強襲!押しかけ女房
こんにちは!ようやく体調が本調子になってきたワセリン太郎です!
皆様も飲み過ぎ、食べ過ぎにはご注意ください!
ピピッ! ピピッ! ピピッ! ピピッ!
目覚ましの音がなる。もう朝か……? 俺がうとうとしながらそう考えていると……
「あいっ!」
掛け声と共に、目覚ましのアラームが勝手に鳴り止んだ。止めたのはどうせノームの”パッ君”だろう。てか、勝手に止めて俺が寝坊したらどーすんだよ。
ごそごそと起き出すと、パッ君が目覚まし時計をマウントポジションでバシバシと殴っていた。何というか……案外暴力的なヤツだ。
ふと気がつく。今日は三連休の最終日だ。しかし連休といってもこれまで勤務していた会社は辞めるのだから、今後の生活が一体どうなるのか全く想像できない。しかし兎にも角にも、今日中に会社の方へは顔を出しておかないといけないだろう。
(しかし通常退職する場合は常識として最低でも1~2ヶ月前に退職願を出すもんだが……この場合どうなるんだ?やっぱいきなりじゃ非常識だよな? それより社長に何て言えばいいんだ)
などと考えつつ、朝食の目玉焼きを焼く。
「パッ君、お前も目玉焼き食うか?」
不思議そうな顔をしてこちらを見たパッ君であったが、一言。
「くう……よ?」
食うのかよ。予定を変更して焼きベーコンを増やし、目玉焼きも二人分作る。きっと、あの様子なら米も食うのだろう。出来た食事をテーブルに並べ……
「いただきます!」
「き・ます!」
ちゃぶ台に向かい合い、黙々と飯を口に運ぶ。パッ君も案外上手にフォークを掴んで食べている。俺達が熱々の飯を喰らい、喉に茶を流し込んだその時であった。
ピンポーン!ピンポーン!……
あれ? チャイムを連打しない……だと? そうか、レアも少しは常識的な行動が取れるようになったのか。いや、んなワケない、だとすると神様かヒルド辺りかも知れないな。多分アリシアさんが押すと、もっと可憐な音が鳴るはずだ。
などと考えつつ玄関に向かい、覗き穴から相手を確認しないまま扉を開け放ったのであるが……
「よう……」
「えっと……どちら様で……?」
扉の外には、肩揃えの茶色い髪と瞳、緑色のジャージを着た女の子が大きなリュックを背負って立っている。
家出少女か……? いや違う、俺はコイツを知っている。
何せ昨日出会い、色々あって逃げてきたばかりなのだから。
とりあえず落ち着こう。
「あ、えっと……新聞の勧誘とかは間に合ってますんで。それでは……」
そっと扉を閉める……が、そのまま閉まる筈だった扉に両の手が差し込まれる!!
俺はこの光景を一度見た事があった。そう、嫌な予感しかしない……
「テメーこら! ここ開けろおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「嫌だあぁぁぁぁぁぁ! 帰ってえぇぇぇぇぇぇ!!」
補修したばかりの玄関の扉からミシミシと嫌な音がする。そして扉のサッシに足が掛かったのが見えた直後……
「いくぜオラ、ふるぱわあぁぁぁぁ!! ちぇすとおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
――バキイッッッ――!!!
