鳥害狂騒
こんにちは!ワセリン太郎です!少し更新に間が開いてしまいました!お詫びに今日は少し文章大盛りにしておきます!そしてパンツもウ〇コも大盛りです!ボチボチ頑張っていきますのでお付き合いくださいね!
カーンカーンカーン──!カーンカーンカーン──!
鳴り響く鐘の音に嫌な予感を覚えた俺達は、周囲への警戒を厳にするが……暫くすると鳴り止む鐘。おかしい、特に何かが起きそうな感じはしない。
広場に集まり大騒ぎしていた住民達も、何か困惑したような様子で、口々に何かを呟いていた。
ヒルドも問題なさそうだと判断したのか、少し表情を和らげてこちらへ話し掛けてくる。
「少々緊張しましたが、別段変わった事はなさそうですね。よくよく冷静に考えると、彼女達たった二人で、そう大それた事が出来るとは考えにくい。杞憂に終わって良かったです」
俺も彼女の言葉に、苦笑しながら答えた。
「わかるわかる。あいつらのこれまでの前科を考えると”何かやらかしてもおかしくない”って思っちゃうもんなぁ。でも冷静になると確かに道理だよ、たった二人で……まあ多少の協力者がいたとしても、そこまでヒドい事をするには時間が無いはずだし。それより今はレア達に構ってる場合じゃないよな、あの外の怪物軍団をどうにかしないと」
そう言った俺は、扉の吹き飛んだ正門の隙間から、外の一団へと視線を移す。
現状、奴等は街から少し距離を取り、数に任せてグルリと半円状にヴェストラの正門を取り囲んで”鼠一匹通さない”とでも言わんばかりに封鎖している形だ。攻めて来ないのは此方が既に人質と認識されているからだろうか?
先程アイリスさんが『見た感じ三千はいると思う』と言っていたが、実際どの位いるのだろう? 十、二十、三十……やめよう、それは俺にとって星を数えるに等しい。
俺は彼女達とは違い、軍勢を目視で計ったりするような訓練も受けていないし、その方法すら知らないのだ。
そう考えていた時だ、背後から耳慣れない風切り音が聞こえてくる。
ひゅぅぅぅぅぅぅ──パンッ!
正門側を向き、外を見ていた俺の右肩に何かが当たる。しかしその感触は軽かった。
ん? 何だろう。その”何か”は未だ肩に張り付いている様であり、不思議に思った俺は”それ”を手に取ってみる。
「えっと……何だこれ?」
それは白い布の様であり、どこか記憶にある物体。あ、一部茶色いな……何だこれ? 不思議に思った俺は”ソレ”を両手で広げてみる。隣に来た大家さんが怪訝な顔で覗き込んできた。
「おう太郎……そりゃパンツだな」
まあ……そうだ、紛う事なきパンツ。純白の女性用パンツだ。飛び出した製品タグを見ると……”日本製”の文字が見え、股間部に何か茶色い粘土状の物体が付着している。
「えっと、何故ここに日本製のパンツが飛んで来たんでしょう?」
状況が飲み込めない。何故にこの異世界の街中で日本製のパンツが空を飛んで来るのか?
そう悩んでいると、背後で「あっ……」と小さな声があがった。振り向くとアイリちゃんが俺の右肩を指さし、少々引き攣った様な表情で固まっていた。
「太郎さん……それってもしかして……」
何だろう?左手で着ているパーカーの右肩部分を手繰り寄せてみる……そこには茶色い染み。河川敷公園での記憶がフラッシュバックした。
──ネッチョリ。
今更ながら、手に絡むネバついた感触と共に異臭がしている事に気付く。いや、最初にパンツを見た時から”わかっていた”のだ、その事実を認めたくなかっただけで。
それを見たアイリスさんが後ずさる……
「太郎ちゃん、それ……」
爆笑する大家。
「ぎゃはははは! ウ○コだ! 太郎オメー、流石”ウンコラマンタロウ”だな! 異世界に来てまでクソまみれかよ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!? ウ○コだ! これウ○コだ!!」
叫ぶ俺は、手に持っていたパンツを地面に投げつける!
「臭っ! 何でメイドインジャパンのパンツが、ヴェストラの空を飛んで来るワケ!? ここ異世界だぞ!?」
おずおずとアイリちゃんが手を挙げて言った。
「あの……異世界の人達は……ほとんど下着つけてないんです……」
それを聞き、神妙な顔で腕を組んで考える大家。俺も急に冷静さを取り戻す。
「ちょっと待てやアイリ、つーと何か? その辺のオネーチャンと達は皆、ノーブラでノーパンっつー事か……?」
「えっと……はい……」
顔を見合わせ、力強く頷き合う大家と俺。
「「夢の世界かよ!?」」
それを見て、大きく溜息をつくヒルド。隣ではアイリスさんがスカートの裾をつまんでピラピラさせていた……
「うふふ、お姉ちゃんはねぇ……」
「あっ、ハイ。ティーバックっすよね? 天界で拝見致しました! しました!」
「ぶーっ、ノリ悪くてツマンナーイ」
そうして緊張感の無い下らない話をしていると……再びあの音が──!
