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クレーンマスター

こんにちは!ワセリン太郎です!

遊び呆けていて更新が滞ってしまいました!

「おかえりなさい、みんな大変だったみたいね~」


 魔法ゲートが設置された大家宅のガレージにアリシアさんの甘い声が響く。腕の中にはノームのパッ君が口をパクパクさせつつこちらを見ていた。


 良く考えてみるとたった数日の滞在ではあったのだが……しかし随分と長いことあちらの異世界にいたような錯覚を覚える。だがまだ案件が解決した訳ではない、俺達は数日中に作戦を立ててあの”ドラゴン”をどうにかしないといけないのだ。

 ウサギ一家も事なきを得て、何とか無事に丸くは収まったのだが……気分は晴れやかとは言いがたく、隣を見るとヒルドもミストも……あの大家でさえも何か考え込んでいた。しかしそんな重い空気を破るかのようにレアが大声で騒ぎだしたのだ。


「太郎!ラーメンが食べたい!ラーメン食べに行こう!」


 まあ、そうだな。何か日本の食事も恋しいし、気分を変える為にも悪くないのかもしれない。


「そうだな、行くか!あ、でもお前が騒ぎ起こした”ラーメン漢汁軒”はナシな?行ったら店主に殺されそうだし」


 一旦アパートの部屋に戻り荷物を置く。そして自分の着替えとレアのツナギを洗濯機に放り込んで、最後に手足をバタバタさせているパッ君をリュックに詰めて準備が完了した。程なく奥の部屋で新しいツナギに着替えたレアが現れ、背中に聖剣様(キンゾクバット)を差し込んでいる。


「おい、レア。ラーメン食いに行くのにその物騒な物は必要ないだろ?置いていけよ」


 不思議そうな顔のレア。


「太郎、何を言っている?武器の携帯無しに外に出るなど常識外れな事を……おかしな男だな!」


「いや、おかしいのはお前だ!置いていけ!またトラブル起こされたくない!!」


 俺はレアの背中に手を突っ込みバットを奪おうとするが、抵抗を続けるレア。やはりコイツは力が強い。そうしてバットの奪い合いをしていると……玄関からミストの声が。


「おーい、アタシ準備終わったぞー!……って太郎と姉さん何やってんだ?」


 ニヤリと笑うレア。


「聞いてくれミスト!さっきから太郎が私の服を脱がそうとするのだ!エッチだ!」


 ふざけんな!しかし騙されやすいアホの子二号のミストが叫ぶ。


「太郎テメー!!アタシってもんがありながら……えっと……そういうのはアタシですると……いいと思う……です。あ、でもまだちょっとアタシには早いというか……そ、そのうちだ、そのうちだぞ!!」


 どん引きする俺の手から虚を突き奪われる金属バット。……もういいや。諦めた俺はアホの子二人に下に降りるように促した。俺達が階段を降りるとそこにはアリシアさんと、甲冑を脱ぎ先日買った私服に着替えたヒルドの姿が。どうやらヒルドはミストの部屋に着替えを置いていたらしい。


「太郎、何か上で騒いでいた様ですが……?」


「ああ、いつもの事だし気にしなくていいよ……疲れる」


 間もなく大家の自家用車(バン)がアパートの前に停まる。「おう、オメーら乗れや」という大家に従い俺達は車に乗り込んだ。

 初めて車に乗りはしゃぐミストにガラの悪い愛車を自慢する大家。バンは商店街方面へ走り、大通りに出てあまり背が高く無いビル郡やお店がちらほら見え出すと再びミストが騒ぎだした。


「おー!何だあれ!?アタシあんなの初めて見た!車もいっぱい走ってるぜ!あ、あれ映画館ってヤツか!?」


 そうか、彼女は街中に初めて来たのか……少し微笑ましい。しかしミストがこちらに来て最初から着ていたジャージや部屋の家財道具は一体どうしたのだろう?アリシアさんか神様が調達していたのだろうか。そうこうする内に車は商店街から少し離れたラーメン屋の駐車場に停まった。


 ぞろぞろと店内に入る俺達。あろうことかビールを頼もうとする大家を制止し、人数分の注文を終えると……周囲に人が居ないことを確認したヒルドが話し始めた。


「しかし……あのドラゴンを一体どうしたものでしょうか」


 興味津々で聞くアリシアさん。


「ねーねー、ドラゴンってあの”ドラゴン”?私、噂は聞いた事あるのだけれど実際に見た事がないの。大きかった??」


 大家が答える。


「ああ、デケーのなんのってよ!アレはどんくらいだ?20メートルはあったんじゃねーの?俺も今年で三十六歳になるけどよぉ、初めて見たわ」


 当たり前だ、地球上のどこにドラゴンがいる?ふとレアとミストが随分大人しくしているのが気になり、隣を見ると……二人して必死にカラー写真入りののメニュー表を見ている。その方が静かで良いのだが。ヒルドが続ける。


「しかしあれを私達だけでどうにか……出来るでしょうか?真正面から行ってはまず勝ち目はありませんね」


 アリシアさんが顎に指を当てて暫く考えた後、ポンッと手を合わせて言った。


「ミサイルとかでえいっ!とやっつけちゃう……っていうのはダメよねぇ……?」


 警察、ヤクザ、戦乙女隊、異世界のゴロツキときて今度は自衛隊に進入して銃火器泥棒とか……流石に無理がある。それに運良くミサイル盗難が成功したとしても、そもそもソレをどうやって使うのかがわからない。無理だ。


