少女の想い
こんにちは!最近忙しくて死にそうなワセリン太郎です!
でもこんな変人の僕などの小説を読んで下さる”奇特なあなた”の為に更新していきます!
レースゲームに夢中になるレアとミストを無理やり引き剥がし、人数も多いので大家の自宅へ移動してきた俺達。
相変わらず大家宅の居間は広い、数ヶ月前に知り合いを呼んで皆で朝までどんちゃん騒ぎをした記憶が蘇る……いや、飲みすぎて途中から記憶がなかったと言うのが正確な話なのだが。
アリシアさんがお茶汲みをしてくれると言うので俺達は早速対策会議に取り掛かった。まずは”ドラゴンとは如何なる生物なのか”を知らないと対策の立て様もないのだ。
「単刀直入に聞きたいんだけど……ドラゴンって弱点とかあったりするの……?」
即答するエイル。
「そうですねぇ……まあ、ぶっちゃけた話、ありませんね。鋼の如く堅く厚い皮膚に、火山に好んで棲みつく習性のお陰で熱やガス等の毒への耐性も飛びぬけています。地球では爬虫類などは変温動物との認識も強いでしょうが……あ、あと冷気も似たようなものです。極寒地帯の氷穴なんかにも住んでしまいますので。そしてよくファンタジー映画などで眼球を狙うというのを見ますけど、あれも無駄でしょう。竜族の目に矢を放った所で”逆まつげが入った程度”にしか感じないと思います。その位身体が堅いと思っていた方が賢明です」
弱点がないだと……?驚く俺の隣で大家が物騒な事を口走る。
「マジかよ!?ちっくしょう!こっそり忍び込んで練炭焚いてあの世行きにしてやれねえかと思ってたんだがなぁ……」
流石悪党だなおい!?そんな事考えもしなかった……しかし次の瞬間エイルが妙な事を言い出したのだ。
「そうですねぇ……人型に戻った場合に致命傷を与えたとしても彼等は一瞬で”竜の姿”になってしまいますしねぇ……」
……?人型?え……?竜って竜じゃないの……?人型??黙って聞いていたヒルドが口を挟んだ。
「エイル、今の話では”竜は人の形になる”という風に聞こえたのですが……?」
ああ、そうか。という感じで続けるエイル。
「そうでしたね、これは一般的には知られていない事でしたので疑問に思われるのも当然でした。アタランテにおける竜族というのは、通常は人の姿を取っていてですね、必要に応じて”竜化”するのですよ。ちなみに人の状態で本能レベルで命の危険を感じると即、竜化して傷や致命傷を癒してしまうので厄介なのです。竜族本人が竜化しようと思った場合もこれは可能のようですので、現実的に討伐する場合は”竜化した状態で仕留める”他、方法はないようです」
要はほぼ無敵かよ……大家が呟く。
「生コン業者連れて行って出入口埋めちまうか……?」
「いやいや、火口塞ぐとかどんな量のコンクリートがいるんすか!?」
「だよなぁ……」
お茶を入れて持ってきたアリシアさんが話に割って入り、それに応えるエイル。
「ねえねえエイルちゃん、ドラゴンさんは普段何を食べてるの?その話に聞いたウサギさん一家みたいに自給自足で生活しているのかしら??」
「そうですね……実態については私が見た訳ではないのですが、恐らくはコッソリと人里に降りて食料を買い込んだりしているのではないでしょうか?農耕等が得意な種族ではないようですし。記録によると、街道で行商相手に山で採れる金銀や鉱石等を売りつけている者もいるようですよ?なので彼等は金銀財宝を棲家に過剰に蓄えている場合が多いのです。生態系の頂点に君臨するドラゴンまでもが”通貨”を必要とするのは少し皮肉な話ですが」
なるほど……すると少し引っ掛かる疑問が沸いて来た。
「なあ、エイルさん。連中が人間達に依存してるならさ、何で街を攻撃したりするんだ??やったはいいが、後で生活に困るじゃん?やはりそれにはあのドラゴンが言ってた”協定”ってヤツが関係するの?」
「そうですね、その点についてはそこが大きいと言えます。彼等は種族の長が決めたしきたりに基本忠実に生きていますので……もしかすると今回は”やりたくて攻撃する”というのとは少し違うのかも知れませんね。良くも悪くも融通が利かない種族なのですよ」
