要塞の都市へ
こんにちは!ワセリン太郎です!
突然ですが、小説を書いていると突然ラーメンが食べたくなるのはぼくだけでしょうか?アップ作業が終わり次第、真夜中ですがラーメンを食べに行ってこようと思います!もし次話がアップされなかったら”途中で車にはねられ死んだ”と思ってください!では行って来ます!
「うーし!全員揃ってんな。んじゃ行くか、そのヴェ……なんとかによ!OK、用件はアレだろ?領主とかいうヤツをブチ殺す……だったよな!じゃ、さっさと行ってボコボコにしてやろーぜ!」
朝っぱらからやたらと元気な大家の声が響く。……ちょっと待て、これからヴェストラの街へ情報収集に行くのがどう拗れると”領主を殺害しに行く”なんて物騒な話になるんだ!?
「おー!」
片手を高く上げて大家に応じるレア。お前達は一体何をしに行くつもりだ……まあどうせ昨日の話を全く聞いていなかったのだろうが。片手で目を覆い嘆くヒルド。それを見て笑いつつミカが言う。
「さて、宿の裏手に行商の荷車を呼んであるから準備が出来たら行こうか?ヴェストラが明日から通行規制になるらしいからギリギリ間に合って良かったよ、商人さんはあちらで荷を積んだ後にそのまま戻るらしいから……君達がロビの街へ戻って来られるのは早くて数日後って事になるのかな?はいこれ人数分のお弁当ね、途中で食べるといいよ」
各自礼を言いながらミカからお弁当を受け取る。そのまま皆で宿の裏手に行くと……俺は、というか俺達は言葉を失う。暫くしてレアの声が俺を現実に引き戻した。
「おい太郎!アレは……カタツムリか!?カタツムリが荷車を引いてるぞ!!あっ、触ったら何かネチョネチョする!」
そう、俺は勝手に”馬車”だと思い込んでいたのだが……どうやらこのアタランテの世界ではこれが常識らしい、そうだな……もう深く考えるのはよそう。俺の隣で言葉を失っていたミストも騒ぎだした。
「おい!なんだよコレ!チョーかわいい!!殻がピンク色だぜ!?」
お前のセンスは一体……いや、もういいや。荷車の前で手綱をもつ年配の人の良さそうな商人さんに挨拶し、荷車の空いたスペースに乗り込む俺達。暫くするとカタツムリ号はゆっくりと走り出し……外を見ると手を振るミカの姿、俺達もそれに応えた。
「ではミカ、行ってくる」
「あーい、いってらっしゃい!みんな気をつけてねー」
お、何だこれ案外スピードが出るぞ!?木製の車輪でケツが痛くなりそうだがシートにはクッションが張ってあるし、まあ大丈夫だろう。それにどの道数時間の旅でしかないから我慢もできる。
今回俺達を乗せてくれた商人さんは何と”無料”で俺達を運んでくれている。それには理由があって、一つは商売上でのお得意様である宿屋の女主人ミカの頼みであること、それと俺達が武装しているのが好都合との事だった。
ロビの街からヴェストラへの道中は普段は基本的には平和らしい、それでも一応野党やモンスターへの対策で傭兵を数名雇うらしいのだが……今回は俺達を乗せる事で護衛費用が浮くというのが大きいのだろう。
まあヒルドなんて街中で見かけた傭兵達と比較しても明らかに質の高そうな装備品を持っているので、当然熟練の冒険者に見える。それに大家もムキムキでガタイが良い上にとんでもない鈍器を持っているし……乗せているだけで野党等には襲われにくくなるだろう。
それとこの商人さんもヴェストラ近郊に出没するという”噂の凶悪なモンスター”を警戒しているんじゃないだろうか?なにせソイツは荷車で行き交う”行商を襲う”という話だ。結果、強そうな護衛が一人でも多いに越したことはないと考えるはずだ。
カタツムリ号は街道を順調に進んで行く。暫くすると商人さんが荷台の俺達へ声を掛けてきた。
「みなさん方、すみませんがヴェストラの手前で少し寄り道してもいいですか?ちょっと私の個人的な楽しみがありまして……なに、そう時間は取らせませんので」
ヒルドが返事をする。
「今日中にヴェストラへ入れるなら私達は構いませんが……どちらへ?」
「いえ、ちょいとヴェストラ近くの森の奥に大ウサギの一家が住んでましてね。彼等に食べ物や雑貨を少々持って行ってあげようかと。お恥ずかしいが私も生粋のロビの人間でしてね……ウサギにゃ甘いんですわ、ははは」
突然同時に叫ぶレアとミスト。
「ウサギさんか!?行くぞ!領主暗殺なんてどうでもいい!」
「アタシもウサギさん一家と会いたい!行こーぜ!領主なんか後でブッ殺せばいいだろ!!」
