表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/246

第二十一話 Wer A sagt, muss auch B sagen.




 浮かべた【金王】の石ころは、十二分に働いた。


 空飛ぶ大怪鳥と、その背に乗った青鱗。

 ヤツを自由にさせていては、俺の策にはどうしたって不安が残る。

 だからそれを消すために、空からの奇襲を防ぐバリアとさせていた。

 上を埋め尽くすようにして滞空する、金色爆弾の障壁。それさえあれば、青鱗が得意とする地上へ急襲……は不可となるだろうから。


 そして、仕事はもう一つ。

 折角の【竜殺し(りゅうごろし)()七人(しちにん)】による格別な魔法(スペル)だ。ただの壁で終わらせる訳がない。


 ヤツらの強さ、その一級品の装備に、歴戦のヒーラーという存在。

 それを考えれば、俺たちの攻撃じゃあ……どうしても打撃力が足りず、トドメを刺すには至らない。

 だから、特別な火力が必要だった。殺しきるための決定力が。

 そうなってくると、魔法師(スペルキャスター)の頂点であるアイツの極大攻勢魔法は……おあつらえむきって奴なんだ。


 空にいる青鱗、地上にいるリザードマン共。

 そのどちらもに対応出来るのが、アイツの力。とびきり強大で、こちら側の最終兵器な、ぶっ壊れスペル。



 ……だけれど、()()()()じゃあ、駄目だった。

 地面を揺らす・石を浮かせる・空で金メッキを施し・地面に落とす。

 そんな、まるでアイツの語り口のように、迂遠で長ったらしい "準備時間(余計な前置き)" があったから。


 そうまでダラダラとやっていたなら、リザードマン共は悠々と逃げられるだろうし、青鱗は急降下出来るし、最悪シメミユが巻き添えで死ぬ。

 だからそれじゃあ、駄目なんだ。



  "ここぞ" って瞬間で即座に弾ける。そんな機敏さが必要なこの局面。

 空と地面のその間に、石で出来た通行止めを維持していなくちゃいけない場面。

 

――――だからこそ、この策だ。

 スペルを途中で停止させ、無数の石ころを滞空させると言う行為は、どちらにとってもクリティカルな災難だ。


 いつでも行けるようにしておけばいい。弾ける構えを取らせておけばいい。

 空にバリアを張りつつも、落ちる寸前で留めておけばいい。


 準備に時間がかかるなら、先にしておけという、至極単純な話。

 それが青鱗を止める事にもなるのなら、その手を取らない理由は無かった。


 スペルの途中停止ってのが、大変だとはわかっていたけど。

 それでも、負けず嫌いで良い格好しいの、俺と似ている【金王(アイツ)】なら、()()()()と、そう思っていたから。




      ◇◇◇




「待ちわびたぞッ! 存分に味わえぃ、『黄金時代ゴールドラッシュ』ッ!!」



 ぶっ飛ぶシメミユを追うようにして、リュウと二人で急いで逃げる。

 先程までの戦いの地は、今ではすっかり場を変えた。草木一本残らず消える、恐ろしい未来が約束された場所だ。


 ああ、なんて爽快な光景だ。

 驕り高ぶるリザードマン共が、何としてでも避けたかった災厄に見舞われる……清々しいまでの雨模様。

 断罪の黄金が空から降り落ち、傲慢なプライドごとヤツらを弾け飛ばす、血も涙もない処刑場になっていく。




「なぁ、サクの字ぃ」


「どうした?」


「どうしてあのトカゲ面共は、俺っちたちを追って来ねぇんだ?」




 そんなリュウの疑問も、もっともだろうか。

 人質を失ったアイツらなら、俺たちの下へ――――いや、そのまま駆け抜けて、【金王】を直接捕えたっていいかもしれない。

 そう考えるのも自然って物ではあるけれど……それは無理だよな。あいつらにはさ。




「……それが出来るんだったら、人質なんて取らなかっただろうさ」


「ん? どういう意味でぃ?」


「守りたいヤツ…………俺の予想では、あの黄色鱗だけど…………そのために、ソイツに危機が及ぶ『黄金時代ゴールドラッシュ』を封じようとして、"人質" って手段を用いたんだろ。だからきっとこの状況では、守りたい物を守る事で、精一杯なんだ」


