お家へ帰ろう
こんにちは!ワセリン太郎です!皆様は連休は何処かお出かけになるのでしょうか?僕は自宅でゴロゴロと有意義に過ごしたいと思います!!ビバ!三度寝!!
「ゔゔっ……ぽ、ぽんぽんが痛い……」
俺におんぶされたまま堤防を行くレアが呻いた。
「全く、脱水起こしているのにスポーツドリンクを一気飲みするからだよ……あ!お前また下痢を撒き散らしたりするなよ!?」
「だ、大丈夫だぞ!多分……」
背中で恐ろしい事を言うレア。冗談じゃない!あの後神様は美津波さんをお山に送り、そのまま戦乙女隊を連れて天界に戻ってしまったので……もう浄化魔法は掛けて貰えない。再びウン〇まみれにされてたまるか!!それを見てゲラゲラと笑うミストが非情な事を言う。
「まーたレア姉さんが漏らしても、ぜってーアタシの部屋の洗濯機は貸してやんねーからな!太郎の部屋のを使えよな!」
「いやいやいや!レアのアホはお前の”半同居人”だろーが!?お前の部屋のを使えよ……でも背中でブチ撒けられたら俺の服も再びウ〇コまみれ……どっちにしろウチの洗濯機は汚物で地獄絵図か……」
「へへっ、そうそう。被害は少ない方がいいだろ~?」
俺の目の前では大家に肩車をされたロッタちゃんが後ろを振り向きニヤリと笑い、両手の人差し指と中指を交差させて”エンガチョ”の印をきる。
俺達のやりとりを見てアハハ……とメルクリウスが笑った。そういやこのスーパーイケメン野郎は何故ついて来ているのだろう?俺が少し気にしていると、都合よくミストが彼の話題に触れた。
「そーいやアタシ、メルクリウス様って初めて会ったんだよなー。アタシが物心ついた頃にはもう天界にいなかったしな~」
そういやコイツは天界の騒ぎの際に”若い男とか初めて見た”とか言ってたような? ミストの言葉にメルクリウスがウンウンと頷き、そして懐かしそうな顔で応じた。
「実はミストがまだ小さい頃に数回会ってるんだよ?でも覚えていないのも無理はないか……あの頃の君はまだ、身長が僕の膝丈ぐらいしかない子供だったからね。随分と成長して綺麗になったね」
「そっかー。うんうん、アタシ綺麗になっただろ?あ、まだまだ綺麗になる予定なんだけど……まあ楽しみにしとけよな!」
相変わらずブレないヤツだ。しかしやはり天界人の実年齢というか年齢関係は良くわからない。いや、知らない方が身の為か?
俺の思考を読んだのか、ロッタちゃんが大家の頭の上から両手の人差し指で俺を指差して来る。無表情だが面白い娘だ……いや待て、実はロッタちゃんの方が俺より年上とか……ないよな?更に俺の表情から読み取ったのか、隣を歩く姉のヒルドが笑う。
「大丈夫ですよ太郎、ロッタはまだ十一歳ですから。あと、世の中には”知らない方が良い事”があるというのは……わかりますね?」
「ハイ……そうっスね!」
笑顔の中に見え隠れする強い圧力 。おっかねぇ!年齢の件から離れよう、こういった場合は……無理に話題を作るより新顔に話を振るのが一番である。
「そういやさ、メルクリウスって天界にはいないんだろ?普段どこに住んでんの?」
「僕かい?僕は先日までロンドンにいたのさ。その前は異世界に数年駐在していて、その前は別の異世界。父の管理する複数の世界を視察してまわるのが仕事みたいなものでね、なかなか友人も出来ずに寂しい生活を送っているよ」
「メルクリウス様は”次期神様”でもあるんですよ~」
アリシアさんが補足した。
「へぇ~、それはまた大変なんだな。そういや”先日までロンドン”って言ってたけど、次は決まってんの?」
「うん、実は次の赴任先はこの神丘市に決めたんだ。最近、神属と魔属がやたらと集まっているみたいだし……それに例の”魔人達”も現れた。その警戒にも当たろうと思ってね、それより色々とわからない事が多いと思うのでこれから宜しく頼みます」
「そっか……いや、こちらこそ宜しく」
立ち止まり、一礼するメルクリウス。多少イケメンアレルギーが発症しそうになるが……彼自体は非常に常識的な人物であり紳士的だ。腹黒さ等は微塵も感じられないし、案外良き友人になれるのかも知れないと感じた。俺もレアをおんぶしたまま立ち止まり、礼を返す。
