密やかなる進軍
こんにちは!ワセリン太郎です!月曜日ですね!皆様、今週もサザエさん症候群を乗り越えて元気良くいってみましょー!
俺は双眼鏡で見た敵の指揮官らしき人物の特徴を携帯にメモする。仮に同じ様な奴が複数いた場合に判別する為だ。奴は背中に両手持ちであろう剣を携えているが……その他目立った武器は持っていない様に見える。
そして先程からずっと監視してはいるものの、ヤツ以外に”人型”の怪物は現れていない。
「おう太郎、まあこれでも飲んで一息つけや」
煙草の煙を立ち昇らせつつ、大家さんが缶コーヒーを投げてくれた。お礼を言い、プルタブを起こして一口すする。ちなみにこの缶コーヒーは……全部俺の奢りである。出発前に寄ったコンビニで大家に無理矢理”大人買いさせられた”物だ。
色々と言いたい事はあるが……まあ何を言っても無駄だろう、諦めて再び双眼鏡へと視線を預ける。
そういえば神様やメルクリウス達は今頃河川敷公園で大乱戦の最中だろうか?皆無事だといいが……でもまあ魔属軍の応援もあるらしいし彼等がそう簡単におくれを取るとも思えない、そう思って目の前の事態に意識を集中した。
「しかし思ったより敵の数が多いな……どうも正門付近をうろついているのが三十体程度ってだけで城壁の内部通路なんかにも潜んでるみたいだなぁ。たまに変な所から顔出すのもいるし」
落ち着いて観察していると敵は正門付近だけではなく、城壁の上や街の周囲にも四~五体が一セットになって現れる事がある。当然と言えば当然なのだが敵も外部からの襲撃を警戒しているって事か?そうしていると俺の隣に誰かが座った……どうやらアイリスさんのようだ。
「ねーねー太郎ちゃん太郎ちゃん」
「どうしました?」
「お姉ちゃんね、普段弓隊率いてずっと天界にいるじゃない?だからこういうのも何だか新鮮で楽しいな~って思うの!ちょっと不謹慎かもだけど」
「そうですかぁ?俺は人質救出作戦なんて気が重いっスよ……」
「うんうん、わかってるわかってる!でもね~レアちゃんもミストちゃんも、いつも太郎ちゃん達と一緒に騒いでて楽しそうじゃない?お姉ちゃんちょっと羨ましくて……妬いちゃうかも!あ、でもヒルドちゃんはいつも何と言うか……大変そうね」
「レアとミストは後先考えずにかなり突拍子もない事をしますからね。あいつら二人はこういう時でもちゃんと監視しておかないと突然いなくなって……あれ?」
俺はそう言いながら問題児二人の姿を視界の中に探すが……あれ……?いない――!?少し離れた場所で缶コーヒーを手にヒルドと話をしていたアイリちゃんが俺が慌てているのに気が付いてこちらへとやって来た。
「太郎さんどうかしたんですか?」
「ア、アイリちゃん、レア達が……どこにいるか知ってる?見当たらないんだけど」
しかしヒルドの方は……俺の表情を見て一瞬で察したのか「あっ!」といった表情を見せ、駐車してある大家さんの自家用車へと駆け寄った。彼女は運転席の窓ガラスを叩いてシートに寝転がっている大家を呼ぶ。
「し、大家殿!レアとミストを見ませんでしたか?二人の姿が見えないのですが!」
「あ?レアとミスト?いや?そういや見てねえな……後部座席にも乗ってねえぞ?さっきトランクから段ボール箱を出して組み立ててるのは見たんだけどよ……あんだよ?エラく慌ててオメーらしくねぇな」
「だ、段ボール箱ですか?そういえば今朝、二人がミストの部屋からかなり大きいサイズの畳んだ段ボールを持ち出しているのを見ましたが、レジャーシートの代わりにでもするのだろうと思っていました……それを組み立てていた……と?」
煙草をくわえたまま頷く大家さん。俺も慌てて車へと近寄る。
