第1話
その懐中時計を拾ったのは、高校からの帰り道だった。
夕方、水平線に沈む陽を横目に海沿いの歩道を歩いていた。僕の右には背の高い近代的なビル立ち並び、どれもピカピカのガラスにオレンジ色の光を受け輝いている。
ふと黒猫が目の前を横切った。確か黒猫に横切られると良からぬ事が起こるのではなかったか。そんなことを考えながら、小刻みに揺れる猫の尻尾を目で追うと、とあるビルとビルの間の路地に何か光るものが落ちているのに気づいた。
近づくと、歯車のついた金色の懐中時計が落ちていた。誰かの落とし物だろうか。僕はいつも落し物を見つけても拾ったりはしない。それほど人の良いヤツではないけれど、こればかりは僕の目から見ても美しくどう見ても高そうでつい拾ってしまった。
特に欲しいという物欲には駆られなかったが、交番に届けるのも面倒なのもあって、僕の脳内ではいわゆる”天使と悪魔“の論争が繰り広げられようとしていた。
ちょうどその時、先程僕の前を横切った黒猫が僕の隣に座って、上目遣いでこちらを見てきた。
?
一体なんだろう。僕が黒猫を見つめていると、その猫は立ち上がり、後ろを振り向きつつ路地の奥に消えていった。
明らかに僕について来いと言っているようで、僕は不安になりながら懐中時計片手にその猫を追った。
そこは暗い路地の行き止まりで、少し開けた場所だった。奥に茜空のように、様々な色が混ざりあったような色をした円形の何かが路地の壁に張り付いている。
と、猫は僕が来たのを確認するように再度振り向くと、その何かの前に座り、”喋った“。
「ようこそ、黄昏の入口へ。君をここに導いた××だ。突然だが、君にはこれから行く黄昏の世界を××から守ってもらいたい。君が拾った懐中時計は私達の長、レモン・ド・×××さんの落とし物でな。返してもらいたくここに導いた。が、ちょうど今黄昏の世界が危機に瀕している。そこでだ、君に黄昏の×××となって貰いたいのだ。良いか?」
大事そうなところを大分聞き漏らした気がする。
猫が喋っていることに呆気に取られ、しかも話が結構長かったので、混乱してしまった。
後ろを向くと、暗い闇で道が閉ざされていた。ちらほら見える光る二つの点は猫の目だろうか。
名のわからない黒猫は混色のゲートの前で僕を待っている。もう、引き返せない。
僕は仕方なく、黒猫について行くことに決めた。
これが、僕の人生の分岐点なのだと頭の奥でずっと考えていた。