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平和な日常

こんにちは!インフルエンザになってしまったワセリン太郎です!!

身体の調子がおかしいです!皆様も気をつけて頂き、うがい、手洗い、励行しましょう!健康第一です!

 はしゃぐレアを神様と大家に預けた俺はヒルドと二人で、ノームの”パッ君”をショッピングカートに乗せ”材料”を探していた。


 しかし良く考えると、パッ君が俺の武装を作るのに一体どんな”材料”を必要とするのか全く見当がつかない。それをヒルドに聞いても首を横に振るだけ。


 とりあえずスポーツ用品売り場はどうかという話になり、そちらへ向かう。ゴルフクラブとかレアの持つ聖剣様(キンゾクバット)とか、イメージ的に武器になりそうな物がそこそこ置いてる気がするし。ショッピングカートを押しながらパッ君に尋ねる。


「なあパッ君、どんな”物”が必要なんだ……?」


「しら・ねーよ?」


「おい、知らねーのかよ!」


 俺達のやり取りを見て、隣でヒルドがクスクスと笑っている。そのまま闇雲に、通路を全て通るようにゆっくりと移動した。見ていると、これが無駄に終わるという気はしなかった。何故なら先程から、パッ君が首を左右に振りつつ商品棚の中身を全て確認しているからだ。


 そう考えていた時だった。


「あれ・いるぞ?」


 パッ君の指差す先を見ると……サッカーボール? 棚から取ってパッ君に手渡すと、ソレをじっくりと回転させてしっかりと確かめている。


 もう一度問う。


「それで間違いないか?」


「いい・ぞー」


 良いらしい。しかしサッカーボールの何をどうすれば武器防具になるんだろう? ヒルドも不思議に思ったのか、俺の隣で疑問を口にする。


「しかし、このノームの”材料”というのはいつ見ても、不可解な物が多いですね。知ってますか、太郎? 以前、開発部で聞いた事があるのですが、あのミスリルの鎧を作るのに、日本の”ようかん”が材料の一つになるそうですよ? ふふっ……冷静に考えると少々滑稽な話ですね。さて、その素敵な貴方の相棒さんは一体何を作ってくれるのでしょうか。楽しみですね。」


 普段見せない、悪戯な笑顔で笑いつつ、髪をかきあげる仕草に少しドキリとする。やはり彼女は大人の女性だ。美しく先端を切り揃えた透明感のある蒼い髪が……サラリ、宙に舞い踊る。



 次に俺達はモールの二階部分にある貴金属店へ。


 どうやら何かを作る際には、必ず”触媒としての宝石”が必要となるそうだ。パッ君が迷わず”ルビーの指輪”を選択した。


 しかし……こんなに間近で怪しげなぬいぐるみが動いているのに、店員さんを含め、誰も気に留めない。以前ヒルドが『普段は誰の目にも留まらないが、それに気付いてしまった人間が”怪異や超常現象”を見たと騒ぐ……』と言っていたのを思い出す。


 そう考え事をしていると、貴金属店の店員さんが俺達に声を掛けてきた。


「こちらはサイズ調整等に少々お時間頂きますが……奥様、いえ彼女さん? に合わせて……」


「え……? い、いえ、私達は決してその様な関係では……」


 慌てて否定するヒルド。何だろう、微妙にイラッとくるぜ。ここは、モテない男の恐ろしさをひとつ見せてやろう。


 突然ヒルドの手を握り、店員さんに宣言した。


「実は僕達、結婚2周年なんです!」


 店員さんが、『そうでしたか!』と、明るい笑顔で祝福してくれる。目を見開き、呆然と俺を見るヒルド。


「あら~! おめでとうございます。こんな綺麗な奥さんもらって、旦那さん幸せ者ねぇ。どうやって捕まえたのやら!」


 何だよ、“どうやって捕まえた”って。酷い言い草だ。


「はっはっはっ……」


 笑顔の店員さんに、二人で愛想笑い。


 俺のつま先に、ヒルドのヒールの踵がメリ込んでいるのですが……イタイイタイイタイ! もう調子に乗りませんので許して下さい!!


「太郎! 全く貴方は……しかし奥様とは、私はそんなに年齢に見えるのだろうか……ブツブツ」


「心配すんなよ、見えないよ! ちょっとした冗談なんだから怒るなよ……」


 サイズ調整は必要ないと言い、そのまま”ルビー”を受け取ってきた俺達。実際、用があるのは石だけだ。


 次は、一階の食品売り場へ行ってみようか。向かう途中の通路にある贈答品売り場で、パッ君が指差した”カステラ”も購入した。


 そのまま食料品売り場に着いた俺達。


 そこで見知った背中を目撃する。ソイツはウインナーの実演販売のおばちゃんの横にジッと立ち尽くし、ウインナーが焼けるのを待っていた。そう……我らがアホの子レアさんだ。俺は背後から声を掛ける。


「おい、レア。おばちゃんに迷惑掛けるんじゃねーぞ?」


 こちらに振り向くおばちゃんとレア。俺に対し、販売員のおばちゃんが何か言いたげだ。


「おにーさん、このお姉ちゃんのお友達? さっきからウインナー焼けるたびにねぇ、”今、初めて来ました”みたいな顔してまわってくるのよ……まあ、別にいいんだけどねぇ」


「本当に申し訳ございません!!」


 カートに、おばちゃんが販売中のウインナーを数袋入れ、レアの手を引っ張り連れて行く。しかし、レアの手には既に”今おばちゃんから手渡されたウインナー”がしっかりと握られていた。

頬張りながらレアが嬉しそうに俺に語りかけてくる。


「太郎、知ってたか? ここはすごいんだぞ! 食べ物を無料で配布しているのだ!! 今度ご飯だけ持ってみんなで来よう! 最早ここで暮らせるかも知れないな!!」


 隣を見ると、ヒルドが頭を抱えている。そういや神様と大家(マッチョ)は何処に行ったのだろう? 騒ぎを起こさないようにとレアを預けていたのに……まあコイツに振り回されて疲れ、どこかのベンチにでも座り込んでいるのだろう。


 その時、再びパッ君が動いた。


「あれ・いるぞ?」


 お次は何だ……? 


 ああ、”ニンジン”か。一袋取ってパッ君に手渡す。手にとって確認するが、彼はもう一度、ニンジンの棚を指差す。


「もっと・いるぞ?」


 結局、5袋もカートに乗る事となったのである。そして、最終的に”イカの刺身”4パックとビール(瓶入り)を箱買いして終了。その後レアが騒いだので皆でレストランへ行き、食事を済ませて帰路に着く事となったのである。


 ふと、帰りの車に揺られつつ想う。


 そういや今日は”何も事件が起きていない。”何も事件が起きない”というのは、こんなにも(たいくつ)せであったのか。知らなかった。いや、ここ二日ですっかり忘れていたのだ。人というのは案外簡単に変わってしまう生き物なのかもしれない……

 

 そうこう考えていると、もうアパートは目の前だ。


 おや、曲がり角に見知った後ろ姿が。


 お菓子が覗く買い物袋を下げたアリシアさんだ。ウチに来るつもりなのだろうか? 大家がパパッと下品なヤンキーホーンを軽く鳴らし、窓から手を上げる。


 こちらに気付き、笑顔で手を振る彼女に応えるレア。


 車を降りた俺達は、皆で荷物を抱えてアパートの部屋へと向かった。


 期待と不安が入り混じる。


 何故か? そう、これから”何か”を創造するのだ。心が浮つかないワケがない。



 だがしかし、何が出来上がるのかは神のみぞ……いや、神ですら知らなかった。


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