最強のカード
こんにちは!ワセリン太郎です!ハーゲンダッツが食べたいです!
「くそっ!あっちいけ!!痛っ――!」
押し寄せる異形の軍勢に対し、必死に前脚で攻撃する赤竜。しかしその動きはどことなく不自然でたどたどしく、明らかに身体を動かす事に慣れていない様に見えた。
怪物達はヒットアンドアウェイで少しずつ彼女の身体を傷付けてゆく。一撃こそ大したダメージではないものの、奴等の腕の鎌はドラゴンの肌にすら傷を付けるのか……どうりで普通の鉄を紙の様に切り裂く訳だ。そうなるとあまり状況は良くはない。
どうしたものかと考えていると……ブリュンヒルデがこちらにやって来た。血を流し、あちこち怪我をしているにも関わらず平然としている彼女。流石は隊長格といったところか?笑いながら俺に声を掛けてくる。
「やあ、ヤマダタロウ、さっきは驚いたよ!私も戦乙女として勤務して長いが……人間が空を飛ぶとは知らなかったよ」
天音さんが竜化した際、魔力の爆発によって俺達が空高く吹き飛ばされた件だ。
「お疲れ様です……っていうかそんな怪我しといて、わざわざ嫌味を言いに来れますよね!早く治療して貰ってくださいよ!!」
フッ、と笑う彼女。しかし次の瞬間真顔になり、異形の軍団と戦う赤竜へと目を向けた。
「まずいな。当たり前なのかもしれないが、彼女は戦い慣れていない。それに妙だな、もしかすると身体を上手く扱えていないのか?」
俺は片手を挙げ、回復役の救護班をブリュンヒルデの元へと呼びつつ答えた。
「そりゃそうですよ、彼女はついさっきまで”自分が竜になる”なんて思いもせずに生きてきたんですから。それにブリュンヒルデさんもアタランテの竜族が人型になるって知らなかったでしょ?俺達も先日の仕事の一件でたまたま知ってしまっただけで……そもそもあんな事実を知ってるのは、神様や勉強大好きエイルさん位のもんじゃないんでしょうか?」
「たしかにあれは初耳……というか、目の前でいきなり”竜化”を見たから驚いたな。彼女のご両親は教えなかったのだろうか?」
「竜族と言えども、日本じゃ”マナ”が無ければただの人ですから」
「なるほど……まあ確かに無意味ではあるか」
回復役の魔属がブリュンヒルデに治癒魔法を掛ける。魔属の女性に目礼すると治療を受けながら話を続ける彼女を見つつ思う、この女性はいちいち所作が美しい。それにカッコいいな、確実に俺なんかより女性にモテそうだ……あれ?涙が。話を戻そう。
「しかしまずいな、如何に強大なドラゴンとはいえ、あのままずっと切り刻まれていてはいずれ失血して力尽きるだろう。助けねば。それと共闘が出来れば良いのだが……あの巨体だ、味方も踏みつぶされそうでな」
「一旦全員で逃げて、皆完全装備で戻って来るとかダメですよね?」
「私も半数を天界に戻して装備を持ってこさせようかとも考えたのだが……時間が掛かりすぎる。投石の手数が減ると一気に怪物達に押し込まれてしまうだろう。それと言うまでもないが全員が逃げれば……奴等が町中へと解き放たれる事になるぞ?」
「そうか、確かにそうですよね……あれっ!?」
俺は自分の目をこする。奇妙な違和感。ブリュンヒルデと一言二言会話してから、戦う赤竜へと視線を移すと……何か小さくなっている気がする。
「どうしたのだ?ヤマダタロウ」
「太郎でいいっスよ。つーかブリュンヒルデさん、何かドラゴン……一回り小さくなってません??」
「なんだと!?……あ、言われてみればそんな気がするな」
最初は三十メートルは軽く越えていた巨体が現在、目測二十五メートルといったところか?とにかく随分と縮んでしまっている気がする。一体あれは……?そうやって不思議そうにドラゴンを観察する俺達に横から声を掛ける者がいた。
振り向くと……随分と酷い有様だ。予備にと持って来ていたメガネ以外は全身ズタボロで、もはやボロ雑巾と見間違える程に汚れたエイルだった。ところどころ破れた紺色のジャージの全身には大量の靴跡がついている。
「ふむ、確かに縮んでいますね。恐らくは体内での”マナ”の定着が出来ていない……どんどん流れ出ています。まだ彼女自身が竜化に慣れていないのでしょう、身体の動きも最初より鈍くなって来ているようにも見えますし……」
声を荒げるブリュンヒルデ!