ひゅうぅぅぅぅぅ──パシィッ!!
「ふ、ふごっ──!?」
騒いでいた俺の顔面に着弾する”新たなソレ”。咄嗟の事で呼吸ができず、負けじと勢いよく息を吸い込むと、突然俺の鼻腔を満たす強烈な異臭──!!
「く、臭っ!?」
なんと飛来した”新たなソレ”は……着弾の衝撃で広がり、俺の顔面へと綺麗に被さってしまったのだ。
不運にもパンツが顔に対して縦に覆い被さった為、左右のパンツの足を通す穴から、俺の両目が片側ずつ露出している状況で……端から見れば”変質者”そのものだ。
俺の姿を見て笑い転げる大家。
「ぶわっはっはっはっ! なんだそりゃオメー!? アレか? 昔、少年漫画で流行った『変態マスク』かよ!? くっそウケるぜ! ほれ、言ってみろ!『それは私の……』あれ? 何だったっけ? いなり寿司だったか?」
俺は慌てて顔面に被さったパンツを剥ぎ取ると、必死で顔面に飛び散った”茶色い物体”をパーカーの袖で拭った。
「うげえぇぇぇぇ! ウ、ウ○コが顔にぃぃぃ!?」
しかし次の瞬間、再びあの音が。
ひゅぅぅぅぅぅ──パシン!
今度はソレが、笑っていた大家の後頭部に炸裂する。
「うげえ!? 臭ぇ!」
罰が当たった様だ。頭に張り付いたパンツを掴み、それを見て笑う俺へと投げつけてくる大家さん。
しかしまた、新たなパンツが大家さんへと直撃。彼の頭もクソまみれだ。 言葉無くドン引きする女性陣……
しかし大きな疑問が残る。それは何かと言うと、何故こんなにも”メイドインジャパンのパンツ”が空を飛んで来るのか?という事だ。しかもウ○コまみれで。
だが、そう考える暇も無い程に次々と飛んで来だすパンツ。皆必死で避けてはいるが、その飛来する間隔がどんどん狭まってきている。はっきり言って異常事態だ。
アイリスさんが超遠視矯正用のメガネを外し、そのパンツが飛んでくる方角を凝視した。
「ああーっ! 塔の上にレアちゃんとミストちゃんがいる! あの娘達、一体何してるの!?」
「ええっ! これってアイツらの仕業なんですか!?」
「あっ、見張り台のところに何か見えるわ。あれって……天界の工房用の”魔導増幅器”じゃない!?」
「何ですか? それ」
訪ねる俺の隣で、アイリスさんの話を聞いたヒルドの顔が引き攣る。
「アイリスそれは本当ですか!? いやしかし、あの道具がこんなにも遠い距離へ”複製品”を飛ばすなど……聞いたこともないのですが」
「きっと何か変な使い方したに違いないわ! 私も研究部じゃないから詳しくはわからないけど……多分、魔導具が暴走してるんじゃないかしら?」
どうやらレア達が”ま~た何かやらかした”らしい。
そうこうする内にどんどん数を増やし、広場へと降り注ぐウ○コ付きのパンツ達。それはもうおびただしい数であり、足元は既に……パンツで踏み場が無くなりそうになっていた。
しかし更にその勢いは増してゆき、降り積もったソレに、足を取られる住民達の姿も見え始めている。
「おい、流石にこれヤベーんじゃねーのか!?」
アイリちゃんを肩車して逃げる大家が叫ぶ。確かにこのまま行くと……考えたくない事態になるのも時間の問題だろう。かと言って俺達にはどうすることも出来ないのだが。
そして次の瞬間──
──ブバババババババババババッ!
ものすごい音。ヒッチコックの映画の『鳥』の如く、羽ばたくパンツの大群が街を襲ったのだ!
それはさながら”皆既日食”の様であった。空を覆い尽くすパンツの群れが……周囲を高い城壁で囲われた街の広場から日の光を奪い去り、流星の様に皆へと襲いかかる。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!? 何じゃこりゃあぁぁぁ!?」
「ウ○コが口に入っちまった!」
「くせえぇぇぇぇ!!」
阿鼻叫喚の地獄。勢いを増すパンツの群れは……逃げ惑う皆の足元に絡みつき、その機動力を削いでゆく。積もる高さは既に膝下程度はあるだろうか?
