ビニール傘と金属バット【外伝】~とある天使の休日~vol.4
こんにちは!ワセリン太郎です!もうすっかり秋ですね!僕も温泉に行って美味しい物でも食べてみたいです!UNKOのお話ばかりだと臭いがつきそうなので、ここで少し僕の息抜きにお付き合いください!
「たーんたーんたーぬーきーのきー〇たーまは~♪かーぜもないのーにぶーらーぶらー♪そーれをみーていたこーだぬきもー♪」
住宅街の空き地で拾った棒切れを手に、レアは鼻歌交じりに商店街のアーケードを往く。
彼女は今、商店街の外れにあるスーパーへと向っていた。ツナギのポケットの中には百円玉が三枚。今朝チラシで見た特売品を買う為に太郎から貰ってきたのだ。
「ふふふ、今日は三百円も持っているぞ……これなら特売品の”特大ポテチ”と同じく、特売品のクリームソーダのボトルが買えてしまうではないか!何という吉日!いやしかし、ジュースはアリシアの自宅にもあるし……ここは三種のクリームパン詰め合わせにすべきだろうか……?だが公園のジャングルジムに登って、ジュースを飲みながら食べるポテチは最高なのだ。これは一体どうしたものか……」
一人悩みながらアーケードの道を歩くレア。そうこうしていると、お目当てのスーパーへと到着した。スーパー矢野、地域密着型の超ローカルスーパーマーケットである。
「よし!今日はクリームパンにしよう!」
そう一人頷くと入口の傘立てに持っていた棒切れを突っ込み、自動ドアをくぐる。お菓子コーナーはレジの目の前であり、お目当ての特大ポテチもまだ大量に置いてあった。
「うむ!早目に来たかいがあったな!まだまだ沢山置いてあるぞ!」
当たり前である。現在午前九時三十分、スーパーも開店したばかりの時間だ。それに平日の早朝から特大ポテチを買う為に並ぶ”普通の大人”はそうそういない。
レアはご機嫌でポテチの袋とお気に入りの詰め合わせのクリームパンを掴むとレジへと向かう。折角の特売なのでポテチをギリギリ二袋……という案もあったが、残念ながら太郎は三百円しかくれなかったのだ。
ポテチを二つ買うには四十円足りない……来る途中に自動販売機の下をくまなく捜索してはみたが、小銭は落ちていなかった。
レアはレジのおばさんにポテチとパンの袋を手渡して挨拶する。
「トモコおはよう!ポテチくださいな!」
彼女の顔を見てニコリと笑う優しそうなおばさん。
「あら!レアちゃんおはよう。今日も元気ねぇ、うらやましい。あら、またポテチたべるの?あまりそればかり食べてると、おばちゃんみたいに太るわよ?」
「トモコはポテチばかり食べてきたのか……!?うらやましい!」
「あのねぇ、例え話よ。あ、そうだ。これ商店街の福引券ね?今日からお客さんに渡さないといけなかったの忘れてたわ……」
おばちゃんはレアへ商品と一緒に福引券を二枚手渡す。
「ホントは一枚なんだけど、今回だけ一枚おまけしとくわね!駅の近くの饅頭屋さんの隣に商工会のイベントスペースがあるでしょう?あそこで今日の昼過ぎから抽選会してるのよ、暇なら行ってみなさいな?」
「おお、福引券!ありがとうトモコ!行ってみる!」
レアは貰った福引券をポケットに入れ、商品の入ったスーパーの袋を握るとおばちゃんに手を振ってお店を後にした。入店時に傘立てへと差し込んだ”拾った棒切れ”の存在を忘れたまま……
「ふふふ……知っているぞ、福引券!実際に見るのは初めてだが日本の伝記書物によると……これを異世界人が引くと大体”一等の旅行”が当選してイベントが発生するのだ!これは貰ったも同然!!」
色々と豪勢な食事等を妄想しながら駅近くまで歩き、商工会のイベントスペースをのぞき込む。中には紅白の垂れ幕と紅白のハッピをきたオジサン達の姿が見えた。
「ギサブロー!福引をしにきたぞ!」
名前を呼ばれ、喫茶店のオヤジがパイプ椅子に座ったままレアに手を上げる。
「よう、レアちゃん。今日もパイオツでけーな!福引か?ホントは昼からなんだけどなぁ……ま、いっか。おい、貴志!回させてやれ!」
貴志、そう呼ばれた八百屋のオヤジがレアに「よっ!」と挨拶しつつ抽選機を持って来た。レアは彼に抽選券を二枚渡す。
「貴志、一等は何なのだ……?私の予想では旅行なのだが」
「おう、そうだった!どーせ抽選は昼からだと思って景品表を貼ってなかったぜ!まあ、一等はレアちゃんのご想像通り……ってな!」
そう言いつつ、八百屋のオヤジが景品の書いてある大きなポスターを後ろの壁へと貼り付けた。
「一等……アタミのオンセン……?アタミってどこだ……?よくわからないぞ」
「そりゃオメー、日本屈指の温泉街よ!まあアンタ、外国から来てるんだし知らねぇか」
「そうか……ではそれを頂くとしよう!!」
