闇へ還る
こんにちは!ワセリン太郎です!塩ラーメンが食べたいです!塩ラーメン!!
「だーいんっ!!すれーいぶっ!!!」
ズドォンッ!!全く魔力的制限の掛けられていない姫様の魔剣が炸裂して怪物の一体が爆散する。ジワリと後ずさる怪物達。
その隙にすかさず負傷した仲間へと回復魔法を掛けてゆくアイリスさん。俺は”オリハルコン製のビニール傘”を広げて盾代わりとし、ミストと二人で魔法を唱える彼女を防御する。
斧を腰溜めに構えて一撃必殺のチャンスを伺う大家の前には、ヒルドが巨大な槍と盾を構えて鉄壁の防御を見せておりそこに隙はない。
「えくす!!かりばーーっ!!」
また一体レアに頭を殴り飛ばされ動かなくなる。背中合わせに敵を相手取るレアと姫様。
「ふん!レア!なかなかやるではないか!まあ私には及ばないがな!」
「キアもやるではないか!だが私の聖剣エクスカリバーの前ではそんな魔剣は棒切れに等しいのだ!」
「なにおう!?お前やっぱ嫌いだ!」
「ふん、気が合うな!私もお前が嫌いだ!」
双剣を器用に扱い敵の輪の中に入り、手当たり次第に切り刻んで攪乱するブリュンヒルデ。敵陣に隙が生まれたのを確認した大家が斧で怪物二体の首を同時に吹き飛ばし、彼が反撃を受ける前にヒルドが長い槍と盾でフォローにまわる。
悪くない感じだ、俺は一緒にアイリスさんを守るミストに声を掛けた。
「ミスト!天音さんは!?姿見えないけどあの後どうなった!?」
俺に襲い掛かる怪物の後頭部をミスリル製の盾で乱雑にブン殴り、アイリちゃんに貰った魔剣でトドメを刺したミストは答える。
「ああ、あのケーサツのドラゴンねーちゃんなら大丈夫だぜ!さっきドラゴンから人間に戻ってさ、テントに運ばれてった!切り傷とか多かったけど魔法でどうにでもなるってさ!良かったよな!」
「そうか!無事で何よりだなっと――!」
ミストの背後から襲い掛かる怪物の顔面へ、閉じた傘を突き刺す――!!俺も随分と荒事に慣れてきたもんだ。
「それとさ、太郎。さっき戦乙女隊の一部と魔属の一部が武具を取りに戻ったからさ……姐さん達が帰ってきたらコイツら一気にボッコボコだぜ!!」
「そっか!俺がケツを斬られてまで時間を稼いだ意味があって良かったよ!……あんまよくないけど」
背後からアイリスさんの声が掛かる。
「太郎さんだいじょーぶっ!お尻の傷もちゃんと治しておいたわ!ズボンまでは無理ですけど(笑)」
「ですよねー。ちなみに今、俺のズボンのお尻はどういった状況で……?」
「えっと……お尻って綺麗に二つに割れてるんだって良くわかる程度には……」
「そっすか……」
項垂れる俺の後ろに回ったミストが騒いだ。
「うっわ!太郎、マジ半ケツじゃん!今までケツ出して走ってたのかよ!?あっ、でも後でアタシが縫ってやるから心配すんなよな!これも妻の務め……ってヤツだな……ちょー照れる!」
「やだよ!お前ぜってー可愛いアップリケとか付けるだろ!?」
「す!するワケねーし!!」
やる気だったな……?ミストよ、俺は知ってるんだよ。お前が可愛いクマさんパンツとか好んで履いてるのを。いつもアパートのベランダに堂々と干してるからな!!
そうこうしている内に思っていたより早く、目に見えて敵の数が減って来たのだ。俺は皆を鼓舞しようと大声を出す。
「おい!みんなもうひと押しだ!これ間違いなくイケるぞ!!」
俺の背後からの声にヒルドが呼応する。
「太郎の言う通りです!我々だけで押し切れます!このまま慎重にいきましょう!!」
「おうよ!喰らえや!!どっせぇえええええい!!」
そうして大家さんが再び二体の怪物に斧を叩きつけた直後だった……突然静かになる戦場。一斉に戦意を喪失したかの様に立ち尽くす怪物達。すべての個体が今まで猛々しく振り上げていた両手の鎌をだらり……と下げてしまったのだ。その姿に意思は全く感じない。
「おっ?なんだこりゃ??テメーら、俺様のパワーにビビった……ってワケじゃなさそうだよな……」
呆然とする俺達など目に入らないかの様にフラフラと川の方向へと歩き出す怪物達、その行く先には現れた時と同じ”無数の次元の裂け目”が。俺の背後でアイリスさんが呟く……
「帰る……のかしら……?」
案の定、空気を読まずにレアと姫様は次元の裂け目へと吸い込まれて行く怪物達を後ろから殴りつけているが……ブリュンヒルデが大きな声で俺達に注意喚起をした。
「皆、まだ気を抜くな!何か……妙だ」
次々と来た空間へと帰って行く異形の怪物達。そして最後の一体が裂け目の直前に立って……こちらを見てニヤリと”笑った”のだ。悪寒の走るような表情、それは悪意に満ちた……
丁度武器を手にした戦乙女隊が土手を走り降りて来るのも見える。
あれを見て形勢不利と考えたのだろうか?いや……違う。あの笑みはもっと”悪意に満ちて卑屈”なものだ。”虎の威を借る狐”という言葉はご存知だろう?強いヤツの後ろにいつもくっついていて、自分も強くなった気になり周囲に横暴を働くような薄汚い手合いがいる。
そんな連中が弱い者虐めをしてニヤニヤと喜ぶ様な表情……それと同種の卑劣で薄汚い物を感じたのだ。
イラついたのか大家がソイツに斧を投げつけて身体を真っ二つに叩き割る。確かにこのオッサンは無茶苦茶ではあるが、昔からあの手の腐った輩が嫌いだ。そして化物は……表情一つ変えずにニヤつきながらゆっくりと地に沈み込んだ。
「てめえ……随分といい面だったぜ。そのまま一生クソして寝てろや!」
大家さんはそのまま苦虫を噛み潰したような顔でタバコに火を点けた。ゆっくりと吐いた紫煙が宙を舞う。
ブリュンヒルデの前に整列する武装した戦乙女隊。間もなく姫様の元にも武装した魔属の女性達が集結した。
「ブリュンヒルデ隊長、終わった……のでしょうか?」
「いや……勘の域は出ないが、何かが妙だ。全隊員に告ぐ!このまま武装状態にて待機!」
姫様の前に進み出た魔属側の隊長と思われる女性もブリュンヒルデと同じ意思を見せる。
「姫様、我々も暫く様子をみましょう」
姫様も答えた。
「うむ、最後のアイツ……何か感じ悪い奴だったな!指揮権は貴様に一任してある、好きにするがよい!私は良くわからないからな!!」
「仰せのままに」
このまま何も起きなけりゃいいんだが……?俺が、いや、その場にいるほとんどの者がそう考えていたであろう頃、河川敷公園へと近付く影があった。