なんとなく習性が掴めてきた気がする。実は人型であり、人里に生活を依存していて”古の協定”に忠実である……と。とりあえずもう少し色々と聞いておくか。俺はノームのパッ君を取り合って大騒ぎをしているレアとミストを見ながらそう思った。
~ところ変わってロビの街~
威勢の良いパン屋の店主の声が響く。
「おっ、いらっしゃい!お嬢ちゃん久しぶりだねぇ。今日も安くしとくよ!」
「あっ、どうも……こんにちは」
店内には黒い髪と燃える様な赤い瞳の、どこか儚げで長い髪を片側で結んだ美しい少女の姿があった。おどおどしながら店主に求めるパンを伝えている。店の外のメインストリートがいつになく騒がしい。少女は少し気になっていた。
「あの……おじさん。何か街が騒がしいようなのですが……?」
「ああ!この騒ぎかい?何でもよ、トビラ山に居る黒竜がいるだろ?あれが攻めて来るってんで街中大騒ぎよ。領主様が軍隊を派遣するとか何かで街に荒くれ共が集まってきててな、それでこの騒ぎって訳さ!」
「そうなんですか……」
「お譲ちゃん街の外に住んでんだろ?今日の内に食糧を沢山買い込んで暫くロビには近付かねえ方がいい。この街も来週にはどうなってるかわかったもんじゃねえからな」
「おじさんは……逃げないの?」
「ああ。俺は生まれも育ちもこのロビだ!生きるも死ぬもこの街と一緒さ!」
パンを多めにおまけしてくれた店主に礼を言い、少女は店を出る。目の前に広がるメインストリートには槍や盾を持った兵隊達が大勢闊歩していて物々しい雰囲気だ。
パンの包みを抱いた少女は通りをトボトボと歩きながら小さく呟いた。
「嫌だなぁ……私この街の人達もウサギさん達も大好きなのに……”協定”さえなければなぁ。みんな逃げてくれないかな?泣きたいよ……」
街で買い物を終えた少女は入口の馬小屋に預けていた小柄な馬に荷物を括りつけるとゆっくりと街道をヴェストラの方角へと去って行った。
~再び日本の大家宅~
「……と、いうわけだ」
作戦を話した俺にミストが呟く。
「なあ……太郎。それって作戦でも何でもなくね……?」
「じゃあミスト代案あんのかよ……」
「それは……ねーけどさ」
横からレアが口を挟む。
「私は太郎の意見に賛成だぞ!よくわからないけどな!!あ、チョコバーを沢山あげたら話にも応じると思う!あと私も食べたいです!!」
何故だろう?レアから賛同を受けると非常に不安な気持ちになってくる。しかし周囲の皆も”まあとりあえずそうするしかないか”という雰囲気なので一旦の結論は出た。
正直な所は無策に近いが、武力の効かない強大な相手に唯一通じる物は言葉しかない。それで一旦ドラゴンを探して話をしてみようという事になったのだ。
確かに危険ではあるがあのドラゴンはいきなり襲って来るような事もしなかったし、気になるのがレアに絡まれて少し困った様子を見せていた事だ。どうも全く話の通じない相手のような感じがしない。まずは対話が必要だ。
最悪パッ君に食わせてドラゴンを天界に放り込み、力の制約から開放された戦乙女隊とぶつける案も出たのだが……流石に天界側にも怪我人が出るかもしれないし、神様の許可も得ていないので最後の手段である。
そもそもパッ君が都合良くドラゴンを食ってくれるかどうかも怪しい訳で……とまあそういう事で明日、再び異世界へと向かう事となった。解散した後自室に戻り、早目に布団に潜り込む。薄暗い闇の中、電灯の消えた屋根を見つめながら俺はパッ君に話しかけた。
「なあ、パッ君。俺達あのドラゴンをどうにかできるかな……?」
暫く静寂が続いた後、パッ君が答えた。
「知ら・ねーよ?」
「……だよなぁ」
俺も流石に疲れていたのだろう、いつの間にか意識は闇の静寂へ落ちていった。
~場所は変わりヴェストラの街~
先程ロビの街にいた”黒い髪と燃える様な赤い瞳の美しい少女”は馬を連れて要塞都市ヴェストラの関所に現れていた。ロビの街とヴェストラは馬車で半日程度の距離の筈だが、少女は半刻も経たずに移動してきた事となる。
