四千年の達人
こんにちは!ワセリン太郎です!お話を書いていると、ジューシーな肉汁たっぷりのから揚げが食べたくなりました!I Loveジューシーからあげ!!
大家さんの魔法の斧の一撃で異形の怪物は絶命した。強張っていた俺の肩からドッと力が抜け、やっと大きく一息つく。
「……ぷはぁ!マジでヤバかった!!ロッタちゃんが来てくれなかったら俺、間違いなく死んでたよ……ホントありがとうな」
「ん……」
巨大な籠手を器用に扱い、両手でブイサインを作って見せるロッタちゃん。無表情だが案外お茶目な子なのかも知れない。それを見てへへっ、と笑った大家さんがタバコに火を点けた。紫煙が暗い街灯に揺らめく。
「しかしよ……この死体はどうすんべ?とりあえずゴミ袋に入れてどっか捨てにいくか?クソが……気持ち悪りぃが車にブチ込むしかねえな。太郎、オメー陳宝軒行ってデカいゴミ袋貰って来いや!」
「いやいや、とりあえず神様に連絡してどうにかして貰いましょうよ!昼間の死体も”生態調査の為”って天界に送ってましたよ?」
「これ……気持ちわるい……きっしょ」
「ほら!ロッタちゃんも嫌がってますから……」
「しゃーねーな!太郎、オメーちょっと神様に連絡してみろや」
俺は頷くと神様へと電話を掛けるが……やはり出ない。
「……出ませんね。ちょっと気になりますね、あちらにも化物が現れてたりして……」
その直後だった、大家さんの背後から嫌な叫び声が聞こえたのは。
「キシャァァァァァァァァッ!!!」
先程ロッタちゃんがブン殴った怪物がよろめきながら立ち上がり、俺達に襲いかかる――!虚を突かれた俺達はギョッとして硬直してしまった。
「ヤベぇ――!?」
「あぶない!!」
「――!?」
しかし、怪物の”鎌”は誰の身体にも届く事はなかった。”銀色に煌めく何か”が怪物の頭に弾丸の様に飛んできて、スイカでも砕く様に激しく粉砕したのである。
その地面に転がった”何か”を良く見ると、それは巨大な肉斬り包丁だった。
「えっと……マジでビビリました」
「おう、流石の俺もブッたまげたぜ。頭が半分潰れてたのに死んでなかったのかよ……」
驚く俺達の背後から掛かる声。
「アイヤー!オマエラ、ダメヨ。ユダンしすぎネ!!」
振り向くと、そこには中華料理店、陳宝軒の店主であるオジサンの姿が。
「コイツ、頭ブッ潰サナイト、ダメアルヨ!ヒルマも一匹、店の前に出タカラ、ブッ殺してヤッタネ!!」
「マジかよ……!?」
「ワタシ達人ヨ!ヨユウヨ!中国ヨンセンネン、ナメんナヨ!?」
「すげぇな……中国」
そうして店主が胸を張っていると、店から従業員が数名こちらへやって来た。彼等は何故かネコグルマを押して来ており、それを見た店主は満足気に頷いてからテキパキと指示を出す。
「オマエラ!ソレ、厨房に運ぶヨロシ!ソレト、ブツ切りにシトケ!コレで明日も”肉”ニ困らないアル。ヨカタ!ホントにヨカタ!!」
どうも死体を処理してくれる様だ。それはそれで助かるのだが……んっ!?今このオッサン何つった――!?
「ちょ、オジサン――!?今、怪物の事を”肉”って言いませんでした!?肉って言いましたよね!?」
詰め寄る俺にニヤリと笑った店主は……何も答えず、従業員達を引き連れて店へと戻って行ってしまった。
そうだ……本日の定食、レバニラ炒めと”何らかの肉のから揚げ”。俺は身体中からサッと血の気が引いて行くのを感じる。
「大家さん、あのから揚げの”肉”ってもしかして……」
「おう、結構美味かったよな!アレはアレで悪くねえかもしれねえ。次はステーキとかも喰ってみてえよな!」
イカレた大家の言葉に「うんうん」と頷くロッタちゃん。俺は……深く考えるのを辞めた。胃が何か違和感を訴えているような気がしないでもないが……
それより今は神様だ。連絡がつかないところみると、あちらでも何か起きているのかも知れない。
「とりあえず神様達と合流しましょう。電話にも出ないし、あちらも何か起きてるのかも……」
「だな。そーだロッタ、オメーどうするよ?見つからねえうちに天界に帰るか?」
少し考える素振りを見せたロッタちゃんは、フルフルと首を振る。
「ううん、緊急事態……かも。私も行く……少しでも戦力がいるかも……」
賢い子だ、状況判断が出来ている。流石はヒルドの妹ってところか。ニヤリと笑った大家はロッタちゃんの頭をグリグリと撫でた。
「ガキに戦わせるのは気が引けるがよ……今は仕方がねぇか。うし、わかった!んじゃ行くぞロッタ!後でお菓子を好きなだけ”太郎が”買ってやっからな!!」
両手をサムズアップするロッタちゃん。
「あの……俺が立て替えといた大家さんの分の定食代、まだ貰ってませんけど」
「太郎、細けぇこたぁいいんだよ。禿げっぞ?オメーはちったぁ空気読める様になれや!ホレ、行くぞ!」
店に戻って荷物を取った俺達は、急いで大家の自家用車へと乗り込んだ。
助手席にはロッタちゃん。レア達の”神気”を辿って皆の居る場所を探知して貰う為だ。住宅街をグレー……というか完全にアウトな速度でブッ飛ばしながら大家さんが尋ねる。
「おうロッタ、オメーもほら、あのナントカの気配とかであいつらの居場所わかるか?」
「……ん。神気が増大してるからわかる。ここからもっと西」
「その方向って……夕方、ミストが騒いでた”和牛炭火焼きハンバーグの店”の方角ですかね?俺もあんな店で飯食ってみたいですよ、スゲー高いらしいから行った事ないっすわ」
「おう、今度オメーのおごりで連れて行ってやるぜ!あの店は確か商店街の外れだったよな?つーことはこっちの方が近いな……っと!」
訳の分からないセリフを吐きながら、乱暴にタイヤを鳴かせつつハンドルを切る大家。そのまま暫く走ると目当ての店が見えてきたのだが、ロッタちゃんは店より更に遠くを指さす。
「……ん、ここじゃなくて……もっとあっち。魔法で人払いの結界が張ってる」
このまま行くと昼間に乱闘騒ぎがあった”神丘市河川敷公園”だ。レア達がそこに居て人払いの結界が張ってあるということは……間違いなく”何か”が起きている可能性が高い。タイヤのスキール音を響かせ乱暴に停車する大家さんの自家用車。
そして車から飛び出した俺達は、各々の得物を手にし、公園へと全力で走った。




