Can I have a toilet roll? There is none left.
こんにちは! ワセリン太郎です!
一生懸命お下品な事を考えていると、脳みそが活き活きとしてくる気がします! ああ何故でしょう? ああ僕は今、生きる喜びをひしひしと感じています! 今回のお話、お食事中の方は……YOMANAIDENE!
遡る事少し前、レアは……窮地に立たされていた。
つい先程までは、見たことも無い高級和牛ハンバークを前にキャッキャウハハと大はしゃぎしていたのだが……食べてしばらく騒いでいると、急にお腹がゴロゴロと鳴り出したのだ。
トイレに駆け込んだレアは、ツナギを脱ぎ捨て個室の壁に掛け、そのまま便座へしゃがみ込む。
「ううっ……一体何だというのだ? ハンバーグあんなにおいしいのに……」
普段食べ慣れない上等な物を食べた、とでも言えば良いのだろうか。レアが日本へ来てからというもの、お菓子やアイスにラーメン等々と偏食ばかりしていたツケである。
「頑張って踏ん張れば一気に全部出て楽になるかな? よ、よし、便器が割れんばかりに気合を込め、両脚で大地を踏みしめろ! ゆ、ゆくぞ! え、えくす! かり……ゔああぁぁぁぁぁ……駄目だあぁぁぁあ……」
レアは青い顔のまま便座の上で踏ん張るが、下半身に力が入らない。
――ぶぶっ、ぶりゅぶりゅ! ぶふー ふるぶびっ――ぱぶぶぶっ!!
とんでもない音が周囲に響き渡る。
「ふ、ふあぁぁぁぁ……い、いかん……魂まで、尻から出て行ってしまいそうだ。ぐ、ぐるじい死ぬ……イ、イソギンチャクが吸い出されるぅぅぅ」
トイレの個室の外から軽いノックと共にアリシアの声がした。
「レ……レアちゃん? あの、大声がお外まで聞こえてるから……せめて独り言はもう少し小さな声で……」
「そ、その声はアリシアか!? う、うんこが、うんこが止まらないのだ! だ、だずげで……うっ!? もういい加減“全部出た”はずなのだが、私の肛門はとどまる所を知らない! 何故だ? まるで世界中の人々の肛門と繋がって宇宙がひとつになり、無尽蔵のウン◯コがとめどなく湧き上がって来る様だ! お腹の中身が裏返えるうぅぅぅぅ……ゔあぁぁぁぁ」
――ぴぶポポッッ! ふぼっシュッ!!
レアの肛門を、絶望が襲う。
「レアちゃんあのね、昼間の怪物は覚えてるでしょ? あれが河川敷に大量に現れたの。今からみんなで対処に向かうから……その、お大事に……じゃなくて、終わったらお店の外に来てね? お店のお支払いはもう済ませてあるから……」
「う……うん……わかっ……ゔああぁぁぁぁぁぁ〇△#$×!!」
ぶっぴぴ! ぶふー! ポポっびっ! プルップウ!!!
響き渡る、奇怪なサウンド。
「もう、普段お菓子ばっかり食べてるから! え、えっと……とにかくお大事にね……?」
ズボボッ、ズボボッ!!
「ゔわあぁぁぁ……ア、アリジアぁぁぁぁ……まっでぇぇぇぇ……死ぬ……」
気の毒そうな声と共に、アリシアの足音が遠のいて行く。
レアは、この時点で気付いておくべき重要な事がひとつだけあった、そう、お約束ではあるが……個室内のトイレットペーパーが予備を含め、全て切れていたのだ。
だが時既に遅し。
――ガチャン――
トイレの扉が閉まる音。
「あ、ありじあぁぁぁぁ……」
こうして、彼女の受難はまだ暫く続く。
~再び河川敷公園へ~
俺達が闇夜の河川敷公園の土手に到着し、河原を見渡すと、そこには……居るわ居るわ、無数の異形の怪物達の姿が。その数、恐らく二百をゆうに超え、皆で何かを取り囲んでいる。
もしやあれは……
(あっ――!!)
