奥様はドラゴン
こんにちは!ワセリン太郎です!ようやく初期のお話のフラグを少しづつ回収できるお話に突入です!
そのままレアと交戦中の一体の後頭部を後ろから――!
「だーいん!!すれーいぶっ!!!」
姫様の放つ黄金の一閃――!ズドオンッ!恐ろしい音と共に吹き飛ぶ怪物の頭部。
殴られた怪物の身体は音速の壁でも破ったかの様に衝撃波を発生し、バラバラになって四散した。忘れてた……パッ君の生み出す武器には限度を超えた重力加速魔法が付与されているのだ。
余りにも危険という事で俺のビニール傘とレアの金属バットには神様からかなりキツく制限が掛けられているのだが……今のキアの魔剣には何の制限も掛かっていない。
ニヤリと笑う姫様の登場に驚くレア。平静を装ってはいるが、何かキア自身もその威力に若干ビビッているように見える。思ったよりヤバい力が出たのだろう。
「なっ――!?キア!何だそれカッコいい!!ずるいぞ!」
「ふふふ、私の新しい魔剣だ!見たかあの力?お前の聖剣ごときと一緒にするでない!」
キアの登場に沸き立つ戦場。俺が少し落ち着いて戦況を見直すと、神属、魔属共に重傷者はいないものの、やはりかなりの数の負傷者が出ていた。
異形の怪物は最初にレアがボコった一匹を入れても仕留めたのは4匹。まだ二十匹はいる。
再び両軍が激突を始める。敵の攻撃を盾で受け止めるヒルド、その背中から飛び出したブリュンヒルデが双剣で相手を切り刻む――!しかしその背後から別の一匹が襲い掛かり彼女の背中に浅い傷を負わせた。 追撃をさせまいとすかさず傘で殴り掛かるミスト。まさに一進一退だ。その奥ではレアとキアが背中合わせに複数体を相手取っているのが見える。
まずいな……質はともかく手数が違いすぎる、このままではいずれジリ貧だ。俺がそう考えていると、更に戦況を悪化させる事態が起きたのだった。
再び歪む時空……その数五十以上――!敵の増援だ。一体ヤツらは何なのだろう?どよめく戦場。神属、魔属の連合軍に明らかに焦燥の色が浮かんでおり、風向きが一気に変わる……
それでも楽しそうなのはレアと姫様位のものだった。あいつら数とか数えるの苦手そうだしなぁ。
アリシアさんがアイリスさんに叫ぶ声が聞こえて呆然とする俺を現実に引き戻した。
「お姉ちゃん!マナが満ちたわ!今の内に天音さんを!」
「わかってる!今魔力を溜めてるから少し待ってて!」
ようやく”マナ”が満ちたのか――!?とりあえずこれで横崎さんは助かる!暫く目を瞑って両の掌を重ねていたアイリスさんがこちらを向いて叫んだ。
「太郎さん!大家さん!天音さんの身体を支えてて!」
「お、おうよ!」
「わかりました――!」
慌てて婦警さんの身体を抱き起して支える俺と大家。そうしてアイリスさんが何か呪文を唱えて暖かい色に光る掌をこちらに向けた瞬間……いや、正確にはそれが起こったのは掌が向けられる直前だった。
意識を失っていた横崎さんの身体が急に眩いばかりに輝き始めたのだ。俺の様な一般人にさえもわかる魔力の膨張――!!それが彼女の身体に圧縮されてゆく。
そして出血多量で意識を失っていたはずの横崎さんの目が虚ろに開き、赤い瞳が燃える様に一層輝く。だがどうも瞳は焦点が合わず、意思を一切感じさせない。「え……!?」事態が飲み込めずに顔を見合わせる俺と大家。
「なあ、太郎、これは回復魔法……ってヤツ……なんだよな?何か変じゃねーか?」
「さあ……俺も初めて見ますんで……そうなんじゃないっスかね??良くわかりませんけど」
不審に思った俺達が、魔法を掛けているはずのアイリスさんを見ると……あれ?やっぱおかしくね??
何故か引きつった笑顔のアイリスさんが後ずさっていく。
え……?あの、何をされているのでしょうか??そうする内に更に光が強くなる横崎さんの身体。そして「なあ太郎、コレなんかヤバくねえか……??」そうボソっと大家さんが呟いた瞬間だった、姉とそっくりの表情で徐々に後ずさっていたアリシアさんが叫ぶ!