 間もなく店から出されたラーメンとギョーザに興奮するレアとミスト。アリシアさんがラーメンのチャーシューを「は~い、これあげるわね♪」とミストのラーメンの上に数枚乗せてあげるのを見て、レアが俺へ明らかな不満を募らせた視線を送ってくる。


 そして俺の”チャーシューメン”は単なる豚骨ラーメンへと成り下がってしまった。ラーメンをすすりながら提案する大家に俺が答える。


「あのトカゲ野郎なぁ……あ、こういうのはどうだ?”トラック持って行ってハネちまう”……とかよ」


「いやでもどーやって地面に引きずり降ろすんですか?アレ空飛ぶんすよ?それにダンプなんかでハネても効くかどうか……」


「だよなぁ……」


 妙案は浮かばない。食事を終え、俺達がガランとした店内でテレビを眺めつつ食休みをしていると……ヒルドが言った。


「そうですね、少しエイルに話を聞いてみましょうか?彼女は”知識の宝庫”とも言われていますので、もしかすると何か良い案を授けてくれるかも知れません」


 同意した俺達は市役所の市民課に勤める天界の駐在員のエイルと携帯で連絡を取り、彼女の終業時間を待つために待ち合わせ場所のゲームセンターに向かった。


 もうじき彼女も現れるだろうか?エイルと言えばショッピングセンターでの騒ぎが思い出された。各々、思い思いに過ごして時間を潰す。


 大声が聞こえるのでそちらを見ると、はしゃぐレアとミストがエアホッケーに興じていた。


「食らえレア姉さん!」


「ふん!ミストよ、そんな手が私に通用するか!ゆくぞ!えくす・かりばーーー!!」


 二人共ものすごい力で叩きつけるので、たまにエアホッケーの円盤(パック)が宙を舞っていて近付くと危険だ。つーか少しは加減しろよ……

 ヒルドはアリシアさんが遊ぶクレーンゲームを隣で見つめている。あれ……?ヒルドの目つきが……おかしい。ふと気になり視線の先を見ると……そこには可愛らしい猫のぬいぐるみが。これは面白そうだ。俺は二人に近付く。


「なあヒルド。あれ欲しいのか?」


 急に慌てて赤くなった顔を逸らす彼女。


「い、いや!ただ見ていただけで……別に私は……少し愛らしいなと思っていただけで……」


 隣で少し悪戯っぽい笑顔を浮かべてアリシアさんが言い、それに慌てるヒルド。


「あらいいじゃない!ヒルドちゃん可愛いもの好きだものね~?うふふ、太郎さんに取って貰いましょう♪」


「い、いや。私は……」




 ~10分後~


「た、太郎……もういいですから……」


 そこには申し訳なさ気に止めるヒルドとヤケを起こし、両替した百円玉を積み上げた俺の姿が……


「くそっ……何で取れないんだ……?」


 そう、俺は引っ込みがつかなくなっている。クレーンゲームというのは特に知識や経験があるわけではない俺には非常に難しいものだった。俺は学生時代なんかに”彼女”とこういった場所にカップルで遊びに来るような”通称リア充”の類ではない、圧倒的に経験値が足りないのだ。


 そもそもこんな大きめなぬいぐるみなど本当に取れるものなのだろうか……?しかしもう後へは引けない。隣にはアリシアさんと大家も来て観戦している。そこへ俺達の後ろから掛かる声。


「それではダメですね。どれ、私に代わってください」


 振り向くとズリ落ちそうになった大きな眼鏡をクイッと上げるエイルの姿が……仕事は終わったようだ。俺が声を掛けようとすると手で制する彼女はぬいぐるみの位置を確認している。そして俺が積んでいる百円玉を数枚取ると……


「大体あと4回というところですね……無理に弱いアームで吊り上げようとするからダメなのですよ」


 見守る俺達……彼女は器用にクレーンでぬいぐるみを押し付けつつ移動させ、見事に予定していた回数でぬいぐるみを落としてしまった。


「おおー!」


 上がる歓声。小柄な彼女はその薄い胸を張り、どうだと笑う。


「上手いな……」


 俺達の賛辞にドヤ顔だったエイルは一瞬我に返った素振りを見せ、急に陰鬱な雰囲気を漂わせてブツブツと喋り出す。


「そりゃそうですよ……こういった盛り場に来てみれば”イケメン彼氏”の一人でもできるかと思い通う事一年半……子供と間違われてナンパもされず、声を掛けてきたのは学校の補導係のおじさんだけ……「お嬢ちゃん、どこ中学かな?こんな時間に遊んでたらダメでしょ?学校は?」だそうですよ……私は不登校の中学生じゃなくて休日の公務員だっつうの……発育が悪いのはそんなに罪なんでしょうか……ああっ!死にたい!!」


 彼女の闇は深そうだ……妙な空気に少し戸惑ったが、俺は彼女に問う。魂が抜けたようにブツブツ言っていた彼女であったが……ここに呼び出された内容を思い出したのか、一度大きく深呼吸をすると俺達の方へ向き直った。


「”ドラゴン”について……ですね?」


 俺達は皆バラバラに頷いた。そう、後ろで今度はレースゲームに夢中になっているレアとミストを覗いて……だが。

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