勇猛なる者達
こんにちは!ワセリン太郎です!なんと本日分は【ご飯を食べながら読んでも大丈夫】な内容となっております!ご安心ください!!だいじょーぶ!!
再び話を戻そう。
レア達の捜索と敵の残党に対処する為、警戒を密にしてヴェストラの街中を歩く俺達だったのだが……先程から一切、敵とは遭遇していない。
後ろからオドオドしながら付いてくるアイリちゃんが周りをキョロキョロしながら言った。
「あの、何もいませんね……もう怪物さん達いないのかなぁ……?いないといいなぁ」
ウフフと笑うアイリスさん。街中に入ってからは視力矯正用の眼鏡は掛けたままだ。
「そうねぇ……でも、もし出て来てもだいじょーぶっ!アイリちゃんにはお姉ちゃん達がついているもの!心配いらないんだから!」
アイリスさんに頭を撫でられて少し落ち着いたのか、笑顔でコクリと頷くアイリちゃん。そうビクビクしなくとも……ぶっちゃけた話、現状暴れ出せば一番強いのは彼女なのだが。
しかし俺は先程から妙な違和感というか不自然さを感じていた。それが何かと言うと”正門以外に全く敵がいない”という事。
奴等は河川敷での騒ぎの際にはもっと大群で押し寄せてきたし、単純にヴェストラの正門を封鎖するだけとは言え、指揮官と怪物三十体だけの集団とは……少々、手薄過ぎやしないだろうか?
最後尾の警戒に当たりつつ進むヒルドも同じ事を考えていたのか、それについて言及する。
「少々……様子がおかしいですね。あれでは敵が少な過ぎる気もしますし”何かある”と思っておいた方が賢明でしょうか」
「うん……俺も今、それを考えてたんだ。街を纏めて人質にする様な連中だし、何して来るかわかったもんじゃないしなぁ」
そう言いながら経験上”ある事”に気が付いた俺は、先頭を行く大家さんへと声を掛けた。そう、何をしてくるかわからない悪党共の事は……悪党に聞くのが一番早いのである。
「大家さん!何か思ってたより随分と敵が少ない気がするんですよ。正門に三十数体だけとか……ちょっとおかしくないです?大家さんが敵の親玉なら……どうします?」
俺からの問いに歩き煙草をしながら考える素振りを見せる大家さんは……暫くしてこう答えた。
「そりゃオメー……最初の奴等を捨駒にしてよ、ソレを始末した相手が気ぃ抜いたときに……街ごと取り囲んで”全員人質”にするわな!」
発言した大家以外、全員の足がその場に停止する。後ろを向いて不思議そうな顔をする大家。
「おう……あんだよオメーら、急に神妙な面してどうしたんだよ?」
「レア達は後だ!急いで正門に戻ろう――!」
来た道を走って戻る俺達。後ろから大家さんの何か騒ぐ声が聞こえたが……今はそれどころではない。走る走る走る……そして数分後、正門に戻った俺達が目にしたのは……
ジーザス――!城壁の街、ヴェストラを取り囲む異形の軍団。その数、数千はいるだろうか……?俺達を抑え込む為だけにしては……少々派手過ぎやしないか?と思える数だ。
また時空の裂け目を使って現れたのだろうか?流石にあれだけの数が近くに待機していたのなら、街に突入する前に見逃す筈がない。
遠くを見る為、視力矯正用の眼鏡を外しつつアイリスさんが口を開く。
「ちょっと……これはまた随分と”過大評価”されたものねぇ。ひー・ふー・みー……う~ん、あれ多分三千匹はいると思うの……」
「さっきのヒルドの一撃が……随分と高評価だったんでしょうかねぇ……」
双眼鏡を覗きながら余計な事を言う俺の脇を、ヒルドが軽く肘で小突く。
”街が封鎖から解放された”との噂でも巡ったのだろうか?ちらほらと、街の住人達が正門付近へと集まりだしている。
解放されたとの吉報から一転して最悪の状況、街の皆が絶望しなければよいが……しかしこんな状況で他人の心配とは、随分と俺も神経が太くなってきたものだ。
しかし直後、俺達はある違和感に気が付く。それは何かと言うと……住民達が各々、手に剣や農機具、または鈍器の様な物、等々……あまり穏やかではない得物を持ち、正門付近へと集まって来ているのだ。
不審に思ったのかヒルドがそっと耳打ちしてきた。顔が近く、ちょっと良い匂いがしてドキリとする。
「太郎……街の住民達の様子が少々おかしいとは思いませんか?あれだけの大軍を目の前にしておいて、怯むどころか逆に殺気立っているような?」
「うん……やっぱヒルドもそう思う?どう考えてもおかしいよな、死を覚悟して自暴自棄……って雰囲気でもなさそうだし」
そうこうする内に得物を手に正門広場へ集まって来た男達の数はあれよあれよと増えてゆき……その数、恐らく五百人以上。これではまるでお祭り騒ぎだ。
一体何が起きているのか理解出来ずに周囲をキョロキョロと見回していると、俺達の近くにいた八百屋と思われるオッサンが大声で妙な事を言いだす。
「よし、西九通りの野郎共は全員揃ってんな!結構結構!おう、外を見てみろよ!敵の数、ありゃどんくらいだ?三千ちょっとって所か?大した事ねーな!街側の数が五百として……一人当たり六、七匹程ブッ殺せば仕舞いよ!」
「おう、後は”あの鐘”が鳴るのを待つだけだな!あれが鳴れば”奴等の弱点”がバラ撒かれるらしいからな、そうなりゃ敵は総崩れ……後は全員で突撃して頭をブッつぶせば俺等の勝ちってなモンよ!”あの鉄をも切り裂く鎌”さえどうにかなれば、アイツらなんざ敵じゃねえ!」
皆、一体何を言っているんだ……?敵の弱点がバラ撒かれる?外の軍勢に突撃する!?とうとう酒まで持ち込まれ、景気づけにと一杯ひっかける者まで出て来ており……意気投合したらしく大家と乾杯している人の姿も見える。アイリスさんも状況に驚きを隠せないでいた。
「ねぇ太郎ちゃん、この人達”敵に勝つ気”でいるみたいだけど……一体どうなってるの?」
「俺にもわかりませんよ!それよりバラ撒かれる”弱点”って……」
そう言った俺がヒルドの顔を見ると……これから起きる事を予測してか、彼女も顔色があまり良くない。
「ええ……とても嫌な予感がします。恐らくこれは”彼女達”の仕業でしょう」
街の屈強な漢達が剣と盾を打ち鳴らし、足踏みが大きな地鳴りへと姿を変えてゆく。何処からか角笛が鳴り響き、各所から雄たけびが上がる。さながら合戦前の勇猛な戦士達といったところだ。
カーンカーンカーン――!カーンカーンカーン――!
そしてとうとう……”あの鐘”が鳴らされたのである。




