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二振りの聖剣

こんにちは!ワセリン太郎です!

まだインフルエンザの猛威と闘っております!皆様もインフルエンザの菌を見かけたら、決して触らないようにしてください!感染しないように注意してくださいね!

 さて、ようやくパッ君に”俺専用の装備品”とやらを作って貰えるのだ、心が躍る。はやる気持ちを押さえ、まずはどうすれば良いのかを神様に聞いてみよう。


「えっと神様、コレでパッ君が指定した材料は揃ったようなんですけど……次はどうすれば良いのでしょうか?」


 部屋を見渡した神様は、居間のちゃぶ台を指してこう言った。


「そうじゃな、この位の広さがあれば良いじゃろう、先ずそこにノームを乗せるがよい。契約者は太郎じゃからな、お主がそやつに”製造”の意思を伝えれば開始じゃ。材料も言われるままに手渡してやれば、実は他にする事は無いんじゃよ」


 皆も、興味津々に見守っている。意外ではあったが、天界の人間もノームの工房の中を見る機会は殆どないらしい。


 では早速いってみようか、パッ君をちゃぶ台の上に座らせる。


「つくる・か?」


「おうパッ君、宜しく頼む。異世界で戦うんだ、便利で良い物を頼むぜ?」


「まかせ・とけー。おりはるこん・つくる」


 オリハルコン!! 何かよくわからないが凄そうだ。見ていたヒルドが驚いた様な声を上げた。


「!? オリハルコン製の武具は天界でも滅多にお目に掛かれない。私が知る限り……神の杖……いや、槍という方が正しいのでしょうか。兎に角、それほど貴重なものなのです」


 神様も目を丸くしている。


「うむ、太郎。このノーム、いやパッ君か。こやつはもしかすると、恐ろしく優秀な個体なのかも知れぬぞ?」


 マジか!?


 俺はドキドキしながら材料を見つめ……いや、少々、不安になるラインナップではあるが一旦整理してみよう。まず材料は……と。サッカーボール、カステラ、ルビーの指輪、イカの刺身数パック、ニンジンが大量、あと瓶ビール。ハッキリ言って無茶苦茶だ。そこには規則性も何も感じられない。

 

 しかし天界でノーム達が何かを製造する場合も、似たような物らしいし、これはこれで良いのだろう。大体、こいつらに人間の常識を持ち込んでも無意味だ。


「つくる・ぞー」

 

 始まった。パッ君の目が序々に紅く光り、ちゃぶ台ギリギリのサイズの魔方陣のような物を、手の動きで触れずに描いてゆく。赤い光のラインだ。そしてそれを描き終えると再び俺の方を向き……


「びーる?」


 ビールか! まずは瓶入りのビールを手渡す。パッ君は口の中にそれを放り込んだ。おい食うのかよ。


「にんじん?」


 次だ……


「いか?」


ドキドキするな。


「るびー?」


次々に渡す。


「かすてら?」


最後だ。皆がじっと静かに見守る。


「さかー・ぼる?」


 パッ君は順調に全てを飲み込んだ。


 今度は目が緑色に輝く。突然魔方陣の上で痙攣を始めるパッ君。おい、何かヤバイぞ? 大丈夫なのか、これ。


「ちょ、何か“ふなっしー”みたいになってるんスけど、ヤバいんじゃ……」


 手を出そうとした俺を、神様が無言で制止した。


 それから暫く痙攣していたパッ君だったが、ゆらりと起き上がるのと同時に、魔方陣が緑色に変色してゆく。そして……


「おげええええええぇぇぇぇぇぇ!!」


 タパタパタパタパタパタパタパタパタパ……



 ちゃぶ台の上に吐き出される虹色の何か――!?


 おい、これゲロ吐いたんじゃねーの!? しかし吐き出された”何か”は魔方陣のラインを伝い、ゆっくりと中央に集まってゆく。そして次の瞬間、陣の中央に光の円柱が出現して部屋が光に包まれる――!


「ちょ――!?」


 暫く経ち、光に奪われた視界が戻って来た。


 何だ?ちゃぶ台の上のパッ君が、何か長い物を両手で支えている。


 未だ霞む中、目を凝らした。


 何だ? 長さは1mより少し短い位か? しかし……その”完成した物”を見た瞬間、部屋の中にいた全員が言葉を失ったのである。


 突如響き渡る、大家の笑い声。


「ぎゃはははは!! おい何だコイツぁよぉ! 傑作だぜ! ただのビニール傘じゃねーか!」


 そう、ちゃぶ台の上でパッ君が誇らしげに持っていた”物”。それはコンビニ等で良く見る”ビニール傘”だったのだ……


「おいパッ君……コレ、傘だよな……? 俺、武器を頼んだ……よな??」


 悪びれず、満足気なパッ君は俺に語った。


「あめ・ふるぞー? べんり・だぞ?」


 ああ、そりゃ異世界だって雨は降るだろうさ。つーかオマエは俺に、これを持って異世界でどうしろと……?


