美しの君
こんにちは!ワセリン太郎です!突然ですが、昨日の僕の夕食はとんでもない物体でした!
パスタなどという小洒落たものを作ろうとしていたのですが、なんと冷蔵庫の中に必要な物が入っていません!恐るべきパスタ!侮っておりました。僕には10年早かったようです。なので、仕方なく茹でたパスタ麺に”焼き肉のタレ”と余っていた”ポン酢”をブッ掛け、野菜の端切れや挽肉と一緒にフライパンで炒めてからマヨネーズを投入して食べてみました!!とてもおいしくなかったです!!
「うっわ、テレポートマジですげぇ!!……ってここドコなんですか??」
神様の瞬間移動の魔法によって”何処か”へと連れて来られた俺とレアとミスト。周囲を見渡すと、どこかの山道の様だ。
「神様!ここお菓子売ってないぞ!!」
「えー!和牛ハンバーグは!?」
明らかな不満の色を顔に浮かべて騒ぐアホの子二人。それを見て顔をしかめる神様。
「全くお前達は……後で連れて行ってやるから暫く辛抱しておれ!さて太郎、行こうかのう」
「絶対!絶対!約束だぞ?」
「へーい」
渋々と引き下がるレアとミストの相手もそこそこに、神様は俺に”来い”という仕草をして道を進む。あれ?ここには見覚えがあるな……そうだ、ここは神丘市のど真ん中にある山の中腹だ。急に身体に方向感覚が戻ってきた。
細い山道をどんどん道を進む神様。この先には確か”古いが大きな水神社”があったと思う……ふいに子供の頃に遠足で何度か山登りした懐かしい記憶が脳裏に蘇った。そのまま進むと木製の鳥居が見えて来る。
”ああそうだ懐かしい、確か昔もこんな感じだった。”
皆の願いの数だろうか?朱色に塗られていない大量の鳥居が随分と長いトンネルのようにうねる道、それは遠い記憶に微かに残る独特の風景。更に奥へ進むと一段と高い場所に記憶と違って小奇麗な新しい社の姿が見えて来る。
「あれ……?こんな建物だったっけ?」
俺の回想に気付いたのか、神様が笑った。
「何年か前に建て替えたんじゃよ」
「そうでしたか……何か少し残念な気もしますね。しかし何故神社に??」
「じきにわかる」
そう言った神様は、階段中腹にある最後の鳥居の前で大きな声を出した。
「ワシじゃ!おるかの??」
突然スッ……と周囲の霧が濃くなる。そして澄んだ美しい声が響いた。
「はい、こちらに。どうぞそのままお進み下さいませ……」
俺達が社の前へと到着すると……この世のものとは思えぬ美しい和服の女性が一段高い床に座し、見事な所作でお辞儀をしていた。
整った顔、清らかに流れる繊細な水を連想させる薄水色の長い髪。俺がしばし呆然としていると……ミストから足を思い切り踏みつけられた。
「いってぇ――!!」
「何ボーっと見てんだよ!浮気か!?浮気なんだな!?」
「何言ってんのお前!?」
口を隠して上品にクスクスと笑う社の中の女性。ひとしきり笑うと神様に向けて再び丁寧に頭を垂れる。
「神様、高い所から失礼致します。皆様もどうぞお上がり下さいませ」
「うむ、邪魔するぞい。しかし君も”神”じゃろうて、そうもご丁寧にやられるとどうにも居心地が悪いわい」
「いえ、私は土地神ですので……」
「お邪魔します……」
ぞろぞろと社の中へと上がり込む俺達。しかし神社の本殿に上がり込むのはこうも居心地の悪い物なのか……?バチとか当たらないだろうな??俺がそう考えていると考えを見抜いたのか再び笑う美しい女性。
「大丈夫ですよ、ここは私の自宅ですから。あら……うふふ、これはまた懐かしい方。あんなに小さかった男の子がこんなに立派になられたのですね」
目を大きくして女性に問う神様。
「なんじゃ、太郎を知っとったのかの?」
「太郎さんと仰るのですか?ええ、随分と昔になりますね……遠足でお山に登って来られたでしょう?その際にほら、あちらの大きな木に登って遊んでいたのですが、下りられなくなってしまって……」
幼き日の嫌な記憶が脳裏にフラッシュバックする……目の前の美しい女性も気が付いたのか”ハッとした表情”でそこから先を話すのを止めた。
彼女が何故話すのを止めたのかって?簡単な話だ。そう、木から下りられなくなった俺は、泣きながら特大のウ○コを漏らしてしまったのである。そしてこういう時に限ってレアは余計な事を言い出す。
「木から下りられなくなっただけでずっと覚えているワケがないだろう?その後どうしたのだ??」
「い……いえ……それは……」
困り顔の美しい女性。まずい、こんな美しくて上品な女性の口から”うん○こ”の三文字を言わせる訳にはいかない。俺は腹を括る――!
