を地面に縫い付けるように、剣がゆっくり差し込まれた。

 わざわざ胸当て辺りを貫くのは、防具の性能を見ているのか? スペルで癒やされた。




「シュルルァ~」




 槍で肩を貫かれ、そのまま持ち上げ、ぶん投げられる。

 四肢に力が入らない。ごろごろ転がり、土が口に入った。体は癒やされる。




「…………シャァッ!」




 ととと、と三本の矢が背に刺さる。貫通はせず、体内に異物がある感じがする。

 わざと程度の低い矢を使ったのだろう。矢じりは骨、矢羽はボロボロの安物だ。

 刺さったまんま、癒やされた。引き起こされて、立たされる。

 矢が刺さっているからだろうか? 体が重く感じるな。






――――――終わらない。

 どれだけ傷つき、命が消えかけようとも、死ぬ事は許されない。

 殴られ、癒やされ、斬られ、癒やされ、振り回されて射抜かれたって、すぐさまヒールで癒やされる。

 丁重極まりない扱い、恐悦至極だな。反吐が出る。




「ジャルルァ? ジィラ」


「シュリリ、シュルゥ」




 "死に戻り" は不可。

 体が自由であったなら、ダイブアウト処理も出来ただろうけど……それを知ってか知らずか、ダイブアウトをするのに必要な手はずっと、後ろに縛られたままだ。




――――――もっと力をつけておけば、と。そう思う。

 職業のレベルを上げていれば、この場を切り抜けられたかもしれない。

 俺に特別な二つ名があれば、こいつらをどうにか出来たかもしれない。

 もっとちゃんとリビハを頑張っていれば、こんな事にはなっていない。



 レベルも、装備も、経験も。

 まるで足りない。この場では。


 初心者を脱したばかりの身空では、こんな状況では……何も出来ない。





 俺は今まで、何をしていたんだろう。


 毎日毎日Re:behind(リビハ)をやって、自分なりに色々積み重ねて来たつもりだった。

 リスドラゴンとか、PKとか…………大変な事に巻き込まれながらも、それなりに頑張って来たつもりだったけど。


 結局俺は、弱いよな。

 だってこうまで、何も出来ない。




「ジャジャアッ!」




 ならず者(ローグ)のレベル上げも頑張ったけど、ここでは何の役にも立たない。

 装備だってそれなりの物を揃えたつもりが、全てを踏みにじられている。

 金だって無い。浪費家っぽい部分があるとは言え、月額とダイブ料でギリギリの生活は、初心者だったあの頃と……まるで変わっていないから。



 …………三ヶ月のRe:behind(リビハ)生活。

 俺がこの三ヶ月で得た物は、ここでは何の役にもたってない。


 どれだけ怒りを持とうとも、それを発揮する力がなければ、ただの負け犬の遠吠えだ。

 俺は負けてる。負け続けてる。レベルも、装備も、戦う術も。全てがここでは意味がない。



 悔しい。畜生。いつもいつも、負けっぱなしだ。自分の弱さが嫌になる。


 俺は、何も、得ていない。

 俺がこの世界でしてきた事は、俺がこの世界で手に入れた物は。

 今この時において…………何の意味もない物ばかりだ。




「…………ちくしょう……」


「シュルルゥ? シュリルリィ?」


「クロロロロ!」




 無力だ。俺は、持たざる者だ。

 何が脱初心者だ。何が中級者だよ。

 何も成長していない。何も変わっていないじゃないか。


 俺が過ごした三ヶ月…………それは何の意味もない物だった。

 何も得られず、弱いまんまで。

 普通の雑魚なモブキャラのまんまで――――――――――










――――――ふわ、と。何かが辺りに舞った。




 重いまぶたを押し上げてみれば、景色はすっかり一変している。




――――――ざり、と。土を踏む音がした。




 なぜだか理由はわからないけど、擦り切れた心に、とても心地よく響いた。




――――――よう、と。聞き慣れた声がした。




 今度ははっきり理解した。止まっていた心臓が、動き出したような気さえした。




「……よう、調子はどうだ?」




 色の無い男。髪からつま先まで、その全身を灰色に染めた男。

 この場において、それはひたすら異質であって。

 だけれど、紛れもなく、俺が待ち望んでいた色。



「……え…………な……なん、で…………」


「……ずいぶん手酷くやられたなぁ。調子を聞くまでも、なかったか」



 ぶっきらぼうな喋り方。刃物のように鋭いその声。

 聞く人によっては、まるで灰のように冷たく聞こえ。

 俺にとっては、まるで灰のように仄かな暖かさを感じる物だ。



「どうして……ここに……。

 それに、その腕……"左手" が…………ある……?」



 ついぞ口に出た、色んな疑問。

 どうして、彼が。どうやって事態を知ったのか。どのようにしてこの場所を見つけたのだろうか。


 そして、何より。

 どうして失ったはずの()()で、リザードマンの死体を引きずっているのか。




「……まぁ、積もる話は後にしようぜ。俺は今……忙しいから」


「……いそが、し……?」




「…………なぁ、トカゲ共。やってくれたな、爬虫類共よ」


「ジャァ? ジャジャアッ!!」


「――――いいか? 今から俺は往く。お前らを殺しに、真っ直ぐに。だから……本気で抵抗しろ。死ぬ気で抗え。持てる全てを出し尽くし、あらん限りの力で来い。それらを全て、俺が捻じ伏せてやる。正面からきっちり踏み潰して…………てめぇらの総力を、嘲笑ってやるからよ」


「……シュルルァッ!!」




「無駄だと、思い知らせてやる…………。

 お前らに出来る事の全てが、俺には無意味だとわからせてやる……。

 クソがよ……粋がってんじゃねぇぞ……クソが! クソ雑魚共がぁ…………!

 …………サクリファクトにここまでしといて……。

 ……俺の親友に、これほどまでの事を、しやがって…………ッ!

 普通に死なせてたまるかよ……! 華麗に散らしてなるものかよ……!

 まともに負けられると、思ってんじゃねぇぞッ! この、ボケ共がぁッ!!」







 もしかすると、俺が持つ物より大きく、激しいかもしれないような……()()

 灰色の男から湧き上がるソレは、同調するかのように禍々しく渦巻く灰のオーラと相まって、味方であるはずの俺ですら…………ぶるりと震えが来るようで。



 それを見て、わかった。思い出したんだ。

 俺がこの三ヶ月間のRe:behind(リビハ)生活で、得ていた物を。




「――――俺の名を呼べ、サクリファクトォッ! クソッタレのトカゲ共に、てめぇらを殺す男の名前を――――刻みつけろッ!!」




「……し、しはいっ! 【死灰】の…………マグリョウ、さんっ!!」




「ははっ! 聞いたか? クソトカゲ共。

 違う言語のお前たちには、言葉の意味はわからんだろう。

 わからんだろうが――――覚えておけよ。()()を。()()()を。()()を。

『俺の名と言う一つの音』を、恐怖と共に心に刻め。その音色に震え続けろ。

 それこそが、お前らを根絶やしにする…………死神の足音だぜ」




 呼べば来る。声に応えて。

 呼ばずとも来る。俺の身を案じて。

 ピンチの時には必ず現れ、俺を思って怒りを燃やし、その背に庇って守ってくれる。


 この俺が過ごした三ヶ月。

 その間で得ていた物は。


 レベルでもなく、金でもなければ、地位でも名誉でもなく。


 かけがえの無い――――――友達だったのか。




「『往くぞ、死灰』……みなごろしだ」





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