最早、敷き詰められたウ○コまみれの布の上を走る事は不可能だ、それでも皆、必死で逃げ惑う。
「た、太郎! 助けてください!」
ヒルドか!? 俺が声のした方向を振り向くと……なんと甲冑で重装備だった彼女は、腰までパンツに埋まってしまっていた。哀れその美しい蒼い髪も、今や茶色く染まっている。
「待ってろ! 今行くから!」
彼女の近くへ急行し、上半身を抱きかかえて引き抜こうとするが……抜けない。俺がモタモタしていると、どんどんパンツが降り積もり、ヒルドの胸辺りまで覆い尽くしてしまった。
まずい! このままでは彼女が窒息してしまう! 俺は咄嗟にパンツが積もった背中のリュックから、オリハルコン製のビニール傘を抜き取り開き……庇うようにヒルドの前へと突き立てつつ寝転がった。
これで少しは空間が確保できるだろうか? 更に降り積もるパンツは全てを覆う雪のかまくらの如く、俺達の周囲を取り囲んでゆく。
「い、いけません太郎! 貴方だけでも逃げてください! ──私の事はいいから!」
「馬鹿言うな! お前を見捨てられるかよ!」
「太郎……」
そしてそのまま暫く経つと……俺もヒルドも一切の身動きが取れなくなってしまったのだ。
布に覆われた世界の中、突き立てた傘の内側の空間へ静寂が訪れる。パンツが重くのしかかり、既に脱出はできない、もしかしたらこのまま……死が頭をよぎった。”死因がパンツ”というのは随分笑えない話ではあるが。
「太郎、私は……」
申し訳なく思っているのだろうか? 珍しく塞ぎ込むヒルド。その表情にはいつもの自信はない。
「気にすんなって! 流石に仲間を見捨てて自分だけ助かるとか……なっ?」
薄暗い中、少し笑う彼女。顔が近くて少しドキドキする。どうやらヒルドも同じ様で、視線は少し逸らしたままだ。
以前から気付いてはいたが、ヒルドは美しい。濡れた髪と憂いを帯びた表情に……ドキリとした。まあ何の液体で濡れているのかは考えたくもないが。
そうこうしている内に更にパンツが降り積もったのだろう、完全に傘の中の空間から光が失われた。とりあえず気まずくなった俺は何か話そうと……
「あ、あのさ……」
「た、太郎、私は……」
同時に言葉を発しようとし、双方供に会話が途切れる。
「ど、どうぞ……」
「い、いえ……貴方が先に……」
うわぁ何これ!? 甘酸っぱい!! これが俗に聞く”吊り橋効果”とかいうヤツなのだろうか!? パンツの壁の中だから”パンツ効果”なのかも知れないけど!
いや待て、そういう風に捉えているのが俺だけだったら恥ずかしいものがあるな、それこそ後で恥をかきそうだ。まあ、後があれば……の話ではあるが。
そっとヒルドが口を開く。息づかいが近い。
「太郎、何か……話をしてもらえますか? 何でもいいです」
「え、えっと俺、女の子に何話せばいいのか……」
「ふふっ、貴方の事なら何でもいいですよ? でも悪くないものですね、”女の子扱い”して貰うというのも……」
「ちょ、何か照れるからやめろよ……」
「太郎、私は……」
彼女がそう言いかけた時だった。傘の上の方から”声”が掛かる。
「おう、オメーら。なーにウ○コパンツの中でイチャついてんだよコラ」
驚いた俺達が上を見ると……傘の頂点辺りにパンツ一枚程の小さな穴。そこから見慣れた顔が覗き込んでいたのだ。
「大家さん! 助かった! あれ? パンツはもう止んだんですか?」
「おう、今助けてやっからチョイ待ってろ! ウ○コパンツは……少し前に打ち止めだぜ。アイリとアイリスも無事だ、みんなクソまみれだけどよ!」
パンツの山の中から救出される俺とヒルド。アイリスさんがようやく抜け出した俺達二人に”浄化の魔法”を掛け、汚れた衣類や身体を清掃してくれた。
「いやー、マジで死を覚悟しましたよ。死因がパンツなんてマジで笑えないっスけど」
ヒルドも同意する。
「全くです。彼女達のおかげで、天界史に残る最低な汚名を被るところでした……」
ふと思い出した俺は、ヒルドに問う。
「そーいやさ、ヒルド。さっき最後に何を言おうとしてたの……?」
「ふふっ。あれは……内緒ですよ」
俺の問いに一瞬驚いた様な顔をした彼女は……少しだけ赤い顔でそう言い、珍しく悪戯っ子の様な表情で笑ったのだった。