何故そんな話になっている!?慌てて俺とヒルドがあんぽんたん二名の口を塞ぐ。良かった……荷車の走行音で後半は商人さんに聞こえていないようだ、下手をすると”領主殺害を企てる一味”とも取られかねない、正直ゾッとするわ。
更に失言をしそうな大家を見ると……いびきをかいて寝ている。一番大声で物騒な発言をしそうなヤツが寝てて助かったよ。後ろを向いて笑顔で頷く商人さん。
「では、そういう事でご迷惑をお掛けしますが、森に寄らせて貰いますね!」
それから再び荷車は街道を行く……その後、道中特に何事も起こらずに俺達は森へ到着し、森の中を通る一本の道を暫く進むと……少し開けた場所に一軒の可愛らしい赤い屋根のおうちが建っていた。家の玄関前に荷車を停めると商人さんが声を上げる。
「おーい、ウサギさんや!いるかい??」
暫くするとおうちの扉が開いて小さな可愛らしいウサギが顔を出した。
「あ、おじちゃん!こんにちは!」
そうか子供か……って何だあれ!むっちゃ可愛いな!隣を見ると珍しく優しげな笑みを見せるヒルド……の奥にアホの子二名が目をギラギラさせつつ手をワキワキさせている、こいつら飛び掛ってモフるつもりだ……とりあえず二人の首根っこを押さえる。商人さんが再び話し掛けた。
「こんにちは、トットちゃん。元気だったかい?」
「うん、元気だったよ!こないだトットね、森で珍しい木の種を見つけたの!おじちゃんにも分けてあげる!」
ふと気が付くと大家もウサギの子供にだらしない笑顔を向けている。この鬼畜なオッサンにもまだ愛らしいものを愛でる”人の心”が残っていたのか、良かった。
商人さんが荷車へ入り、ウサギ一家に渡す荷物を探してゴソゴソやりだすとトットちゃんも荷車によじ登ってきた。すかさずその小さな体をミストが抱きかかえ……その後当然の様にレアと奪い合いを始める。醜い争いを続ける二人に抱きしめられたトットちゃんが俺達を見て言った。
「おにーちゃんたちどこから来たの??見た事ないお洋服きてる!」
俺はリュックから秘蔵のチョコバーを出してトットちゃんに渡しつつ言った。
「俺達はね、東の大陸から来たんだよ?大ウサギさん達とお話するのもこっちに来て初めてなんだ、仲良くしてね?あ、これ食べるかい?おいしいよ」
横からミストが「あっ太郎!自分だけキタネーぞ!アタシにもあげさせろ!」と騒いでいる。フッ……こういうのはなぁ、あらかじめこういう事態に備えている者のみが得られる特権なのだよ。何かもう一人のアホの子が「ああっ!ずるいぞ!私にもそれを食べさせろ!!」などと訳のわからない事を言っているが俺は無視を決め込んだ。
袋を開けてあげて渡したチョコバーを一口食べたトットちゃんが耳をぴょんぴょんさせながら言う。
「これなあに!?おいしい!トットこれだいすき!」
そうだろう、そうだろう……ふふふ。再び俺はリュックを漁る。出てきたチョコバーは10本。在庫はなくなるが、ここは全力で行く所だ。
「はい、トットちゃん。残りも全部あげるからね。一気に食べたらダメだよ?」
「おにーちゃん、ありがとー!」
ギリリ歯軋りするレアとミストを横目に俺が勝ち誇りニヤニヤしていると……荷車の外から別の声が掛かる。
「あら、商人さんこんにちは!トット、それは見たことないお菓子のようだけど……そちらの方達に頂いたの?お礼はちゃんと言いましたか?」
「あ、おかあさん!トットはちゃんとお礼言ったよ!これね、すごくおいしいの!沢山もらったからあとでみんなで食べようね!」
そうかお母さんか。俺達が笑顔で会釈すると「本当にすみません、ありがとうございます」ペコリと頭を下げるお母さん。その後、商人さんが荷物を渡すとトットちゃんのお母さんが「みなさんお茶でもどうぞ!」と言うのでお言葉に甘える事となった。
俺達は感嘆の声を上げた。こちらへどうぞと通されたウサギさんのおうちの裏には……絵葉書の世界を切り取った様なとても見事な庭園が作られていた。まるでおとぎ話のウサギのお茶会だ。
大ウサギ達の家ではサイズやら色々と人間を招くのに不都合があるらしく、訪れる人達は皆、庭の方でもてなしているとの事。
出された紅茶を飲みながらホッと一息つく俺達、そこへトットちゃんのおばあちゃんも庭に出てきた。
お話によると、家族はおじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、そしてトットちゃんの五人家族らしい。会ってみたかったのだが、残念ながらおじいさんとお父さんは森の奥の畑へお仕事に出かけているそうだ。