検問で少女が兵士に頭を下げて通行証を見せると兵隊達が笑顔で”行け”と手で合図した。いつもより遥かに緩い警備と雰囲気に少女は少なからず違和感を感じた。
「あれ……ヴェストラってこんなに明るい街だったかなぁ?いつもは何かこう、もっと陰鬱でジメジメしていた筈なのに。でも通りを行く人達の顔もどことなく明るいような気がするなぁ」
彼女は不思議に思いつつ馴染みの宝飾店へと足を向けた。作った銀細工を買い取って貰う為だ。店の扉を開くと少女と顔見知りの女店主が笑顔を向けてきた。
「あら、アンタ。元気だったかい?最近見ないから心配してたんだよ?」
「あ、はい、ありがとうございます。……えっと、元気でした。店主さんもお変わりないようで」
「それがねぇ……変わっちゃったのさね。いや、アタシがどうこうって訳じゃなくてさ、このヴェストラの街がさ」
少女は不思議に思い、リュックから取り出した銀細工をカウンターに並べつつ店主に尋ねてみた。
「えっと……何かあったんですか……?」
嬉しそうにニヤニヤしながら答える女店主。
「おや、アンタまだ知らないみたいだね?聞いて驚きな!なんとあの”クソ領主”が重罪で捕まったって話さ!アタシ達町人にはまだ詳しい内容までは回って来てないんだけどね、捕まった事自体は間違いないらしいよ?何があったかはわからないんだけどね。でもまあ領主の邸宅も燃えたりといい気味さね。おや、今日の細工品もいい出来じゃないか!」
どうもヴェストラで何かとんでもない事が起きたようだ。少女はここの領主を見た事がないのでどのような人物かは知らないが、以前から街へ来る度に随分と良くない噂だけはよく耳にしていた。
「そうなんですか……これからヴェストラの街はどうなるのでしょうか?」
「まだ噂の段階だけどね、どうやらロビの街の領主様がこちらも統治してくれる事になりそうなんだってさ!あの方は名君だって聞くしありがたい事だよ」
「そうなんですか、それはよかったですね」
店を出た後、通りを歩きながら少女は考えた。どうもまだこの街には竜族と人間の協定違反の件は伝わっていない様だが知れ渡るのも時間の問題だろう。
例えばロビとヴェストラの街の住人達が今回の件を誰も知らなければ、”竜が知らぬ振り”をして目を瞑れば済んだ事だ。
しかしヴェストラ騎馬隊やロビの住民らしき者が現場を目撃しているので竜も無かった事にはできない。だが少女は誰より知っていた。”トビラ山に住む黒竜が争いを好まない”事を。
竜は出来れば協定に触れずに穏便に済ませたかったのだが……しかし今回は盗まれた物が良くなかった、金銀程度なら素知らぬ振りをしたであろう。だが盗まれたのは絶対に悪しき心を持つ人間の手に渡ってはいけない二振りの魔法の武器。
それが邪気の無い者の手に渡り正しく振るわれる分には良い、しかしあれを盗んだのは野党の様な男達であり竜にはそれを見過ごす事は出来なかった。本来なら魔剣の類は永い年月を掛けて魔法の効果が消えるまで竜の懐に置かれて管理される筈の物である。
それに魔法の武器は頻繁に争いを起こす稚拙な人間の手には余る代物であり、決して渡してはいけないという想いが竜にはあった。しかしいざ追跡してみると……何故か魔剣が”神気を漂わせた女性達”の手に渡っており、それを見て竜は思った。
ここで持ち帰っても再び同じことが起きないとも限らない、それより”彼女達に託してしまおうか”と。”あの時の私の判断は正しかったのだろうか?”そうやって色々とと悩みながら彼女は次の買出しの為に別の店に向かったのである。
~再び日本の大家宅ガレージ~
「おう、全員揃ってんな!」
異世界への移動用魔法ゲートが設置されたガレージに大家の声が響く。俺は再度パッ君をアリシアさんへと預けると皆の方へ向き直った。正直策はない、だが良く考えると今までも似たような物か……どうせまた行き当たりばったりで何とかするしかないのだろう。
俺の考えを察したように仲間達がそれぞれ笑う。両手をフルフルと可愛らしく振るアリシアさん。俺達は笑顔で振り返し、再度気を引き締めて言った。
「さあ、行こう――!」




