再び、雲行きは怪しく
こんにちは!ワセリン太郎です!こういうお話の繋ぎの回ってレアさんやミストちゃんが”とてもつまらなそうな顔”をしているのが目に浮かぶようです!でも仕方がないので我慢して読んでくださいね!ストーリーが分からなくなってしまいますので!
でももし、わからなくなってしまった方もご心配なく!僕も良くわからないまま書いておりますので!!
「とまあ、ワシが使いの式神に探らせた所、そういった状況じゃ」
神様からの報告を受け、遅れて会議に参加した大家さんが唸る。
「チッ、あの怪物野郎共……また随分とナメたマネしてくれるじゃねえか。おう、さっさと乗り込んで一匹残らず始末してやろうぜ!」
考え込んでいたメルクリウスが首を横に振る。
「しかしこれは明らかな挑発行為……でももしこれが陽動だった場合、うかつに動けば日本側が手薄になると思う。更に裏をかいて逆の可能性もあるけれど」
神様の話では例の魔人達に占拠されたヴェストラの街は壊滅はしていないらしいが、どうやら住民の大半が高い城壁に囲まれた街中に残されたまま……つまり簡単に言うと”人質”になっているとの事だ。
あのヴェストラの悪徳領主の負の遺産でもある”城壁”は住民の自由な出入りを制限する為のものであり、その他抜け道などは一切なく出入り可能なのは正門の一ケ所のみ。そこを怪物共に襲撃されて押さえられたらしい。
あのクソ領主、本当に余計な物を作ってくれたものだ。俺はあの忌々しい領主の顔を思い出してイライラする気持ちを抑えつつ神様に問う。
「神様、敵の数とかはわかっているんですか?」
険しい顔で首を横に振る神様。
「いや、それが見える範囲では正門付近に三十体前後なんじゃが……城門の中に一体どの程度潜んでおるのかまでは掴めず仕舞いじゃ。ただ式神を空高く飛ばしてはみたが、街中には連中の姿は殆ど見当たらなかったの」
「そうですか……でもアレが三十体もいれば”普通の武具”しか持たない衛兵さん達じゃ手に負えなかったでしょうね。連中の手の鎌は鉄なんて紙切れみたいに切り裂きますし」
「うむ……惨い事じゃが一方的な蹂躙じゃったろうな。しかしまだ住民の大半は無事じゃ、早急に何とかせねばならん。これが現地の生物や人同士の争いであれば我々神属が干渉してはならんが……奴等は異次元からの侵略者、決してこれを許してはならぬ」
アリシアさんから淹れて貰った茶をすすり、冷蔵庫から勝手に持ってきた”おつまみのさきイカ”をしゃぶりつつ話を聞いていたレアが急に手をあげた。それを怪訝な顔をして見る神様。
「なんじゃい?レア」
「私は良い事を思いついたぞ!一度、あのヴェス何とかって街を神様の強力な魔法で住民諸共吹き飛ばすのだ!それから街の人だけ生き返らせればいいと思います!」
「おー!レア姉さんチョーアタマいいじゃん!」と感嘆の声をあげるミスト、レアはドヤ顔だ。全くお前らには倫理観というものは無いのか……?ガッカリした顔で首を横に振る神様。
「全くお主というヤツは……爆発で遺体も無い、顔も知らぬ人間を千人規模でどうやって復活させよと?神とてそこまで万能じゃないわい。死んだ衛兵達に関しては前回の件もあるし、何とか出来なくもないがの」
「「えー……」」明らかな不満の表情を見せるアホの子二人、無茶を言うな。その時、神様の携帯電話が鳴り……事態の急展開を告げた。
「うむ、ワシじゃ。やはりか、うむ……うむ……わかった。これよりすぐにそちらへ向かう。なーに、心配いらんよ。では後程……」
どうも相手は美津波さんだった様であり、電話を切った神様は険しい顔をして現在の状況を告げて来る。
「予測はしておったが……やはり連中が再び現れる兆しが見えたそうじゃ。場所はいつもの河川敷公園、まあワンパターンではあるが……その数……約、二千」
