また一難
こんにちは!ワセリン太郎です!皆様、お盆は如何お過ごしだったでしょうか?本日僕は友人から「今地元から帰ってるんだけど、奇声ラッシュに巻き込まれた」との謎のlineメッセージを頂きました。”奇声ラッシュに巻き込まれる”というのは一体どういう状況なのでしょうか?色々と想像してみると夜も眠れません!!
大声で遊ぶレア達に声を掛けた褐色の長身美女を凝視する俺。
まあ普通に考えれば「同じ遊びをしている人達を見つけて声を掛けた」ってところなんだろうが……しかし通常、大の大人が知らない連中に声を掛けたりするだろうか?いや、しないだろう。
それに彼女の風貌が俺の鍛え上げられた”トラブル感知センサー”にビンビンとくるものがある。どう見ても日本人に見えない……そもそもあんな銀髪なんてありえないし、どうも髪を染めているようにも見えない。
しかし、かなり目立つ容貌の大声の主を見ても周囲の子供達が全く過剰な反応を見せていない……という点で俺には多少の心当たりがあった。
まずレアやアリシアさんの様な金髪は世の中探せばそれなりにいるだろう、ミストの明るい栗色の髪に関しては日本では違和感すら覚えない。
だがヒルドの薄く透き通るような青い髪はどうだ?彼女も明らかに染髪した様子はなく、生え際まで美しいブルーだ。まず人間ではありえない。
目の前の銀髪女性もこちらから見る限りは同じような印象を受けるのだが、随分と派手な割に周囲の人々に違和感を与えている様子は皆無。
この点を踏まえて俺は一つの結論に到達する。これはアレだ、神様が言っていた「天界人達が現世等に顕現する際に自動的に付与される”違和感消去”の魔法」俺が町中でノームのパッ君を背負って歩いていてもほとんどの人が気付かない、いや認識できないと言った方が正しいのか。
俺や大家が彼女たちの放つ違和感を見て取れているのは、あくまで”彼女たちが何者であるのかを正しく認識しているから”に他ならないのだ。つまりそこから推測される事はひとつ……
「もしかして人間じゃない……のか?」
突然俺の座るベンチの背後からひっそりと掛かる声。この声には聞き覚えがあった、おそらくエイルだ。
「太郎さん、よく気が付きましたね……正解です、あれは人間ではありませんよ。魔界の者、魔属です。人間の言葉で言うと”悪魔”と言う方が解りやすいでしょうか?しかも相当強力な力を持っています」
やはりそうなのか……俺は”悪魔”というワードに嫌な感触を覚えて喉を鳴らしつつ、半身だけ振り返ってエイルに質問する。彼女は俺の背後にしゃがみこんだまま例の銀髪女性から目を離さない。
「魔属って言ったかな?ああいうのってやっぱ普段は現世に現れたりしないもんなの?何かすげー警戒してるみたいだけど……?」
「いえ、私達神属が現世に駐在しているのと同じように、彼女達”魔属”の中にも現世駐在員はいるのですよ。天界が各世界の秩序を司って管理しつつ導く様に、魔界も”世に蔓延る混沌”を減りすぎず、また増えすぎない様に調整する役目を負っています。お互いに仲はあまりよろしくはないですけどね」
「ああ、なら別に居ても特に問題はないってこと?」
「いえ、それが”駐在する為にきちんと教育された一般の魔属”なら私達と同じように、普通に社会に紛れて仕事をしてたりと全く問題はないのですが……アレはどうもそうではないようです。ハッキリ言うとヤバいです。恐らく”魔王級か幹部級”のどちらかでしょう、神属と違ってああいった一級魔属は奔放で享楽的な性質が多いので、稀にこちらに出てきては”大きな騒ぎ”を起こして帰る者もいるのですよ」
「いや、”稀に”じゃなくて息するように”騒ぎを起こす神属の方”が複数いらっしゃるんですが……?」
