宴の幕は下りて
こんにちは!ワセリン太郎です!そろそろ季節の変わり目でしょうか?随分涼しくなってきました。皆さまも風邪など召されませぬよう!僕ですか……?僕は風邪をひきません!!
「何と――!?随分と集まって騒いでおるとは思っておったが……お前達、一体こりゃ何の騒ぎじゃ!?全く市民の憩いの場である公園が滅茶苦茶じゃぞ……」
フラリと土手から現れた神様が、滅茶苦茶に破壊された河川敷公園の惨状を見てがっくりと項垂れ肩を落とす。
そりゃ戦乙女隊に魔属に異形の怪物軍団にドラゴンにと……規格外の連中が大暴れした跡だ、マトモな状態を保っているワケがない。神様の登場に気が付いたミストが呑気に手を振った。
「あっ、神様!遅かったじゃん!もうちょい早く来てくれたら助かったんだけどなー」
「全くお主らときたらいつもいつも。一時でも騒ぎを起こさずにはおられぬのか?本当に嘆かわしい……ぬっ!?あれは――!!」
自慢の孫達の元気の良さにあきれ果てつつ公園を見回していた神様は……まあ当然と言えば当然なのだが”そこらじゅうに転がるある残骸”に気が付いた。皆で何とかボコボコにした異形の怪物達の残骸だ。神様は険しい表情で俺に問う。
「太郎や、これは……お前達がやったのか?」
「はい、最初は戦乙女隊と魔属軍が乱痴気騒ぎをしてただけなんですが、途中からいきなり現れて襲って来たんです。こいつら一体何者なんですか?天界魔界を問わずにここにいる連中も誰もわからないみたいで……」
「そうか……こやつらはな、”魔人”もしくは”魔獣”じゃ。太古よりそう呼ばれておる。前回地球に現れたのは……人類が文明を持ち、社会を形成するより遥か昔。どこから来て何処へ帰るのかも定かではない、その上厄介な事に神気や魔力を一切持たずに気配や所在が探れぬ。ともかくワシ等”神”にすら全く素性が知れぬ連中なのじゃよ。」
「えっ!?神様にもわからない事とかあるんですか!?」
「そりゃあるさ、ワシもあくまで”いくつかの世界を束ねる神”じゃからな?恐らくは何処かよその世界……ワシも知らぬ場所から現れておるのであろうな。しかしお前達、よくアレを追い返したのう。前回大変じゃったんじゃぞ?」
横からブリュンヒルデが割って入る。
「神よ、私にはどうも”あれで終わり”とは思えません。勘の域を出ませんが……奴等はまた現れる、そんな気がします」
周囲も皆、一様に頷く。そうしていると、少し離れた場所から姫様が魔剣を肩に担いでやって来た。彼女は神様に笑顔で声を掛ける。
「あっ!神様おひさしぶり!元気してたか!?」
振り向く神様。
「おや、キアじゃったか。久しいのう、最近会わんが魔王は元気にしとるか?ふむ、いやしかし……これは随分と立派になったものじゃ!」
完全に視線は胸部へと向いている。まあ、オッパブ神だし仕方がない。しかし知り合いだったのか……どうも天界と魔界の仲はそう悪くはないらしい。
その後、何処からか取り出した杖を掲げ、河川敷公園を魔法で修復し始めた神様にこれまでの経緯を話した俺達は、神属、魔属問わずに全員、公園の地面へと正座させられていた。
「本当にくだらん事で騒ぎを起こしおって!!」
ぶーたれるレアと姫様。
「だって私のアルチュウをキアのあほが……あほ!」
「フン!レアが悪いのだ!私悪くないもん!」
子供かこいつら……杖で二人の頭をカン!カン!と叩いた神様は肩を落としてため息をついた。
「しかし天音には竜族の血が色濃く流れておったか、まさか竜化するまで素質を受け継いでいるとは。確かに産まれた頃から内包する魔力が高い子じゃとは思っておったが……まさかそこまでだったとはのう。これは謙三にも一言伝えておかねばならんかのう」
その後随分と長いお説教を食らった俺達は、公園での片付けを終えて帰宅する事となったのだが……神様から”待った”が掛かった。
「太郎、少しワシに付き合え。大家はエイルと二人で天音を車で送ってやりなさい。お主の車ならその原付も無理やり乗るじゃろ?」
「おう、いいぜ!任せとけや」
「了解しました」
そのまま現場は解散となり、ヒルドとアリシアさんはアイリスさんやブリュンヒルデを連れて商店街の方へと帰って行く。積もる話もあるのだろう。
アイリちゃんもペコリとお辞儀をして後を追う。そして姫様はレアに「次会ったら決着をつけてやるからな!覚えててください!!」とよくわからない言葉遣いで捨て台詞を吐いて帰って行った。
彼女の言葉に苦笑してこちらに会釈し、キアの後に続く魔属軍の面々。
そうして神様と俺とレアとミストが現場に残される。一つ大きく呼吸した神様がこちらを振り返って言った。
「しかしお主等……随分とばっちいのう、砂と埃まみれじゃ。太郎に至っては……何があったか知らんが、何故尻を出しておる??」
忘れてた……俺今、怪物にズボンを斬られてお尻丸出しだった。呆れたように杖をかざす神様。杖から発せられた光が俺達三人の身体を包み、しばらくすると静かに消えていった。
「小汚いのを連れて歩くのも何じゃし、これで良いかの。」
尻を触ると裂けて血が付いていたズボンが元通りになっており、薄汚れていた筈のレアとミストもさっぱりと小奇麗に。
「神様の魔法って凄いですねぇ……」
「じゃろ?さて、そろそろ行くかの」
「でも、何でこの面子なんですか?」
「いやアレじゃよ、放置しといてまた騒ぎでも起こされたら困るじゃろうて」
「なるほど……」
こちらの会話に気付かず騒ぐレアとミスト。
「太郎!お菓子だ!お菓子の約束、よもや忘れてはいまいな!私はちゃんと覚えてます!!」
「神様、アタシ腹減った!何か食べにいこーぜ!あ、アレ!和牛炭焼きハンバーグってのが食べたい!スゲー高いんだって!食べてみてーよな~」
そうしてため息をつく神様を先頭に、俺達は”ある目的地”に向って歩き出したのだった。




