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一難去って

こんにちは!ワセリン太郎です!熱中症は随分治ってはきましたが、未だお下痢が止まりません!とうとうちょっと漏らしてしまいました!突撃!隣の洗濯機!!

 お世辞にも発育が良いとは言い難いエイルの胸の奥から聞こえる鼓動が、段階的に速くなる。恐らくだが、今現在尾行中の人物は”大魔属”と言っても差し支えない相手だろう、一体あのような者が何故、神丘市のような田舎に……?


 色々と疑問は残るが先手を打っておくに越したことはない。そう考えたエイルは先行く魔属女から更に距離を取りつつ携帯電話を取り出し、通話を開始する。


 当然このような場合の連絡相手といえば神様だ。


 ……しばらくコールするが出ない。そういえば先程アリシアに電話した際に「レアちゃんとミストちゃんが”また”ちょっと……ね?それで神様が後処理に出掛けられてる様なの」と言っていた事を思い出し眉間に皺を寄せる。


 あとはこんな時に頼れそうなのはヒルド位だと考えて電話を再び掛けてはみるが……こちらも出ない。そうこうしていると、鼻歌交じりに歩いていた魔属女がふいに足を止めた。


 尾行に気付かれた――!?一瞬、焦るエイルであったがどうも様子がおかしい。物陰に身を隠しつつ監視していると……どうも魔属女は商店街の自転車屋さんの中を必死に覗き込んでいる様だ。何かブツブツ言っているので聞き耳を立ててみる。


「おお!何だこれは!?乗り物なのか?カッコイイ!コレ欲しいな、お金足りるかな??コレに乗って帰ったらみんな私を尊敬するに違いない!欲しい!!」


 そして彼女は鞄から財布を取り出し懐具合を確かめて……お店に入って行った。


 エイルは思う。言動も間が抜けているし、もしかして危険はないのでは?今のところ妙な素振りを見せてはいないし……いやだが、あの魔力量であり相当に危険な相手であるのは疑う余地もなく全く油断はできない。

 それに魔属のくせに一体何だというのだ?あれは私に対する嫌がらせなのだろうか?アリシア程ではないにせよ、あの歩く度にバインバインと揺れる大きな胸は。やはり危険だ、エイルは走ろうとも全く揺れない己の胸に手を当てて表情を硬くした。巨乳絶滅しろ!


 出てくるのをじっと待つエイルの脳裏を”ある知り合いの顔”がよぎる。潜在的に神にも匹敵する恐るべき量の神気を身の内に秘めているにも関わらず、それを行使する為の”術式”を覚えてもすぐに忘れてしまう”天界最大のアホの子”……


 そうだ、あの魔属女はどことなく”レア”に似ている様な気がする。だが監視の目にとうに気付いていて、わざとああいった素振りを見せているのかも知れないので気を抜く訳にはいかなかった。あ、出てきた。


 自転車店から赤いママチャリを押して出てきた魔属女は周囲をキョロキョロと見回し、それから自転車に跨って……あ、こけた!

 涙目になっていて少し可哀想ではある。自転車に乗った事がないのだろうか?それならば彼女には少し練習が必要だ。まあどうせ大きな胸が自転車に乗る妨げにでもなったのだろう、やはり胸は小さいほうが偉いのだ!


 自転車を起こし、押しながら住宅街の方へと歩き出す魔属女の尾行を再開したエイルはふと嫌な予感に捕らわれた。”そういえばレアは何処にいるのだろう?”もし彼女がこの魔属女と鉢合わせでもしたら……?最悪である、考えたくもない。


 慌てたエイルはレアの所在を確認しようと再び電話を取るが……そういえばレアは携帯電話を持っていなかったと思い直し、間違いなく所持しているミストに電話を掛けてみた。そしてしばらくのコールの後に……よし、出た!


「ミスト!?今どこに?そこにレアさんはいますか――!?」


「あ、エイル姉さん?うん、アタシ!ミストだけど?今さぁ、公園でレア姉さんとか近所のクソガキ達と”モンスターキャッチ!”やってて忙しいんだ!あっ――!?マジかよ、レアモンスターがいたって!いやいや、レア姉さんの事じゃねーってば。ってことでエイル姉さんごめん、また後で!」


「あっ!待ちなさい――!」


 プーッ、プーッ、プーッ、プ―ッ……。切られた。意気消沈したエイルだが、慌てて魔属女の方に視線を戻すと……彼女は道の脇で自転車のスタンドを立てて停車し、何かを夢中になって見ている。どうやらスマホのようだが……


