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日(ひ)出(い)ずる国

こんにちは!ワセリン太郎です!アジの開きか丸干しが食べたいです!頭と尾の先だけ残して骨までゴリゴリ食べたい!!ゴリゴリ!

 ~話は昨夜に戻り~


 異世界間移動用の魔法ゲートを通り、深夜の日本へ戻った俺達を待っていたのは……随分と上機嫌でアパートの階段に座り込み、夜風に当たる神様(ジイサマ)だった。

 どうやら町内会の人達と恒例の”おっパブ”に行った後に飲みすぎたようだ。相当に上機嫌なのが見て取れたので、今ならこの竜族の少女についてもお咎めなしかも知れない……意を決した俺は神様の隣に座って伺いを立てた。


「神様、随分とご機嫌ですね!」


「ほっほっほ!わかるか太郎!今日おっパブに新しい娘が入っておっての、これがまた途方もなく大きい上に顔もべっぴんさんでの!!ちょいと神通力でワシの席に座る様に仕掛けてやったのよ。あの指名料千円を握りしめた町内会のジジイ連中の悔しがる顔といったら!!お主にも見せてやりたかった!!」


「マジかよ最低ですね!……じゃなくて。あのですね、カミサマ。俺達アタランテから竜族の女の子連れてきちゃったんですよ!で、滞在許可とか頂きたいな~……と」


「なんじゃと……!?竜族の娘じゃと……?」


突然表情が険しくなる神様。ヤバい。しかし次の瞬間。


「顔は……顔は可愛いか!?どれ!ワシに見せてみよ!!」


「はっ!仰せのままに!」


 訳のわからない展開だが、言われるままに大家(マッチョ)が抱えたの少女の寝顔を神様へ見せる。しばらく鋭い目つきでジッ……と少女の顔を見ていた神様(ジーサマ)は、突然破顔して頷き出した。


「良いのう!こりゃ後5年したら立派なべっぴんさんじゃ!良い、良いのう!!」


「では……日本に連れて来ても問題ない……と?」


「うむ!神の名のもとに許そう!しかしめんこいのう……良い、良いぞ!うむ」


 完全に酔っ払いだ。しかし最初から一部始終をミストがスマホで録画している。これで一切言い逃れはできまい。


「えっと、この娘は日本語わからないので俺達に掛けてる”言語習得の魔法”を掛けて頂いてもよろしいでしょうか?」


 大きく頷き少女の額に手をかざす神様。しかしマナだとかいう”魔法の元”がなくても行使できるのは流石神様ってところか、今は単なる酔っ払いジジイだけど。呪文を唱え終えると少女の身体に青白い光が吸い込まれていった。


「完了じゃ、これで良い」


「ありがとうございました!神様、ちなみにおっパブは……?」


「うむ、最高じゃ!!」


 よし、全て上手くいった。ミストもニヤニヤしながら撮影を終える。眉間を抑えて溜息をつくヒルド。証拠はバッチリ抑えたし、何かあればレア達に「フリッグばあちゃんにおっパブの事言う!!」と脅して貰えば何とかなるだろう。

 因みにしつこいようだがフリッグ様とは天界におられる”神様の奥様”であらせられるとの事。当然神様のおっパブ通いがバレると大変な事になるらしく俺達の”困った時の最後の切り札”だ。男とは得てして肩身が狭いものである。


 目的を早々と達成した俺達は階段にしゃがんだまま上機嫌に鼻歌を歌う神様(ジイサマ)を放置し、少女の保護者を買って出たアリシアさん宅まで二人を送り届けてからラーメンを食いに夜の街へと向かった。



 ~再び早朝のアリシア宅~


 隣室で昨夜から寝かしたままの少女の起きた気配がしたため、そっと刺激しないようにアリシアは寝室の扉を開いた。ベッドの上にはやはり状況が飲み込めないのか、かなり緊張した様子の少女の姿が。できるだけ怖がらせないように気を遣いつつ、アリシアは少女に声を掛ける。


「はい、おはようございます!良く眠れたかな~?あっ、大丈夫よ~。お姉さんな~んにもしないから安心してね!」


少し間をおいて、表情に色濃い戸惑いを浮かべたままの少女が答えた。


「えっと……あの、お、おはようございます……あ、あの……あなたは?ここは一体ここはどこなんでしょうか……?」


 アリシアは胸の前でポンっと手のひらを合わせ、笑顔で少女の前に座る。


「そうそう自己紹介がまだでしたね、私はアリシア。この町で書店を営んでいるの、よろしくね?あ、えっとね、アリシアお姉ちゃんって呼んでもいいのよ?それとここはね……あ、でも続きは朝ごはんを食べてからにしましょうか?お腹、空いてるでしょ?」


 書店と聞いて少女の表情が幾分和らいだ。この娘はもしかして私と同じで本が好きなのかも……?それと今の所在を明かすのはもう少し慣れてからの方が良いかしら?などとアリシアが考えつつリビングへ案内する為にに立ち上がると、おどおどしながら再び少女が口を開いた。


「えっと……アリシアさん……。その……ア、アイリです。私の名前……アイリって言います。そ、その……よろしくお願いします……」


 アリシアは少し引っ込み思案な雰囲気だけれど、とても可愛らしい娘だなぁと思い、笑顔のままに彼女(アイリ)を食卓へ案内したのだった。




 ~早朝の山田太郎宅~


 既に目は覚めていた。横になったまま昨日の事を考えていると時間が来たらしく、ジリリリリ……とやかましく目覚ましの音が鳴る。暫くすると、昨日の夜中にアリシアさん宅から回収してきた我が家の同居人、ノーム族の”パッ君”が馬乗りになって目覚まし時計を殴り、止めた。まあ、見慣れてきた光景だ。