 出来上がった傘を手に取り、ソレをまじまじと見つめる神様が口を開いた。


「まて、太郎。これは傘じゃが、確かにオリハルコンじゃ。しかしまあ……ビニール傘ではあるのう。一体何とコメントしてよいやら……」


 いやいやいや!? 何だよ!? オリハルコン製のビニール傘って!? それビニールじゃねーの!? オリハルコンが何なのか俺知らないけどさ、どっちなの!?


 空気を読んでか、何も言わない女性陣。二人共、俺を実に気の毒そうに見つめている。


「……あっ!!」


 ある種の諦めの中、俺は気付いてしまった。


 今回の材料の法則に。まずパッ君はビール、そしてニンジン、イカ、ルビー、カステラ、サッカーボールの順に飲み込んだ。そう、材料の頭文字を抽出すると、ビ・ニ・イ・ル・カ・サ。んなバカな事があるか。俺の期待を返せ。


 がっくりと肩を落とす俺を気にもせず、レアがビニール傘を手に取り、そのままスリッパを履いて玄関を出て行ってしまう。もういいわ、ソレお前にあげるよ。


 そして、アホウが廊下の手摺の前で停止した……直後。


「えくす!!かりばーーー!!!」


 エクスカリバーはバットじゃなかったのかよ。レアはアパートの二階の金属製手摺に向け、ビニール傘を全力で振り下ろしたのである。


 あ、傘が折れる。そう思ったであろう、皆の眼前前に広がった光景は……どうにも現実味の無いものだった。


「「――!?」」


 おいおい、何だあれは……?


 金属製の手摺が、真っ二つに切れている……だと!?


 ダメだ、全く意味が解らない。レアがこちらに向かってニッコリ笑い、こう言い放つ」


「パッ君よ! これは良い傘だな!」


「だろー? おれねー・よ?」


 なぜビニール傘で金属が切れる……? レアから傘を手渡され、恐る恐ると触れて見る。


 おいおい、いきなり指が落ちたりしないだろうな……? いや、至って普通の傘にしか思えない。

 

 スリッパをつっかけ外に出て、手摺に向けて傘を振るってみると……


 レアの様に真っ二つとは行かなかったが、やはり手摺に深い切れ込みができていた。斬ったという様な手応えは微塵もない。


 理解出来ず……俺はもう、考えるのを止める事にした。


「太郎、オマエ手摺、弁償な?」


「アッ!?」


 ヤバい最悪だ。大家がいたのを忘れてた……その時だった、パッ君がレアに声を掛けたのは。


「れあー? えくす・かりばー?」


「ん、コイツか?」


 レアが、ツナギの背中から銀色に鈍く輝く聖剣様(キンゾクバット)を抜き出し、パッ君に手渡す。つーかそれ、まだ背中に入れてたのかよ。


 受け取ったバットを縦にして、そのまま丸呑みにするパッ君。


 驚くレア。


「あっ! 私のエクスカリバーが!! 気に入ってたんだぞ!! 太郎、貴様、新しいの買ってくれるのだろうな!? 弁償しろ!!」


 オマエそれ、廃材置き場から勝手に拝借してきただけだろうが……しかし次の瞬間。


 ――ブリブリブリブリュ――!!


 突然、パッ君のケツから、黄金に輝く金属バット(エクスカリバー)が捻り出されたのだ。


 言葉を失う一同。大家が叫ぶ。


「臭え! 換気しろ、換気!」


 輝く瞳でバットを掲げるレア。


「おお、これこそ聖剣にふさわしい姿だ……」


 何だろう、ものすごく嫌な予感がする。俺の傘の時とは比較にならない嫌な予感……次の瞬間、走って玄関に向かうレアをヒルドと二人で取り押さえて何とか事なきを得た。


 神様がレアから取り上げたバットに手をかざし、眉間にシワを寄せる。


「これもオリハルコン……じゃな。いや、しかも何か不穏な力を感じる。グラビティ……重力操作か? これは性質(タチ)が悪いのう。折れない上に普段は羽の様に軽いが、操者の気分任せでインパクトの瞬間だけ……自重が数十トンに変貌するような感じかのう。稀に見る最悪の鈍器じゃな」


「……」


 つまり、アパート倒壊の危機だったって訳か……!? 冗談じゃない!


 その時だった。


「おい太郎、何騒いでやがんだ? アタシ今、テレビで”新婚さんこんにちは!”見てんだけど! うるせーから集中できねーんですけど!! 殺すぞ!!」


 まーたややこしい娘が、お隣の部屋から顔を出してきたのである。

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