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祭囃子に誘われて

 こんにちは!ワセリン太郎です!なかなかメインのお話が進行せずに申し訳ないのですが、天狗の鶴千代さんは今後メインキャラクターの一人となって来るのでしっかりと掘り下げて描いていきたいのです!『三バカ』の一角を担うアホの子三号なのです!

 

 彼女はレアさんやミストちゃんの様な、天性の才能を持って生まれた真性アホの子とは違い、『近代社会への無知と時代錯誤から来る奇行』と、今までとは少々切り口の違うキャラクターですので、その辺りを注意して書いて行きたいと思います!

 車に乗せてくれた老人と別れた鶴千代は、恐る恐ると……賑やかな商店街のアーケードを隠れながら歩いていた。


 彼女は猫背で麻袋を胸に抱き、キョロキョロと周囲を見回しつつ、現代文明の過剰な発展に……悲鳴にも似た驚嘆の声を上げる。


「何と魂消(たまげ)たぁ……これが街というものかえ? まさに驚天動地……麓の村に行き、(わっぱ)共と相撲でもして遊ぶつもりであったが……まさかこの様な恐ろしい事になるとは。しかしここは一体何じゃ? もしや昔、父上(おっとう)から聞いた(いち)というものじゃろうか? どうやら作物の類を置いておるようじゃし。採れたものを交換しておるのか? おお、あれは魚か!? いや、しかし見たことのない魚じゃの、お山の小川にはあんな目方のある魚はおらなんだ……」


 必死に目を凝らす。


 さて、如何に田舎町の商店街とはいえ、下駄履きに山伏風のその格好は周囲へ溶け込めるものではなく……すれ違う人々は皆一様に、彼女を振り返って見ていた。


(み、見られておる)

 

 多くの視線を感じ、居心地の悪さを感じた彼女は……適当な細い路地を見つけ、そこへと一旦身を隠す。


 自動販売機の陰に隠れて大きく息を吐いた鶴千代は、先程老人から車に乗せて貰う前に見た……県道の案内板(あないばん)に書かれた文字を思い出していた。

 

 そう、確かあれには……『神丘市街地まで云々』と書いてあったと彼女は記憶している。


『かみのおか いち がい ち』とでも読むのだろうか?


(市場というものか? それならばこの騒がしさと活気も合点がいくのぅ……)


 要はここは『(いち) (がい)』、つまり市場(いちば)の街という事だ、と一人納得する彼女。


(そういえば、今の時刻は”申の刻下がり”といったところじゃろうか?)


 鶴千代は、少し腹の虫が鳴いている事に気付き、荷物から握り飯と水筒を取り出した。

 

 先程までは極度に緊張していてそれどころではなかったのだが、商店街のメインから一本入った人通りの無い細い路地に身を潜めた事で、一気に肩の力が抜けたのだ。


「ぶはぁ、恐ろしや」

 

 むっちゃむっちゃと握り飯を頬張りながら、行き交う人々を興味深く観察する天狗の娘。

 

 そうしていると、遠く八百屋で買い物をする主婦達の姿が目に留まった。


 そのご婦人は何か紙の様なものを店主に手渡し、物品と硬貨のような物を受け取りつつ談笑している。


「むう……あれは金子(きんす)かえ? 無論お山では必要ないし、実際に見るのは初めてじゃ。他の婦人方も似たような感じか? 皆、手ぶらで来ては物品と交換しておるようじゃな。ふむ……ここでは物々交換は主流ではない様に見える。しかし皆一様に奇妙な着物をきておるのう……ぬっ!?」


 チリンチリン……鈴の様な音がして背後から何かが迫る。

 

 鶴千代が慌てて振り向くと、そこには赤い奇妙な乗り物に跨がった、随分と身長の高い派手な銀髪の女性の姿が。その奥にも似たような風体の女性が一人立っている。二人とも肌が褐色で、どうにも純粋な日本人には見えない。

 

(おお、これが噂に聞く異人か!? 黒船に乗って日本(ひのもと)へ現れるとは聞いておったが……)


 そう考えながら鶴千代は道を譲る。するとその奇妙な乗り物に乗った女性が、急にハキハキと大きな声で挨拶をしてきたのだ。


「こんにちは! 今日もいー天気ですねっ!」


「そーですねっ!」


 咄嗟に挨拶を返す鶴千代。


 するとその女性は再びチリンチリンと鈴を鳴らしながら去って行き、一緒にいた女も軽く会釈をして小走りにその後を追った。


 どうもあの赤い奇妙な乗り物は人力で動いている様子。鶴千代はそれを見て、実に興味深いと思う。

 少しふらふらしながら走っているが、見たところあまり乗り慣れておらぬ様であり、実際にはもう少し速度が上がりそうに思える。


(何と、面白きものじゃ……)


