再び、要塞の都市へ
こんにちは!ワセリン太郎です!続きいってみましょー!
大家さんの自家用車を隠せる岩場を見つけ、そこから遠く離れた”要塞都市ヴェストラ”の正門を覗く俺達。俺は双眼鏡をヒルドへと渡しながら隣で正門を見つめるアイリスさんに聞く。
「アイリスさん、どんな感じですか?」
「う~ん。やっぱりここからは内部が見えないわよねぇ……あのお外をウロウロしてる子達ならここからでもスグに狙撃できちゃうけど……まだちょっと様子見した方がいいでしょ?」
「マジっスか――!?つーかやっぱここから見えるんですね……」
「うん!お姉ちゃん”眼が良い”からね~」
ちなみに彼女、アイリスさんはアリシアさんの実の姉でもあり……戦乙女隊の弓隊、遠隔狙撃部隊の隊長さんである。今回、異世界側のトラブルに少数で対応する為に神様 が派遣してくれたのだ。
戦乙女隊の弓隊は非常に偏った視力の方々が多く……「超望遠視」とでも言えば良いのだろうか?裸眼で数キロ先まで普通に見えてしまうらしい。逆に普段は”弓隊員の為の専用メガネ”なる物を掛けていないと生活もままならない程に近距離がボケて見えないそうだ。まあ、何とも極端な人達である。
ヒルドから双眼鏡を受け取ったミストが正門の方を覗きながら言った。
「みんなで走って行ってアイツらを挑発してさ、追いかけて来たのをアイリス姉さんが射殺するだろ?それ繰り返せばスグ終わるんじゃね?」
ヒルドが首を横に振る。
「ミスト、テレビゲームではないのですよ……?最初の一度だけならわかりますが、撃たれるとわかっていてノコノコと出て来る者はいません」
ミストから双眼鏡を受け取りつつ、珍しくレアがまともな事を言った。
「そうだぞミスト……それに内部には人質もいるのだ。敵をあまり分かり易く刺激するのは良くないと思うぞ!我々には素早くかつ安全に”人質を全滅させる”という使命があるのだ」
「……?レア、途中までは賢い子に見えて良かったんだけど……お前最後、妙な事言わなかったか?」
俺の問いに「……?」といった顔でこちらを見てくるレア。いや、まあどうせいつもの事だし放っておこう。俺達のやりとりを見ていた大家さんが煙草に火を点けつつ、口を開いた。
「おう、そういやよ。アイリスちゃんは夜中は”視える”のか?ソレによって襲撃するにしてもハナシ変わってくるんじゃねーの?」
アイリスさんが足元に置いていたリュックからゴソゴソと何かを取り出し……ソレを頭に被ってみせる。
「ふっふっふー♪お姉ちゃんには”コレ”があるので大丈夫なのですよ~」
「おお、暗視スコープかよ!?カッケ―なおい!つーことは夜まで待って襲撃っつー事になんのか?」
天界人も随分とハイテクな製品を使っているものだ……聞くとどうも彼女達用に調整された専用装備であり、通常の市販品ではないらしい。ちなみに安心、安全の日本製。
「それなら夜に紛れて敵を襲った方がこちらに有利って事なのかな?」
しかしヒルドが首を横に振る。
「いえ、太郎。それは敵が我々と同じく”日中見えやすく、夜見えにくい”という前提での話でしょう?しかし連中は”異次元の存在”。そもそも視力に頼って活動しているとも限りませんし、もし昼も夜も同等の視力もしくは”感知器官”を持っていた場合……夜戦ではこちらが不利となるだけでしょう」
ヒルドの言葉に正門の方を見つめながらアイリスさんも無言で頷いた。ああ、何だろう?このマトモな状況……俺は普段感じない感覚に高揚感を覚える。
そう、アイリスさんが加わった事により戦乙女のおバカ比率が薄まっているのだ。いつもはレアとミストのおバカ二人に対してまともなのはヒルドのみ。その彼女も普段はアホの子達のお守役ばかりで頭を掻き毟っている事が多い……俺は彼女に同情し、ねぎらいの言葉を掛けた。
「ヒルド、今日はアイリスさんが来てくれて……ホント良かったな……」
こちらの意図を察したのか目を瞑り、ゆっくりと頷く彼女。ヒルド、普段苦労してばっかだもんな。アイリスさんにも俺達のやりとりの意味が伝わったのか……彼女も苦笑いしつつヒルドの肩をポンポンと優しく叩く。
しかしその背後には……出発前にコンビニで買ってきたお菓子のオマケシールを奪い合うレアとミストの姿が見える。ヒルドがこの気苦労から解放される日は……いつか来るのだろうか?
その時だった。双眼鏡をジッと覗いていたアイリちゃんが珍しく大きな声を出したのだ。
「あっ、あのっ――!!何か……変な敵がいます!見た事ないタイプ……」
彼女から双眼鏡を受け取り覗いてみる……あ、ほんとだ!隣に予備の双眼鏡を取り出してきた大家さんも座り込んだ。アイリスさんと三人並ぶ。
「おう太郎、アイツ……いつもの怪物共より何つーかこう……」
「ですよね……俺も多分同じ事考えてます」
「随分と仕草が人間っぽいわねぇ……」
最後のアイリスさんの言葉に黙って同意する俺達。俺から双眼鏡を渡されたヒルドも……暫く覗き込んでから大きく頷いた。
「あれは……指揮官なのでしょうか?」
「見た目から察するに……おそらくね。体格的には他の怪物より小柄だけど……多分あれ強いわよ?」
近くにいる例の怪物達と比較すると身長は俺と大差ない程度。見える肌は青く、武器を持ち甲冑らしきものを着込んでいる……ここからではハッキリとは見えなかったが、顔には目も二つある様だ。それこそ人間に酷似している。俺はアイリスさんに提案した。
「アイリスさん、もしあれが指揮官だったとしたら……今、ここから狙撃して終わらせる……とか出来ます?」
「うん……多分無理だと思う。あれね、恐らくだけど監視されてるのに気が付いてるわよ?ハッキリと見えてるわけじゃなさそうだけど、視線は感じてる状態だと思うから……八割方、討ち損じると思うの」
「結構ヤバそうな奴ですね……」
「うん、注意した方がいいと思う」
双眼鏡を覗いたままのヒルドも同意する。
「ええ、あれが一体とも限りませんしね……もし複数いた場合、事がこちらの有利に進む見込みは薄くなるでしょう」
まーた面倒臭そうなのが出て来たものである。




