アホの子達は行く
こんにちは!ワセリン太郎です!ステーキが食べたいです!お金は無いんですけどね!言うだけなら無料なのです!
大家がロケットランチャーをブッ放し、固く閉ざされた城門を破壊する直前まで話を戻そう。
アイリスの援護射撃にて無事に城門を通過したレアとミストの二人は……後方で起きている騒ぎなど気にも留めずに段ボール箱に隠れたままコソコソと進み、ヴェストラ市街地へと侵入する事に成功していた。既に正門より数十メートルは奥へ来ている。先を進むミストが興奮して騒いだ。
「やったなレア姉さん!誰もアタシ達に気付いてないぜ!」
「うむ!流石ミストが考案した作戦だけの事はあるな!あの怪物共、隣を通り過ぎたのに全然気が付かなかったぞ!どうやら我々には諜報活動の才能もあるようだ。まあエリートだから当たり前なのだがな!」
「諜報活動……!?うっそマジかよ!?つーかアタシらカッコよくね?潜入捜査とか超カッコよくね!?」
「うむ!大家の家にあった【女潜入官危機”一発”……どころか数十発!!】というタイトルのDVDが思い出されるな!」
「数十発――!何かよくわからないけど……すげーカッコいいな!」
「うむ、エーブイというものらしいぞ!私もまだなので戻ったら参考までに見てみる事としよう!」
お互い大声で会話しているので、丸見えどころか悪目立ちしている。
ギイィィィィィ……彼女達の背後で重い音を立てて閉じられるヴェストラの正門……レア達を分断する為、わざと侵入を許した魔人が部下の怪物達へと指示を出す。完全に彼女達を孤立させる為、通過後も暫く見逃していたのだ。
続々と隠れていた城門内の衛兵待機所から現れ、ひっそりと足音を立てずにレア達の背後から迫る異形の怪物達。しかし次の瞬間……
ズドン――!
大家の撃ったロケットランチャーが閉ざされた正門へと炸裂――!
「「キシャァァァァァァァァ!?」」
破壊され宙に舞う城門の瓦礫と共に木っ端微塵に吹き飛ぶ怪物達――!この一撃によって彼らの大多数は冷たい骸と化した。生き残った者もいるにはいるが……半身を失ったり、急所である頭部を大きく損壊して動けなくなっている。
門より少し離れた位置に居た為致命傷から逃れた魔人は、血まみれになった腕で瓦礫を払いのけながら呻く。
「グッ、一体何が……?外部の敵からの攻撃か!?」
この一撃により部下の殆どを失った彼も、爆発と降り注いだ瓦礫により少なからずダメージを受けてはいるが……外部の敵の方が脅威である、そう素早く判断して城壁の外へいる太郎達の元へと向かった。
爆発音に驚き騒ぐレアとミスト。
「ちょ!?レア姉さん、何か今スゲー音したよな!?」
「うむ!何かよくわからんが……凄い音だったな!私も少々ビックリしたぞ!それはそうとミスト、そろそろこの段ボール箱も必要あるまい。ここへ置いて行くとしようか!」
「そーだな!んじゃ一丁大暴れしてやろーぜ!」
そうして段ボールを脱ぎ捨てた二人は周囲をキョロキョロと見回すが……そこには瓦礫と化した正門とおびただしい数の”敵の残骸”が。怪訝な顔をしてミストが言う。
「レア姉さん、これって……敵もう……いなくね?」
しかしフフンと笑ったレアがこれを否定する。
「ミストはまだまだ甘いな!こういった場合に簡単に警戒を解くのは三流のやることなのだ。しかし私ほどのエリートにもなると……そうは問屋が卸し売り!敵は間違いなく街中にも大量に隠れているに違いない!これから奴等を一気に炙り出してやるのだ。あっ、炙り焼きイカが食べたくなってきたな!」
「マジか!まだ隠れてるのか!んじゃこれからどうすんのさ?」
当然ミストは侵入した後の事など一切考えてはいない。再びレアが胸を張って答える。
「私にいい考えがある……!これより我々は敵の本拠地を叩く!」
「本拠地――!」
いや敵の本拠地であった正門は既に叩かれた後なのだが……レアは背負っていたリュックを降ろし、ゴソゴソと中を漁った。
「ミスト、お前は敵の弱点を覚えているか?実は私は前回の戦いでバッチリと記憶したのだ。えっと……あった!これで奴等を一網打尽にしてやろう」