 後を追う女性が、ふらつきながら先を行く長身の女に何かを言っており、聞き耳を立てると……それはどうも小言のようだった。


姫様(キアさま)! 河川敷ではもうとっくに始まっているのですよ!? よもや大将が寝坊するなどと……ああっ、これでは我が魔属の体裁が……」


 ふらふらしつつ、振り向かずに答える長身の女。


「そーですねっ!!」


 そして二人を見送った鶴千代は、残った握り飯を口の中へ放り込むと……再び周囲の散策を開始したのだった。


「う~む、”街”というのは実に愉快な所じゃ……様々な人間や物が溢れておる。これは面白くなってきたぞ!」


 アーケードの通りから外れた彼女が暫く歩くと……柵に囲まれた奇妙な道の様な物が見えてきた。


 鉄道だ。鶴千代は、それが一体何なのかと不思議に思って柵をよじ登り、敷地内へと侵入してみる。


「なんじゃこれは? (くろがね)か? この二本の鉄の棒は何に使うのじゃろう……?」


 しゃがみ込んで足元の石を拾い、レールをカンカン叩いてみるが……当然、それが何であるのか理解するには至らない。諦めてレールに座り込み、水筒の中の水で喉を潤す。


「うむ! 先程のショーテンガイという場所は騒がしかったが、ここは誰もおらずに静かで落ち着くの!」


 そうして、ぐびぐびと水を飲みながら住宅街を眺めていると……遠方で耳慣れない音がしているのに気が付いた。


 ──カーンカーンカーンカーン……


 踏切だ。『なんじゃ、やかましいのぅ』そう思いながら、彼女が音のする方角に視線をやっていると……コトンコトン、僅かながら、腰を下ろしたレールから小刻みな振動が伝わり始める。


「おっ、おおっ!? な、なんじゃ!? 微かに妙な音がするぞ?」


 次の瞬間。


 プアァァァァァァッ!!


 鶴千代が見ていた逆の方向から凄まじい音が響く。列車の警笛音だ。


 線路上に座る人影を目視した電車の運転手が、慌てて急ブレーキをかける──! それに驚き、眼を見開いて奇声をあげる鶴千代。


「うひゃあぁぁぁぁい!?」


 キイィィィィィィッ──!


 当然だが、列車は急には停まらない。鶴千代はあわやという所で荷物を掴み、天狗族ゆえの人間離れした跳躍を見せて線路の外へと飛び出した。

 

 暫くすると完全に停止する車両。運転手が飛び出して来て何か騒いでいる。


「ふおぉぉぉ……恐ろしいの! あれは何じゃ? 中に人がたくさん乗っておるし……あれも乗り物なのかえ?? まあしかし、お互い無事で何よりじゃ! 結構結構!」


 こちらを指差し何かを叫ぶ鉄道職員に『うむうむ』と笑顔で手をあげ、鶴千代は再び散策へと戻る。

 

 暫くそのまま歩いた彼女は……自動車が多く行き交う、片側二車線の国道へと到達した。


「ほうほう。あれは”車”というヤツじゃな。乗せて来てくれたご老人の物とは色や形が違うが……しかしまあ随分と沢山走っておるものじゃの!」


 そうして感慨深げにうんうん、と頷いた彼女は……道の脇に停車中の車の陰から躊躇なく、そのまま国道を横断し始めたのだった。


 当然、横断歩道などそこには存在しない。


 けたたましく飛び交うクラクション。急に飛び出してきた鶴千代に驚き、先頭を走る車が急にブレーキを踏みつける──!

 

──ガシャン! ガシャン! パァァーッ、パッ、パァーッ!! ──ガシャン!!

 

 五台連続の玉突き事故。しかしそのまま悠然と道を渡り切るチビ天狗。


「なんじゃ騒がしいの、もう少し静かには出来んものか? そうじゃ、そろそろ疲れてきたし、どこか木陰を見つけて休むとするか! しかし(ここ)には樹木がほとんど生えておらんの……」


 後ろで大騒ぎとなっている人々を気にも留めず、どんどん進む。


 そのまま五分程歩くと……遠方に大きな川が見えてきた。それは、鶴千代の知る山の小川とは比較にならないほどの川幅があり、外界を知らぬ彼女を驚嘆させるには十分である。


「ほうほう! これはまた素晴らしい景観よの! お山の小川ほど清らかではないのが残念じゃが……先程、市場で見た目方(めかた)の大きな魚達はここで捕れるのじゃろうか?」


 川へと近付き、水の中を覗き込む。確かに魚はいるが……彼女の基準では、水質があまり良いとは言いがたい。どうも水が淀んでいるのだ。


「う~む、何か違うのぅ。あの魚達は一体どこから捕ってきたんじゃ? まあよい、それも街の事情に明るくなると、追々わかる筈じゃ」


 そう呟いて水面から顔を上げた時だった。そこからは随分と距離が離れた川の上流側で、沢山の人達が何やら大騒ぎをしている事に気が付く。


 興味を引かれた彼女は指をこめかみに当て、神通力を発揮してそちらを探るが……それはとても把握しきれる様な人数ではなかった。


「あれは……数が百、二百ではないのぅ。信じ難いが、優に千を超えておる。なんじゃなんじゃ? 何かの催しか? ぬっ、もしやあれが”祭り”というものか!? よし、何やら楽しそうじゃし、ウチも行ってみるとしよう!」


 そう言うと彼女は……瞳をキラキラと輝かせて荷物を掴み、その大騒ぎの起きている現場へと駆けだしたのだった。

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