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そこは天使の本屋さん。

今日歩いていたら階段から転げ落ちたワセリン太郎です。

3段しかなかったのにとても痛いです。皆様も階段にはご注意くださいね!

今回少しパロディネタを入れてみたのですが読まれる方の年代によっては少しわかりにくいかもしれません。そこはご容赦ください。うへへ☆

 その後もレアの凶行は続いた。道を塞いだパトカーをボッコボコにした後、彼女は俺の腕を強引に掴み、車両の屋根を踏みつけ悠然と走り出す。


 お母さん……俺、パトカーの屋根の上なんて初めて歩いたよ。


 まるで雲の上を歩くかの如き、現実離れしたファンタジーを味わう俺。レアはそれを一切無視し、置き土産とばかりに後部ガラスも粉砕した。


 車内から響くおまわりさん達の悲鳴。やったの俺じゃないけど代わりに謝らせてください! 本当にごめんなさい!!


 そして彼女レアは……口から魂が抜けつつある俺を引きずり、再び元気に走り出したのだった。


 


 先程通ってきた道を急いで引き返していると、案の定そこに無線で連絡を受けた他のパトカーが滑り込んでくる。その数4台、前後から取り囲まれた。


 近場を巡回していたのだろうが……この素早い対応、やはり日本のおまわりさんのチームワークは優秀だ。おまわりさん、いい加減俺を助けて!?


 パトカーの拡声器から大きな声が鳴り響く。


「そこの二人、止まりなさい! 繰り返す! 武器を捨てて止まりなさいッ!!」


 それを目視するや否や、飛び掛るレア。


「えくす! かりばーっ!!」


 ――ボンッ!


 短時間で聞き慣れてしまった『かりばーっ!!』の掛け声と共に、素早くバットを振ってパトカー4台のエアバッグを次々と暴発させていく。


 気付いたのだが、コイツは”余計な事のみに限定して”学習能力が高い。ついでに的確にフロントガラスも打ち砕いたレアは……車内のおまわりさん達がパニックになったのを確認すると、呆然と立ち尽くしていた俺の襟首を後ろから掴み、また逃走を開始したのだった。





 ~5分後~


 住宅街に居場所を無くした俺達は……来た道を引き返しながら、商店街の方へと足を進めていた。


「おい貴様! 見たか? あの私の的確な攻撃を! 私は気付いたのだ、パトカーは前から思い切り殴りつけるとだな、中で白い袋が爆発する。アレが弱点だな。いいか? ただ、相当な威力でないとダメだ。あと、前のガラスを叩くと、真っ白にヒビが入って追いかけて来なくなるんだぞ? 次は是非、貴様も試してみるといい!」


 俺の気も知らずに、はしゃぐレア。手にはあの産業廃棄物エクスカリバーを握り締めたままだ。しかしこれで手詰まりになった……要は何処にも行く当てがないのである。当然、アパートにも戻れない。


 もしかすると、俺の自宅にも警官が踏み込んでいるかも知れないな……などと考えていると、急にレアが不思議そうな顔をして立ち止まった。


 俺が『どうした?』と声を掛けると、彼女はまーたワケのワカラン事を言い出したのである。


「おい貴様、暫し待て。今まで気が付かなかったが、私と同じ神属の気配がする。これは……うむ、そう遠くないぞ」


 何言ってんだ、コイツ。何が”神族”だ。こんな状況でも厨ニ病ごっこが出来る神経が羨ましい。しかし呆れたように見る俺を無視し、構わず続けるレア。


「あっちか? これは、先程とんこつラーメンを頂いたショーテン・ガイの方だ」


 アホの子よ、ラーメンは”頂いた”のではなく……”食い逃げ”という認識が正しいのだ。などと俺が考えていると、何かを思いついた様子のレアが”フッ”と笑って口を開いた。


「……私にいい考えがある」


「――!?」


 レアの台詞に、数年前に他界した祖父じいちゃんの言葉が蘇る……あれは実家近くの夕日に染まる小高い丘。まだ幼い俺へ、やさしく手を引く祖父から掛けられた言葉だ。


「いいかい、覚えておくんだぞ? ”私にいい考えがある”……そう他の人に言われたら、絶対に付いて行ってはいけないよ? 特に、司令官から言われたら絶対に駄目だ。おじいちゃんとの約束だぞ?」


「うん! わかった、おじいちゃん!」


 そう会話した記憶が蘇った。そういや司令官って何だ? まあいい。とにかく祖父の言い付けを守ろう……そう思考を巡らせていたのだが、レアの声で我に返る。


「おい、何をボーッとしている! さあ、ゆくぞ! 先程も言ったが”私にいい考えがある”!!」


 そう叫んだレアに俺は……抵抗空しく、首根っこを捕まれたまま強引に連行されたのである。






 

 それから暫く歩き、捜索中のおまわりさんの目を盗みつつ商店街へと戻ってきた俺達だが……現在、一軒の個人経営に見える書店の前に立っていた。


 商店街にはよく来るが、そういえばこの店に入った記憶はないな。こうして改めて見ると、二階建ての書店であり……いや、こういうのは古書店と呼ぶのだろうか? とにかく、上の階は店主の自宅の様に見える。


 しかし場所が悪い。先程、このアホが特大ガラス窓を破壊したラーメン屋、“初出し!ラーメン漢汁軒!”が非常に近いのでヒヤヒヤするぜ。犯人は必ず現場に戻る、等と聞く事があるが、アレはあながち間違いではないのかもしれないな。


「ここだ、間違いない。まさか……この感じは……!? 彼女だ!」


 隣で厨ニ病全開に騒ぐアホを眺める。そういや俺は……コイツが何処に住んでいるのかも知らないな。この店に知り合いでもいるのだろうか? そう考えているとレアが俺の腕を掴み、扉を開いて店内へと入っていった。


