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初めてのおともだち

こんにちは!ワセリン太郎です!小説書いてたら突然チャーハンが食べたくなりました!チャーハン!

 呪文を唱え終えたヒルドの手からほのかに青い光が発せられ、寝袋に包まれた少女の額に吸い込まれる様に消えてゆく。

 これが所謂、睡眠魔法というヤツで、これで三十分程度は起き上がらないらしい。ただ相手は小柄な女の子ではあっても魔法抵抗の強い竜族、20分程経ったらミストと交代で魔法を上掛けしつつ大家(マッチョ)自家用車(バン)で街を目指す事になった。


  しかしレアと大家しげるさんは一体どうやってこの竜族の娘を気絶させたのだろう?蒼い顔で苦しそうに寝息を立てる少女の顔を覗き込むが、鼻血を流してはいるものの怪我をした様子はない。

 そもそも人型状態の竜族へ暴力を働くと本能的に”生命の危機”と察知して竜化を果たし、自己治癒してしまうという話だったはずだけど……?

 

 とりあえず麓に停車してあったバンに到着して乗り込んだ俺は問いただしてみる事に決めた。確かにお手柄ではあるのだが、嫌な予感しかしない。


大家(しげる)さん、一体どうやってこの娘を捕獲したんすか!?」


 運転席へと座り、パワーウインドウを下げつつタバコに火を点けた大家は笑いながら答えた。


「ああ、ソレな。思ってたよりチョロかったぜ!」




 ~少し時間を遡り、山小屋へ~


 外からの激しいノック音と共に何かを叫ぶ女性の声が聞こえ、ビクッとした私が耳を澄ますと……直後に野太い声で怪しい詐欺師まがいの文言が聞こえてきた。

 

 驚いて窓に掛かった光漏れ防止用の暗幕を少し開き、玄関の方を覗いて見る。よくは見えないが確かに玄関前に誰かがいた。目を凝らすと一人は女性でもう一人は巨漢だ、随分と大きい。

 

 変だ……騒ぎが大きくなっているこの時期に竜の住まう山にわざわざ危険を冒して登って来る人間なんていないはず。もしかしたらドラゴン討伐隊の軍人さんが調査中に怪しい山小屋を発見して、不審に思って調べにに来たのかも……?と私は身構えた。


 しかし最近巷で流行しているという”怪しい詐欺っぽい文句”が随分場違いだと感じて暗幕をもう少し大きく開き、外を注視してみる。


 あっ――!と私は息を飲んだ。

 彼等には見覚えがある、そう忘れもしない先日魔剣を渡した人達だ!巨漢の方は確かに魔力を秘めた斧を荷物に縛り付けているし、女性からはあの時感じた”神気”を確かに感じる。

 

 二人はまだ、ここから覗いてるのには気が付いていないみたいだ。


 先日会話した際に訳の解らない要求をされて少し困らせられはしたけど、何となく悪い人達には見えなかった記憶がある。でも何故このタイミングでここへ……?そうやって思考を巡らせていると、その二人組が突然物騒な事を言い出した。


「ダメだな、とりあえず扉ブチ破るか……?」


「うむ、奇遇だな。私も今、シゲルと同じ事を考えていた所だ!」


 えっ――!?返事が無いからってよそのお宅の玄関って壊していいの!?ダメだよね!?うん、ダメよ!それって絶対おかしい!!

 しかし二人組はこちらの事などお構いなしにゴソゴソと武器を取り出して玄関の扉へ向き直り、頷き合うと……両手で得物を天高く振り上げたのだ――!!



「ゆくぞ!エクス!!カリ――!」


 玄関壊されちゃう――!!私は自分の置かれた状況も忘れて窓を開け放ち、叫んだ。


「や!やめてください!!おうちを壊さないで!!」


 今にも勢いよく振り下ろされようとしていた二本の鈍器が空中で止まり、二人の不審者の首がゆっくりとこちらを向く。そして一呼吸おいて金髪で背の高い綺麗な女性が口を開いたのだった。


「なーんだ、いるじゃん」


 焦りながら私は問う。


「え……えっと、何か御用でしょうか……?」


 私の顔を確認した事で、ようやく武器を下した不審者二人組は口々に喋りだした。


「うむ、遊びにきてやったのだ!」


「おう、客だぞ。茶ぁ出せや!」


 えっ!?遊びに来た……?この人達は一体何を言ってるの……?よくわからない状況に思考が停止したままの私を気にも留めず、二人組は武器をしまいながら再び勝手な事を言い出す。


「私は山登りしてきて喉が渇いたのだ!お茶をください!!」


「おう、酒でもいいけどな!!」


 随分と変わった人達だけど……とりあえず悪意は感じられない様な気がする。それに竜族の掟にも”人型になる事を一切人間に知られてはならない”とあるのでここは普通の”山小屋に住む人間”を演じなきゃ。

 