レアの手には装飾の施されたダイヤル付きの黄金のリングの様な物が二つ。直径は三十センチ程だろうか?彼女は嬉しそうにそれをミストに見せた。
「こちらへ来る前に天界へ準備をしに戻っただろう?その際に【魔導具管理部門】のアルヴィト姉さんに”これ”を借りてきたのだ。何でも片方の輪を通したものが異空間?を通じてもう片方の輪から大量に増幅されて排出される魔導具らしい……で合ってたっけ?」
ミストが少し困った様な顔をする。
「アルヴィト姉さんって……あの研究者でスゲー変わり者ってウワサのあの人?”それ”ホントに大丈夫なのか?なんかあの人”色々とやらかしてる”らしーぜ?」
「ミスト、他人の噂などに流されてはいけないぞ!彼女は非常に優秀な魔導具開発者だからな!」
「そっかー、噂なんて当てにならないんだなー」
頷くレアは魔導具の説明が書かれたメモ書きを見ながら、片方のリングに付いている装飾の一部を触ってみる。
「これがダイヤルか……ここを回すと”排出量”が増えると。ふむふむ……メモによると”あまりダイヤルを大きく回すと起動に必要な魔力と排出量が膨大となる為、適切な量を……云々”か。とりあえずよくわからないので”最大”まで回しておくか!」
「うん、そうだな!そうしよう。大きい事はいい事だしな!」
文字が”読める事”と”理解が出来る事”は別の話である。ダイヤルを限界まで回すアホの子二名。ミストは説明書も一切読まないまま、もう一つの排出側リングのダイヤルも”最大”方向へと回した。
「レア姉さん、次はどーすんだ?」
「うむ、とりあえずこの排出用のリングを……どこか高い所へ設置しないといけないな。はて、どこにしようか?」
ポン!と手を叩くミスト。
「ああ、それなら……あのクソ領主が住んでた館にしよーぜ?あそこ高い見張り塔みたいなのあったし!」
「おお!ミストは賢いな!ではそうするとしよう。あそこまで歩きながら魔導具の起動に必要な神気を注入するか……」
各々手に持った黄金のリングへと手をかざし、神気を注ぎ込みながら元領主の館へと歩き出すアホの子二人。
後方で一瞬ヒルドの神気が膨大に膨れ上がったが……二人共、一切気付く事はなかった。そのままヴェストラの街のメインストリートを行く。途中でパン屋のオヤジから声を掛けられた。
「アンタ達、見ない顔だが……もしかして外から来たのか!?」
「うむ!皆、あの怪物共に門を封鎖されていて身動きが取れないのだろう?だが心配はいらないぞ、これより奴等の掃討作戦を行うのだ。我々に掛かればあんな連中は敵ではない、もう少しだけ待たれよご主人」
レアの言葉に驚くオヤジ。当然彼も、既に現時点で敵が壊滅状態である事は知る由もない。
「ほ、本当か!?ありがてぇ!街の物資も限界に近付いててな……助かったぜ!そうだ!俺達にも何か手伝える事はあるか??」
立ち止まり、少し考えて答えるレア。
「うむ。我々が奴等を無力化するので、怪物共が逃げ惑い出したら……皆で得物を持ってボッコボコにしてやると良い。弱点を突かれた奴等は赤子同然、頭をカチ割ってやるとアレは活動を停止するからな!」
オヤジは鼻息荒くブンブンと首を縦に振る。
「お、おう!やってやるぜ!街の連中も随分と殺られちまったからな……弔いだ!今から他の連中にも声を掛けてくるぜ。で、奴等を無力化するってハナシなんだが……合図か何かあるのか?」
少し離れた元領主の館にある監視塔を指差すミスト。
「うん、今からアタシらがあそこから怪物達の弱点を放出するからさ」
「そ、そんなモンがあるのか――!?」
「あるんだなーこれが。そんでさ、それが終わったら監視塔の鐘を鳴らすってのでどうかな?」
「わ、わかった!それじゃ俺も急いで仲間を集めて準備するぜ!アンタ達も気をつけてな!」
「うん、サンキューおっちゃん!」
走り去るパン屋のオヤジ。
彼はまだ知らない……これからヴェストラの街始まって以来、最大の”災厄”が皆の身に迫りつつあるのを……




