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陰謀

こんにちは!ワセリン太郎です!

今回はレアさんが飛び膝蹴りをします!飛び膝蹴りです!

 ミストが次々とメモ帳に速記してゆく。


[街道の封鎖は明日一杯か?、ああそうだ、なら一匹も取り逃がせねえな]


ん?”一匹も”だと?怪物は複数いるのか?再びメモに集中する。


 [しかし本当に領主の野郎は今回の売り上げ半分よこすんだろうな?]

[さあな?そんときゃアイツも殺すまでよ]

[しかし今回の商品は扱いがシビアだ。売り買いしたのがバレたら俺達の命もねえぞ?領主ですら見つかるとヤバイらしいしな。]

[だから俺達三人以外誰もこの計画に入れてねえのか?]

[”怪物”の情報を撒くのに数人協力者はいた様だが……今頃全員カラスの餌よ]

[なるほど、それなら俺等も仕事の後で狙われるかもな?特に食い物には気をつけるとしようぜ。]

[それじゃ領主が闇ルートに商品を流した後、一旦街から出て代金が入ったのを見計らってから受け取りに行く振りして殺すか?]

[そいつはいいな、そうすりゃ死んだ領主に全部なすりつけて俺達が総取りだぜ。いや待てよ?ついでに街ごと奪うってのもいいな何せ俺らは”英雄様”なんだしよ]


 バカだ。顔に負けず劣らず清清しい程の屑っぷりを発揮する彼等。お前らいっそ領主と潰し合って共倒れになっちまえよ。再び続くメモ。


[しかし”一つ”でも大金になるブツが全部で……十個も手に入るんだよな?]

[ああ、一匹の目玉は二つだからな]

[それに今ではご禁制の品だ、闇市では欲しがる金持ちも多いとか]

[しかし楽な仕事よ]

[明日は夜明けと共に出るか]

[そうだな、午前中に仕事を終えて午後からは念入りに目撃者の始末だ]

[いや、ほんと労働って素晴らしいよなぁ、へっへっへっ]

[ウサギの一家ごときを殺してこんな大金を稼げるなんてこんなに楽な仕事――]


 書くのを途中で止めたミストがボールペンを静かに置く。もうこれ以上書く必要はないだろう。ちなみにテメーらウサギは”一匹じゃなくて一羽”だバカヤロウ、ここは日本じゃないが。


 俺はレアとミストの手を強く握り、一旦落ち着く様に促す。二人共珍しく俺の思いを察したようでその場は何とか平静を装う……ワケがない。

 俺の制止を無視してふらり二人組の英雄様に近寄って行くレア。テーブルの隣に立った彼女(レア)を見ると一瞬「?」という顔を見せた彼等(エイユウサマ)だが……レアに声を掛ける。


「おい、随分いい女じゃねえか……俺達と飲まねえか?その後は俺達二人で……朝まで可愛がってやるぜ?」


レアが答える。


「そうか、それではお言葉に甘えて……朝まで”遊んで”貰うとしようか」


 ニヤリと下卑た笑みを浮かべる彼等。しかし次の瞬間、俺の隣から緑の(ジャージ)が弾丸の様に飛び出し……椅子に座った英雄様の片割れにドロップキックをお見舞いしたのだ。


 窓ガラスに顔から突っ込む英雄A、血まみれになり倒れた所をミストが椅子でボコボコに殴っている。一瞬何が起きたのかわからず唖然とする英雄B。しかし彼の後ろではゆらり……背中から聖剣様(キンゾクバット)を抜き出すレアの姿が。まーた後先考えずにやりやがったよ……こいつら。


「食らえ外道!!」


 英雄Bの背後から肩にバットを振り下ろすレア。しかし相手も屑だが歴戦の傭兵だ、マントの下から大きな斧を素早く取り出し防御する。次の瞬間レア目掛けてなぎ払われる斧――!レアもバットで防御するが相手は斧だ、流石に質量の差が大きくレアは吹き飛ばされてテーブルに突っ込んだ。すぐに起き上がり再び鈍器同士で打ち合いを始める。


 ミストを見ると、不意を突かれて意識不明となって倒れた英雄Aを……ボコボコにストンピングで蹴っていてとりあえずは優勢、しかし問題は斧男だ。今俺達で武器を持っていて戦えるのはレアのみ。それにあまり時間を掛けていられないのだ。