彼女の気合の入った掛け声と共に、我が家に二度目の別れを告げる玄関扉。
おいマジでどーすんだよコレ!? 次やられたら、蝶番に釘打つ所なくなっちゃうよ……
暫く経ち、レアに続いて二度目の押し入りを受けた我が家の居間には、先程の家出少女が座り込んでいた。
とりあえず、お茶とお菓子を出しつつ正座した。
「あ、こりゃどーも」
ペコリと頭を下げる彼女。状況が全く飲み込めない俺は問う。
「で、何故お前がここに居る?」
テレビを見ながら、出された煎餅をムシャムシャし始めた彼女は、来た目的をすっかり忘れていたのか、ハッとして居住まいを正した。
「そーいやさ、まだ自己紹介してなかったよな。アタシはミストってんだ。天界の戦乙女……ってのは知ってるか」
「で、そのミストッテンダーさんが何しに我が家へ?」
顔を赤くし、憤る彼女。大きく綺麗な瞳がクリクリ動く。
しかしこうやって見るとコイツは日本人受けしそうな顔立ちで案外可愛いんだな……いや、俺はアリシアさん一筋だけど。
「ああ? 何しに来ただぁ? てめーこのミスト様をナメてんのか? 喧嘩なら買うぜ……じゃなかった、えっとその……まあ何だ……あの……ヨシ! 言うぞ! 頑張れアタシ!! その……不束者ですが……末永くヨロシクお願いします」
訳のわからない事を言い放ち、正座して三つ指揃えつつ頭を下げるミスト。
「いやいやいや!? ミストさん!? 君は一体何を仰っているのでしょうか!?」
不思議そうな顔をして首を傾げる彼女。
「いや、でも……昨日、責任取ってケッコンするって言ったろ?それにアタシ達もう、”あんなスゲー事しちゃった”仲じゃん? 今更何言ってんだよオマエ、ブッ殺すぞ……じゃなくて旦那さま……だ。うわ、実際言うとムッチャ照れるなこれ!」
「いやいやいや! 言ってないから! アレは君が『てめー、ヤマダタロウ!このままで済むと思うなよ!』って物騒な捨て台詞吐いただけですから!」
赤くなった顔を背けて口を尖らせるミスト。
「あれは、ミンナ居たからちょっと照れ……ちまっただけだし……」
お前は照れたら『テメー覚えてやがれ!』と言うのか。と、そこまで言うと急に立ち上がる彼女。
「じゃあ、アタシは一旦帰るぜ! 流石に初日から床を共にするとか……アタシにゃちょっと早い……です」
ほんのり頬染めて何言ってんのこの娘!? ダメだ、コイツもレアと同じく、”全く人の話を聞かない類の人種”だ。絶対に関わってはいけない。
彼女はそのまま玄関へ向かうと、『この扉、修理しとけよな!』などと無責任な事を言い放ち、部屋を出ていってしまった。
あの、それ破壊したのあなたなんですけど……いいや、とりあえずは帰ってくれたし、この件は後で神様に相談するとしよう。レアみたいな問題児がこれ以上増えてたまるか。
そう考えていた矢先……
――ガチャッ――
んっ……? 扉の開く音? 彼女が俺の部屋を出ていって数歩しか足音がしないのに、何故ずっと空室だったはずの隣の空き部屋の扉が開く音がする??
嫌な予感がした俺は、サンダルを突っ掛けアパートの階段に飛び出した。
そこには、隣の空き部屋の扉を開けて中へ入ろうとするミストの姿が……
「え!? ちょ!! ミストお前何やってんの!?」
俺の顔をキョトンとした表情で見つめ、それから”さも当たり前の様に”答える彼女。
「え? 何って……ケッコンすんだから、ここに住むに決まってんだろ? バカか? 大家にはもう許可もらったし。部屋借りたし。つーかさ、何だよあの大家! アタシともあろう者が少しビビッちまったぜ……何であんなにムキムキで黒いんだよ。やべーよ。まあ何だ、これからヨロシク頼むぜ! 旦那さま! あ~何だコレ、ちょー照れるわー」
ガチャン。そのまま彼女は照れたような笑見せつつ、手をヒラヒラ振りながら部屋に入っていってしまった。
……あの大家、何してくれてんだよマジで。
呆然とその場に立ちつくす俺。
そのまま暫くすると、カンカンと誰かが階段を登って来る音がした。そちらを見ると神様の姿、こちらに気付いて片手をあげて来る。よし!助けて貰おう!!