「二千――!?」
予想外の数だ……しかし神様はニヤリと笑うと再び口を開く。
「なぁに予想はしておったさ。早朝から戦乙女隊と魔属軍が人払い済みの河川敷公園に待機中じゃ。メルクリウス、お主はワシと一緒に公園へと来い。お主にも隊を率いて貰わねばならぬ」
「はい父上。しかし太郎達だけで異世界側の対処に当たるというのは危険なのでは?実はあちらこそ”本命”である可能性も……」
「確かにそうじゃな……ではアイリスを同行させようか、どうも直に殴りつけるのが得意な面子しかおらんしのう。他の人選は……誰か他に必要になりそうな人材はおるかの?」
少々言いづらいが、意を決してそっと手をあげる俺。
「あの……可能ならでいいんですけど……念のための保険にアイリちゃんを連れて行けたらな……と。あ、やっぱ流石にマズイっスよね?」
部屋の空気が重い。やはり少女を連れて行くのは問題があるか……そう俺が諦めかけた時だった、何かを決心した様な表情でアイリちゃんが手をあげる。
「あの……私……行きます!私だってみんなの役に立ちたいんです!」
神様がバツが悪そうにアイリちゃんの保護者であるアリシアさんの方を見ると……彼女も力強く頷いた。俺も余り気乗りはしないが、いざという時の戦力としては頼もしいというのが正直な所だった。
「では各自準備してから集合、それから出発しましょう」
ヒルドの纏めで皆それぞれに準備に取り掛かる、メルクリウスも「太郎、皆も気をつけて……」そう言って神様の後へ続いて出て行ってしまった。
さて、こちらはこちらでしっかりと仕事をこなさないといけないな……ふと思う。今回最大の障害になりそうなのが例のヴェストラの城壁だ。アレをどうにか通り抜けない事には活路は見いだせない。
そう考えながらリュックへと荷物を詰めていた俺は……少々ロクでもない事を思い付き、半ば無意識に携帯電話へと手を伸ばした。
呼び鈴が鳴る音……あっ、出た!電話の相手は天界騒動事件の時に知り合ったヤクザの”兄貴”だ。彼には個人的にあまり連絡したくない気もするが……流石に今回は色々と準備しておいた方が良いと思う。
「あっ兄貴?お久しぶりです、太郎っス。ええ、そちらもお変わりないようで……」
それから暫く話し込む俺と兄貴。
「ええ……マジっスか!?いや、そりゃ助かりますけど……えっ!?”見つかる前に処分したい”と。ええ、ありがとうございます!ではお待ちしてますね……」
随分と簡単に”所望する品”が手に入ったものだ……そりゃ助かるのは助かるのだが……本当にいいのだろうか?まあ、命が掛かっているのにゴチャゴチャ考えても仕方がない。
俺は荷物を詰めた登山用リュックにビニール傘を差し込むと……集合場所となっている大家さん宅の庭へと向かい、アパートの階段を降りた。
それから暫く待つと、大家さん宅の前にイカニモな黒塗りの車が停車する。降りてきたのは兄貴とサブローさんだった。
「無理聞いて貰ってすみません!ちょっと派手な事になりそうなもんで……あっ、それと”ソレ”は異世界で捨てて来るんでアシはつかないと思います」
トランクから”謎の箱”と”紙袋”を取り出しつつ、笑顔で答える兄貴。サブローさんも隣でサムズアップしてくる。
「いいって事よ兄弟!一体何をやらかすつもりなのかは知らねえが……キンジも心配してたぜ?いや、だが聞くまいよ。とにかく生きて戻れ!死んだら承知しねぇぞ?太郎!」
「うっス……ありがとうございます!」
受け取った”品”を自家用車のトランクへと積み込む俺と大家さん。車のバックドアを閉める前に”箱の中身”を確かめて嬉しそうに笑う大家。
「へへへ、こいつぁまた楽しみな一品だぜ……」
そうして他の皆が揃い、準備が整うと……俺達は再び異世界へのゲートをくぐったのである。




