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五話

何とか投稿できました。

「逃がさんぞ! 魔王軍の……!!」

「はぁぁぁあ!」

 追いついてきた敵兵を、小手のついた拳で殴り飛ばす。

 倒した人数は四〇から先は数えていない。

 足に矢傷を受け歩くこともままならないゴブリンに肩を貸し、イリーナは本隊と合流すべく歩みを進める。

「イリーナ様お願いだ! おらを置いて逃げて下させぇ。これじゃ二人とも殺られちまうだ」

 訴えるゴブリンをイリーナは無視。

 孤立した兵士のうち、最も傷の深い者は自分の馬に乗せて逃がした。

 残りも無事に逃がせたのだが、最後に残った一番傷の浅かったゴブリンが、流れ矢で足をやられてしまったのだ。

 あとは彼と自分だけだと言うのに、負傷した彼を肩に担ぐ彼女の歩みは重歩兵並みに遅い。

「大丈夫! もう少しだから、我慢して下さい!」

 そう言う彼女自身も自慢の剣は刃こぼれし、致命傷ではないが無数の傷から出て行く血に動きを鈍らせていた。

「おらなんかのために、イリーナ様が死んじゃいけねーだよ!」

 今にも泣き出しそうなゴブリンに、彼女はやわらかい笑顔を向けるた。

「私の部隊に仲間を、家族を置いて逃げる者なんか一人もいません。もうちょっとです。私と一緒にがんばりましょう!」

 もう一度彼に笑顔を向けようとして、限界を超えた体が悲鳴を上げ、片膝をつく。

 そして、

「はぁ、はぁ、やっと追いついたぞ」

 背後に聞こえた敵兵も相当疲れた声だが、数はゾロゾロと数にのぼった。

「(せめて、彼だけでも)」

 イリーナがゴブリンを放し、杖代わりに自分のボロボロになった剣をグイッと差し出した。

「ここは私が……だから、早く逃げて!」

 何か言いたそうに立ちすくむゴブリンの肩を、少し強めに押して逃げるように促すと、

「私は魔王軍少将、イリーナ・アグバーン! 私を討ち取り手柄にしたい者、命の惜しくない者はかかって来なさい!」

 うまく力の入らない両の拳を無理やり胸の前に持ち上げ、好戦的なポーズをとる。

「この、くそ生意気な魔族が!」

 集団の中でいち早く息を整えた一人の敵兵が振り下ろす剣を、イリーナは籠手で斜めに受けて軌道をそらすと、無防備な腹を蹴り上げ悶絶させる。

「手負いでも敵は帝国の鬼神イリーナだ! 包囲して一斉にかかれ!」

「鬼神だなんて失礼ですねあなた! ぶち殺しますよ!」

 戦闘中とはいえ、彼女も一応うら若き乙女である。

 鬼神などといわれ多少なりとも傷ついた乙女心が、怒りとなって気力を呼び戻す。

 まあ、ぶち殺すと言ってる時点で、乙女かどうか疑わしいが……。

 そんな彼女に、敵は慌てる様子もなく彼女を囲む。

 誰がどう見ても疲労は隠しきれてないのだ。

「帝国の猛将イリーナもここまでですか…………」

 志半ばで死ぬのは不本意だが、最後に戦友を……家族を助けられたことが嬉しかった。

「……へへっ! こいつ本当にもう動けなそうだぜ!」

 ふっと気が抜け地面に膝をつきながらも、そんな満たされた心を敵兵の下卑た声が汚す。

「あなたたち、何を……!!」

 その視線に死よりも嫌悪感の方が先立ち、思わず自分の体を庇うように抱きしめた。

「へへ、なに、疲労困憊の俺らを、少し癒してもらおうと思ってな……」

 にじり寄ってくる敵兵。

 耳年増なシスターに聞いた事がある。

 戦争中に捕えられた女子は兵士たちの慰み者となり、高尚な精神までも汚されると。

 それを思いだした途端、紅潮していた顔から血の気が失せ、強気な瞳から薄っすらと滲むものが視界をふさぐ。

「くっ! それならば……」

 貞操の危険を察して懐の短剣を己の喉元に持っていくが、自分が信仰する神は自害を認めていない事を思い出し、その手をピタリと止めた。

「やっぱ、死ぬより気持ち良い事したいもんな!」

 それを敵兵たちは勝手に解釈し、嬉しそうににじり寄って来た。

「そんな……」

 自分だって年頃の娘。

 恋に焦がれ、いつか白馬の王子様が迎えに来てくれるなんてことを……夢ぐらい見ていた。

 こんなピンチに陥ったときに駆けつけてくれる、昔、父親が読んでくれた本の英雄みたいな王子様を……。

 もちろん、ここでいう王子様とは魔物の事なのだが……。

「ぐへへ! あぶねーから、とりあえずもう少し動けなくしてからな!」

 敵兵の一人が気力を失い、無抵抗なイリーナに剣を振り上げる。

「あっ……ああ……主よ……ごめんなさい」

 そして自害できない彼女が、身を汚されないための最後の手段。

 敵兵の振りかぶった剣を、わざと自身の急所に当たるように体を動かそうとした。

 その時。

「ちょっと、まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 彼女の濁った視界の前に突然現れ、兵士の放った剣をその身で受ける黒い影。

「……うそ……王子さま? ……ってかテイルさん?」

「よ! イリーナ」

 両手で顔を拭い視界を回復させた彼女の目に、見慣れた猫背が映った。


ブックマークありがとうございます!

頑張って明日の夜にも投稿しようと思います。

よろしくお願いします!

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