友は来たる
こんにちは!ワセリン太郎です!忙しくて更新が遅くなってしまいました!ボチボチいきたいと思います!
ここで今度は【外伝】をさぼって急に【本編】へと戻ろうかと思います!でも外伝旅行編の結末もちゃんと書きますのでご心配なく!
戦場に飛び散る無数の茶色い飛沫。異形の怪物達は急に恐れをなして防戦一方となっていた。転び、許しを請うように両手の鎌を上げる者、弱々しく叫びを上げながら逃げ回る者、それをこれまでの意趣返しとばかりに追う俺達。
髪と顔面がうんこまみれとなり、やけくそになったミストが叫ぶ。
「てめーら!今更許してもらおうなんて虫のいいハナシが通ると思ってんのか!?アタシの”初めて”をウンコの味にしやがって!ぜってー許さないかんなっ!!」
改めて彼女の言葉で気が付く。つまり俺の”初チュー”もレアのウンコの味という事である、もう死にたい。怒りに任せて敵を切り伏せていると、背後から神様の声がした。
「太郎や!攻勢に転じたは良いが……ちと数が多過ぎるのう、恐らく奴等は”穢れ”を嫌って逃げ惑っておるのじゃろうが……魔人共がいつ反撃に出て来るかわからん!」
神や天使と同じ神属であるレアから出た”穢れ”か。実に笑えないが……しかし今はそんな事はどうでもいい。神様の言う通りだ、やはりこの数の敵に反撃に出られる前に何とかしないとジリ貧になる。
「神様!何かこう、魔法とかで一気にブッ飛ばしたりできないんですか!?」
俺の問いかけに背後で杖と剣を振るいながら神様が大声で答えた。
「ワシの魔法を使うと神丘市の半分程度が吹き飛ぶでな!力の加減というのも難しいんじゃよ!」
冗談じゃない。俺がそう考えていると、突然一匹の怪物が鎌をこちらへと打ち付けてきた――!攻勢一方となっていたために気を抜いていた俺は反応に遅れ、肩を浅く斬られる。「うぐっ!」まずい――!!
しかし次の斬撃が来る前に……ズドン!!ソイツの頭はフォローに入ったロッタちゃんのハンマーフックで木端微塵となる。俺は感謝を込めて彼女に手を上げた。無表情に頷くロッタちゃん。
「ん……だいじょうぶ、問題ない。でも……そろそろ敵、反撃してくるかも」
まずいな。俺が周囲の仲間の位置を見渡すと、敵の一部が反撃しだしているのが見える。相変わらず尻を押さえてのそのそと戦場を歩き回る異臭発生源からは必死な形相で逃げてゆくのだが……
そういえば天界から援軍が来るって話じゃなかったっけ?ふと思い出した俺は敵を追い払いつつ、背中合わせに戦うヒルドとブリュンヒルデの方へと駆けた。
「ヒルド!援軍ってまだ来ないのか!?」
目の前の敵を分厚いシールドで強打し、そのまま巨大な槍で怪物の二体を串刺しにして押さえつけるヒルド。奴等の急所である頭はブリュンヒルデが双剣で粉砕した。当然彼女達二人の武具にもレアの茶色い物体が塗り付けてあり……その顔色は暗い。目の前の敵を殲滅し終えたヒルドがこちらへ向いて言った。
「ええ、時間的にもう暫くだとは思いますが……何せ移動用魔法門を通れるのは一人ずつなので。それより何故、太郎達がロッタと一緒に!?」
「了解!ロッタちゃんの件はいろいろあったんだよ!とにかく話は後だ!そろそろ敵が反撃してきそうだから一ヵ所に集まろう」
そう伝えると俺は神様とロッタちゃんの居る方へと走り出し、頷いた彼女達二人も後に続いた。「大家さん!!ミスト!!」遠くで得物を振り回して暴れる二人にも合図をすると俺達は河川敷公園の中央辺りに集結した。
尻を押さえたままのレアを中央に保護しつつ、外向きの円陣を組んで外敵へと備える。
その時だった……遠くの河川敷の土手に煌めく銀色の輝きが見えたのは。アレは何だろう……?そう思って目を凝らすと、それはこちらへと駆けて来る男性である事に気付く。騎士の様な甲冑を着ているので神属の関係者なのだろう、おそらく味方だ。
彼は長い両手持ちの剣を振りかざすと、凄まじい剣技で華麗に怪物達を斬り倒して行く。見惚れてしまうしまうほどの剣捌き……それは軽やかに踊るようでもあり、俺は一瞬戦場に身を置いている事を忘れてしまうところであった。