 


 引きずられて店内に入り、中をを見渡していると……一番奥にあるレジの裏から、ほんわかとした甘い声が聞こえてきた。他に客はいないようだ。店主は女性なのか。


「あら~お客様ね? うふふ、いらっしゃいませ。ゆっくりと見ていってくださいね~?」


 パッと明るい笑顔になったレアが、ズンズンと奥へ歩いて行く。このままだと俺が入口を塞いだ格好になるので……もし他のお客が来たら邪魔になるだろう。俺もレアの後に付いて、レジの置いてあるカウンターの方に向かった。


 カウンターには本が山積みになっている。これは本の虫の要塞、といったところか? この位置からは、店主らしき人物の姿は見えない。


 俺が本で作られたお城を眺めていると……レアがカウンターの中を覗き込み、要塞のあるじに声を掛けた。


「おい、私だ! レアだ! アリシア、そこにいるのだろう? 本で見えないぞ!」


 すると本の奥から驚いたような顔をして、金髪で、垂れ目にオシャレな赤いメガネを掛けた、可愛らしい外国人のお姉さんが顔を出した。レアと同郷の人なのだろうか? と、俺が考えていると……お姉さんが大声をあげる。


「あら! レアちゃん! レアちゃんじゃないの! どうしてここにいるの!? お仕事? お仕事でこっちに来てるの!?」


 雰囲気から察するに”親友”といったところだろうか? 二人で両手を繋いではしゃいでいる。

 

 二人は本気で喜んでいる様に見えるので、随分久しぶりに会ったのかも知れないな。”百年ぶり~”とか言ってるし……百年!? 


 ああ、と俺は察した。この可愛らしい店主もレアに話を合わせてやってるのだろう、コイツの言動をイチイチ真に受けていたら……寿命が縮んで明日には俺のお通夜だ。


 俺が親友の再会を少し離れて見ていると、その『アリシア』と呼ばれた女性が俺の方を見て、ズリ落ちていたメガネをクイッと上げる。


「あら~、レアちゃんのお友達の方でしょうか?」


 俺が笑顔で軽く会釈すると、彼女はひらひらと手を振りながらこちらへ歩いてくる。美人でもあるが、可愛らしいし実に甘ったるい雰囲気の女性だ。しかも何かこう、艶かしくてエロい。こういう人は……大好きです!


「わたくし、アリシアと申します。レアちゃんのお友達なら私のお友達ね? あ、待ってて下さいね、今お茶を淹れますから」


 何、この人癒される!! レアに名前を知られるリスクは大きいが……こんなエロカワイイお姉さんとお近づきになれるチャンスが、俺の人生において二度あるだろうか……? いや、ない。断言できる。これは好機だ!! よし、俺も自己紹介をしよう……とした瞬間、レアが余計な事を口走った。


「いやー、実は今、その男と二人で組んで……”ケーサツという悪の組織”と一戦交えている最中でな! ハッハッハッ――!」


 ジーザス。俺が申し訳なさそうにアリシアさんの方を見ると……お茶を淹れようとしていた彼女は張り付いた笑顔のまま、おぼんを持って硬直していた。


 


 しばし店内の空気が凍る……ようやく口を開く彼女アリシア


「えっと……レアちゃん……? 今何て? 私、よくわからなかったの……」


 空気を読まずにニヘラと笑い、答えるレア。


「ああ、今ケーサツという悪党共と一戦交えていてな。その途中でお前の神気を感じ取り、ここへ遊びに来てみたのだ。あ、そうそう……フフッ、こいつを見てくれ、どう思う? すごいだろう? パトカーとかいう荷車も、こいつで数台程粉砕(ブッこわ)してやったんだぞ!」


 固まるアリシアさんに……背中から自慢の聖剣様てつくずを取り出し、ドヤ顔で見せびらかしている。


 呆気に取られていたのか暫く間を置き……ハッ! とした表情をしたアリシアさんが、突然店の入口へ歩いて行き、慌ててシャッターを閉める。それから俺とレアに、二階に上がる様に促してきた。



 



 俺の目の前に信じられない光景が広がっている。部屋……そう部屋だ。夢にまで見た女の子の部屋だ!


 レアと共にアリシアさんの自室に招き入れられた俺は、警察に追われている事すら忘れ……その奇跡としか思えぬ景色に、ただただ心から感動していた。そう! 俺は! 生まれて初めて! 女の子の部屋に! 入ったのである!! あれ? 何だろう!? 良くワカランけど凄くいい匂いがする!!


 そうか……わかったぞ。これがあの伝説に名高い、聖域サンクチュアリというやつだ。この神聖なる空間、間違いない。蒼き少年達のドリームである。


 俺は丹田に力を込め、腹式呼吸で気を練りこむように、全ての息を静かに吐いてゆく……そしてゆっくりと、静かに、そして力強く! その神聖なる空気を全身全霊、魂を込めて吸い込んだ!! 俺の”心の宇宙”が激しく燃え上がる!!


 ――わあい!? 空気が甘くておいしい!!


 そうだ、このまま俺は……黄金に輝く十二の宮殿の階段をペガサスに乗り、流星の様に駆け上がって行くのだろう。今の俺は夢旅人だ!!



 そうやって俺が”心の宇宙”を抱きしめたまま、道を照らす命の煌きを空高くかかげていると……急にレアから現実に引き戻される。


「おい貴様、天井に拳を突き上げ……何をしている? アタマ大丈夫か? さっきどっかで打ったか? 痛いのか? お医者さん行くか??」


 怪我人を心配する様なレアと、何かこう、可哀相な人を見るかのような……慈愛に満ちたアリシアさんの視線。



 我が生涯に一片の悔い……が残った。穴があったら入りたい。

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