「はい!その時俺は木の上で泣きながら大きなうん○こを漏らしました!!」
言ってやったとばかりにドヤ顔を決める俺に……レア達の汚い物でも見るような視線が突き刺さった。
「太郎……う○こマンだったのか……」
「うっげ、太郎エンガチョ……」
「うるせーよ!!あの後しばらくあだ名が”ウンコラマンタロウ!”だったんだからな!!ふっざけんなよ!?ウル○ラマンじゃねーんだよ!思い出しちゃったじゃねーか!!」
トラウマ案件を思い出し、急に熱くなった俺を制する様に大きく咳払いをする神様。美しい女性も話題を変えようとして慌てて神様に話し掛けた。
「か、神様、ほ、本日はどのようなご用向きでお越しになられたのですか?」
「う、うむ……いや実はの、本日こちらの世界に”珍客”が来ておってのう。今回はウチの孫達が随分と派手にもてなしてやった様で、そのまま手土産持たせてお帰り頂いた様なのじゃが……」
「なるほど。昼間の件でしょうか?私も気がついてはいたのですが。そう……随分と強い神気や魔力に混じって、多数の違和感を感じる存在。その事を仰っておいでなのですね?」
満足そうに長い髭をなでつけニヤリと笑う神様。
「そうか……やはり君には”アレ”が感知できたのじゃな……?神気や魔力、及び気配のない存在はどうもワシの様な神には感知できなくて困っておったんじゃよ。全く、世界全体を広く浅く見ておる弊害とでも言おうか。その点に置いて君の様な”土地神”はその土地専門の神、狭く深く誰よりも己の領域に精通する存在じゃからな。して、参考までにどのような感じで”奴等”を異質と判断したのじゃ……?」
その美しい土地神は……少し思案してから神様へと答える。
「そうでございますね……何というか、土地に”何か良くない異物”が紛れ込む感覚と言いましょうか……?数十年程前、この土地に悪質な企業が工場を建てて川を汚染した事があったのです。その際には私も水神としての責務を全うする為、不本意ながら”神罰”を幾度も下し追い払ったのですが……その”汚染工場”が出来た際に感じた”異物感”に似ておりまして……兎に角、強い嫌悪感を感じるので御座います。そして本日の件はその”異物”が凝縮されて多数で密集し、蠢いていた感覚とでも申し上げれば良いのでしょうか」
「ふむ。つまり……再び奴等が現れる様な事があれは、君にはすぐにわかる……と考えても間違いはないかの?」
「はい……その点につきましてはお約束できるものと存じます」
「うむ……わかった!大きな収穫じゃ。そういえばこやつらに自己紹介もさせておらなんだ、失礼したのう。ほれ、これがレアとミストでワシの可愛い孫娘達じゃな。それとこの男が……」
ほれ!と俺に促す神様。
「ご挨拶が遅れて失礼しました、お初にお目に……じゃないんでした。その節は大変なご無礼を……山田太郎です」
俺の単純極まりないフルネームを聞いても眉一つ動かさずに微笑む彼女は、優し気な声で俺にこう告げたのだった。
「私は水波能売命。この水神社の祭神であり、この領域の”土地神”です。我が元に暮らす愛しい子らに、末永く幸のあらんことを願います」
眩しい……何と神々しく、清らかで美しい神様なのだろう!午後七時開店のオッパブ神とはエライ違いだ!!
俺は生涯、何があろうとも絶対に神丘市から引っ越さないと心に固く誓ったのだった。