 道端に画面をかざし、何かをしている様子を見せる魔属女の姿を見て更に嫌な予感を募らせるエイル。考えたくはなかったが、今彼女が夢中になっているのは……やはり流行りの”モンスターキャッチ!”であるのは疑いようもない。


 エイルも自分のスマホを取り出し、先日インストールしていた”モンスターキャッチ!”を起動して周囲のモンスターがいるポイントを検索してみると……やはり現在地の数百メートル先にある公園にマーカーが集中していた。


 嬉しそうにスマホを見ながら自転車を押して歩きだす魔属女。進行方向は……当然”レア達が遊んでいる公園”だ。どうしてこうも裏目の行動をするのだろう、本当に腹が立つ巨乳女だ。もはやエイルに出来る残された事といえば神に祈るしかなかった。




 ~住宅街の公園~


 そう俺、山田太郎は公園のベンチに座って”俺の人生に久々に訪れた一時の平和”を満喫していた。


 目の前ではスマホのゲームに興じるイカレた戦乙女(ヴァルキリー)二名が近所のガキ共と一緒にギャーギャーと騒いでおり、やかましくはあるけれど、五月蠅いだけで大きなトラブルを起こされるよりは遥かにマシである。


 ふと昨日までのドラゴン騒動を思い起こす。成り行きで日本(こちら)へと連れてきてしまった竜族のアイリちゃんは優しくて良い娘だったし、保護者を買って出たアリシアさんの頑張りもあってか思うより早く馴染んでくれそうな雰囲気を感じた。

 それに過程はちょっとアレだったけどロビの街も結果として守られたのだ。一時はどうなる事かとヒヤヒヤしたが人生諦めなければ何とかなるものだ、しかし今回ばかりはレアと大家(しげる)さんのお手柄だと認めざるをえない。

 当然、あの二人の行動なので過程がかなり”アレ”ではあったのだけれど。


 ホントこれで今朝のレアとミストによる「パトカーとコンビニ破壊」の犯行さえ無ければなぁ……そう思うが過ぎた事は仕方がない。

 いや、仕方がない??俺もトラブル慣れして少々おかしくなってきたのかも知れないな。そう考えていると公園の隅の方でレアや子供達が一際大きな声を上げた。



「あーっ!おいサトシ!そっちいったぞ!!捕まえろ!」


「俺もう注射器ないよ!ミストねーちゃんがトドメ刺せよ!」


「ミスト!私にトドメ刺させろください!!というか私にもスマホを貸すのだ!」


「これアタシのスマホだぞ!つーかレア姉さん、さっきずっと遊んでたじゃんかよ!」


 ”モンスターキャッチ!”。公園に来るまではいまいち良くルールを知らなかったのだが……なんつーゲームだ。要はこうらしい。

 まずスマホ上で付近のモンスターのマーカーを探して現場に行き、端末をかざして画面内にモンスターを発見。そうすると見つかったモンスターは一定範囲内を逃げ回り、プレイヤーはその背後を取ってモンスターのケツに捕獲用アイテムの”注射器”をブッ刺して倒すと捕獲できる……との事だ。


 ちなみに打ち切った注射器は“配給制”。そしてそれは数日おきに行われる公園の“炊き出しイベント”にて補充されるらしい。どこの誰だよ?こんなバカな(ゲーム)を考えたヤツは。


 今現在、世界中がこの倫理観スレスレのゲームに老若男女問わずに熱狂しているという現実に頭が痛くはなるが、確かに目の前で大騒ぎしている集団を見ていると何だか楽しそうではあった。


 そうやって俺がボーッと皆を眺めていると、公園の入口に人影が。


 ふと気になってそちらを見ると……外国の人だろうか?公園に向けてスマホを構えているのが見えた。身長はレアと同じ位だろうか?いや、レアより高いな。

 女性にしてはかなりの長身でありスタイル抜群、輝くような銀髪に少し浅黒い肌。綺麗な人……なのだが、鼻息荒い笑顔に何か違和感を覚える。

 まて、間違いなくこれはアレだ。そう、ここ暫くの間、レア達に揉まれた事によって俺の中に生まれた第六感、所謂”トラブルセンサー”が激しく警鐘を鳴らす。そしてこの女は間違いなくポンコツで危険だ、何かレアと同じ臭いがする!!


 そうして警戒する俺には目もくれず、公園内に自転車を停めてカギを掛けた彼女は夢中で遊ぶレア達にズンズンと近付いて行き……突然大きな声を上げたのだった。


「たのもー!!私も仲間に入れろください!!」


 俺の心の中を急激に嫌な予感が支配した。

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