 実は騒ぎが起きてすぐに店の主人や従業員、厨房のコック達が逃げて行くのが見えた、当然そのうち自警団が飛んでくるハズだ。そうなると”賊”は俺達の方になる。


 俺は溜息をつくと酒場の奥の厨房へ。何故戦わないのかだって?俺が奴等に襲い掛かっても”あの斧”で二枚におろされるだけだ。そんなわかりきった事はしない。皆が逃げて空になった厨房で何か”武器になりそうなもの”を探す。おっと発見!いやしかし、ちょっとこれは酷い気もするが……まあ相手はクズだ。きっと神様も許してくれるだろう、うん。


 ”厨房で見つけた超兵器”を携えた俺が戦場へ戻ると……意識不明の英雄Aにマウントポジションで延々とパンチを入れ続けるミストの姿が。俺はミストに近付いて「おい、その辺にしとけ、一度逃げるぞ」と伝える。しぶしぶ了承する彼女。そしてレアの方を見ると……未だに一進一退の攻防が続いていた。あの斧男、かなり強いな……何かあの”斧”から妙なオーラが出ている気がするが……何だろう?隣でミストが言う。


「おー、ありゃ魔法の斧だぜ!レア姉さんが苦戦してるのを見ると何か特殊な能力があるんだと思う……そこでノビてる男の剣も同じだったし。……って太郎、その手に持ってる”モップと壷”は何に使うんだ??」


 そう、俺の左手には掃除用のモップ、右手には取っ手のついた陶器の壷が握られている。ミストの質問を聞いた俺は答える。


「これはなぁ……こーすんだよっ!!」


 斧男に向けて走る俺。レアがこちらに気付いたので口パクで「絶対避けろ」と知らせる……頷くレア。まだ斧男は俺に背中を向けてはいるが……まあ突撃してくる俺に気が付いてはいるだろう。

 左手に持ったモップで後ろから殴りかかる俺。斧男は俺に背を向けレアを見据えたまま、器用に頭だけモップを避け衝撃を鎧で受け止める。そこで急制動した俺は……本命の右手の壷を斧男に叩き付けるのと同時にレアに叫ぶ。


「避けろおぉぉぉぉぉ!!」


 振り向きざまに投げつけられた壷を拳で粉砕する斧男。しかし次の瞬間……


「ぎゃあああああぁぁぁぁ!!!」


 床を転がりまわる斧男、その原因は殴られ割れた壷の中身にある。そう、それは厨房内で逃げたコックが放置していた”ガンガンに熱された天ぷら油”だったのだ。我ながらこれは非道な作戦だと思う……が相手はクソッタレの外道だ、この際知った事ではない。ザマーみさらせ!


 レアは流石に倒れた相手に追撃をする趣味はないのか一時撤退の提案に応じた。酒場を出ると……遠くからおそらく”自警団”のものであろう足音が響いてくる。捕まると領主に何をされるかわかったものではない、ここはさっさと逃げよう。ミストが思い出した様に悔しがる。


「しまった……アタシは馬鹿だ!あの魔剣かっぱらってくれば良かった……あれなら天界の規制なしに魔力が使えるのに……」


逃げながらレアが言う。


「ミストよ、ちゃんと股間は蹴っておいたか??男はそれをされると一生戦闘不能になると聞いた事がある!」


レアよ、それは別の意味での”戦闘不能”だ。まあ男にとって人生終了の一大事ではあるが……遠くで自警団が笛を吹く音がする。急いで宿へ戻ろう。


 戻り次第ヒルドと大家に経緯を伝えて話し合う俺達。珍しく怒りの表情を見せるヒルド。


「金銭の為に何と卑劣な……本来ならあなた方が”また”騒ぎを起こした事を咎めるべきなのでしょうが……いや、でもそれで良かったのかも知れません。しかしこの地区でも大ウサギ種の殺傷は重罪な筈、ばれては領主と言えどもただでは済まないというのに」


 大家も憤る。


「森で畑耕してるだけのウサギの一家を”魔法の武器持った英雄様”が殺しに行くってか?大したクソ野郎共だなオイ!俺はアタマにきたぜ……そいつら待ち伏せして逆にブッ殺してやろーぜ!!」


 大家の表現は悪いが……確かに明日の朝、奴等が街を出て森に到達する前に先回りしてどうにかしないと……ウサギの一家が皆殺しの憂き目に合うのは避けられない。それだけは絶対に阻止してやる。


「よし、善は急げだ。宿を出て森へ向かおう。ウサギ達を説得して一緒にロビの街に向かうんだ。あそこに逃げ込めばもう手は出せないしな」


 そうして俺達は急ぎ荷物を纏め、チェックアウトしようとしたのだが……宿の主人が不思議そうに声を掛けてきた。


「みなさん、今から出られてどちらへ行かれるおつもりで……?もう領主様が街の出入り禁止のおふれを出しちまったらしいですよ?何でも急に規制が早まったとか……それに明日一杯は封鎖が解かれる事はないそうでさぁ」


