段ボールと神槍
こんにちは!ワセリン太郎です!皆様、もう少しで週末ですね!また遊べます!頑張っていきましょー!土日がお休みでない方ごめんなさい!でもエールを送ります!がんばれ!
ゴソゴソと異世界の荒野を蛇行しながら進むツギハギだらけの段ボール箱が二つ……説明するまでもないが、中に入っているのは我らがアホの子レアとミストのおバカコンビだ。
興奮したレアが、少し先を進むミストへと声を掛ける。
「ミスト!ミストはアタマがいいな!エリートの私でもこれは思いつかなかったぞ!」
レアの賛辞に嬉しそうに後ろを振り向く段ボール。
「へへへ……褒められちゃったぜ。でもさ、実はこれアタシのアイデアじゃないんだなー」
「ほう……これを考えたのはどこの天才だ?」
「こないだ読んだゲーム雑誌に書いてたんだ。”潜入は段ボール箱に限る”って。でも良かったぜ、冷蔵庫とか買った時の段ボール箱とっといてさ」
「うむ!ミストは賢いな!しかしこの段ボールの隠密性は非常に優れている!私からも”殆ど外が見えない”ぞ!流石にこれでは敵も気付き様がない!」
「だよな!アタシ達から見えないって事は敵からも見えないって事だもんな!」
丸見えである……しかも大声で騒いでいるので余計に目立つ。先程からジグザグと正門へ迫りくる怪しげな物体を”あれは……何だ?”といった雰囲気で注視していた異形の怪物達が騒ぎ出した。そりゃそうだろう。
「キ、キシャァァァァ!」
数体が鎌を打ち鳴らし始め、レア達の方向へと走りだした。俺達と段ボールの距離はまだ遠い……俺は走りながら後ろへと声を掛ける!
「アイリスさん――!」
「わかってるっ――!」
バシュッ――!俺の横をかすめて飛んでゆく光の矢が二本。それは恐るべき速度で先頭を走る二体の怪物の頭部へと吸い込まれ……生命の活動を終焉へと導く。
「みんな、射線上に入らないでねっ!」
再び駆ける光の矢。これも見事に後続の怪物達を一瞬で沈黙させた。
「す、すげえ!これもうアイリスさんだけで全部終わっちゃうんじゃね!?」
「そう簡単にいけば、お姉ちゃんも楽ちんなんだけどね~?あっ!次が来たわ!」
ヴェストラへと到達し、正門の前に掛かる橋を蛇行しながら進む段ボール箱。それに再び五体の怪物が襲い掛かる!つーかあのアンポンタン達はいい加減”襲われてる”って気付けよ!!
「みんなどいてっ!一気に仕留めちゃう!」
アイリスさんの合図で射撃を邪魔しないよう、散開する俺達。今度は五つの光のラインが同時に奴等を骸へと変えた。後ろを走りながら大家さんが叫ぶ。
「おい!さっきから見てねーが、あの妙な人型の怪物野郎はどこ行った!?アイツがボスだろ?」
「そういや……アイツさっきから見てませんね。でも青鬼か、わかりやすいし呼び方はソレでいきましょう!」
「おう!鬼退治だぜ!」
俺の後ろを走るヒルドが叫んだ!
「レア!ミスト!そこで止まりなさい!既に貴方達は敵に見つかっています!いえ、当たり前の話なのですが……」
しかし全く聞こえていないらしく、橋を渡りどんどん奥へと進んで行ってしまう段ボールズ。背後から「ああっ――!もうっ!」と嘆く声が聞こえる。
今のところアイリスさんが狙撃し続けてくれているのでレア達に到達する怪物はいないが……そうこうしている内に正門の内部へと消えてゆく段ボール二つ。直後、門に設置された扉が重い軋み音を立て……閉められてしまった!くそっ、硬い扉にアイリスさんの矢が弾かれる!
「ヤバい!分断された!」
「おう!退けオメーら!一発かますぜ!!アイリ!後ろに立つなよ?」
背後を見るとロケットランチャーを構える大家の姿が。俺は直感的に叫んだ。
「みんな伏せて!」
バシュン――!!とんでもない音と大量の煙を残して飛んでゆく弾丸、それは見る者に奇妙な感覚を残しつつ……閉ざされたヴェストラの正門へと着弾した。
ズドン――!!震える空気と耳をつんざく轟音、そして……土を持ち上げる乾いた炸裂音と共にヴェストラの正門が吹き飛ぶ!
