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戦の始まり

こんにちは!ワセリン太郎です!お盆も終わってしまいましたが、皆様いかがお過ごしだったでしょうか?

お盆に僕が近所を散歩していると、去年旦那さんを亡くされたおばあちゃんにお会いしました。生前とても仲の良い御夫婦で、僕も随分とお二人に可愛がって頂いた記憶があります。そのおばあちゃんが送り火をされていたのですが、火を眺めながら「お父さん、また来年も帰って来てね?ずっと待ってます。」と。僕自身、何故その時にそう思ったのかはわかりませんが、ふと天の川の織姫と彦星のお話が頭をよぎりました。死してなおずっと大切にし続ける”想い”。悲しいけれど何故か美しい。とても素敵だなと思います!

 ”アンタってもしかして魔属?”そう聞いたミストに対し、キアはしばらく不思議そうに首を傾げて……答えた。


「うん」


 それを聞くなり胸を張り、自信満々に宣言するレア。


「なるほどな!やはり魔属か!先程の姑息な手口、きっとそうでないかと私は最初から感付いていたかも知れない!」


 見え透いた嘘をつくな、あと明らかに日本語がおかしい。見守る俺の隣ではアワアワと慌てるエイルが俺のシャツの袖をガッチリと掴んでいる……あの、伸びるんで止めてください。そうしていると、しばらくレアとミストをジッ……と見つめていたキアが大声を上げた。


「あっ!お前達もしかして”神属”か!?今気が付いた!!……いや、実は最初から知ってたけどな!!」


 キアよ、お前もか。レアとミスト、キアの二手に分かれて距離を取るアホの子三人組。キアを睨むミストが背中から聖剣様(キンゾクバット)を取り出して構えるレアに言う。


「レア姉さん、コイツ……かなり強いぞ。今気付いたけど」


「うむ、私は最初から知ってたけどな!」


 急に緊迫した空気に包まれる公園。俺はシャツを掴むエイルを連れたまま、周囲でレア達を見ている子供達を手招きする。


「ねー太郎兄ちゃん、レア姉ちゃん達何やってんの?決闘ごっこ?大人なのに何かアホっぽいね。あ、でもいつもの事か」


「うん。アホに関わっちゃいけないよ。あ、そうだ。お前ら五百円あげるからジュース買っといで。買ったら別の場所に行って遊ぶんだぞ?」


「マジで!?行く行く!でも太郎兄ちゃんビンボーじゃん?いいの?」


 うるせーよ!?誰だ?俺が貧乏だって子供に教えたヤツは!親か!?


 そうして子供達が去るのを確認したエイルが鞄から何か小瓶の様な物を取り出して……地面に叩きつけて割った。それからこちらを見てアイコンタクトしてきたので、恐らく”人払いの魔法”か何かなのだろう。


 俺達は再びレア達に視線を戻す。


 するとレアの金属バットを見て”フン!”と鼻で笑ったキアがレアを指さして言った。


「それが貴様の武器か?大した物ではないな。私が本物の武具というのを見せてやろう……ちょっと待ってて!自転車の所に置いてるから取ってくる!」


 自転車に走り、カゴに立て掛けていた袋を破らないように丁寧に開けだすキア。お前どーせソレ、さっき商店街で買ったというゴルフクラブだろう?それから案の定な品を手に取った彼女は走ってレア達の元へ戻ってきた。それを見て喉を鳴らすレア。


「なんだあれカッコイイ……しかし!私の聖剣エクスカリバーの前ではそんな物は無力に等しい!」


 レアの台詞に大きく目を見開くキア。


「エクスカリバー!?何だそれカッコイイ!レア、貴様、ソレに名前を付けていたのか……フッ、後で私もコレに名を付けるとしよう。因みにお前達的には何がいいと思う?」


 よし、あんぽんたん達の話題が再び脱線しつつある今しかない!俺はここぞとばかりに三人の間に割り込み仲裁を開始した。


「はいストーップ!そこまで!とりあえず三人共落ち着こうな?まずは話し合いで解決する努力をしよう。そもそも何で喧嘩始めたのよ?理由は?」


 何故か突然敬語で答えるキア。


「コイツらが神属で、私の武器をバカにしたからです!!」


「私はバカになどしてないぞ!それ欲しい!ください!!」


 よくわからんがいいぞ!やはりこの二人は事の発端である”モンスターキャッチ!”の事などすっかり忘れ去っている。しかし次の瞬間、ミストがスマホを掲げて何かを言おうとした。しまった、コイツは覚えていたか――!?


 俺はすかさずミストを背後から羽交い絞めにし、手で口を塞ぐ。するとしばらくモゴモゴと何かを言っていた彼女は突然抵抗を止めて頬を赤らめ……


「み、みんな見てるし……!ダメだって!いきなり公園で抱擁とか……そんなプレイ、アタシにはまだ……早いっつーか……」


 この状況で何を言っとるんだコイツは?俺が微妙な気持ちでミストから離れた次の瞬間、レアのゴルフクラブへの反応に驚いたキアが妙な事を言い出した。彼女の目から急激に失われる敵意。


「レアよ……貴様、アンポンタンの神属にしては良い目をしているな!魔界のプリンスである私の目に留まった一品の素晴らしさを見抜くとは……」


 いや、キアよ。女性なんだからプリンスじゃなくて姫様(プリンセス)だろ?