 マジかよやられた!だがこうしてはいられない。既に英雄様をボコって逃げてきたんだ、どのみちこの宿にも自警団が犯人を捜しに来るだろう。そうなれば宿にも迷惑が掛かるだろうし、主人に構わないと伝えて宿を出る。早足に歩きながらヒルドが言う。


「はたしてヴェストラの表門を通過できるでしょうか……?」


横からミストが軽口を叩く。


「門番全員ブッ飛ばしちゃえばいいんじゃねーの?」


お前は相手が何人いると思ってんだ?……来る途中に詰所が見えたけど中に20人はいたぞ。


「却下」


「ちぇっ」


 門にたどり着いた俺達は遠くから関所を伺う。昼過ぎに荷車で通過した時より遥かに警備が厳重だ……あれは流石に通れないな、他を探そう。そうして自警団の目をかわしつつ、高い塀伝いに出られそうな場所を夜通し探し続けた俺達だったが……ダメだった。


 とうとう夜が明けてしまう。物語なんかではありがちな水路等の秘密の出入口もないのだろうか?時間がない。かといって関所も通れない……万事休すか。その時だった、近くに立つ街の案内地図を見ていたレアがとんでもない案を出したのは。


「なあなあ太郎?このやたらと大きい建物が領主ってヤツの家なのか?」


ふと俺も地図を見る。


「ああ、そうだよ?昨日尾行したから間違いない」


 レアが続ける。


「これな?領主の家なんだが、後ろがすぐ城壁じゃないか?」


「そうだな、街の外壁に屋敷が隣接しているな」


「私が見た日本の伝記書籍によるとだな、大体貴族とかの家には”隠し通路”なんかがあってだな……」



 ――!?皆が言葉を失う。十分ありえるハナシだ。特にあのクソ領主の事だ、有事の際に自分だけ逃げ出す通路を作っていても何ら不思議ではない。いや、きっとある。


「でかした!お前もたまには役に立つのな!?」


「ふふふ、流石エリートの私!もっと褒めていいぞ!」


 俺達は領主の屋敷へと駆け出しながら策を練る。これに賭けるしかない。あそこに進入するには障害となるのがやはり”よじのぼれない程の高い塀”だ、それと一体どうやって門番に扉を開かせるかだが……そうこうしていると領主の館に到着してしまった。


 急がねば時間がない……俺が策をめぐらせていると大家が火のついたタバコを咥えてずいっと前へ出る。ちょ!何やってんのあのオッサン!?裏口どころか玄関の前に堂々と立つ大家、まずは大声で怒鳴りながら玄関の鉄の柵を蹴りだす……当然騒ぎを聞きつけ駆け寄る門番達。


「おい!貴様一体何をしている!?ここが領主様の邸宅と知っての狼藉か!?」


 答える大家。


「おう、知っとるわ。領主に伝えろやコラ!大ウサギ殺しの陰謀はここまでだ、今から俺がテメーをブッ飛ばしてやるってな!」


「大ウサギ殺し……?」


 そして何の事だ?と顔を見合わせる門番達に構わず……自前のウエイトリフティング用のバーベルを……全力で柵に叩きつけたのである。

 言うまでもないがバーベルはものすごい質量だ、鉄の柵などいとも簡単にレールを外れて吹き飛ぶ。ついでに門番さん達も。大家が叫ぶ!


「おっしゃ、穴開けてやったぜ!いくぞテメー等!!」


 マジかよ!?もうどうにでもなれ!後に続く俺達。屋敷の中から飛び出してくる衛兵、数は二名。一人はヒルドに盾で殴られ、もう一人はミストのドロップキックが顔面に入って気を失った。

 そのまま屋敷の入口へとダッシュする、走る途中で馬屋の藁に大家がタバコをポイ捨てしたのが気になったが……そのまま皆で玄関を蹴り破る。


 中に入った瞬間襲い掛かってくる衛兵達、俺もオリハルコン製のビニール傘で応戦する。俺達が大暴れしながら二階へ駆け上がると……目の前には寝巻きすがたのオッサンが。当然、寝起きで状況が全く理解できていない感じだ。ちなみに言うと、昨夜見た顔である。俺が叫ぶ!


「そいつが領主だぁぁぁぁぁぁぁ!やっちまええええ!!」


え?何!?と引き攣る領主の顔――!


 そして数秒後、哀れ起きたばかりで寝ぼけた領主のオッサンの顔面に……レアの強烈なとび膝蹴りが炸裂したのである。

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