地に伏し、唖然とする俺達の目の前でバラバラと宙に舞い散る石積みの城門。数は不明だが何体かの異形の怪物も同時に高く吹き飛ばされて床へ叩きつけられたのが見えた。当然、倒れた石柱に押しつぶされた敵もいる。
「ちょ――!?大家さん!?レア達に当たったらどうすんの!?」
「あぁん!?門閉められたし仕方ねえだろうが!ガタガタ言ってねえで走れやオラ!!」
撃ち終えたロケットランチャーを投げ棄てながら大家さんが叫ぶ。まだ彼の背中には”もう一本”残っている……想定外の威力だし使いどころを間違えなければいいが。後から遅れてきたアイリちゃんが心配そうに言った。
「あの!レアさんとミストさんは……無事でしょうか!?」
暫く目を瞑っていたヒルドが答える。
「ええ、彼女達の”神気”を探っていたのですが……どうも爆発には巻き込まれず、更に奥へと侵入している様ですね。恐らく敵に背後から襲われる前に爆発が起きたのでしょう、それに現在交戦している様な感じも受けません。全く何という強運……」
胸を撫で下ろすアイリちゃん。しかしアタマは弱いが運の強いヤツらだ……とりあえずホッとする俺達。
よくわからないが、胸を張りドヤ顔の大家が言った。
「おう、俺様のおかげだな!まさかあんな火力があるとは思ってなかったけどよ!」
「結果オーライってだけじゃないっスか!!マジでビビりましたよ……」
その時だった。煙で視界の悪い正門に人影が一つ。それはゆっくりと橋を渡り、こちらへと歩みを進める。そう……人型の魔人だ。
「こいつらは……一体何だ?」
えっ!?喋った!?驚く俺にヒルドが後ろから声を掛けてくる。
「太郎、我々には”言語習得”の魔法が掛かっているのを忘れたのですか?相手が文明を持ち、”何らかの言語”を操る存在であるなら……何も不思議はありません」
「そ……そうか」
「ええ……」
そう言うと前へ出るヒルド。警戒を解かず槍を構えたまま、青鬼へと声を張り上げた。
「何者かと聞きたいのはこちらの方です!我々は天界より遣わされた戦乙女。この世界の秩序を守る者……答えよ!貴方達の目的は何か!?」
暫くヒルドを見つめ、ゆっくりと答える青鬼。
「驚いたな……我々の言語を理解するのか?だが、答える必要はない」
アイリスさんが視力矯正用の魔法の眼鏡を掛けつつ、ヒルドへ声を掛けた。そうか超遠視で近場が見えないんだった……
「ヒルドちゃん気を付けて。強いわ……」
頷いたヒルドはポケットからガラスの小瓶を取り出し、地面へと叩きつける。
「確かにかなりの手練れと見受けます。手加減は不可能でしょう、本来奥の手でしたがやむを得ません……第一種限定の解除。皆、私から離れていてください」
ヒルド、一体何をする気だ?俺はアイリスさんから手を引かれ、されるがままに後退した。
「神気……解放――!」
突如ヒルドの周囲を取り巻く光の渦――!巨大なうねりと化したそれは彼女の身体を包んでゆく……まるで巨大な光の柱だ。舞い散る光の飛沫、その中からゆっくりと二対の黄金の翼が現れる。
まぶしい……はっきりと視界が戻ってくるとそこには……この世のものとは思えない……そんな女性が宙に羽ばたいていた。光輝く白金の髪、眼には紅い光を讃え……眩いばかりの翼を携えている。
そして輝く武具には神々しい装飾が施されており、虹色の美しいルーン文字の様なものが浮かんでいた……まさにその姿こそ天界の女神。現世に偶像ではなく、美しき真の女神が降り立った瞬間だった……この場に居れば誰もその表現に反論はできまい。
「あ、あれはヒルド……なのか!?」
驚く俺に頷くアイリスさん。
「あれが……ヒルドちゃん本来の姿よ」
目を見開く青鬼。奴は背中から大剣を抜き、ヒルドに向って構えた……ヒルドが青鬼に向って語り掛ける。
「もう一度聞きます……貴方達の目的を聞かせては貰えないだろうか?そうすれば争いも……」
言いかけたヒルドを制し、青鬼が答えた。
「……断る」
「残念です……」
眼を瞑り、首を左右に振るヒルド。彼女は俺達の方を向き、遠く下がるように伝えてくる。戦場を支配する静寂……
「手加減無用!行くぞ――!」
刹那、大剣を担ぎあげた青鬼が叫び、ヒルドを目がけて駆けだした!!速い――!?しかしヒルドは武器を構えもせず、何かを呟きだす……
「Þurisaz~Dagaz~Naudiz~Gebō~Ansuz……」
反響する彼女の声に大気が震える。快晴だった空には暗雲が立ち込め……ヒルドの頭上で嵐が渦巻きだす。時に巨大な雷の竜が吠え、絡み合い、空を駆けた。
大剣を振りかぶって跳躍し、彼女の目前へと迫る青鬼。しかし次の瞬間、羽ばたくヒルドの口から最後の単語が静かに発せられたのだった。
「……Gungnir」
それが勝負が決した瞬間であった。