「……あぁ~、なるほどなあ」




 ヤツらは強い。そもそもあんな姑息な手を取る必要は、無かったはずだ。

 だから、それなら、そこからわかる。


 "あの大規模魔法を封じなくてはならない絶対の理由が、どこかにあったから"。

 そのヒントさえあれば、後は簡単。すぐにわかるぜ。


 そうなってくれば、ここでは追えない。

 新しく何かを得るよりも、今あるものを守るって事を優先するのは、当然だ。

 おおかた、今頃、あの黒いのと緑のヤツで……黄色鱗を抱えて逃げ出してたりするんだろう。

 そりゃあもう、必死になってさ。ざまあないな。




「かかっ! 残るは青鱗だけとなりゃあ、ガチンコ勝負でもどうにかなるわな!」


「…………そうはならないと思う。きっと」


「そりゃまた、どうした事でぃ?」


「俺が青鱗(アイツ)なら、さっさと逃げるよ。こんな "負け確" な状況で、そうまでして食い下がる理由なんて――――」




――――――ビィィヤァァッ!!


 俺の言葉を遮って聞こえた、空気を斬り裂くような鋭い咆哮。

 それはまるで、俺の言葉を否定するかのようなタイミングで。


 今もなお地面に落ち行く金のツブテ。まだ全てが落ちきっていない、空のバリア。

 そんな黄金のカーテンの()()()()から、はっきり届けられる……怒りの声だ。



「ビァァッ!!」



 そして今度は、目に見える。その声の主のデカい影。

 空を埋め尽くす金色の隙間に、その力に満ちた強大な体を()()()()()()()

 その上に乗るリザードマンは、そんな怪鳥の首元に跨がり――――槍をバトンのようにギュルギュル回す。

 ドローンについた、プロペラみたいだ。ずっと昔の時代にあった、『センプウキ』とかいうやつにも似てるかな。


 ……それにしても。マジかよ、アイツ。やる気かよ。



「――――おいおいッ! 来やがるぞォッ!?」


「……嘘だろ? そこまでかよ」




 ギンギン、ジャラジャラ音を出し、金の残滓がキラキラ舞い散る。

 青鱗の回転させた槍のバリアが、浮かぶそれらを蹴散らしながら、地面へ真っ直ぐ降りてくる。


 ……いくら槍で壊していたって、ノーダメージとは行かないだろう。

 現にあの怪鳥も青鱗も……その身に爆風を受けてボロボロだ。



 そこまで……そこまで必死になるのか。

 それほどまでに全力で、実験体を持ち帰る――いや、そうじゃないか。


 お前も俺たちプレイヤーと、同じなのか。青鱗。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 それをするのに、そこまでの覚悟を持ちうるのか。

 青い鱗のリザードマン……俺と同じく全力で、"Re:behind(この世界)を、生きるモノ"。



「狙いは、あの女かッ!? 畜生ッ! 駆けるぜェッ!!」



 俺たちが走る大分先……飛ばされたあとに『"引き寄せのイベリス"』で引っ張られるシメミユに向かって、真っ直ぐ突っ込む大怪鳥。

 その上に乗る青鱗は、その手に縄を、しっかり持って。


 あの縄は、なんらかのアイテムだ。

 初めにシメミユが捕われた時、意思を持つような動きでもって、彼女の体にぐるぐると巻き付いた物だ。


 ――――止めなきゃいけない。

 じゃないと、全てが台無し。ひっくり返る。




「ウオオッ!!」


「駄目だっ、間に合わないっ!」


「バリバリ気合、全開でぇ――――――」


「こればっかりは、気合じゃどうにも…………いや、気合の入れ方の話かっ」




 ふと、馬鹿みたいな事を思いつく。だけれど、きっと可能性はある事。

 リュウの馬鹿力と俺の軽さがあれば、出来なくもない気がしなくもない。


 ……だけど、大丈夫か? 本当にやるのか? そんな博打を、この瀬戸際で?

 策でもなんでもなく、ひたすら願いを込めるばっかりの、滅茶苦茶な無茶を?


――――いいや、迷うな! そんな時間はない!

 ここで何とかしなくては、今までの努力が水の泡なんだ!


 そんな結末、俺は嫌だし。皆嫌に決まってて。それに、なにより……大嫌いな、あいつのために……っ!

 折角こうして本気を出した、この世界と真剣に向き合ったアレクサンドロス……あいつには!

『本気を出してよかった』と、そう思わせてやらないと!

『それをしたから報われたんだ』と、希望を持たせてやらないと!