「おう、さっき”段ボール箱作るからガムテープをくれ”って言ってきてな。テープ渡したら車の陰で二人で嬉しそうに騒ぎながら組み立ててたぜ?あんまうるせぇから窓閉めて横になってだんだがよ……」
「それが二人共いないんです!ああっ、猛烈に嫌な予感が――!!」
その時だった……俺とヒルドの背後からアイリスさんとアイリちゃんの叫び声があがったのは。
「えっ!?ああーっ!」
「あ、ああああ!」
驚いて振り向くと二人がヴェストラの正門の方角を指差して何か騒いでいる。何があったのだろう?まあ”嫌な予感”しかしないのだが……とにかく岩場の方へと走る。
「二人共どうしたの!?」
二人が指差す方向を見るが……一般的な視力しかない俺には特に何も見えない。そういえば竜族であるアイリちゃんもマナのある場所では集中すれば遠視が可能って言ってたっけ?慌てて双眼鏡を拾い、指された辺りを見てみるが……
「ん……?何かあります?特に何も見えないんですけど」
岩場にかがんで双眼鏡を覗き込む俺にアイリスさんが上から覆いかぶさり、視点をその方角へと導いてくれ……うわぁい!背中に押し付けられたおっぱいが大っきくてやわらかーい!!……じゃなくて、注意してその辺りを良く見てみる。
「ん――!?今、何か動いたような……?」
「太郎ちゃん、よーく見て!段ボールの色が周囲の土の色に紛れて見えにくいんだけど、あれって……あっ、もうちょっと左に行ったわ!」
ホントだ!”何か”がいる――!!
「あっ、見えた――!えっ?あれって密林商会の……段ボール!?」
ジーザス!!俺の目に映ったのは……異世界の荒野を進む”世界的大手通販企業、密林商会”の巨大な箱が二つ。
箱のサイズ的につぎはぎ仕上げだが……丁度こちらにあの誰もが知っている”ニヤリと笑ったようなマーク”が向いていた。
それがヴェストラの正門へと向けてコソコソと進軍していたのだ!遅れて来たヒルドも予備の双眼鏡を覗いて驚きの声を上げる。
「ああっ――!?あの子達!今度は一体何を!?」
「あの”おバカ達”はあれで隠れてるつもりなのか!?」
偵察のつもりか?いやもう、丸見えである。それどころか単純に人が歩いて近付いて来るより数倍は怪しい。「あんだよ?何があったんだよ?」と言いつつ近寄ってきた大家さんに双眼鏡を渡す。それを暫く覗いていた彼は……
「ギャハハハ!あいつらバカだろ?くっそウケるぜ!あれで見つからねぇつもりかよ!?」
そう言うと、肩を回して首をゴキゴキと鳴らし始めた。それからニヤリと笑うと車へ戻ってバックドアを開き、俺が兄貴達から預かっていた”箱”の蓋を取り払って”ブツ”を取り出す。
そう、対戦車擲弾発射器というヤツだ。兄貴達が一体何処でこんな物を手に入れているのかは……知らない方が身の為だろう。多分、北◯州産だろうけど。
「さぁーて……コソコソするのも性に合わねえし、丁度退屈して来たところだ!おうオメーら、一丁派手にやるとすっか!」
タンクトップで背中に携帯ロケット砲を背負い、手には巨大な斧を持った大男……海外の頭の悪そうな映画に出て来ても違和感を感じない恰好の大家は俺に”別の預かり物”が入った紙袋を投げてよこす。
「ちょ!?大家さん!コレマジで危ないんで気を付けてくださいよ!」
慌てて紙袋を落とさない様にキャッチした俺も”ソレ”を事前に空にしておいたリュックへと詰める。そしてビニール傘を握りしめた。
後ろを見るとアイリスさんもヒルドも準備は出来ているようだ、可哀想にアイリちゃんはソワソワしているが……俺は大きく深呼吸をひとつ。
「ではいつものパターンで出たとこ勝負になりますが……行きましょう!」
頷くみんな。こうして俺達は……先行くアホの子達を追って荒野へと駆け出したのである。
あばばば