 うん……?今何と!?今コイツ自分の事を”お姫様”と言ったのか!?


 先程からこちらを見守っていたエイルの方を振り向くと、彼女はキアの発したセリフの意味を理解したのか顔面蒼白となっている。やはり意味合い的には俺の勘違いではなさそうだ。


 俺には天界と魔界の関係や状況は全くわからない。しかし相手が”お姫様”となると、何かあると大騒ぎになるであろうことはエイルの反応からも容易に想像がつく。

 幸い今はまだ一触即発の状態にはなっていないし、このままお姫様に穏便にお引き取り頂けば万事解決だ。多分。


 とにかく食べ物か何かで釣って二人の興味を反らさないとマズい。そう考えた俺が再びレアとキアに視線を移すと……二人は玩具を取り合うお子様よろしくゴルフクラブの奪い合いになっていたのだ。ジーザス!


「ケチ!ちょっと貸してくれるぐらいいいだろう!」


「いやだ!私まだコレ使ってない!あっちいけ!あほ!」


 執拗にゴルフクラブを取り合う二人。


「こらレア!やめろ!ソレはお前のじゃないだろ!返しなさい!」


 俺が慌てて止めに入ると何故か急に二人はすんなりと奪い合いを止めた。――!?妙に聞き分けがいいな……?逆に不安になる。そうして肩透かしを食らった俺が驚き二人の顔を交互に見ていると……キアが鋭い目つきで静かに言い放ったのだ。


「いいだろうレア、最終戦争(ラグナレク)だ!それで決着をつけてやる!!」


一瞬間を置きレアも答える。


「フン!よかろう!時間と場所はそちらに決めさせてやろう!我々が勝利した暁には……ソレをください!」


「良かろう、代わりにこちらが勝ったらその聖剣(エクスカリバー)は私が貰う!!」


 ラグナレク……?何のこっちゃ?そう俺が首を捻って考えていると、後ろからエイルが血相を変えて飛び出し、レア達の間に割って入った。


「やめてくださいレアさん!それにお(キア)様も!そんな事で最終戦争(ラグナレク)なんて冗談じゃないです!」


 懇願するエイルを一瞥し、鼻で笑うキア。そして彼女に向ってこう言った。


「控えよ、私はレアと話をしておる。貴様の様な幼児体型(ペチャパイ)の出る幕ではないわ!」


 暫く間を置いて俯き、小刻みに震えだすエイルの肩。そして彼女はこう答えたのだ……


「言ってはならない事を言いましたね……よろしい!ならば戦争だ!!巨乳死すべし!!」


 戦争!?天界と魔界の!?俺は急な展開に更に慌てるが……どうも何かスイッチが入ったらしく鋭い殺気をを放つエイルと、それでも尚強気で彼女を見下ろすキアの間に入る勇気は持ち合わせていない。もうやだ女性の喧嘩怖い!


 腰が引けた俺の背後からはミストが「おう、いいじゃん!やってやんぜ!魔属ごときが後で吠え面かくなよ!」等と煽りながら近づいてくる。コイツら一体何する気だよ……?俺があたふたしていると、レアがキアに声を掛けた。


「キアよ、早く日時と場所をきめるがいい!ハンデとしてその位譲歩してあげないでもない!」


 頷き少し考える素振りを見せるキア。それから元気良く答えた。


「今日、初めてこっちにきたので場所は何処が良いかわかりません!あと、明後日は用事があるから明日がいい!お前達、時間大丈夫??」


 やはりアホだ。まるで一緒に遊びに行くノリじゃないか。レアが頷き、公園から見える堤防の方を指さす。


「それじゃあそこの河原が広いからな、其処に明日の朝10時だな!約束だぞ!」


「うむ!わかった!約束!」


 隣ではエイルが上司らしき人物に電話を掛けて「あっ、はい。突然で申し訳ございません……今月まだ三日残してますので……助かります!はい、ありがとうございます!」と。

 完全に有給休暇を取る体に入っている、仕事しろよ公務員。まずい、誰も止める人間がいない。俺が頑張らねば……


「なあ、戦争とかしちゃうと怪我したり最悪死んじゃったりしてみんな悲しいじゃん??そんな事やめようぜ!そうだ、ラーメン!みんなラーメン食べたくないか??仲直りするなら俺奢っちゃうけど!!」


一瞬だらしない顔になり、半開きの口でこちらを見るレアとキア。しかし……


「神属に二言はない!」


「魔属に二言はない!」


 と、彼女達は少し涎を垂らしたまま、未練がましそうな顔で同時に強く言い放ったのである。

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