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新たな魔剣

こんにちは!ワセリン太郎です!明日からまた月曜日です。ほんと、面倒くさいですね!

 携帯用の回復魔法の封じられた瓶が次々に開けられる。到着した神属と魔属の医療班が横崎さんに次々と魔法を掛けていくが……


 双方共に現場に持ち込んでいるのは”乱闘用に準備された軽微な回復魔法”だけらしい。だが、今はそれが彼女の命を繋いでいた。


 それだけでも気が滅入るのに、それに加えて今は最悪の状況だ。このままでは更に重傷者が出ないとも限らない。現れた異形の軍団はこちらの様子を気味の悪い目付きで伺っており、やつらがいつ攻勢に打って出るかはわからない。


 俺は落ち着いて戦力を分析した。まずはオリハルコン製の聖剣様(キンゾクバット)を持つレア。それに俺のビニール傘を渡したミスト。後は完全武装状態のヒルドと、彼女の盾に仕込んであった片手剣を二本受け取り両手に構えるブリュンヒルデ。


 残念ながら大家(マッチョ)の魔法の斧とミストの魔剣はアパートだし、他の戦乙女達も武装は天界に置いてきたらしい。異形の怪物の数は倒れてるのも入れて合計二十四体か。俺は流れる汗を拭いつつ、キアに聞く。


「なあキア、魔属側は何か武器とかないのか?ミスリルみたいな硬度の材質じゃないと切り刻まれるのがオチだけど……」


「うむ、私達はコレしか持って来てないぞ!」


 自信満々にゴルフクラブを見せてくるキア。


「お前それ商店街のアキヤマゴルフで買ったヤツだろ!折れるのが目に見えてる!」


「やってみないとわからん!」


 ダメだ。四対二十四、怪物達の強さを考えるとかなり不利だ。それに時間が経つ程出血が止まらない横崎さんの命も危ない。


「何か手はないのか……?」


 俺がそう呟くのを聞いてヒルドが唇を噛む。


「マナ発生器があれば……せめて天音を救うことができるのですが。流石にそんな物はここには……」


 きょとんとした顔でヒルドの方を向くキア。


「うん……?あるよ?」


 ギョッとした顔で驚くヒルド。


「何故そんな生態系に影響を及ぼすような危険なものがここに!?」


「いや、だって日本(こっち)はマナがなくて不便だろう?魔法使えないと面倒だからお父ちゃ……我が父、魔王様の宝物庫から黙って拝借してきたのだ!後で使おうと思ってたのでな!」


「何と愚かな……いやしかし、今は助かります!」


 キアが合図をすると魔属の女性が遠くのテントへ向けて走り出し、それとほぼ同時にこちらへとゆっくりと歩を進め出す”異形の軍団”。ブリュンヒルデが叫んだ。


「来るぞ――!戦乙女(ヴァルキリー)隊、戦闘準備!この気色の悪い連中に我々の恐ろしさをとくと見せてやれ!武器の無い者は石でも投げつけてやれ!」


 じわりじわりと詰め寄る両軍。ヒルドが最前列に出る前に俺に短剣を手渡してくる。


「太郎も随分出血していますね、一応それを護身用に。それとアイリス、マナが充満したら強力な回復魔法が行使可能でしょうから……天音を頼みます!」


 押し迫る異形の軍団、ヒルドはそう言いアイリスさんが頷くのを見ると、隊列の先頭へと行ってしまった。

 ブリュンヒルデが剣を振り上げ号令を掛けると、怪物達に向けて全力で投石を開始する戦乙女(ヴァルキリー)隊、それに別角度からは魔属達も援護射撃を始める。これは石ころが大量に転がる河川敷様々だ。


 流石に百人はいるであろう脳筋女達の全力パワーで石を投げつけられた怪物たちは怯んで進軍を止めていた。その間にキアの元に”マナ発生器”が届けられ、俺達の注目を集める。


 それは……見れば見る程奇妙な物体だった。球体で複数のダイヤルの様な物が噛みあって形成されており、各接合部は微妙に浮いていて緑色の光がうっすらと漏れている。。キアは手元に届いたそれを操作し始めた。


「うーん、とりあえずマナ発生量は最大でいいな!よくわからんが大きい事は良いことだ!うん。それから噴霧時間は……この位でいいか!」


 何かブツブツと呟いていた彼女だったが、最後に上部の取っ手を上に引き抜き回転させた。結構な勢いでマナ発生器から噴き出し周囲を満たしてゆく薄緑の霧の様な物質。

 俺も吸い込んでしまったが、特に身体に異常は感じられない。しかしこういう神秘的なアイテムってもうちょっとこう……厳かな雰囲気で動作したりしないもんなのだろうか?ブシュ―ッ!と勢いよく煙を吐く姿はまるで部屋の中でたく殺虫剤だ。煙が徐々に周囲へと充満して行く。


 突然大声が聞こえたのが気になり遠くを見ると、ちょうどレア達が異形の怪物達と激突した瞬間が見えた。人数こそ圧倒的ではあるが、武器を所持していて直接怪物達と戦えるのはたったの四人であり随分と不利なのは間違いない。

 あの怪物達とや合うには、ミスリル以上の硬度を持った武器が必要だ。俺が「くそっ、もっと武器さえあれば……」そう憤っていると、リュックから脱出したパッ君が足元に走ってきた。


「たろー・つくる・か?」


「マジで!?パッ君、何か武器作ってくれんの!?つーかたまには空気読むのな!?」


「しね・よ!?」


 喜ぶ俺に周囲を見回すパッ君……彼の目がある一点で止まる。ああ、アレか。一瞬嫌な予感はしたがこの際仕方がない。

 次の瞬間、パッ君の口がガバッと分度器の様に開いて”宇宙空間”を思わせる腕がそこから出てくる。その腕は一直線にキアの方へ伸び……彼女の持つゴルフクラブを鷲掴みにしたのだった。クラブを離さずに叫ぶキア。


「な!?なんだコイツ!?気持ち悪っ!!」


「キア!いいからソレにゴルフクラブを渡せ!スゲー武器にしてくれるから!」


 渋々ゴルフクラブを離すキア。パッ君はそれを垂直に飲み込むと……しばらくすると案の定、嘔吐き出したのだった。そして……吐き出される例の”虹色のゲロ”。


「うぼえぇぇぇぇぇ!!げぶっ!」


 地面に飛び散る”虹色のゲロ”は間もなく自動で一所に集まり、魔法陣を描きだす。そしてその中央に現れる黄金の光の柱。


「おお……これは……!?」


 吸い寄せられる様に光の柱へと近付く姫様(キア)。そして光の柱から完成した魔剣(ゴルフクラブ)を掴み取り満足気に頷くと……それを天へと掲げた。


「何と美しい……これこそ我が魔剣にふさわしい姿だ……ダーインスレイヴ!ダーインスレイヴと名付けよう!!」



 金色だ。先程まで銀色基調だったゴルフクラブ(ドライバー)がレアの金属バットよろしく、成金趣味全開のギラギラした下品な黄金色(ゴールド)になっている。


「うはははは!ゆくぞ、覚悟しろ怪物共!」


 そのまま二、三度素振りをして新しい得物の感触を確かめたキアは笑いながら戦場へと走って行ってしまったのだ。

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