そうこうしていると大家さんの自家用車が見えてきた。今更ながら、俺はとある事に気が付いた。
自家用車は七人乗りであり、現在ここにいるのは……俺、レア、大家さん、ミスト、ヒルド、ロッタちゃん、アリシアさん、アイリちゃん、メルクリウスの九名。うん、乗り切れない。ようやく気が付いて口を開く大家。
「おい、乗りきれねーじゃねーか!」
「いや、僕は歩くよ……」
気を使って答えるメルクリウス。ヒルドも”私も歩こう”と手を上げる。
しかし珍しく気の効く大家。
「メルクリウス、オメー神丘市来たばっかだろ?道わかるのかよ?ヒルド、オメーも折角妹が来てんだろ?大丈夫だ、ミストとレアをトランクに乗せっからオメー達は車に乗れや!あとアリシアさんとアイリも夜道歩かせる訳にはいかねーしな!」
大家の案にかなりビビるミスト。
「ちょ!?大家!?レア姉さんがまた突然ウン〇漏らしたらどーすんだよ!?アタシ死ぬぞ!?」
「おう、心配いらねぇ!トランクは毎年の”シラス密漁用”に防水加工済みだぜ!少々クソをブチ撒けようが、窓開けて走れば大丈夫だ!臭うかもしれねえけどな!!」
み、密漁――!?一体何やってくれてんの!?このオッサン!!しかし騒ぐミスト。
「いやいや!アタシ下手したらまたウ〇コの被害に合うんだけど!?」
「ミスト、オメーほんとうるせーガキだな、さっきレアのウン〇を食っただろーが!一度も二度もおんなじじゃねーか!ちったぁ我慢しろや!わがままは良くねえぞ!」
「く、食ってねーし!?たまたま口に入っただけだし!?アタシぜってーあんなの”初チュー”って認めねーかんな!!あ、太郎!トランクはレア姉さんと太郎で良くね!?」
まあ、最終的にそういうハナシになるんだろうと予測はしていたが……それよりレアのウン〇コの味がしたミストとの”初チュー”を思い出してしまい……気分が沈む俺、暫く立ち直れそうにはない。横からアリシアさんが口を挟んだ。
「あの~、でもこの車って七人乗りなんでしょ?九人乗ったら違反じゃないのかしら……?」
彼女に同意し、コクコクと頷くアイリちゃん。しかし大家は紳士的な笑顔でアリシアさんへと答えた。
「アリシアさん御心配なく、大丈夫です。オマワリに見つからなければ……問題はないんです。見つかっても逃げればいいんですよ」
大家の発言に同調し、両手でブイサインを作るロッタちゃんを見て怒り出すヒルド。
「大家殿!それはダメだ!そもそも法律違反でしょう?私は立場上、そういった事を看過するわけにはいかない!まったく貴方はいつもいつも……」
「うるせーな!いつもガミガミ言いやがってヒルド、オメーほんとお堅い女だな!あ、アレだろ?オメーおっぱいまで”硬え”んじゃねーか?」
「な、何だと!?そ、そんな事は……」
皆が口々にギャーギャーと騒いでいると……俺の背中で珍しくじっとしていたレアが小さくブルッと震えた。そういえば先程より夜風が冷たく感じられ……嫌な予感がする。
「おい、レア……お前……大丈夫……なのか?」
再び小さく震えたレアが小さな声で答えた。
「うう……ぽんぽん冷えた……グルグルいってる……」
「マ、マジかよ!?も、もうちょっと我慢できるか!?」
「うん……もうちょっとなら……多分……」
「おいみんな!レアが……また何かヤバいって!!もう何でもいいから急ごう!!」
その時だった。メルクリウスが遠慮がちに手を上げる。
「あ、あの……タクシー呼べばいいんじゃ……ないかな……?体調の悪いレアを先に送って貰って……僕たちは後からタクシーで戻れば良いかと……」
急に静まりかえり、驚いた様な顔をする大家とミスト。
「メルクリウス…!?オメー、すげーアタマいいな――!!」
「メルクリウス様ってもしかしてアタマいいんじゃね――!?」
しかし次の瞬間……「へくちっ――!!」(ビッ!!ビッ!!ぶりゅりゅりゅりゅ……ビッ!)俺の背中からくしゃみと同時に……”あの聞き慣れてしまった音”が鳴り響いてしまったのだった。暖かい感触に包まれる俺の背中……そう、すさまじい異臭と共に。ジーザス!




