神の一撃
こんにちは!ワセリン太郎です!今日も頑張って更新していきます!
「……Gungnir」
ヒルドの身体の周囲に現れる数多の巨大な”光の槍”。そして彼女が手に持つ槍を魔人へと向けた瞬間、それが一斉に射出された。周囲の景色が歪曲され……ゆっくりと青き魔人は解け、光の中へと消えゆく。
そして……直後、爆風――!飛び出したアイリスさんが早口に何か呪文を唱え、俺達の前へ魔法の多重防壁の様な物を展開した。ピシッ――!亀裂の入る嫌な音と共にそれが一枚、また一枚と割れてゆく。再び呪文を唱えて防壁を増やすアイリスさん。キィィィィィン……脳に直接響く様な鋭い共振音。
俺は咄嗟にアイリちゃんを庇って覆いかぶさり、地に伏せた――!
「う、うわぁぁぁぁぁ……!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」
「うおあぁぁぁぁぁぁ!!なんじゃあこりゃあぁぁぁぁ!?」
荒れ狂う暴風、俺の身体がアイリちゃんごと宙へと浮きそうになるが……
「うおるあぁぁぁぁぁっ!!」
急に上からの重い感触。大家さんだ……!彼はその巨体で吹き飛びそうになっている俺達を押さえつけていてくれる。そしてどのくらい経っただろう……?風がゆっくりと、そして静かに止んだ。
過ぎ去った嵐の後、雲の隙間から差す光に舞い散る美しい黄金の羽。それは大聖堂の天井に舞う無数の天使達の姿を彷彿とさせる、そんな絵画の様な世界だった。
「お、終わった……のか?」
恐る恐る顔を上げると……目の前には俺達を庇い立つアイリスさんのパンツが!あ、今日は黒いレースのパンティーだ!えっろ!!ではなくて……遠く彼女の先で白金に輝くヒルドが地に降り立つのが目に入る。
そう言えば大家さんが俺達の上からなかなか退かない。もしや庇った際に身体のどこかにダメージを受けたのでは?そう思って不安になり空を仰ぐと……
大家は……俺の心配をよそに、アイリスさんのパンツをガッツリと覗き込んでいた。
「レースの黒かよ!?ああクソ!ずっと綺麗なケツ見えてたし、もっぺん風吹かねえかな。つーか目に砂入っちまったぜちくしょう!」
アンタ、あのとんでもねぇ爆風の中で、”パンツを見る為”だけにずっと目を開けてたのかよ……? 『砂、入っちまった』じゃねーよ。眼球、削れるだろ。本気で頭おかしいわ。
ふぅ~っと大きく息をついたアイリスさんが、下からパンツを覗かれていた事に気が付き、スカートを押さえて大声をだした。
「ああ~っ!今二人共おねえちゃんのパンツ見てたでしょ!?」
「い、いえ滅相もない!お、俺はちょっとだけ……です……うへへ」
「もぅエッチ!」
「でも助かりました、ありがとうございます」
アイリスさんへ礼を言う俺の上で、ぐへへ……といやらしい顔で笑う大家。
「下でアイリちゃんが苦しそうにしてるし、いい加減に退いて下さいよ。でも大家さんもありがとうございます、助かりました」
「へっ……いいって事よ、気にすんな!俺様もATMに死なれちゃ寝覚めがワリぃからな!」
「――!?今、”子分”って言い方に妙なニュアンスを感じたんですけど……」
「へっ!」と笑って俺の肩をバシッと叩き、それからひょいとアイリちゃんを立たせて服についた土埃を払ってやる大家さん。
「あ、ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げるアイリちゃん。それを見届けた俺は、こちらへと歩いてくるヒルドの方へと目をやった。いつの間にかその姿は……銀色の甲冑を着込んだいつものヒルドへと戻っている。
彼女は少々バツが悪そうだ。
「す、すみません!少々、さじ加減を誤ってしまいました……何分久方ぶりに”力”を使ったもので……いえ、やり過ぎました」
「ヒルド!あれって何だったの!?とんでもない威力だったけど……」
先程まで魔人とヒルドが立っていた場所には球体で抉り取った様な巨大なクレーターが。その規模は大きく、ヴェストラの正門付近の城壁を橋ごと消し飛ばしてしまった様だ。自身の起こした惨状を見、ポリポリと頭をかくヒルドに代わってアイリスさんが説明してくれる。
「あれはね、ヒルドちゃんが神様から預かっている”神器”なの。で、それを使う為にヒルドちゃんが一時的に”一級神”としての本来の力を解放した……って言えばわかるかな?」
「何となく意味がわかったような……わからないような……?でもまあ、とんでもない威力だって事は理解しました」
「あれでも随分と力を抑えてあるのよ~?」
「マジっスか……あっ!もしかしてアイリスさんも同じ様な事ができちゃったり……するんですか?」
俺の問いに悪戯っ子の様な笑みを見せる彼女は人差し指を頬に当て、急に俺へと身体を預けて上目遣いで言った。うわぁい!?妹のアリシアさんと同じ甘い香りが!