「うる・せーよ?」


俺は苦笑いしつつ答える。


「ははっ、だよな!」


 俺は勢い良く布団から起き上がり、朝の支度に取りかかった。味噌汁を作り、魚の開きを焼き、ちゃぶ台の上に二人前の飯を並べ、合掌した後、湯気が立ち昇る熱々の朝食をパッ君と共に勢い良く喰らう。


 異世界(アタランテ)の宿や大衆食堂での異国情緒溢れる飯も確かに悪くはないが、やはり日本の朝は熱い白米と味噌汁に限る。


 黙々とパッ君と二人で朝飯を頂く。肉厚で噛むと脂のジュースが滴る魚の開きを味わいつつ、湯気立ち昇る白米を頬張り、それをヤケドしそうな熱い味噌汁で流し込む。強い臭みが旨みと共に鼻腔を一杯に満たし、突き抜けた。美味い。


そう言えばここ神丘市は工業都市であると同時に港町でもあり、水産加工業も非常に盛んである。港近くの海産物直売所へ行くと、”刺身に開きに丸干し一夜干し”と何でもござれで都会では味わえない強烈な魚の旨みを非常に安価で味わう事が出来る。

 

 農家が自宅用に作る野菜や米は安全で非常に美味しいと聞くが、これも似たような物で生粋の港町だけの強みではないかと思う。ただ、”海鮮”以外によそ様に自慢出来そうな物が全く無いのが泣けてくる。

 

 加えて街の中心に”郊外型の”大型ショッピングモールがあるという事実。これが神丘市民の心に重く伸し掛かっており、その辺りが原因で若者の流出に歯止めが効かないのが……と、それはまあどうでも良い話だ。


「ごちそうさまでした!」


「うめー・でした!!」


 そして食事を終えた俺達二人が合掌し、食物への感謝を唱え終えるとアパートの部屋のチャイムが鳴ったのだった。


ピンポーン!ピンポーン!ピポピポピポピポ、ピンポーン!ピンポーン!


「うる・せーよ?」


「だよな!!」


 パッ君からも苦情が出る。この最近では子供でもやらない下品なチャイムの連打……どうせレアだろう?アイツは昨夜から隣のミストの部屋に宿泊中だ。俺は頭を掻きむしりながら玄関へと向かった。


 ~アリシア宅~


 竜族の少女、アイリは驚いていた。

 アリシアと名乗る優しそうな女性に促されるまま食卓に座ると、テーブルの上にある見たこともない食器や不思議な材質のテーブルクロス等が目に飛び込んで来たのだ。彼女はまず”食器が白い”事に驚いた。これは以前書物で読んだ事があったので知識はある。実際に見たのは初めてだったが。

 

 恐らくこれは王族や貴族、大富豪等が所有しているという”白磁”という種類の磁器であり、非常に貴重でとても庶民の手が届くような物ではない。

 アイリが使っていたのは当然、木製であったり金属を叩いて成型した物であったりとロビの街の露店辺りで売っているアタランテでは一般的なものである。

 

 しかし周囲を見回すと綺麗に整理された食器用の棚の中に大量に並べてある”白磁の食器”。一体、幾らするのだろう……?そしてこの不思議なテーブルクロス。

 それはなんと……半透明なのだ。布の様ではあるが布とは思えない。しかも綺麗な柄が中に閉じ込められている様で、不思議に思い、指で押しても裁縫の跡に触れることは出来なかった。


 最後にアイリが最も理解に苦しんだのが頭上にある謎の光源だ。室内には火の灯った燭台が見当たらずカーテンも閉まっているというのに何故か、部屋が明るく照らされている。

 その天井にある光源は灯火とは根本的に何かが違っており、原理が全く理解できない。魔力が蓄えてある魔法具の類なのだろうか?

 

 とにかく目に入る物のほとんどが不思議な物であり、元来本の虫であるアイリの知識欲を大きく刺激した。そうやって彼女が目をパチパチとさせていると、ふとパンの焼ける香ばしい香が鼻を突き、アリシアと名乗る女性がテーブルへと食事を運んで来る。

 アイリは礼を言って食事に手をつけた。そうして軽く談笑しながら食事を終えると……アリシアは大きく深呼吸してから急に真面目な顔でアイリに向き直り、そしてゆっくりと告げたのだ。


「アイリちゃん。えっとね、落ち着いて聞いて欲しいの。実はここはね、”アイリちゃんが元居た世界”ではないの……」


 アイリはようやく自分の手が小さく震えていた事に気付く。いや、本当はわかっていたのだ。頭がそれを考える事を拒否していただけで何となく感じてはいたのだ……自分の置かれた状況が”普通ではない”という事に。

 あえて気付かない様にしていただけで、朝起きてからずっと手足は小さく震えていた。未知への恐怖に。


 ”ここで伝えなきゃ……。”アリシアは意を決する。震えるアイリの手を両手で優しく包み込み、落ち着かせるように笑顔で彼女へと。


「アイリちゃん、ようこそ!異世界(ニッポン)へ!」


白米 味噌汁 アジの開き 

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