茶を啜り、ニヤニヤしながら笑う神様。隣に座るヒルドは呆れたような顔をしている。
「あの〜、ちょっとマジでどうにかなりませんかね」
「ダメじゃよ、もうどうにもならん。昨日、日本へ出向く前に、あの娘に日本駐在の許可を出してしまったんでの。彼女もお主ら調査隊の正式なメンバーという訳じゃ」
「はぁ!?」
冗談じゃない! 慌てた俺は神に懇願する。
「そこを何とか! あの娘、何かヤバい香りがプンプンするんです!! 具体的に言うとレアと同種のオーラを纏っているというか! あと、勝手にケッコンとか言い出してるんですよ、助けて神様!!」
それを聞くと、パッ君をイジって遊んでいたレアが、急に立ち上がって大声を出した。
「何!? 太郎が結婚だと!? それは私が許さん!! 月給三十五万円は私のものだ!! 配偶者などいるとラーメンが沢山食べられなくなるのだぞ! 亭主、元気で留守がいい!! お金だけ振り込めください!!」
訳のわからない事を言って騒ぎ出すレアを、諭す。
「はいはい、お前喋ると話がややこしくなるから、大人しく座ってような? そうだ、冷蔵庫のお菓子食べていいから!」
フン! と言いつつスキップし、冷蔵庫へ向かうレア。ああ、きっとお菓子以外も食い荒らされるのだろう。
先程より不安気な様子のヒルドが口を開く。
「しかし、私の下界での調査経験が他の者より多少、多いとはいえ……新人ヴァルキリーを二名連れての行軍とは前代未聞です。少々自信が……」
神様は笑う。
「なーに、前代未聞じゃからやってみるのも良かろうて。それにじゃ、通常熟練の戦乙女は”過去の英雄達”を概念的な武装として連れてゆくじゃろう? しかし今回は”地球の普通の現地人”を人としてそのまま連れて行くわけじゃ。なればヴァルキリーを一名、増員して行くのも悪い話ではなかろうて。当然、彼女達に経験を積ませる目的もある。それにミストも、ああはしとるが……腕力だけは相当なモンじゃぞ? ほれ、そこの扉を見てみい」
英雄ってのは人物そのものを連れて行く訳じゃないのか。概念的武装ってのが、人間の俺にはいまいちピンとこないが……ってそうじゃなくて! ダメだダメだ、キッパリとお断りせねば!
「神様! マジで何とかしてくださいよぉ……」
「ダメじゃ、もうワシ決めちゃったもんね~。それにミストはなかなか可愛かろう? あの娘もワシの自慢の孫じゃ。口が悪いのがちょっとアレじゃが……」
絶対面白がってるな、この爺様。
そうこうしていると、突然玄関の前で大家の大声が響いた。
「うおあーっ!! 何じゃこりゃ!? おうコラ太郎! テメー扉ブッ壊しやがったなクソッタレが!! この”ケンベン”が!! ブッ殺すぞ!!」
うげっ、やべぇ、扉ブッ壊れてるのがバレた――!?
「ちょ、大家さん、これには事情がありまして!」
「問答無用だブチ殺す――!!!」
「シ、シゲル殿、落ち着いて――!!」
割って入った神様とヒルドが事情を話し、大家をなだめていると……レアが痺れを切らしたように騒ぎ出した。
「おい、そんな扉などどうでもいい! 早くショッピングモールに行くぞ! 今日も連れて行ってくれると、昨日約束したのを忘れたか!? 私はあのケーキとかいうのが食べたいのだ。あとレストランも行きたい!」
お前は親に買い物をねだる小学生か。まあこの際都合がいい。そう思っていると、大家が部屋の中のレアに声を掛ける。
「おう、そうだったな。扉見て、何しに来たのか忘れてたわ。何か知らねぇが材料とか買いに行くんだろ? 車回すからみんな乗れや。おう太郎、オメーは大根おろしだ。ワイヤーで簀巻きにして引き摺っていくからよ、俺様のアパートの痛みを思い知って死ねや」
「いや死にますから」
「何か問題アンのか、オラ」
俺は、レアの胸元に抱きかかえられたパッ君に向き合う。
「おい、今日こそ材料揃えてやるから”すんげー武器”を宜しく頼むぜ?」
「作る・か?」
「ああ、頼む」
これでようやく”俺の為の何かすごい武装”が作って貰えるのか。
いや長かった。
「おいレア、もう絶対にトラブル起こすなよ?」
「太郎よ、貴様が私の要求に応じるのならば、私もそれに全力で応えよう」
本当に大丈夫なんだろうな? もう嫌だよ、訳のわからないトラブルは。
そうして俺達は大家の車に乗り込むと、ショッピングモールへと向かったのである。