「みんな逃げて――!!」
次の瞬間、濃縮された魔力の爆発とともに俺と大家さんは爆風で空に吹き飛ばされていた。
ううっ……空を飛ぶのは本日二度目だ。全身を打って身体が痛い。うつ伏せに倒れたまま星が飛んでチカチカする目をこすり、俺は目の前を見る。
あれ、何だろう……?目の前には赤い随分と大きな柱の様なものが。フラフラとそれに摑まり何とか立ち上がった。
何だこれ?俺が空を仰ぐとそこには巨大な爬虫類の様に鱗に覆われた腹のような物も見える。幻覚か?まーたアタマでも打ったのだろうか?
しかしどうも嫌な予感を覚え、周囲を見回すと……遠くでアリシアさん達が何か叫んでいるのに気が付いた。
うん……?何だって??えっと……「に」、「げ」、「て!」だって?「逃げて!?」次の瞬間、俺が寄りかかっていた”赤く巨大な太い柱”が急に動いて俺は再び地面に転ぶ。
そして地面に仰向けになった俺は……自分の置かれた状況をようやく理解したのだった。
ジーザス!!そう、俺は今……巨大なドラゴンの腹の下に寝転んでいるのだ!匍匐前進で必死にドラゴンの腹の下から転がり出す!一体どうなってんだ――!?
踏みつぶされる!慌てて逃げ出した俺が距離を取りつつ見上げると、そこには体長三十メートルはあるだろうか?竜化したアイリちゃんをも凌ぐサイズの巨大な赤竜が!
全力でアリシアさん達が集まる場所まで走りながら俺は叫ぶ!マジで馬より速く走ったかも知れない!
「ちょ!?何なんすかアレ!?」
ようやく復活したのか予備のメガネをクイッとやったエイルが答える。
「ふむ……ドラゴンですね。レッドドラゴンです!!」
「んなこたぁ見りゃわかるよ!!そうじゃなくて!何で日本の河川敷公園にドラゴンがいるのさ!?」
アリシアさんが困った様に答えた。
「えっと……あれはね……天音さんなの」
様々な話が一瞬で繋がり、理解した。つまりアレだ、横崎署長の奥様は……竜族だったのだ!!
あの神様達、黙ってやがったな!?何が昔竜退治をしただ……連れて来てんじゃねーか!
つまり竜族を母に持ちその血が流れる横崎天音さん。その彼女が生命に関わる大怪我をし、河原にマナ発生器で”マナ”が充満した事によって身体再生の為に本人の意思とは関係なく”竜化”したという訳だ。
気付くと戦場で暴れていた神属、魔属、異形の怪物達も戦闘を止め、突然河原に現れた巨大な竜を呆然と見ている。そしてようやく……皆の注目を一身に集める赤竜がゆっくりと口を開いたのだ。
「あれ……?なにこれ?何でみんな小さいの……?ってアレ?はぁ!?マジで意味がわからない……」
やはりというか、当然本人が一番ショックを受けている。自分が竜族だと今の今まで知らなかったのだろう。
しかし竜化して威厳のある声で”年頃の女性風”に喋られると妙な気分である。どうりでアイリちゃんが竜化した時に”それっぽく振る舞って”いた訳だ。
ふと思い出しアイリちゃんを見ると、彼女は必死にキアが持って来たマナ発生器をガチャガチャと触っている。何をしてるんだろう?そうして俺達が呆然としていると……状況を理解したらしきヒルドが叫んだ。
「天音!事情は後で説明しますから、この赤黒い怪物達を一掃しなさい!今のあなたなら……やれます!!」
直後、全体に指示を出すブリュンヒルデ。
「神属、魔属、両軍共に撤退!」
一斉に引く連合軍。巨体と化した天音さんは未だに戸惑っているが……
「キシャァァァァァァァァッ!!」
こちら側の味方と悟ったのか、現れた赤竜に向って突撃を開始する”異形の軍団”、今度はドラゴンが標的となった様だ。
自分へ迫る怪物達に気が付き天音さんが慌てるのを見て、彼女の足元でミストが両手を広げつつぴょんぴょんと跳ねながら何か叫ぶ。
「ねーちゃん、いいから殺ッちまえ!やらなきゃ皆死ぬぞ!ブッとばせ!!”こーむおしっこぼーがい”だ!死刑にしろ!」
「アレって私を斬り付けた奴か!?つーか何であんなに沢山いんの!?くっそ、やるしかないか……」
ミストよ、お前それ”公務執行妨害”だろ?どこで覚えたんだか。両手の鎌を打ち鳴らしつつ迫る”異形の怪物達”。天音さんもようやく腹を括ったのか、手足や羽、尻尾などを軽く動かし会敵に備える。
こうして「ドラゴンvs異形の怪物」という特撮映画さながらの戦いが幕を切って落としたのだった。




