ビニール傘と金属バット【外伝】~とある天使の休日~vol.7
こんにちは!ワセリン太郎です!昨日、前書きでお知らせした新しい小説「魔法の解けたその街で。」の続きを書いていて、とても驚いた事があります。
それは何かというと、”キャラクターが頭の中で勝手に行動を開始してくれない”ので全くもって筆が進まない……という事なのです。
「レアさん奇行」の登場人物達は”おバカさん”が多いので僕と相性がよろしいのか、しばらく情景だけを思い浮かべているだけで、皆が好き勝手に訳の分からない事を始め、”ボーッ”としていても一時間少々で一話分を書き終えてしまいます。まあ、だからこその”駄文”なのかもしれませんが。
うーん、こまりました。
温泉から上がり、部屋へと戻ったヒルドはバッグから何かを取り出した。天界への連絡を可能にする”例の魔法の込められた木札”だ。
彼女はそれを携帯電話の様に耳へと当てて待つ……暫くすると相手が出たようだ。
「女神様ですか?はい、ヒルドです。ええ……少々ご相談したい事がありまして……」
フリッグ様とは神様の奥様である。それから暫く話は続き……連絡を終えた彼女は腕時計を見る、現在時刻は十六時過ぎ。
実はもう神がこちらへ来ているかも知れない、そう考えたヒルドは意識を集中して神の神気を探ってみるが……まだその様な気配は感じられなかった。
彼女は成り行きを見守っていたアリシア達へと頷く。
「女神様との話は付きました。これより作戦開始です……」
~温泉街の外れにある怪しげな歓楽街~
何やら雲行きが怪しくなって来ている事に一切気付いていない太郎と大家は……意気揚々と路地を歩いていた。
周囲は昼間でもなお薄暗く……まだネオンに電飾こそ灯ってはいないものの、路上はいかがわしいキャッチコピーが書かれた看板で溢れかえっている。
太郎が前を歩く大家に”感慨深げに”声をかけた。
「いやー大家さん!俺てっきり”こういうお店”は夜から開店するものだとばかり思ってましたよ……午前中から開いてるって知ってマジ驚きましたわ……全くベンキョウ不足ですわ!カルチャーショックですわ!」
ニヤニヤしながら振り返りつつ、大家がそれに答える。
「へっ、いい”社会勉強”になんだろ?”こういう店”はなぁ……午前十時とか十時半辺りから開いてるんだよ……更に早い所はもっとはえーんだ、覚えとけや!」
「はい!先輩!俺……感動しました!」
「おいおい太郎、”感動”すんのはまだ……これからだぜ!?まずは……俺達の優良店を探さねぇとな!!」
「パ……優良店!!」
顔を見合わせ「ぐへへ……」と下卑た笑いを浮かべる二人。
「通常はだな、良く知らねえ場所に来たら”案内所”に行くのがベタな展開なんだがよ……今回はチト話が違う。俺が神様から受けた指令は……なんと”高級店”を探してピックアップしておけってハナシなんだわこれが!!」
「こ……高級店!!ビビるわぁ……マジビビる……!!」
「おっと……心配すんなや兄弟!カネは神様が”幾らでも”払ってくれる。何せオメーは”初回”だしなぁ!まあ慌てずじっくりと探そうや……」
「あ……ありがてえ!ありがてえっ!!」
再び顔を見合わせて「ぐへへ……」と下卑た笑いを浮かべる二人。そうやって路地を歩いていると……それらしき店の前で大家が急に足を止めた。どうやら”お目当ての店”を発見したようだ。
派手な高級ホテルの様な店構え、それを見てビビる太郎の膝がガクガクと震え出す。
「さっきスマホで検索に引っ掛かった店は……ここだな」
「ちょ――!?だ、大理石!!こえー!マジこえー!」
騒ぎ声を聞いてか、中からボーイさんが出て来て二人に挨拶した。彼は仕立ての良いボーイ服に薄い色のサングラスをかけており、”イカニモ”といった感じの人物である。当然、二人の目的はお見通しだと言わんばかりに店の奥へと誘う。
「こんにちは……お兄さん方。如何ですか?”お遊び”の方は?良い子が揃ってますよ?」
「お……”お遊び”!?」
挙動不審になる太郎を気にも留めず、悠然とボーイに話し掛ける大家。それは随分と手慣れた感じであり、”初めてスーパーな銭湯”に突入しようとする太郎に大きな安心感を与えた。
いつにも増して大家さんの背中が大きく……そして頼もしく見え、これが”漢は背中で語るもの”というやつか……と一人納得する太郎。
「おう、悪くなさそうだな。ちょいと聞きてえんだがよ、ここいら一帯で”一番高くていい店”はどこよ?一旦帰って夜に出直すんだけどよ」
「それは当店で御座います。付近に高級店は数店ございますが……ご案内しますので、そちらも一度見て来られますか?当店、その程度には”クオリティに自信”がございます」
「し……大家さん!も、もうこの店に決めちゃいましょうよ!?」
裏返った妙な声を出す太郎を無視し、大家は首を横に振りつつボーイさんに言う。(何が……このお店の何がいけないと言うんだ……!?)
「おう、そんじゃ他の店も一通り見てから決めるわ。とりあえず写真だけ見せてもらえるか?気に入ったらまた来るからよ」
「はい、よろこんで」
「しゃ……写真!?」
そうして店内へと案内された二人は……出された複数の写真を吟味し、一旦店を後にした。
路地を歩きながら興奮する太郎は大家になぜあの店では駄目なのか?と問うたが、戻ってきた答えは意外なものであった。
それは”バカ野郎!最初からあの店って決めてんだよ”というものであり、太郎は酷く混乱した。そのまま二人で歓楽街の外へ歩き、たまたま見つけた煙草屋の前で煙を立ち上らせながら大家が言う。
「オメーな、あれは”駆け引き”なんだよ。聞き分けのいい客と思われたらナメられんだろーが!ババ抜きの”ババ”を掴まされてーのか?」
「な……なるほど駆け引き!!確かに”ババ”は嫌ですね。もうハイレベルすぎて思考が追いつきませんわ!!」
そうして暫く時間を潰した後、再び最初の店へと戻って”三人分の予約”を済ませて急ぎ旅館へと戻る。太郎は帰る途中、大家に”出された写真の選び方”を尋ねたが”そりゃオメー経験よ経験!”と明確な答えは得られなかった。”この世界の奥は深い……”。
二人が旅館のロビーへと戻ると……そこには神様の姿が見えた。当然、誰に見られているかわからないので三人で”アイコンタクト”で会話する。そして最後にニヤリと笑う大家の表情を見た神様は……満足そうな笑みを浮かべたのだった。
残念ながらこの時、欲望にまみれた彼等が”これから自分達の身に降りかかる災難”に気付く事はなく、後に神は後悔する。
何故あの時もっと周囲に気を配っていなかったのか?……と。
うーんこ、まりました。




