鬼さんこちら
こんにちは!ワセリン太郎です!最近、数千ピースのジグソーパズルにハマってしまい、更新が滞ってしまいました!いつもの事です!
「うおわあぁぁぁぁぁぁぁああ!!ちょっ!何で俺を追ってくるワケ――!?」
俺、何かお宅らの気に障る事しましたっけ――!?逃げる俺を追う異形の怪物総勢約六十。とにかく全力で逃げる。遠くから逃げる俺の背中に大家の声が届いた。
「おう、太郎いいぜ!そのまま暫く気張ってろや!!そうすりゃそのうち”マナ”ってのが溜まるだろ!」
確かにそうではあるのだが……いや、追いつかれたら人生終了だし、今考えても仕方がない!
俺は必死に公園の柵を飛び越え土手を走り、遊具の置いてある場所まで逃げてジャングルジムの裏に滑り込むが……
鉄製のジャングルジムは怪物達の腕の鎌によって、包丁で野菜でも切り飛ばすかのように一瞬でバラバラにされた。俺の手元にあるのはヒルドに手渡された護身用の短剣のみ……間違っても立ち止まってはいけない。
急に尻に痛みを感じて手を当てるとうっすらと血が滲む……怪物の鎌がかすったらしい。やばい――!このままでは俺のお尻がズタズタの傷物にされてしまう――!お尻が傷物の男ではお婿さんに行けなくなってしまう!!
そうして必死で逃げていると遠くで手を振る姿があり……何かを叫んでいるのに気が付いた、あれはアリシアさんだ。
「太郎さーん!走り回ってたらマナが拡散しちゃってダメなの!」
確かに言われてみるとそうかもしれない。だが止まるわけにはいかないし、もしこの怪物達が”俺”ではなく、この”マナ発生器”の方を狙って来ているとしたら……?当然ながらコレを破壊されては、こちらの強力な手札であるアイリちゃんの竜化が不可能になってしまう。
とにかく今は必死で逃げるしかない。追跡者達を引き連れながらターンすると、怪物達の後方からは姫様を先頭にミスト達が追って来ているのが見えた。
道端に敵が数体転がっているのを見ると、多少は数を減らしてくれた様だったが……如何に後方からとはいえ、全力で走る相手を追いながら一太刀浴びせるというのは至難の業なのだろう。そうこうしていると遠くに人影が見えた、レアだ。こちらに向けて大きく手を振っている。
「太郎!私も一緒に走るぞ!ヒルドに行けと言われた!」
なるほど、流石にヒルドは賢い。マナ発生器を狙っているのか俺を狙っているのかを判断する気だな?俺はレアの方へと走る。合流すると、案の定そのタイミングで土手の方からヒルドの声がした。彼女は重装備なので集団鬼ごっこには不向きなのだろう。
「太郎、一旦マナ発生器をレアに預けてください!」
「了解!」
俺は走りながら、隣を並走するレアにマナ発生器を手渡す。受け取ったレアは……何故かそのまま俺の隣を走り続けた。
「いや、レア!お前二手に別れないと意味ないだろ!」
「うん……??」
「うん?じゃなくて!とりあえず二手に別れて走るんだよ!多分ヒルドにも言われて来ただろ!?」
「――!よくわからんが、わかった!」
ようやく別の方角へと進路を変えるレア。そのまま走って行く……さて、どっちだ……?どっちを追って来ている……??少しペースを上げて距離を離して後ろを振り向く俺……ジーザス――!!
「ちょ――!?俺?マジで俺なの!?」
そう、何故か異形の怪物達はマナ発生器ではなく……どうやら俺がお気に召していたらしい。一匹もれなく俺の方へと奇声をあげつつ走って来ている。
ビビった俺が再び必死で逃げていると……何故かレアが戻って来て隣を走り出した。
「太郎!そろそろいいか?」
「いやいやいや!何やってんのオマエ!こっち来ちゃダメでしょーが!?あっちいけ!あっち!アイリちゃんの所だ!」
「何だと!?あっち行けとは太郎はひどいヤツだな!私は少し傷付いたぞ!」
「お前がさっさと”ソレ”をアイリちゃんに届けてくれないと話が進まないんだよ!!それにさっきから俺のお尻が大分傷付いているんですけど!お尻が大惨事なんですわ!!後で何かお菓子買ってやるからさっさと行ってこい!!」
”お菓子”という言葉に、ぱあっと明るくなるレアの表情。
「約束だぞ!一つか!?二つ買ってくれると私としてはやる気が湧くのです!」
「三つでも四つでもいいからさっさと行け!!」
「了解した!約束だぞ!?後で忘れたとかダメだからな!!」
「いいから行け!」
笑顔でマナ発生器を抱えたまま走り去るアホの子……は再び戻ってきて一言。
「太郎!ちなみにお菓子は大きい袋のでもいいのか!?」
「いいからさっさと行け――!!」
ようやくレアはアイリちゃんの元へと走って行った。逃げながら遠くを見ると、ぴょんぴょんと手を振りながら飛び跳ねるミストの姿が。後ろにはヒルドやブリュンヒルデ達の姿も見える。
「太郎!コッチだ!コッチ来い!アタシらがブッ叩く!」
ミストの手には、彼女が使い慣れた魔剣とミスリルの盾が……どうやら先程アイリスさんから受け取ったらしい。俺は急いでそちらへと向かい……到着すると同時に怪物達に向けて振り回される大家の魔斧。
「どっせぇえええええい!!」
流石に鎌で巨大な斧を受け止めるのは無理があったのか、先頭を走っていた怪物の数体が吹き飛んだ――!急停止する異形の軍団。息を切らせた俺をガードするかの様、怪物達との間に割って入る仲間達。膝を付く俺にアイリスさんが”ビニール傘”を手渡してきた。
「はい太郎さん、これミストちゃんから預かってたの!」
「アイリスさんは使わなくていいんですか??」
「えっと……私、超遠視じゃない……?近接戦闘とか、ものすごーく苦手なの」
ウインクして舌をペロリと出す彼女、やはりアリシアさんの姉である。非常に可愛らしい……が、俺はアリシアさん一筋です!!
息を整えた俺は”ビニール傘”を受け取り立ち上がった。
様子を見るようにこちらを取り囲み……異形の怪物達がジワジワと包囲を狭めて緊張が高まった瞬間、ヤツらの後方から叫び声が上がった。
「キシャァァァァァァァァッ!!」
突如吹き飛ぶ数体の敵――!どうやら誰かに背後からブン殴られたらしい。奥を見ると、やはり予告ホームランの様に聖剣様を掲げた彼女の姿が。
「待たせたな!太郎と大家も来たことだし、もう一戦いくとしようか!あっ!太郎、お菓子の約束忘れてはいまいな!?」
レアに片手を上げて答える俺。怪物達は確かに怖いが……何故かこの仲間達といると”やれない事はない”気がしてくるから不思議だ。
そして俺が大きく深呼吸して……「いくぞ!みんな!!」と言おうとした瞬間……大家の声が戦場に轟いたのだった。
「おう、てめーら!このカマキリ野郎共をブチのめせ!!」
「おう!」「ええ!」「あいよ!」「お菓子四つがいいです!」「うははははは!」
「キシャァァァァァァァァッ!!!」
こうして乱闘の幕が再び上がったのだった。




