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ラガーマン

こんにちは!ワセリン太郎です!オリンピックも終わってしまいました。選手の皆様、たくさんの感動をありがとうございます!大変お疲れ様でした!

 「よし、行こう!」


 俺は意を決して皆に伝えた。ニヤリと笑う大家と険しい表情で頷くアイリスさん。俺はこれから走る道のりを考えるといささか不安になるが……勇気を振り絞る。

 遠くの戦場を見ると、ようやく赤竜と化した天音さんの元に援軍が到着し、周囲に展開し始めた直後のようだった。


 赤竜(あまねさん)の活躍によって多少は数を減らしたものの、依然として”異形の怪物達”の数は六十体前後……見た目の不気味さも相まって俺の不安を掻き立てる。だがやるしかない。


「気をつけてね……」


 不安そうなアリシアさんとアイリちゃんに軽く手を上げ応えると……俺達は目立たぬ様にひっそりと行動を開始する。怪物達に見つからぬように素早く土手を走り、荒い息をする赤竜(あまねさん)の背後へと抜けた。心配になり見上げると、やはり彼女(ドラゴン)は随分と傷付き、消耗して小さくなっている。


 周囲を見渡すと、赤竜の左右には展開した神属、魔属の投石部隊が配置されており、前線で敵に包囲されつつ戦うレア達に当たらぬ様に河原の石を拾い上げては怪物に投げつけていた。


 これは非常に動きづらい、どちらにせよこれでは敵の集団がいる真っ只中を突っ切らないと……そう考えていた矢先、隣で大家(しげる)さんがボソリと呟いた。


「なあ太郎。アレよ、走り抜ける隙間がなくねぇか?」


「まあ残念ながらそう見えますね……」


「確かにちょっと危ないかも……」


 アイリスさんも同意する。あの両腕が切れ味鋭い鎌みたいな怪物達がわんさかいる中、華麗に走り抜けるってのは正直かなり難易度が高い。恐らく振り向きざまに首チョンパされておしまいだろう。


 俺が何とか包囲網を抜くチャンスを見つけようと、状況を注意深く観察していると……大家(しげる)さんが妙な事を言い出した。


「あのよ太郎、今河原に例の”マナ”ってヤツがある程度充満してるんだろ?」


「そうらしいっすよ?俺には見えないんでよくわからないですけど」


「そのせいだかわかんねえけどよ、この斧持ってるとなんか異常に力が湧くんだわ。異世界(あっち)いる時も何か妙だとは思ってたんだがよ。斧を手放しても暫くそんな状態(かいりき)が続くんだぜ?これ」


 話を聞いたアイリスさんが斧に手を当ててみる。


「これってアイリちゃんに貰った魔法の斧でしょ?膂力増大の加護が付与されてるんじゃないかしら?あ、ホントだ!握ると何か変な感じがする!」


「だろ?だが日本に戻ってきてから持つと案外重くてよ、町中じゃあ必要ねえし車に積みっ放しにしてたんだわ。でも今は棒切れみてえに軽いんだぜ?なるほどマナってのがあるとこうなるんだなぁ」


 確かに今は軽々と扱っているので”マナ”のある場所では魔法の恩恵が発動するのかも知れない。だがそれと今とがどう関係するのだろう?不思議に思っていると大家(マッチョ)が今度は訳のわからない事を言い出した。


「太郎オメーよ、ラグビーとか好きか?俺ルールがイマイチわっかんねーんだわ」


「まあ、俺も似たようなもんですけど……何で今ラグビーなんですか?」


「いやな、オメーのもってるその”マナ発生器”だっけか?ソレが何かラグビーボールみてえだなと思ってな。それでいいこと思いついたのよ」


 そういうと大家(マッチョ)は突然、俺の後襟を掴んでズンズンと赤竜(あまねさん)の股下を進む。ギョッとして叫ぶアイリスさん。


「ちょっと、何をしてるの――!?」


 躊躇なくどんどんと前へと進む。


 そしてレア達を包囲する怪物達の背後まで到達した大家(マッチョ)は……ドスリと地面に魔斧の先端を突き立てた。そして両手で俺を掴み……


「太郎、オメーちょいとタッチダウン決めてこいや!!いくぜ!どっせええええええぇぇい!!」


 はい――!?次の瞬間、俺は魔斧の加護で恐るべきパワーアップを果たした大家の力で空中に放り投げられたのだ!


 マナ発生器を抱えたまま、空中を弾丸の様に進む俺。奇声を上げながら上空を飛ぶ俺を”変な物”でも見た様に唖然と凝視する異形の怪物達……突然の不審者の登場に戦場の時が止まる。


 スローモーションの風景の中、俺は彼等全員と目が合ったような錯覚にとらわれた。


「ういええええええぇぇっぇぇぇぇ!?」



 ゴシャッ!!河原の土に頭から突き刺さる俺。敵も味方も動きを止め、全員が俺に注目している状況に言いようのない居心地の悪さを感じる。背後からレアとミストの声。


「太郎すごいな!お前、実は空を飛べたのか!?私は知らなかったぞ!!」


「ちょ……太郎何やってん……の?」


 何をしてるのかだと?それは俺が聞きたい。痛みを堪えて起き上がると、目の前には呆然とするヒルドの姿が。俺はそのまま周囲を刺激せぬ様、異形の怪物達にも愛想を振りまきながら姫様(キア)へと近付く。


「えっと……キアさん?忙しい所悪いんだけど、これちょっと動かして貰っても……?」


「ああ、うん……」


戦場が静まり返る中、キアのダイヤルを巻く音だけが響く……


「あ、ソレあとは一番上の取っ手を引っ張って回すだけだぞ」


「あ、はい……了解しました。ありがとう……」


 敵味方共に全員が俺に注目する中、取っ手を回してマナ発生器を稼働させる。発煙筒の様に噴き出すマナの霧。そして俺は再び愛想を振りまきながら”異形の怪物達”の中を会釈しつつそっと歩いて通り抜けた……


「あ、どうも……すみません、なんかお邪魔しちゃって……あ、そこちょっとすみません……」


 すれ違う怪物の何体かは雰囲気に飲まれたのか会釈を返してくる。すみませんね、という感じのジェスチャーをしながら通る俺にわずかに道を開けてくれる怪物達。俺は思う。何だ、生まれた世界は違えども分かり合えるじゃん!!


 そう、んなワケがない。突然上がる怪物達の金切り声――!!


「「キシャァァァァァァァァッ!!」」


 時が動き出す戦場――!!俺は再稼働して煙を吹く”マナ発生器”を脇に抱えて全力で走り出した――!!


 暫く走り、そのまま後ろを振り返ると……ちょっ!?今度は何故か俺を標的に定めた異形の軍団が全力で追って来ている!死ぬ!マジで死ぬ――!!


 そうして今度は「俺vs異形の軍団60体」の地獄の鬼ごっこが開幕したのだ。

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