「うふふ……ねぇ見たい?そぉねぇ、太郎ちゃんなら特別に私の特別を……」
「えっと、折角ですがまた別の機会に……」
「え〜っ?つまんな〜い」
「アイリス!」
調子に乗ってふざけるアイリスさんを注意するヒルド。
「いやーん怒られちゃった!ヒルドちゃんって冗談通じないのよね~」
しかし例のトビラ山のドラゴン騒ぎの際に”あの力”がアイリちゃんへと向けられなくて良かった……如何に竜族といえどもあれを喰らっては……そう思って安堵する。珍しく大家さんも同じ事を考えていたのか、アイリちゃんの頭へ手を乗せて呟いた。
「つーかヒルド、オメーよくアイリの時にアレ使わなかったな……考えるだけでゾッとすんぜ」
首を横に振るヒルド。
「いえ……この力は現地の住民や、そこに生きる生命に向って使用してはならないとの規則がありますので。あくまで先程の場合は相手が恐るべき実力であり、外部からの侵略者であったとの理由で……」
「でもよ、これでめでたく化物共とやり合っても確実に負けねえって事になったな!おうヒルド、敵が出て来るたびにさっきのヤツを気前よくブッ放してやれや!」
はしゃぐ大家を見つつ、再び首を横に振り否定するヒルド。
「それがもう……力を解放する為に使用した魔法の小瓶は持ち合わせていないのです。あの様な力を幾度も行使するのも問題がありますし……それにあの小瓶の複数所持は認められていないのです。あくまで”有事の際の為の物”という事で」
「って事は……もう使えねえって事か!?おい、アイリスは持ってねえのか?オメーさっき太郎に”ナニをパックリ見せてやんぜオラ!”みてーな事言って煽ってたろ?」
品の無い大家の発言に困った様な顔をするアイリスさん。
「お姉ちゃんそんなお下品な言葉つかってません!えっとね、あるにはあるんだけどぉ……お部屋の机の上に置いてきちゃった……てへっ!」
話の後半、可愛らしく舌を出しつつウインクしてポーズを決めるアイリスさん。しかしそれを聞いて声を荒げるヒルド。
「アイリス!あのような危険物を机の上に放置していると……!?」
「だって……あれって何かオシャレな香水の瓶みたいでカワイイじゃない?だからポリッシュの瓶とかと一緒に飾ってるの」
「何という事を……」
手で目を覆うヒルド。
「だって私達って普段ずっと天界にいるじゃない?だから、よく現世に出る娘達みたいに携帯品とかチェックして出掛ける癖がないの!仕方ないも~ん!」
「マジっスか……」
そうやって皆で騒いでいると、アイリちゃんが俺のパーカーの袖をクイクイと引っ張った……
「あ、あの……!レアさん達がまだ……」
いかん、すっかりあのアンポンタン達の事を忘れていた。再びレア達の”神気”を探ってくれたヒルドの話では「今の所、問題は無さそうです」との事。
しかし敵の首領っぽい奴も片付いたし……どうせ残りは例の異形の怪物達だけだろう。それに敵の殆どは先のロケットランチャーの一撃で城門共々粉砕済みの筈だ。
「おう、そうだったな!んじゃ残党狩りといきますかね……」
こうして大家さんの言葉に頷いた俺達は、ヴェストラの街中へと向かって歩みを進めたのである。