そのまま十数体をなぎ倒した彼は俺達の円の中へと滑り込んで来ると、男でも息を飲むような美しい金髪をサッとかき上げて爽やかに笑った……何このクッソイケメン。それを見た神様がウンコの付着してしまった白い髭を撫でつけながらニヤリと笑う。
「遅かったのう……メルクリウス。来ぬかと思うたぞ」
「何を言われますか父上。しかしそのお姿は一体どうされたのですか……?いえ、話は後で、もう援軍が参ります。皆もこのまま陣形を崩さぬよう、じきに狙撃部隊が奴等を射抜く事でしょう」
「あっ……ハイ」
あまりのイケメンぶりに素直に従う俺。そのまま暫く防戦していると……土手にアイリスさん率いる戦乙女隊が到着し、戦場に無数の黄金の矢が降り注いだ。続いてアーチャー達が撃ち漏らした敵へと襲い掛かる近接部隊、こうして戦いの幕はあっけなく下りたのであった。
神様に汚物除去の浄化魔法を掛けてもらった後、アイリスさんに怪我を治療された俺は疲労で土手に座り込んでいた。遠くでは戦乙女隊が怪物達の亡骸を調査していたり、その手前には勝手に天界を抜け出して来たロッタちゃんにお説教をするヒルドの姿が見える。
俺の隣には脱水を起こしたレアが呻きながら転がっている。魔法で腹痛の治癒はして貰ったようなのだが……どうやら下痢をまき散らして失った水分は戻って来ていないようだった。
「おいレア……お前大丈夫か?」
「う……うん……まあまあ……大丈夫になった……」
「しばらく転がってろ……後でおんぶして帰ってやるから」
「う、うん……」
俺達がしばらくぼーっとしていると、アリシアさんとアイリちゃんがこちらにやって来た。近くで飲み物を買って来てくれた様だ。お礼を言い受け取る。
「太郎さん、はいこれ。ほんと大変な一日だったわねぇ、もう嫌になっちゃう……」
「た、太郎さん、レアさんもお疲れ様でした……」
「あ、アリシアさんありがとうございます。アイリちゃんもね。いやもうホントですよ……何でこう一日に何度も騒ぎが起こるんでしょうね?マジで勘弁してほしいですよ」
隣ではアイリちゃんから受け取ったスポーツドリンクをゴキュゴキュと飲み干すレア。お前また腹下すぞ……?そうこうしていると、調査現場となっている公園からこちらへ一直線に歩いてくる人影が。良く見ると先程の金髪スーパーイケメンだ、何故だか身構えてしまう。
彼は土手を登りつつ、爽やかな笑顔で手を振って来た。笑顔で声を掛けるアリシアさん。
「まあメルクリウス様、ご無沙汰しております!お元気でいらっしゃいましたか?」
「やあアリシア!久しぶりだね。君はいつも美しい、変わりはなかったかい?」
パツキンのスーパーイケメンと可憐なエロカワ天使の爽やかな会話。歯の浮くような台詞にくそぅ……とは思うが俺にはそこに割り込む勇気はない。
間違いなくコイツは非の打ちどころがなくてモテモテ野郎に違いない……レアみたいなアホっぽさも感じないし、どうせこういう奴に限って俺みたいな冴えない男にも”優しかったりする”んだ。そう考えていると彼がこちらへ向き直って声を掛けてきた。
「初めまして、僕はメルクリウス。君がヤマダタロウ君だね?父から話は聞いているよ!」
そう言って彼は手を差し出してきた。イケメンアレルギーを自認する俺には正直どうでもいいが……だがまあ好意的に接して来ているし、無駄に喧嘩をする理由も無い。一応こちらも手を伸ばしながら挨拶した。
「どうも……山田太郎っす。よろしくです、そういえばお父さんって……?」
「ああ、僕は主神の息子であり、一応天界の”大天使”って扱いになってる。でも名ばかりの役職でね、お恥ずかしい限りさ。それより何故だかわからないけれど、君とは仲良くなれそうな気がするんだ。よろしくね」
神様の息子!?少し納得しかけるが、サラッと自分を落としてくる辺りに余裕を感じて悔しい……そう思っていると、彼が俺の手を取って握手した。何故か、かすかに違和感を覚える。彼がこちらの目をまっすぐと見つめながら、俺の手を両手でしっかりと握ってきたのだ。
天界の初対面での正式な握手なのだろうか?俺も一応両手で握り返す……彼の目はキラキラと輝いていた。未だ寝転んだままのレアが会話する俺達を見上げて何かを呟いたようだが……その声は小さく、俺には聞き取る事ができなかった。
「メルクリウスきっしょ……」