「まずいじゃないか!あと、どの程度持ちそうだ??」
「そうですね、大体あと十分程度といったところでしょうか?助けに行くのは良いです。ただ、貴方達も行くなら万全に。さっきより相手は数を増やしてきていますのできちんと戦術をもって……あっ!待ってください!!最後まで人の話を……!」
あくまで冷静に勝算を見出そうとしたエイルだったが……相手は脳筋女の首領だ、聞く訳がない。剣を天高く掲げて大声を出すブリュンヒルデ。
「諸君!このままではドラゴンがもたない!これより彼女を救出する!全軍、前へ!!」
号令に応じ、分解したテントの柱や棒切れ、手頃な石ころ等を両手に握りしめ、再び戦地へと移動を開始する天界魔界の連合軍。
先頭を見ると、レアと姫様が得物を振り回しつつ勢い良く走って行くのが見えた。ビニール傘を持ってそれを追うミスト、こちらも随分元気だ。アイツらには”疲労”というものは存在しないのだろうか?
そうこうしていると再び一回り小さくなって必死に戦う赤竜の姿が目に入り、不安を搔き立てる。何かできる事はないのだろうか……
そう考えた俺が周囲を見回すと、今だに”マナ発生器”を必死で触っているアイリちゃんの姿が。そういえばさっきから何をしているんだろう……?その隣には困り顔のアリシアさんもいる。
「アイリちゃん、さっきから何してるの?」
「あ、太郎さん!えっと……私も竜化しようと思って……でもこの機械がマナを出さなくなっちゃって……私が竜化するにはもう少しマナが必要なんです」
忘れていた……最初からここにいるじゃないか!一瞬で戦況を覆す可能性を秘めた最強のカードが。
すっかり忘れていた原因は二つ、まずは急に天音さんが赤竜になった事に驚いて正常な思考がブッ飛んでいた事。もう一つは目の前のオドオドした可愛らしい少女と、アタランテで見たあのブラックドラゴンが同じ存在だと”頭でしか理解”していなかった事だ。
俺はアイリちゃんから受け取った”マナ発生器”をまじまじと見た。とにかく触ってみよう。試行錯誤する事数回、ダメだ。ダイヤルを動かす順番があるのか全く反応しない。近くにいた魔属の女性を呼んで聞く。
「すみません!お姉さん、これの使い方わかります?」
「マナ発生器ですか……流石にそのクラスの魔導器になると貴族階級の方しか操作方法を知らないかと……ここで使えるのは姫様だけですね」
「そうですか……」
「申し訳ないです……」
戦場の中に姫様の姿を探す……目立つので程なく見つけることが出来た。レアと二人で最前列で暴れている。俺の考えを見抜いたのか、アリシアさんが俺の腕を掴み「ダメよ……」と首を振った。
「あそこまで一人で行くと……確実に死ぬよなぁ?たどり着くまえに確実に三枚おろしにされる自信があるよ」
そう俺が肩を落としていると、背後から掛かる声。
「へっ、そうでもねえぜ?」
振り返るとそこには以前、アイリちゃんから貰った巨大な魔斧を担いだ大家の姿が。そうか、姿が見えないと思っていたが……アパートに武器を取りに帰っていたんだな?
後ろにはミストの魔剣とミスリルの盾を持ったアイリスさんの姿も。よし、二人がいればいけるかもしれない。俺は”マナ発生器”を脇に抱えると、再び最前線で暴れるレア達へと視線を送った。




