駐車禁止のタグは公共の備品です。必ず指定された期間内に最寄りの(以下略
こんにちは!ワセリン太郎です!もうすぐ秋分の日ですね!ちなみにこの物語は大雑把に見て恐らくフィクションです!ヨイ子はMANESHINAIDENE!!
ミストの華麗なドロップキックで”もげかけた首”をさすりながら……俺達は夕暮れの神丘市商店街のアーケードへと到着した。アーケードの中頃まで進むと”携帯ショップココモ”の看板が見えてくる。
そういえば、最近俺には不思議に思えていた事があり、良い機会なので本人に確かめておこうと思ってレアに話しかけた。
「あのさレア、俺ずっと不思議に思ってたんだけどさ……おまえ何故かスマホを欲しがらないよな??”欲しい!”って一番騒ぎ出しそうなもんだけど……何で?」
こちらへと顔を向けて不思議そうな顔をした彼女は答える。
「私はいらないぞ?だって持ち歩くの面倒くさいだろう?使う時は太郎かミストのを使えば良いのだ!ツナギのポケットの数にも限りがあるしな、お菓子とかが入らなくなっては困るのだ!!」
「そういう事かよ、深く考えた俺がバカだったよ……」
「ハッハッハッ、太郎がバカなのは今に始まった事ではないだろう!」
「お前にだけは言われたくねーよ!!」
携帯ショップの入口へぞろぞろと皆が入って行くが……美津波さんが手荷物をギュっと抱き、緊張した面持ちでお店の入口で看板を見上げていた。
「私緊張してまいりました……これから一体どうすれば宜しいのでしょうか??」
「大丈夫ですよ!中で気に入って機種を決めてから契約書を書くだけですから」
やはり美しい女性には良い恰好をしたいのだろう、美津波さんのスマホの通話料等の支払いは神様がする手筈になっている。そして店に入ると、神様が軽く呪文を唱えるのが見えた。店員達の目が虚ろになる……
「さて、意識を操作するついでに人払いも済ませておいた。あまり長いとお店の迷惑になる、お主等さっさと選んで手続きを済ませなさい。君、すまんが契約用の書類を四枚持ってきてくれるかのう?」
言われるがままに立ち上がり、虚ろな表情で書類を用意してくるショップの店員さん。四人分、美津波さんとアイリスさんにブリュンヒルデ、そしてアイリちゃんか。
「うむ、ありがとう」
女性陣は契約するメンバーを囲んでワイワイと機種を選んでいるが……アイリスさんは以前アリシアさんからカタログを送って貰っていて機種を決めていたらしく、早々に書類を書き終え「太郎ちゃん、太郎ちゃん!」と、カウンターから俺に手招きをしてきた。
「はい、なんでしょう……?」
「うふふ、このカップル割っていうのをしちゃいましょ!」
「すみません、俺ココモの携帯じゃないです……」
「えーっ!何それツマラナイ!どこのスマホなの??」
「えっと、神様と同じキャリアです」
誰も何も言わないのに神様が後ろのソファーから声を発した。
「ワシは嫌じゃぞ……」
「俺も嫌ですよ……」
何が悲しくてジイサマと”カップル割”なんてしなくちゃいけないんだ?冗談じゃない。しかしアイリスさんは引き下がらない。
「ねえ神様!私良い事を思いついちゃった!!」
「ダメじゃ」
「魔法でね?キャリアを超えたカップル割とかしちゃえると思うの!」
「ダーメ」
「違う世界同士で紡がれる”愛”みたいで素敵じゃない?」
「これ、ちゃんとこちらの世界のルールに従いなさい」
「私達こんなに愛し合ってるのに……けち!」
そうこうする内に全員機種を決め終えたらしく、カウンターへとやって来た女性陣はワイワイガヤガヤと騒ぎながら書類への記入を始める。
まずいな、アリシアさんもコチラへ来たし、このまま居るとまた、アイリスさんの玩具にされて誤解を招きそうだ。
いや、そもそも誤解を招くも何も……悲しいのでここらで考えるのを止めにしておこうか。
居心地が悪くなった俺がふと、ショップの大きなガラス越しに遠くを見ると……数軒先のタバコ屋の軒先で煙をくゆらせる大家さんの巨体が目に入った。
またアイリスさん絡みでミストにどつかれるのも何だし、このまま逃げ出そうと考えた俺は神様に言う。
「すみません神様、俺ちょっと用事思い出したんでお暇しても……?」
「ふむ、このまま居てサンドバッグにされるのも哀れじゃしのう……いいじゃろ、後はワシが見ておくからさっさと逃げるがよい。あ、コレいっこ貸しじゃからな!その代わりワシが都合悪くなったら助けるんじゃぞ?」
「流石っすね……バレてましたか。恩に着ます。では」
他の面子にバレないようにそっと店を出た俺は大家さんの居る場所へと歩き出した。ふとこちらに気付く大きな巨体。
「よう太郎、オメーこんな所で何やってんだよ?」
「いえ、ちょいと女性陣から逃げて来たんですよ」
「へっ、オメーも随分と出世したもんだな、オイ」
何となく事情を察してくれたのかゲラゲラと笑う大家。
「時間も時間ですし、メシでも入れていきますか?」
「だな、どこ行くよ?」
「そうっすね……ラーメン屋だと後から来たレア達と鉢合わせしそうなんで……中華でもどうっすか?」
「んじゃ陳宝軒にすっか」
「あそこ安くて美味いんですけど……何か店名がヤバいんですよね」
「へっ、こまけぇこたぁ気にすんなや!ハゲっぞ!?そこの先のパーキングに車停めてあっから歩くか!」
「うっす!」
車が停めてある場所まで歩いてくると……まあ案の定、路駐だった。当然の様にグリル部分にぶら下がる路上駐車禁止のタグ。
「えっと大家さん、これパーキングと違います……よね?」
くわえタバコのまま、トランクから慣れた雰囲気で大きなワイヤーカッターを取り出す大家。ジーザス!!そして更に慣れた手付きで、車に取り付けられた駐禁のタグをブチン――!と切り落とす。
「ちょっ――!?アンタ何やってんすか!?」
「あん?何ってオメー、貰った携帯灰皿を回収してんのよ。見てわかんねーのか?」
「は……灰皿!?」
そのまま駐禁タグでタバコの火を揉み消し、タグの穴の中に吸い殻を放り込む大家。
「ポイ捨ては良くねーからな。街を汚さねえのは俺のポリシーだぜ!」
ダメだこのオッサン。追及してもどうにもならないのは長い付き合いで理解しているので、俺は諦めて車の助手席に乗り込む。
「んじゃ行くか!」
こうして大家と俺を乗せた車は夕暮れの商店街を背にし、ゆっくりと走り出したのだった。