敵に気付かれない様、慌てて声を噛み殺す。
やはりそうだ。奴等の中央にぽっかりと空間が開いており、その中に、包囲されつつも果敢に応戦する神様達の姿が見えた。周囲にはおびただしい数の敵の残骸。それでもなお包囲は厚く、簡単には合流出来そうもない。
「まずいな、数が多すぎる」
俺がそう呟いた直後、背後から聞き慣れた声がした。土手に隠れていたアリシアさんだ。後ろには美津波さんとアイリちゃんの姿も。当然だが、皆不安そうだ。
「太郎さん、大家さん! あれっ、ロッタちゃんが何故ここに? それより大変なの、また昼間の怪物達が!」
「ええ、俺達も飯を食ってたら奴等に遭遇しちゃって。神様にも連絡が取れないし、もしかしたら、と。あれ? 姿が見えませんけど、レアとアイリスさんは?」
囲まれている中には、神様とヒルド、それにミスト、ブリュンヒルデの姿しか見えない。
「えっとね、お姉ちゃんは神様の判断で天界に援軍を呼びに戻ったの。ここから転移魔法で直接天界に送って貰ったから、もうすぐ味方を連れて戻って来ると思うわ。それとレアちゃんは……」
言いにくそうに俯くアリシアさん。レアがどうしたというんだ? アイツに限ってとは思うが……しかしあの敵の数だ。
「まさか……やられ……たんですか!?」
フルフルと首を横に振るアリシアさん。
「ううん、ちがうの。えっとレアちゃんは……慣れない高級ハンバーグを食べてお腹が下っちゃったみたいで……その……お店のお手洗いに籠って……ます」
「……そっすか」
クソ、心配して損したわ!! つーか天界人は病気にならないんじゃなかったのかよ!? ここに来てまさかの下痢かよ……俺が項垂れていると、大家さんが片手で斧をダンベルの様に上下させつつ言った。
「おい、ここってまだマナが残ってるんじゃねーか? 魔法の斧が軽くなったぜ。力が湧いてくる。昼間に太郎を空高くブン投げた時と大差ねえカンジだ。いつでもイケるぜ!!」
そうなのか? アリシアさんが答える。
「ええ、まだ昼間のマナが残存してるみたい。もう暫くは恩恵を受けられるんじゃないかしら? でもアイリちゃんが”竜化”するには、量が全然足りないの」
大家さんの魔法の斧は、周囲にマナが充満していると持ち手に数倍の筋力を与えてくれる魔法が掛けられているらしい。そのおかげで俺は昼間、勢いよく空を飛ぶ羽目になったのだが。
状況を確認する俺達の横でしびれを切らしたのか、ロッタちゃんが巨大な籠手をガシャガシャと打ち鳴らした。
「……ん。ヒルドお姉ちゃん……急いで助ける……」
「だがよロッタ、あの数だ。到底中央まで行けねえぞ? とりあえず外側から切り崩しにかかるか?」
それではダメだ、俺達まで囲まれて潰される。
大家さんの問いに、少し考える素振りを見せたロッタちゃんだったが、『あ!』と何かを思いついたような顔をして俺のパーカーをクイクイと引っ張ってきた。
「タロウ……お空飛んだ?」
「うん、ブン投げられてね。でもあの距離はちょっと無理かな。昼に投げられた距離の倍近くあるし。しかもあの数だ、外から俺達だけで襲い掛かっても焼け石に水だと思う。大家さんは強いけど、俺は大した戦力にはならないし……いくら何でも今行くと、袋叩きにされるよ」
『うー』と再び考え込むロッタちゃん。そうこうしていると、俺達の背後から聞き慣れた声が掛かった。随分とやつれた感があるが……レアだ。
「うう……ま、待たせたな……!」
振り向くと、彼女は酷く青い顔をし、聖剣様を杖にプルプルと腰の曲がった老婆のように立っていた。
「ちょ、レア! お前大丈夫なん? すげー青い顔してるぞ?」
片手で尻を押さえたまま、俺の問いかけに応じて恨めしそうにこちらを睨むレア。
「た、太郎が普段から、私に粗末なものばかり食させているからいけないのだ……うっ……」
俺が知るか!
「全く……太ったり病気にならないのをいいことに、お前がカップラーメンやお菓子ばっかり食べてるからだろうが……とりあえずその状態じゃ邪魔になるだけだし、ソコに座ってろよ?」
しかし俺の制止を振り切り、尻を押さえたまま戦場に向かおうとするアホの子。
「な、なにを言う……このエリートで天才な戦乙女のレア様が……うっ……て、敵に背を向けるなど……うあぁぁ……」
「と、とにかく! 病人は黙ってそこに座って……あっ!」
俺がそう言いかけた時だった。神様達を取り囲んでいた怪物達の一部が、堤防上で騒ぐ俺達の存在に気付いてしまった――!! のだが……どうにも何か様子がおかしい。
「キ、キシャー……」
先程まで両手の鎌を打ち鳴らし、戦いを楽しんでいた怪物達なのだが……こちらを見て動揺し、徐々にザワつき始めている。何だ? 何故、襲って来ないんだ??
時が止まったように静まり返る戦場。
「さあ、そこを退くのだ、太郎」
レアは尚、その場へ赴こうと、尻を押さえていた方の手で”立ち塞がる俺の肩を掴んで”押し退けようとする。
突然、”ツン”と俺の鼻腔に刺さる奇妙な臭い。
あれ……何の臭いだ? その元を鼻で辿ると、どうやらそれは俺の肩から発せられているらしい事に気が付く。
「えっ、何だこれ? パーカーの肩のところが……茶色い……?」
振り向き、青い顔のまま答えるレア。
「ああそれか……実はトイレに紙が無かったのでな……手は洗ったのだが……どうやら、尻から染み出して来たようだ」
「……えっ? はっ? えっと……これってまさか……ウ、ウン……!?」
「ああ、つまりそれは、私のハンバーグだ」
「ゔああぁぁぁぁぁぁ〇△#$×――!?」
現実を認めたくないまま騒ぐ俺など気にも留めず、両手で金属バットを握りしめるレア。そして彼女は怪物達に向って高らかに名乗りを上げた。
「ゆくぞ怪物共!!我が名はレア!主神オーディンに仕えし戦乙……あっ!」
ぶりゅぶりゅぶりゅぶりゅ……ぶびっ!!
静まり返った夜の河川敷公園に響く聞き慣れない音。
皆が凍りつく。だが、最初にその音に反応したのは俺達ではなかった。
「キ、キシャァァァァァァァァッ!!」
「キシャ!? キシャァァァァァァァァッ!!」
物凄い形相で叫び出し、統率を失って散り散りに逃げ出す異形の怪物達。
「ちょっと大家さん……これ、どうなってんすかね……」
「知るかよ太郎、とりあえずマジで臭ぇし汚ねぇからこっち来んじゃねぇぞ」
「……ん。タロウえんがちょ、くさい……」
もはやこの理解を超えた状況に、俺の思考は完全に停止した。