ジト目で見る俺から目を反らして可愛らしいハンカチでつたう汗を拭うエイル。
「ま、まあ確かに例外もいますけど!でも幹部魔属の起こしてきた騒ぎは過去の例を見ると、時の権力者をそそのかして戦乱を起こしたり、人々の過剰な倫理観の低下を促したりと。そ、そうです!昨今の某巨大掲示板のやり取りなんかを見てると現代の倫理の低下が……云々」
「言い訳がちょっと苦しい気もするが……とにかくまあ、あまりよろしくない状況な訳ね?でも確かに戦争云々とかってハナシは穏やかじゃないなぁ」
「そ、そうなんです!とにかく、彼女が何をしに現世に現れたのかを確認しないことには……私も先程からずっと尾行してはいるのですが行動がよく解らなくて」
とりあえず尾行中に魔属の彼女が何をしていたかを聞いてみよう。エイルはいつの間にかレア達の輪の中に入って遊びだした魔属の女性から視線を離さずにいる。
「で、エイルさんが尾行してる最中はあの人は何をしてたの?」
「そうですね……私が尾行を開始したのは彼女がゴルフ用品店から、袋に包まれたゴルフクラブらしきものを持って出てきた直後なのですが、あの自転車のカゴに立てかけているアレですね。それから自転車屋さんであのママチャリを購入してから……乗ろうとして転びました。その後は”モンスターキャッチ!”を起動して一直線にこの公園へ……」
「なるほど、話だけ聞いてるとポンコツ臭が半端ないですね……どーせあのゴルフクラブもどこぞの金属バットと似たような経緯で……いや、考えたくないしやめておこう。それよりも俺の勘が正しければ、この場に”大バカ者”が三人いる事になる。何も起きなければいいですけど……そういや何でレア達は彼女が魔属だって気が付いてないんだろう?エイルさんは見てすぐにわかったんでしょ?」
ため息を吐きつつ答える彼女。
「ええ、あれがヒルドやアリシアであれはすぐに気が付くのですよ、彼女達は常に周囲の気配に気を配っていますので」
「ああ、要はレアとミストは注意力散漫……と」
俺は以前レアが同じ町内にいたアリシアさんの気配に暫く気付かずにいた事を思い出しつつ、ふとある事に思い当たる。
そういえば目の前でレア達とギャーギャーと騒ぐ銀髪の魔属の女性は……目の前にいる連中が神属だと気付いていないのだろうか?
いや、アレだ。要は種族こそ違えど、等しく同類なのだ。ため息を吐く俺の考えを察したらしきエイルが同意する。
「アホ同士なんでしょう……お仲間というヤツです」
その直後だった、遊んでいたレア達が大声を上げたのは。
「おい、キア!貴様よくも私の”アルチュウ”を横取りしたな!ソイツはこれから鍛えて”ハゲチュウ”に進化させるのだ!返せ!あっ、抵抗するな!成敗してくれる!」
「フン!レアめ、貴様がノロノロしているのが悪いのだ!この”アルチュウ”は既に私のものだ!」
「いやレア姉さん、それアタシのスマホなんだけど……」
何だよアルチュウって、ひでー名前だなおい!?そして始まる不毛な取っ組み合い。
しかしあの魔属の女性は”キア”というのか、どこぞのアホの子の名前と語感が似ていて嫌な予感に拍車を掛ける。このまま何も起きないといいのだが……んな訳がない。
「返せ!そうだ、トレード機能で取り返してやる!キアのアホ!よこせ!」
「フン!誰が返すものか!アホ!レアのアホ!あっちいけ!」
「いや、だからそれアタシのスマホなんだけど……」
その時、隣で面倒臭そうに仲裁していたミストが”余計な事”に気付いてくれたのだった。
「あれ?今気付いたんだけどさ、キア姉さん……アンタってもしかして……魔属なんじゃね……??」
そして事件は起きるべくして起こる。ホント休日ぐらい勘弁してくれよ。