何故か大家になついてしまったトットちゃんが肩車されてキャッキャッとはしゃいでいる……大家もまんざらではなさそうだ。そのまま暫く皆で楽しい時を過ごしていたのだが……残念だが魔法の解ける時間が来た。
俺達は名残惜しいが森を後にする。おみやげにトットちゃんのおばあさんが焼いたクッキーを頂いて……一路、ヴェストラへと向かう俺達。笑いながら商人さんが言う。
「どうです?私等みたいに”森の魔力”に取り憑かれた連中の気持ちもわからんではないでしょう?」
俺も笑って答える。
「ホントですよ、帰りも寄りたくなりますね。数日してヴェストラの交通規制が解けたらロビに戻るつもりなんですけど……商人さんまた来る予定とかあります?」
「ええ、また交通規制が解けたらすぐに商品を運ぶ予定はありますよ。またその時は是非」
そしてしばらくカタツムリ号が走ると……遠くに要塞の様な高い塀に囲まれた街のような物が見えてきた。直後、少し重い雰囲気でヒルドが言う。
「見えたぞ。あれが要塞都市……ヴェストラだ」
レアがふと呟く。
「あれか、しかしあの街は何か”嫌な雰囲気”がするぞ。ロビのような暖かさがない。私はあまり好きじゃないな……」
ヒルドも表情が硬い。それにミストも続く。
「ああ、そーだな、アタシも姐さんたちの意見に同意だぜ。何か息苦しい感じがする……あの街は”人間の魂”が淀んでる」
彼女達、戦乙女には何か特殊な感覚でも備わっているのだろうか?いつものとぼけた雰囲気とは違い、三人共目付きが”ヴァルキリーのそれ”になっている。そうこうしていると、再び寝ていた大家も起き出しタバコに火を付けた。
「おい、アレか?目的地は。しかし随分高ぇ壁だなおい、まるで”監獄”だぜ」
商人さんが語る。
「ええ、前領主様の時代は”要塞都市”なんてあだ名も”あの高い塀”もなかったんですけどね……今の領主様になってからすぐに税金が重くなったかと思うと塀が建てられ、あの街の人間は街を自由に出入りする事すら許されなくなったんですよ。私達みたいに他所から来る商人や旅人は入口の関所で”通行税”を支払えば出入りが自由ではあるんですがね」
なるほど……要は悪代官とかそういうノリの領主なワケね、関わり合いになりたくない相手だな。商人さんが続ける。
「でも住民達も馬鹿じゃあない、あの手この手で税金払うのをちょろまかしてその結果……街自体が財政難というわけです。塀の建設費用も一部未払いの様ですし……つまり領主様の失態ですわな、その尻拭いに住民に課す税金を繰り返し上げての悪循環で……とにかく、あまり良い環境とは言えません。私も仕事でなければヴェストラへは来ませんよ、そんな街です」
要塞都市の玄関とも言える関所に着いた俺達は門番の兵士達の積荷チェックを受ける。商人さんが隊長らしき男に声を掛けた。
「隊長さん毎度どうもです。景気はどうです?あ、そうそう今日もトットちゃん達ウサギの一家は元気でしたよ。それと”差し入れ”は荷台の一番手前のヤツです。皆さんで一杯やってくださいな」
なるほど、安全に通行する為の賄賂ってワケか、部下に”差し入れ”を運び出させつつ隊長さんも笑顔で答える。
「そうか、ウサギ達は元気か!彼らにも久しく会っていないなぁ……。それはそうといつも”差し入れ”すまんね、隊員達の士気を維持するのに助かるよ。景気は……まあいつも通りさ、最近は締め付けが更にきつくなってな……街も暗くなる一方だよ」
隊長さんにすこし気の毒そうに頷いた商人さんが、荷台に振り返って俺達に言う。
「この隊長さんも私と同じロビ出身の方なんです。当然ウサギにゃ優しい男ですよ」
少し照れ笑いをした隊長さんが俺達を見て言う。
「おや、そちらは傭兵の方かな?いやしかし随分立派な武器防具だ、これはさぞかし高名な戦士とお見受けする……他の者は随分珍しい服装だが……荷物番かな?」
”高名な戦士”と呼ばれたヒルドが笑って会釈する横で、また”何か余計な事”を口走りそうになるレアを抑える俺。とにかくここで妙な印象を与えないほうがいい。
それから形だけの積荷チェックを受けた俺達のカタツムリ号は街の中へと通された。そしてすれ違いざまに隊長さんが言う。
「ようこそ、防壁と重税の街、ヴェストラへ」
さて、いよいよ情報収集の開始だ。