 リビハってのは、最高なんだと言う証明を――――望んだ未来を見せてやらなきゃ駄目なんだっ!!



「リュウッ! 俺を飛ばせっ!!」


「――応ッ!」



 聞かない。問わない。考えない。

 やれと言ったら、即実行。俺の相棒、リュウジロウ。


 俺とお前の二人なら、どんな無茶でもやれるはず。




「全力全開ッ! 安心しろぃ、みねうちだァッ!!」


「みねうちは当たり前――――うぉぁあっ!!」




 刃を逆にして、思い切り。何かのスポーツのようなフルスイングの、重い斬り。

 なるほど。その狙いが俺の()であるのは、【腹切り赤逆毛】という二つ名効果を発揮するためなんだろうな。


 瀬戸際での頭の回転は、俺よりよっぽど早いじゃないか。

 おかげで俺は加速して、シメミユに向かって一直線で。




――――……だけど、僅かに届かない。

 あと一歩、勢いが足りていない。




 だから。

 お前も、わかってるよな。

 白くてキモい、賢い軟体。



「タコォッ! 俺を、ぶっ飛ばせぇっ!!」




 言うが早いか、吹き飛ぶ俺に、もう一度の強い衝撃。

 リュウの頭の上から飛んだ……八本足に全力を込め、体内に溜め込んだ『治癒のポーション』を全力で吐き出しながら、弾丸のような勢いで俺を押す――白いタコ。


 別にお前は好きじゃないけど。

 何だかんだで役に立つとは思ってるぞ。




「――――うおおっ! どうにかなれぇぇっ!!」




 二つの押し出す力で飛ぶ。届く、届くぞ……必死で手を伸ばせ。


 ……待て。何に向けて手を伸ばすんだ?

 シメミユを掴んで、だからどうなる? 結局縄は巻き付いて、彼女は連れて行かれるだろう。

 だったら何も、解決しない。まるで無駄で終わってしまう。


 じゃあどうする。

 武器はもう無い。縄は切れない。

 青鱗までは届かないし、縄を止める事も出来ない。

 シメミユと縄は、接触寸前。避けさせる事だって、無理だろコレ。



 …………ああ、だったらしょうがない。こうするか道は無い。

 他に手はなく、それだけが正解。ならばやろう。やるぜ。やってやる。






――――――なぁ、【金王】。成金でいけ好かない男、アレクサンドロスよ。

 お前は、よくやったと思う。そのロールプレイのまんまに、必死になって本気を出してさ。


 だから、俺はお前を認めるぜ。やるじゃないかって、讃えてやるよ。

 一人のリビハプレイヤーとして、お前と言うプレイヤーを、素直に尊敬してやるんだ。




 だから何でもやってやる。

 お前の願いは叶えてやる。

 シメミユは必ず守ってやるよ。


 これが俺の役割だ。

 ()()()()を武器とするならず者(ローグ)の、()()()()()()()()()()だ。




「俺を連れてけ、クソトカゲェェッ!!」




 狙うは、縄。

 シメミユに巻き付くその前に、俺の手でそれを、絡め取る。


 遠慮するなよリザードマン。

 連れて行く雑魚プレイヤーを、選り好みはしないだろう?


 縄をどうにかする事も、シメミユを何とかする事も、そのどちらも出来ないのなら。

 俺が "実験体役" を……奪い取る。


 俺を攫え、リザードマン。




「――――なっ!? あ、あなたは何をっ!」


「……お前の主人の金ピカに伝えろ。"お前も結構やるじゃん" ってな」




 ぐん、と体が引っ張られる。

 気づけば縄は、俺の体を蛇のように締め上げて。


 ……不安しかないが、笑ってやろう。

 目的は達成されるんだ。俺の身がどうなろうとも、勝負は勝ちで、ざまあみろだぜ。


 これこそまさに。

 "身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ" 、だ。




「サクの字ィィーッ!!」


()()()()()()()っ! じゃあな、リュウっ!」






 青鱗の持つ縄に捕われ、ブラブラと揺れる。

 これから行く先は――――地獄かな?




 まぁいいか。空は青いし、やりたい事はやりきった。

 それにこの風。この景色。俺は空を、飛んでいる。

 初めてやったが……空を飛ぶって、気持ちがいいんだなぁ。


 思わぬ爽快な体験に、これからの恐怖も消し飛ぶ気がした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