 そう意を決した私は玄関の扉を開いたのだった。


「ど、どうぞ……何もない所ですが」


 少し警戒しつつ二人を自宅に招き入れる。口々に喋りながら入ってくる二人。


「お茶!お茶ください!!あとお菓子も!」


「あんだよ!タロウの家より随分立派じゃねーか!へへっ、知ったら泣くぞアイツ!!」


 とりあえずテーブルに座ってもらい、お茶を淹れるお湯沸かそうと暖炉に向かう。流石に気が抜けないので少し質問してみる事にした。


「あの……こんな時間に本当に遊びに来たんですか??」


 テーブルに座って山小屋内を珍しそうに見廻しながら答える巨漢。


「さっきそう言っただろ!つーかアレだな、本格的なログハウスって感じでかなり洒落てんな!悪くねえぜ!」


 どうも嘘はなさそうで少しホッとする。しかし直後に金髪の女性がテーブルの上の花瓶をいじくりながら……とんでもない事を私に告げた。


「ホントだな!外から見たのと雰囲気違って部屋の中はオシャレだな!おしゃれドラゴンだ!!あ、テーブルクロスかわいい!!」


 ドラゴン――!?今、何と!?身体が強張り心臓が急に活発になるが……表情に出ない様に一旦落ち着いてごまかした。


「そうなんですよ、この山少し前からドラゴンが住みついちゃって……あ、あの、別に何もしてこないんで大丈夫なんですけど……そんなに悪いドラゴンじゃないって言うか……あ、でも街が危ないとか言ってましたね……その、ごめんなさい」


 不思議そうな顔をして答える二人組。


「うん?妙な事を言う。ドラゴンは君だろう?エイルが言ってたぞ!私はエリートなので何でもお見通しなのだ、エッヘン!!」


「おうよ!だからアレだろ?タロウのヤツがドラゴンと喧嘩しても勝てねーから遊びに行って仲良くしよーぜってハナシだろ?情けねーよなアイツ!!チキン野郎くっそウケるぜ。あれ?違ったっけ??あ、あと灰皿はねえよな?あー、最近喫煙者は肩身狭えわ!」


 何故かはわからないけど知られている……!?同族以外は絶対に知らないはずの秘密。もしかすると彼等も竜族……?そう考えた私は落ち着いて尋ねてみた。


「あの……もしかしてお二人も竜族の方なのでしょうか??私、同族といえば離れて暮らしている両親と妹しか見た事がないもので……」


 ポカンとした顔で答える二人組。


「いや、私はシンゾクだぞ!偉いのだ!」


「族?俺はアレだ、”元”だかんな!流石にこの歳でボウソウゾクとかやってらんねーわ。昔よ昔、アレだ、過去の栄光ってヤツ?」


 ……よくわからない。

 シンゾク……親族?私の??竜族は親戚付き合いの希薄な種族なので私が知らないだけでそうなのかも知れない。いつかお父さんとお母さんに会った時にでも聞いてみようか……?でもうちの家系は皆、黒髪だって聞いた事があったような……?

 あとボウソウゾクっていう種族は聞いたこともない。でもこちらの事情を知ってるって事は何か竜族に関係する種族なのだろうか……?過去の栄光??混乱してきた。


 とりあえず害はなさそうなので二人にお茶を出す。でも良くわからない人達ではあるのだけれど、不思議と私は別の感情が自分の胸の内に宿っている事にも気が付いていた。

 

 そう、十五歳で竜族として成人を迎え、掟により一人で暮らしを始めて此の方……友達が出来た事がないのだ。当然、家に誰かが遊びに来た事もない。

 人付き合いの上手な極一部の同族は『街で人間の友人が出来た』などという私にとって雲を掴むような類の話も聞いた事はあるけれど……しかし自分にはとてもとても壁は高く、御伽話の様なものだと考えていたのだ。


 街で自分の討伐隊が組まれている状況も忘れて胸は躍った。

 

 もしかするとこの人達が私の初めての友達……?そう私が興奮していると、巨漢が何かを荷物から取り出して手招きする。隣の金髪の女性もにこやかだ。

 も、もしかしてこれは……噂に聞く”近しい人に贈る手土産”というものでは!?


 高鳴る胸の鼓動を悟られぬ様、私は二人の座るテーブルへと近付く。


「折角遊びに来たんだしコレやるぜ。年頃の女の子だしな!ぜってー要るだろ!!コイツぁこの辺じゃ絶対に手に入らねぇ。俺の趣味じゃねーが……わざわざ地元の”その筋の本職プロ”から貰ってきたんだぜ?本当はこっちでご婦人方に高値で売りつけて酒代にでもしようかと思ってたんだけどな。だがしゃーねぇ、お近付きの印にオメーにやるぜ!!」


 そう言って巨漢は何かを手渡してくる。


 良く見ると……それは随分綺麗な本のようであり、読書が趣味の私でも見たことがない高度な印刷物。

 

 お礼を言い手に取ると、表紙には何故か上半身裸の男性の絵と見た事のない文字が。それはとても絵画とは思えない程に写実的であり、まるで今にも動き出しそうに見える。

 写実派の絵画の写しなのだろうか?この地方では画家の画集は高いので、これはとても貴重な書物に違いない。


 そう確信した私は興奮を抑えつつ……本の中辺りのページをそっと開いた。


 「――!?」 


 そして時が止まる……!!哀れ、目を見開き硬直した少女は本を開いた格好のまま、涙と鼻血を流しながら白目を剥いて床へと卒倒したのであった。

チャーハン。

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