奥のパイプ椅子でタバコに火を点けながら笑う喫茶店のオヤジ。
「おっ、レアちゃんいいねぇ!一発目で一等賞、持って行きな!」
「おう!持ってけドロボー!ときたもんだ!」
「ふふふ……天界人を舐めるなよ……?ゆくぞ!」
2分後……レアは「神丘市中央商店街」と印刷されたポケットティッシュを二つ握ってイベントスペースのオヤジ達を涙目で睨んでいた。
「ま、まぁ……そんなに気を落とすなよ……」
「お、おう。まだ景品沢山あっからよ……またチケット貰ったら……おいで?な?」
「ぐすん……うん」
レアは考える……おかしい、異世界人でないと旅行は当たらないのか……?そういえば私は”天界人”だった。よし、次はアイリを連れて来て抽選させよう!それならほぼ間違いなく旅行にいけるはずだ。
「そういえば……アタミってどこにあるのだ……?よく考えたら私は神丘市から出た事がないぞ……うん、旅行だ!旅行に行ってみたい!温泉だ!よし、太郎に直訴しよう!!」
急激に頭から”福引の抽選”の件が消し飛んだレアは再び商店街のアーケードへと向かった。レアがアーケードの中央付近まで戻って来ると、喫煙所の灰皿の近くに見知った顔が二つ。
「大家!それにエイル姉さん!二人で一体何をしているのだ?」
タバコをくわえたまま、のっそりと振り向く大家。レアに気が付いたエイルも手を振ってきた。
「おう、レアか。いやな、エイルと”鶏が先か卵が先か?”ってハナシをしてたワケよ。オメーどっちが先だと思う?ちなみに俺は卵派だ。卵がねーと生まれなくね??」
「レアさんこんにちは!いやいや、鶏が先ですよね!?私はそう思います!卵が先なんてどう考えてもおかしいですよ!」
しかし温泉旅行の件で頭が一杯になっているレアは気のない返事をした。
「それは……両方一緒に食べた方が……おいしいに決まっているぞ。そ、それよりだ!今から温泉に行くのだ!太郎と温泉に行こうと思う」
驚くエイル。
「え!?ふ、二人でですか!?」
首を横に振るレア。
「いや、皆で行くのだ。エイル姉さんも行こう!」
普段誰かに遊びに誘われる事の少ないエイルは、首を縦にブンブンと振って了承した。どうせ明日も個休の身だ。それを見ながら腕を組んで考え込む大家。
「温泉かよ……まあ、たまには悪くねぇかもなぁ?(それに温泉と言えばピンク街も……アリだな……神様も居りゃカネには困らねえ。)で、どこの温泉行く予定なんだよ?」
「私はアタミに行きたいぞ!」
即答するレア。しかし首を横に振る大家とエイル。
「うーん、レアさん。熱海はちょっと遠すぎますねぇ。ここ九州ですよ……」
「だなぁ。まあ、近場の温泉街なら車飛ばせば数時間で着くしよ、今回はそこで我慢しとけや!」
「うむ。何かよくわからんが、二人ががそう言うのなら……了解した」
「とりあえず他の連中も誘うだろ?とりあえず神様に電話すっか!」
「では私はアリシアさんに電話をしましょうか」
大家が灰皿でタバコの火を揉み消しつつスマホを取り出し、エイルもそれに続いた。
~二時間後~
現在、太郎は自宅で頭をかきむしりながら、必死に家計簿と睨めっこをしている。
今月は……このまま行くと赤字どころの騒ぎではないのだ。度重なる外食、おやつ代をせびりにくるレア、勝手に俺の財布をあてにしてメシを食う大家等々……彼の家計は火の車である。
後ろでは勝手に上がり込んで来たミストがテレビゲームをピコピコとやっていてうるさい……が、現状それに構っている余裕は彼にはなかった。
「うーん、今月マジでヤバいなぁ。あと数回”何か”が起きたら……いや、恐ろしい事を考えるのはよそう……」
「うわ!何だよコイツ!太郎、このボス超つえーぞ!うあ、このっ!!」
「ミスト、頼むから少し静かにしとけ……今月マジでヤバイんだって。いやしかし、天界の仕事の初任給を貰う日さえ来ればなんとか……」
その時だった、ピンポーン!アパートの部屋のチャイムが鳴る。
「はいはーい!今出ます!少々お待ちを……」
太郎が部屋の扉を開けると……そこには神様を先頭に見知った顔が沢山並んでおり、皆一様に旅行鞄の様なものを抱えている。そしてゆっくりと神が口を開いた。
「えっと……」
「何をしとる太郎。まだ準備はしとらんのか?はよう温泉にゆくぞ!(ピンク街じゃぞ……)」
太郎とミストは不思議そうに顔を見合わせた。
「え……?温泉っすか?ミスト、お前何か聞いてる……?」
「うん……?いや、知らねーけど??えっ……?じーちゃん、今から行くの??」
神様の背後から響く大家の声。
「おう、ピンク街だぞ!?オメー準備あくしろよ!ブッ殺すぞオラアッ!!」
こうして一泊二日の温泉ツアーが開始されたのである。




